第1話 「神城 空」その2
昼のチャイムが鳴ると同時に、クラスの生徒達は弁当箱とイスを持ち、気の合う仲間同士で固まりだす。
ソラの机に、タケル(宮本 猛)とシンジ(斉藤 臣司)がやって来た。
タケルはソラと同じ空手部で小学校からの馴染みである。身長が百八十程あり、ガッチリとした体付きが目立つ。
シンジは高校に入学して知り合った仲だ。小さい頃からサッカーを続けているせいか肌が常に日焼けしている。
もちろんサッカー部だ。
「食ったらサッカーだぜ!」タケルは弁当のフタを開けながらいつもの口癖を言った。
シンジは卵焼きを箸で掴みながら「俺のドリブルを抜ける奴はいないぜっ」と言い卵焼きを頬張っている。
ソラは鼻で笑った。
「昨日俺が抜いたばっかだろ」
「うるせー」シンジは半笑いで言った。
ソラは笑いながら弁当のフタを開けたが、あまりの衝撃的な光景に凍り付き、フタを閉めた。
――「〜今日の弁当はお前の大嫌いなシリーズで固めておいた!楽しんで噛み締めろ!偉大なる父より〜」――
「どうしたんだよ?」シンジの問いに「いやぁ〜、何も……」と返すソラ。
「松之宮がお前の事見てるぜ」
タケルの言葉にソラは後ろを振り返ったが、アンリはクラスメイトの七瀬 美津穂と食事を楽しんでいる。
ソラが視線を自分の弁当箱に向けた時にはフタが開けられ中の衝撃的な光景が露わになっていた。
タケルとシンジは何事も無かったかのように無心で弁当を食べているが、その顔からは先ほどまでの笑顔は消えていた。
ソラの弁当箱の中身は全面緑色……ピーマンにブロッコリー、キュウリとキャベツがごちゃ混ぜであった。
その中心にトンカツソースで描かれているハートマークが虚しく黒光りしている。
「あのクソオヤジ……」
ソラは再びフタを閉めた。
ソラとタケルとシンジの三人は自転車で学校から帰っていた。
「まぁ俺にはシンジのドリブルは通用しないって訳だ」
ソラは自慢気に言った。
「黙れ野菜戦士!」
シンジはニヤリと笑いながら言った。
「誰が野菜戦士だコラぁ!」
「そうカリカリすんなよ、野菜戦士」タケルは堪えれずに笑った。
「野菜戦士じゃねぇぇぇっよ!」
タケルが笑いながら自転車のペダルを漕いでいると、急に曲がり角から出てきた人に気付き、慌ててハンドルを切った。
油切れと言う事あり、甲高い高音が鳴り響いた。
「どこ見てんだコラぁっ」
金髪の高校生はどこから見ても不良そのものだ。
「すんません、ごめんなさい」
タケルは目の前の不良に竦みながらも謝罪をした。
「そんなんで許せる訳ねぇーだろぉが!」
不良の男はタケルの胸ぐらを掴みながら鋭い眼光で睨み付ける。
「おぅどうしたんだ?龍二」そう言いながら五〜六人の不良が加わった。
「こいつが前方不注意でよぉ、ぶつかりかけたんだわ」
龍二はタケルの胸ぐらを更に上に掴み上げた。
「本当にすんません!」
必死に詫びるタケル。
「そりゃ〜ヤッちまわねぇ〜といけねぇだろ」
不良グループの一人がニヤつきながら龍二を煽る。
シンジはソラの袖を引っ張った
「アイツら、首藤工業の奴らだ、この辺の番だよ」。
ソラは自転車を降り、タケルのもとへ歩いた。
「その辺でいいだろ?俺たちが悪かった。だから今日は見逃してくれ」 ソラは龍二の腕を掴んだ。
「なんだテメェ? 殺すぞ……お前らぁ、コイツ殺していいぞぉ」
龍二の掛け声に不良グループはソラに向かって走って来た。
ソラは深呼吸をしながら、ゆっくりと身構えた。
つづく