第9話 「新たなる決意」その1
さぁ、いよいよ動き出す話。もう妄想だらけで頭イッパイです(笑)
木々の隙間から見える月は、まるで見たくない物から目を背けるかの如く、雲のある方へと隠れて行く。
パキッ…
暗黒に包まれる木々の中で、細い木の枝が地面で折れるような音が鳴り響き、先ほどまで不気味に聞こえていた梟の声が鳴き止んだ。
「ここに居られたか」
男の声は、闇の中、見えぬ何者かへと投げられた。
「ほう、レグザか」
男か女か解らない謎の声の主は、暗闇の中、投げかけられた声の主がレグザだと気付いている。
「もう奴らには会ったのだな…」謎の声はレグザに問いかける。
「はい」レグザは礼儀正しく答えた。
「で…感想は?」
「アノ3人の中で、一番力のある『レント』(リュウセイ)に目を付け、行動を共にしておりましたが…余りに非力。今回こそ、ガジャル様の復活と言う夢が叶うかもしれません」
「私も、『レント』とは一戦交えたが…」謎の声の主はそこまで言うと何故か不気味に笑いだした。
「どうかされましたか?」
「面白い事があってな」
「どう言う事ですか?」
「レントの正体が解ったかも知れん」
「正体…?」
「そんな事よりも、早く残りのスピリットと、持ち主を見つけ出し排除しなくては」話を切り替える謎の声の主。
「セラス様からのご命令は、まだなのですか?」
問いかけるレグザ。
「もう間もなくだろうな…」
「では、私は各地の仲間を集め、戦いの準備を進めて参りますので、セラス様からのご命令が有り次第、お知らせ下さい」
そう言うとレグザは闇の中に溶け込み消えていった。
「寺村 流星か…悲しき運命を背負った男だ…」
謎の声の主は、静かに囁いた。
◇◇◇◇◇
サークル状の機械の上に、光と共に現れたのは、気を失っているアンリの肩を担ぎながら、意識が朦朧としているリュウセイだ。
ふらつく足で、転送台の上から地面に繋がる高さ2メートル程の階段を降りようとするリュウセイだったが、アンリ共々足を踏み外し転げ落ちる。
その様子に言葉を失う研究者達。
直ぐに、救急治療部門の看護士達が担架を持って駆けつける。リュウセイとアンリは、それぞれの担架に乗せられ、キュアラクトがある治療室へと運び込まれた。
◇◇◇◇◇
−−「深夜1時13分」−−
様々なサイレンの音が鳴り響く。一本の長い車道に、沢山の赤色灯が忙しなく目的地を目指す。消防車に救急車、それらをパトカーの助手席から眺めている『沢田 浩二』(さわだ こうじ)と沢田の部下であろう『相田 誠』(そうだ まこと)。
沢田は、40過ぎの誰から見ても解るくらいのベテラン刑事だ。相手の心の奥までも見通すかの鋭い眼光に、ベージュのロングコートがよく似合う。自身の「感」はお墨付きらしく、今までに、数々の難事件を持ち前の「感」と経験で解決に導いてきた。
相田は、22歳の見るからに新米刑事と言った感じだ。まだ右も左も解らないと言った所だが、持ち前の野性的な感性と、犯人逮捕に注ぐ情熱には、上司の沢田も一目置いている。
「沢田さん、やっぱテロっすかね?」とハンドルを握る手を右に傾ける相田。
「病院を狙って何になる?どうせやるなら、もっとましな所を狙うはずだがな」
沢田は、パトカーの窓のフレームに肩肘を付けながら言った。
「都立星野高等学校での爆発事件の晩に、2キロ離れた聖都総合病院での火災、それに至る所からガラスの割れる音が聞こえたとか…」
相田は、2件の事件の関連性を疑っている。
「相田、事件は現場を見てから推測しろ。余計な推理をしてると先入観に捕らわれ、肝心な事を見落とす事になる」
「りょーかい」
相田は、自分の中では、なかなかの自信があっただけに、心なしか不機嫌に答えた。
沢田のパトカーが聖都総合病院に到着した時には、ヘルメットをかぶり大きな鉄製の盾を持った特殊警備隊が突入した所だった。
大勢の特殊警備隊が、迅速に的確に院内を駆けめぐる。
1Fの受付フロア(ウェイティングホール)では、今、消火活動を終えたのだろう消防隊が、送水ホースを下げている。
到着したバカリの消防隊と現場の消防隊が打ち合わせをし、分散しながら院内の異状を確認に廻った。
「ひでぇ…」
その光景にポカンと口が開いている相田。
その時、一人の男が近づいて来た。
「県警のお出ましか。相変わらず鈍いなぁ」
オールバックにインテリ眼鏡、見るからにエリートな30歳ほどの男は、質の良さそうな黒いロングコートに身を包み歩み寄ってきた。
沢田の眉間にシワが寄る。
「おぅ、公安の坊ちゃんか、相変わらず暇そうだなぁ」
「お前らと違ってウチは大きい事件しか取り扱わないんでな」
「ふん、俺らみたいに一般庶民に耳を傾けんから、アンタら公安は何をしてるか解らんと言われ続けるんだ」
「なんだと」
公安の男の頭に血が昇る。
「こんなガキを現場に連れて来るとは、県警も落ちぶれたな」
「なんだとコノ野郎!」
相田が睨み掛かる。
「仕付けも出来ていないのか、先が思いやられるな。まぁ、院内を好きに散歩しても良いが、余計な事はしないでくれよ」
そう言って、公安の男は院内に消えた。
「腹立つっ、何だっつんだよアイツは」
腸が煮えくり返る気持ちを必死に押さえる相田。
「公安の『宮本 竜彦』(みやもと たつひこ)だ」
「公安って偉そうな奴らっすね」
「まぁな、昔からだ。それよりも俺達も中に入るぞ」
「あっ、はい」
つづく
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このかた、まだ貰った事ないんで。