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第8話 「闇夜の果てに…」その2

 −−「0時25分」−−

 

 8階の西病棟の階段を上へ駆け上がっていく2人の男と一人の女がいた。男の内の一人は頭に包帯を巻き、一人は首にコルセットを巻いている。女は特に外傷は見られず、紺のジーンズに赤のTシャツを着ている。

 恐怖に歪んだ顔で駆け上がる彼らの背後には、無意識と障害物を排除しようとする殺意とが綯い交ぜになっている大勢の人間が、ふらつく足を器用に運び、後を付いてくる。


 9階に到着した彼らを待っていたのは、7人ほどのアンデッド達だった。ニヤリと不気味な笑みを見せるアンデッド達は、3人に殴りかかった。


 「くそぉっ」

 包帯を頭に巻いた男は、間一髪自分の顔に向けられた拳を避け、首にコルセットを巻いた男も、なんとか避けきったが、アンデッドの内の一人の拳は女の頬を殴り飛ばした。

 「ぐはぁっ」と声を上げながら女は床に倒れ込んだ。

 「待ってぇ、置いていかないでぇ〜っ」と叫ぶ女に「スマン、俺達だけでも生き残って、この病院を脱出してやる」と言い、その場を立ち去る男達。

 目の前の7人ほどのアンデッドに、自分の後ろから距離を縮めてくる無数のアンデッド。女は必死にその場を離れる男達に助けを求めた「お願い、助けてぇ〜っ、戻ってきてぇ〜っ」

 アンデッドの一人が、女の上に馬乗りになり、震える拳を女の腹部に突き込んだ。女の胴体を貫きコンクリートの床にめり込むアンデッドの拳。

 女の悲鳴にも似た断末魔を、振り払い男達は一心不乱に薄暗い病棟を駆け抜けた。




 「お姉ちゃんて彼氏いるの?」

 丸いベンチに座っている詩織は、アンリに問いかけた。

 「えへぇっ…今は居ないかな」

 アンリはそう答え、手に持っているスポーツドリンクの缶に口を付けた。

 「じゃあ、好きな人は?」

 「好きな人はぁ…いるかな」

 「そうなんだぁ、どんな人なの?」

 詩織は、興味津々と言った感じでアンリに質問を繰り返す。

 「それはぁ…秘密かな」

 アンリは、ニコリと笑顔で誤魔化した。

 「えぇ〜ケチぃ」と口を尖らせる詩織。

 

 「じゃあ、詩織ちゃんは大きくなったら何になりたいの?」

 今度はアンリが質問を投げかけた。

 「私わねぇ、女優になりたいの」と大きな目を輝かせながら、満面の笑みで答えた。

 「そうなんだぁ、詩織ちゃんならきっとなれるよ、女優に」

 「うん、頑張る」

 自分の将来なりたいモノを、自信を持って言い切れる詩織が少しばかり眩しく感じたアンリ。

 いつ頃から先が見えなくなったんだろ?と思った。アンリは、スポーツドリンクを飲み干した。


 


 その時、男の悲鳴が通路に響き渡った。アンリは、すかさずその場から立ち上がり、詩織の手を掴んだ。

 自分達がやって来た西病棟から2人のパジャマ姿の男が走ってきた。

 「何してるんだ、お前ら!早く逃げろっ」

 男がアンリ達に声を掛けたその時、西病棟から無数のアンデッドがこっちに向かってくる。

 アンリと詩織は男達と一緒に、東病棟へ走った。


 「待って、お姉ちゃんっ」

 大人の足に付いていけない詩織に気付き、詩織を抱きかかえて逃げるアンリ。スーツの力で重くは感じなかった。 

 

 突き当たりの角を右へ曲がり、途中のT字の通路を左へ突き進む。目の前に大きな両開きの扉を発見した4人は、体当たりをするかの如く、扉を強引に開けた。


 「い…行き止まりかよっ…」

 そう言ったのは頭に包帯を巻いた男だ。

 そこは、リハビリ用の大きなホールが広がっている。木目の床、それに4方の壁が鏡張りになっている。

 「どうするよっ?」

 首にコルセットを巻いている男は言った。

 だが、助かる術を考える間もなく、アンデッド達がホールに入ってきた。


 「お姉ちゃん、怖いよっ」

 詩織はクマのぬいぐるみを強く握りしめた。

 「大丈夫、ちゃんと守ってあげるから」

 アンリは覚悟を決め、アンデッド達へ向かって歩き出した。

 「おいっ、何やってんだっ、殺されるぞっ」

 頭に包帯を巻いている男は叫んだ。だがアンリは、男の忠告を無視し、アンデッド達へ近づく。


 「みんなは、私が守る」

 アンリは力強くそう言うと、蒼く光る手の中にレーザーアローを出現させ、光の矢を引いた。

 「悪いけど、あなた達の足を狙わせて貰う」

 目の前の無数のアンデッド達の中の一人の足に照準を合わせるアンリ。そして、一気に弦から手を離した瞬間、光の矢は空を斬り、スクリューしながらアンデッドの足に突刺さった。

 

 「すげぇ、何だアイツ…?」

 首にコルセットを巻いている男は目の前の光景に驚いた。

 「どうなってんだ…?」と言っているのは頭に包帯を巻いている男だ。

 「お姉ちゃん、頑張ってぇ」

 アンリに声援を送る詩織。


 だが、足に矢が刺さったアンデッドは、効いている素振りもなく「見つけた…スピリットの持ち主…よこせ…渡せ…スピリットを渡せぇ…」と前進してくる。

 今度は一気に5本のエネルギーの矢を引くアンリ。アンリの額から一筋の汗が流れた。そして、5本の矢はアンデッド達の足に突刺さった…が、やはり効いていない。


 「やっぱり、急所を外すと効かないっ」

 アンリは、弓を消し去り肉弾戦に持ち込んだ。スーツのパワーで一気に殴り飛ばすつもりだ。時間と共に、一秒を増すごとに増えていくアンデッド達。

 アンリは無我夢中で、アンデッドの一人に殴りかかった。しかし、アンデッドの体にパンチが弾かれた!?

 

 −−「なんでっ…!?」−−


 急に体から力が抜けていく。その時、アンデッドの拳がアンリの腹部を打ち込んだ。吹っ飛び床に叩き付けられるアンリ。スーツを着ているはずなのに強烈な痛みがアンリを襲う。恐らく、アバラか何かの骨が折れた様な痛みだ。

 どんどん近づいてくるアンデッド達に対し、同じく覚悟を決めた男達が襲いかかった。だがアンリの目の前で無惨にもグチャグチャになって行く男達の姿にアンリの目に涙が込み上がってくる。


 −−「どうして…どうして、こんな事に。助けてっ…寺村さんっ」−−

 アンリは、心の中で必死にリュウセイに助けを求めた。その時!


 「キャャァァっお姉ちゃぁぁん」

 詩織の悲鳴が聞こえた。なんと、部屋の角でしゃがみ込む詩織に3人のアンデッド達が今にも襲いかかろうとしている。

 「やめてぇぇぇっ」

 アンリは叫び、立ち上がろうとするが、体に力が入らない。凄まじい脱力感と痛みが完全に自由を奪っている。


 そしてアンリの目の前で、部屋の隅の3人のアンデッド達の隙間から血しぶきが吹き荒れ、詩織の声が聞こえなくなった。

 凍り付くアンリ…


 目の前に転がる、血まみれのクマのぬいぐるみを、必死に掴むアンリ。

 −−「じゃあ、詩織ちゃんは大きくなったら何になりたいの?」−−

 −−「私わねぇ、女優になりたいの」−−


 アンリの脳裏にあの笑顔…自分には少し眩しく見えた、あの笑顔が甦る…止めどなく溢れ出す大粒の涙が頬を伝い床を濡らす。

 「ゴメン…詩織ちゃん…」


 ドクンッ!!!?


 アンリの心臓が一瞬大きく脈を打った、そこでアンリの記憶は途絶えた…


 


 「任務完了だな…」

 アンデッド達は、横たわるアンリに向かって言った。その時、アンリの体の周りが金色の輝きを放った。その光は辺り全てを包み込んだ。


 吹き荒れる暴風と光の中現れたのは、金の長い髪が風になびくアンリの姿だった。黒いスーツは、白く、金の装飾が施された羽衣へと変わっている。

 金色のアンリが腕を水平に、空を斬る様に振ると、部屋の中の全てのアンデッド達は、ほどばしる暴風と共に壁を突き破り姿を消した。





つづく


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