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第8話 「闇夜の果てに…」その3

 鼓膜を突き破る程の甲高い声が、1階のウェイティングホールに鳴り響く、と同時に発生した爆風によって、ベンチシートや観葉植物と共に、傷だらけのソラは後方の壁に吹き飛ばされ激突した。

 蹌踉よろめくソラに向かって飛び掛かるアンデッド達。右から襲ってきたアンデッドに対し、カウンターでの回し蹴りを顔面に喰らわせたが、残りのアンデッド達の拳や足がソラの体中に容赦無くめり込む。崩れ落ちるソラに向かって、カルマが灼熱の紫色に染まる火炎球を御見舞いした。

 爆発と共に、宙に舞うソラの体。まるで、ボロボロになった人形の様に、力無く宙を漂い地面に鈍い音と共に落ちる。


 「呆気ない、実に呆気ないねぇ」と笑うカルマ。吊り上がった目元と、裂ける程に広がる口元が彼女の悪の部分を更に強調し、般若はんにゃとよ呼ぶには相応しいほどだ。


 ゆっくりと、力無く起きあがるソラ。既にその目には力すら感じる事も出来ない。絶望感と虚無感が綯い交ぜになり見え隠れしている今のソラには、構える事すら考えられないでいた。


 「こんな奴に勝てる訳ねぇじゃねーか…殺される…」

 「フフッ…お前の親父に似て、息子も情けないねぇ。二人揃ってあの世で仲良くしてな」

 そう言ったカルマは、再び掌に炎の玉を浮かび上がらせた。だが、先ほどと違い、紫色から赤色へと変色していく炎は今までで一番の大きさになっていた。直径1メートルは有るだろうか…炎の玉はみるみるエネルギーを溜め込み、辺りの空間が歪んで見える。

 「お前の親父の最後の顔を思い出すだけで笑いが止まらないねぇ。恐怖に駆られたアノ顔…直接手を下したのは私では無かったが、楽しくて仕方が無かったよ」


 その言葉に、親父の最後の姿がソラの脳裏に甦った。口から突刺さった槍は首の後ろを貫通し、血の海で横たわっていた親父の姿が…「必ず迎えに行くからな」と心の中で誓っていた自分が、今の自分に問いかける「そんなもんか、お前の力は…?」

 「だって、あんな化け物、人間のレベルを完全に超えてるじゃねぇか」そう自分に言い訳をするソラ。

 「甘ったれんじゃねぇっ、自分の力を信じろ。こんなモンじゃ無いはずだろ、お前の力は… 超えろ、親父の屍を…その悲しみ、怒りを糧に」

 その瞬間、ソラは体に力が漲って来たのを感じた。拳を握りしめ顔の前で構えた。

 「どうせ殺られるなら、殺ってやるっ、最悪道連れだっ、覚悟しろ」

 カルマに向かい走り出したソラ。力強く一歩一歩地面を踏みしめ、右手に力を込める。


 「やろうってのかい? 面白い…来な、ガキっ」

 更に炎の力を高めていくカルマ。

 10人程のアンデッド達がソラを止めるべく立ちはだかったが、それらを飛び越えるソラ。そして一気にカルマに向かって突っ走った。

 大きく肥大した火炎球を前に、いんを結ぶカルマ。

 そしてカルマの気合いと共に、炎が尾を引きながら猛スピードでソラに向かい飛び出した。

 「こんなモノぉぉぉっ」

 ソラは炎の玉に拳を振りかぶった。全身に響き渡る振動と、体中が燃える様な灼熱に、気が狂いそうになったが、必死に意識を保とうとするソラ。

 すると、次第に火炎球の勢いが弱まり出していく。そして、ソラは、無意識と言っても良い、無我夢中で、火炎球を全力で蹴り飛ばした。

 カルマの元へ勢い良く帰って行く火炎球。

 「そんな馬鹿なっ!?」

 そして、カルマを包み込んだと同時に、辺りは一気に炎に包まれた。悲鳴を上げるカルマを前に、力尽き崩れ落ちるソラ。右手のバトルサポーターは焼け消えて無くなり、拳が真っ黒になって動かない。焦げてしまったのか…


 その時、先ほどまで聞こえていたカルマの悲鳴が、序々に笑い声に変わっている事に気付いた。そして、燃えさかる紅蓮の炎の中から、何か、しなる長い物がうねりを上げてソラの体を弾いた。バシンッと乾いた音と共に、見えたのは、とげだらけのムチであった。

 黒いスーツが破れ、皮膚がえぐれ血が流れ出ているのに気付き、気が動転するソラ。


 そして、炎の中から姿を現したカルマ。しかし、見るからに全くの無傷である。手に握られた長いムチの棘には、ソラの体から削り取ったスーツと血に染まった肉片が絡み付いている。

 「最悪道連れだと…調子に乗るなっ、クソガキが」

 カルマは妖艶な笑みを浮かべ、ソラに向かって縦横無尽にムチを撓らせた。

 「ぐぅあああっ」

 あまりの痛みに声を上げるソラ。体中から血が流れボロボロになっていく様を見て優越感に浸るカルマ。

 「そう、もっと鳴きなさい。良いわ…そう、叫んで…」

 カルマの表情はまるでエクスタシーを感じている様な気持ち良さそうな顔をしている。


 「もう…駄目だ…」

 ソラが、諦めかけた次の瞬間。天井が砕け落ち、分厚いコンクリートの破片がカルマ目掛けて落ちてきた。それらを全て避けるカルマの前に、金髪の綺麗な羽衣を身に纏っている女が現れた。

 「松之宮…?」

 朦朧とする意識の中で、その姿を見たソラは直感でアンリだと解った。そして、ソラの意識は途絶えた。

 「シオン…さぁ、目覚めて」

 アンリの声に答えるかの様に、ソラの体が光り出した。そして、何事も無かったかの様に立ち上がるシオン。ズタズタに破けていた黒いスーツは元の状態に戻り、黒く焦げていた右手も元通りに治っている。

 「この野郎、1日に2回も覚醒しやがって」

 不機嫌そうに口を開くシオン。

 

 瓦礫がれきの隙間から出てきたカルマは、嬉しそうに「これはこれは、シオンにマリカではないか」と話しかける。

 「うるせぇ、このゴキブリ女がっ、胸糞悪いぜ。さっさと終わらせてやるから、どっからでも掛かって来い」と言うシオンに、「悪いけど、コイツは私に殺らせて。松之宮 杏里と、クマのぬいぐるみの女の子の為にも…」と前へ出るマリカ。

 「舐めるな。スピリットの記憶に過ぎない、お前ら如きに何ができる」と叫ぶカルマ。

 「さぁ、何ができるかな?」

 マリカが、右手を前に突き出すと、体の周りに無数の光の玉が現れた。その光の玉は剣や、槍へ形を変えてゆき、しっかりとカルマに照準を合わせている。

 「面白い、やってやるわ」

 そう言うとカルマの掌にさっき、ソラにも使った紅蓮の火炎球が現れた。

 「フルパワーで行かせて貰うよ」そう言いながら、ドンドンと火炎球にエネルギーを溜め込むカルマに「その方が貴方の身の為ね」と冷たくあしらうマリカ。それを両腕を頭の後ろで組み、リラックスしながら観戦しているシオン。


 そして次の瞬間、同時に攻撃を開始した両者。無数の光の武器と灼熱の火炎球が交じり合い強烈な閃光が飛び散った。


 紅蓮の火炎球は、マリカに直撃する前に勢力を失い消え去った。

 「フフッ…なるほどな…」

 そう言うカルマの全身には、無数の光の武器が突き刺さっている。崩れ落ちるカルマ。

 「何か言いたい事はあるか?」と問いかけるマリカ。

 「さぁ、もうどうでも良いさ」と答えるカルマ。

 「わかった…」

 マリカがそう言った時、カルマの体に突き刺さっている光の武器が爆発し、カルマの姿は無くなった。


 「さすがマリカ」

 「久しぶりねシオン。貴方に会えて良かった」微笑むマリカ。

 「俺も会えて嬉しいよ。しかし何だっ、コイツらの軟弱さは」とソラとアンリを皮肉るシオン。

 「確かに、今までで最低なレベルね。このままじゃ、ガジャル封印以前の問題よ」

 「そうだな。駄目だと思ったら最後の手段を使うまでだが…」

 「そうね…極力は避けたいけど、最悪の場合は覚悟しておかないと」

 2人の意味深な空気が辺りを包み込んだ。




 リュウセイのアッパーがアンデッドの顎を捉えた。力なく天井の壁を突き破るアンデッド。次のアンデッドを蹴り飛ばそうとした時、無数のアンデッドは一斉に地面に倒れこんだ。

 「どうなってるんや…? もしかして、あいつら、やりよったんか」

 と喜ぶリュウセイ。

 「おい、青年。助かったぞ、これでっ…!?」リュウセイが後ろの病室を振り返ったそこには、生きた人間はいなかった。

 病室の隅で怯えながら固まっていた患者達は全員、体が鋭利なモノで切り刻まれた様な跡を残し死んでいる。

 目の前に佇んでいるのは先ほどまで一緒に闘っていた青年。しかし、両手には長い剣が握られていた…

 「お前…まさか…」後ずさりするリュウセイ。

 「そのまさかさ。こんなにずっと近くにいて俺に気付かないなんて、今回のスピリットの持ち主は噂通り、大した事無いねぇ」

 「なんやって?」

 「俺の名前はレグザ、覚えておけ」と笑顔でリュウセイに自己紹介をするレグザ。

 「黙れっ、お前も纏めて殺したるっ!」と飛び掛るリュウセイ。

 だが、レグザの掌から放出された青い閃光を全身に喰らい、病室の壁を突き破りそのまま4部屋程貫通し、姿を消したリュウセイ。

 「口ほどにも無い。この分じゃ、ガジャル様復活の日も近いな」

 そう言い残し、レグザは闇に溶け込んで消えた。






 

 〜次回 第9話「新たなる決意」〜


 戦慄の病院バトルの傷跡は想像以上に大きかった。


 そして、彼らの心の傷も…


 新たなる決意を固める3人。


 そして、4人目の選ばれし者が現れる。


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