第6話 「初戦」その3
ガタイの大きなローブの男は、シオン目掛け襲いかかった。一歩一歩、病室の床を凹ましながら、大きく開いた胸の横で右手に渾身の力を溜め込む。走った勢いで、黒いローブのフードが脱げた。茶髪の短髪、まるで仮面を付けたアーノルド・シュワルツネッガーの様だ。
ローブの男は「うぅわぁぁぁぁぁぁっ!」と叫びながら、丸太の様に太い腕を振りかぶったが、シオンは、ローブの男の拳を左手の手の平で、掴む様に受け止めた。カナリのパワーにシオンの両足がタイルの床にめり込み1メートルほど、2本のえぐれたラインが現れた。しかし、シオンは無表情で、大した事も無いと言わんバカリに笑っている。
ローブの男は「この野郎っ」と、右手をシオンの手から離し、シオンの顎へ半円を描く様にスイングした様な蹴りを放った。しかし、シオンは、体をクルりと反転させ蹴りの軌道から顎をずらす。体を左回りに反転させた遠心力を縦の回転力に変換し、強烈な右アッパーがローブの男の顎へ激突した。病室の天井を突き破り、7階、8階、9階…と粉砕音と共に姿を消したローブの男、それを追う様にジャンプするシオン。
おぼろ月が大半、雲に隠れて見えなくなって来た頃、ローブの男は、聖都総合病院の屋上で横たわっていた。白い仮面から見える口元は無惨な程に血まみれになり、顎が変形している。
シオンは、ローブの男の前に立ちはだかり「最後に言い残す事は?」と問いかけた。
ローブの男は「俺が死んでも、仲間達が必ずお前達を止めてみせる、世界を救うのは我々だ、さぁ殺れよ」と、もう抵抗する気力すら無いかの様に静かに答えた。
シオンはコンクリートの地面に静かに横たわるローブの男に、右手の手の平を広げた。そして、シオンの手の中に淡く白い光が集まり出す。
その時、シオンの視界の隅に、地面に横たわる者が見えた。口から首の後ろまで槍が貫き、横たわるソラの父親だ。
「オ、オヤジ!? ウソだろ…」
シオンの顔付きが元に戻り、ソラの手の中の光りは消えていった。ソラは、無我夢中でオヤジの下に駆け寄り、膝から崩れ落ちた。
「どう言う事だよ?死んでるじゃねぇか…こんな事ってあるかよ‥なんでだよ!」
ソラの目から涙が頬を伝ってコンクリートの床を濡らす。「何も言えないまま終わっちまった…」泣きながら誰に言う訳でも無く…
黒い空から、「しとしと」と雨が降ってきた。まるで、今のソラの悲しみを代弁するかの様にも見える雨は、ソラの目から零れた涙の跡に幾重と重なり、次第に辺り一面の床が濃い灰色一色に包まれた。
雨の中、父の下で崩れ落ち泣いているシオンの背後に、大きな黒い影がゆっくりと迫ってくる。
「やはり、神は我の味方と言う事か」黒いローブの男は右手の拳に赤いエネルギーを纏っている。そして、ソラに向かい大きくパンチのタメを作ったその時! ローブの男の体に熱い衝撃が走った。ビックリして振り返るソラ。ローブの男が自分の胸に目をやると、赤く染まっている刀が突き出ていた。
「く、そぉぉ…」ローブの男はそのまま、地面に倒れた。
刀から手を離したアンリは、声を掛けるべきか悩んだ。自分も同じ経験をした事があるからだ…誰の言葉も耳に入って来なかった。
だが、ソラは自分からアンリに口を開いた「なぁ松之宮、俺、どうしたら良いんだ?」
「心を解き放ち、スピリットを開放しろ。そして世界を救え」リュウセイが空から降りてきた。
続いてアンリが語りかける「神城君、私もコイツらの仲間にお母さんが殺されたの」
「えぇっ!?」ソラは耳を疑った。
「そんな時に、リュウセイさんと出会い自分の運命と役割を知ったの。初めは私も信じられなかったけど、自分の周りの大切な人達がどんどん危険にさらされる事を知り、運命を受け入れた…私達には大切な人たちを守る事ができる力があるから」
「俺にも…その力が?」ソラは父親を見ながらアンリに問いかけた。
「信じるか信じへんかはお前次第やけど、どの道辛い運命が待ってるんは確かや。やけど、その運命を変える事ができる力をお前は持ってる。どの道を選ぶかは…自分で決めろ」
「俺が運命を受け入れなかったら、どうなるんですか?」
「お前含め周りの人達が殺され、最後には地球が滅ぶ。これは冗談じゃない、本当の事や」リュウセイは、躊躇なく答えた。
「待ってる時間は無い、さっさと答えてくれ。俺達と共に世界を救ってくれ。これ以上大切な人を失わん為にも」
少し間が開いた後、「わかりました…やってみます!」ソラは顔を上げて力強く答えた。
その時、屋上の非常階段の扉が勢いよく開き、扉が壁にぶつかった。3人が振り返ると、ゾロゾロと大勢の入院患者達が現れた。ただ、全員、首が座って無く虚ろな目をしておりヨダレが流れていた。
アイツらのように…
〜次回 第7話「アンデッド」〜
迫り来る「操られし者達」
そして3人の命を狙うカルマ…
ソラ・アンリ・リュウセイはこの危機をどう乗り越えるのだろうか?
大病院バトルは後編へ…