第8話 「闇夜の果てに…」その1
スーツの力で、パイプ椅子が逆に凹んだ。リュウセイの目に飛び込んで来たのは、病室の中で怯え、隠れている20人程の一般人と、パイプ椅子を握りしめて、みんなを守ろうとしている青年だった。
「何すんねんボケぇっ!」
自分を殴りかかって来た青年を怒鳴るリュウセイに「すいません!てっきりアイツらかと…大丈夫ですか?怪我は無いですか?」と頭を下げて謝る青年。Tシャツとジーンズを着用している青年は、恐らく入院患者では無く、付き添いの人だろう。
「別にかまわんけど、後ろのアイツらは?」
「この階にいた、まともな人達を俺が匿ってるんです。アイツらが襲ってくるから」
青年は、廊下で横たわっているアンデッドに視線を向けた。
「外へは、出ようとせんかったんか?」
「いや、みんなを連れて1Fに行ったけど、鍵を開けても扉が開かなくて。アイツらが来たから逃げて来て此処に隠れているんです」
リュウセイは、病室の隅で身を寄せ合い、恐怖に満ちた表情で座り込んでいる患者達に視線を巡らせた。
「良く頑張ったなお前ら…」リュウセイは囁くように言った。
「おい青年」リュウセイは口を開いた。
「あ、はい」
「俺がこの部屋を出た後、すぐに扉を閉めて、すぐソコにあるベッドで扉が開かん様に固定しとけ。何があっても扉を開けるな」
「じゃあ、アンタはどうする?」
青年は、何を言ってるんだと言わんばかりに問いかけた。
「俺の事は気にすんな。お前らの事だけ考えとけ」
「だったら、尚更ココに留まって俺達と一緒に居てくれ!」
患者達の中の老人が口を開いた「その若い人の言う通りじゃ、一人で行って何になる?きっとアイツらに殺されてしまうだけじゃぞ」
「お願い、ココに居て」と老若男女がリュウセイに訴える。
その時、病室に向かう摺り足の音が聞こえてくる。
「アイツらが来た」と再び怯え出す患者達。
そして、2人のアンデッドが病室に入ってきた。すかさずパイプ椅子で殴りかかる青年。しかし、アンデッドはパイプ椅子を手で掴み、青年の肩を殴りつけた。
「ぐわぁぁぁっ」肩の骨が砕けたのか、青年がのたうち回る。
「大丈夫か!?」
青年に駆け寄るリュウセイ。
「みんな逃げてくれぇぇぇぇ」
青年は必死に声を振り絞り患者達に叫んだ。だが、手術が終わって療養中の人や、まだ、病気が治っていない人達が素速く逃げれる訳が無い。
「クソっ! 青年、お前も下がってろ…俺が守ったる」
そう言った瞬間、目にも止まらぬ速さでリュウセイはアンデッドの1人を殴り、廊下の窓を突き破った。そして、もう一人のアンデッドを左足で突き飛ばす様に腹部を蹴った。アンデッドは壁にめり込み動きが止まった。
「すげぇ!」
青年は驚いた。常識では考えられない強さを目の当たりにしたのだから。青年、患者達の目の輝きが先ほどまでとは変わっていた。希望に満ちあふれている。
だが、続々とアンデッドが病室の入口に押し寄せて来た。廊下で倒れていたアンデッドもいつの間にか立ち上がり、共に群れている。
「ホントやったら、剣でバッサリ終わらせたいんやけど、俺はお前らも助けやなアカンねん。悪いが、拳で殺さん程度に行かせてもらうで」
「スピリットぉぉ…よこせぇ」
アンデッド達は各々、同じセリフを繰り返している。
「だから、やらんって言ってるやろ、ボケぇぇっ!」
リュウセイは全力で腕を振りかぶった。
5人、10人、15人…と倒れて行くアンデッド達。その上を乗り越えて病室に入って来るアンデッド達。
その時、バランスを崩したリュウセイの腹部にアンデッドのパンチがめり込んだ。患者達の頭上の窓のサッシに吹っ飛ばされ、激突するリュウセイ。
「この野郎!何人来んねん…」
さすがのリュウセイも疲労を隠せずにいた。それでも、病室の入口と言うライフライン(命の線)を越えさせない為に、再び殴りかかるリュウセイ。再びアンデッドの拳がリュウセイの頭部に激突する次の瞬間! パイプ椅子がアンデッドの脳を揺らした。
振り返るリュウセイの前に、肩の痛みを堪えながら、パイプ椅子を握りしめる青年。
「俺だって、まだやれる! 共に闘うよ」
「生意気言いやがって」
二人は同時にアンデッドに飛びかかった。
つづく