第5話 「決断」その3
地面がえぐれる音…石や砂が飛び散る音…
アンリは校舎のコンクリートの壁の中で、爆風が治まるのを待っていた。しばらくして、周りが静かになった所で、アンリは校舎から顔を出す。そこでアンリが目撃したのは、直径10メートル位ではあるが、まるで、戦争後の焼け野原の様な光景だった。
その中心で傷だらけのソラは横たわっていた…さきほどの男を探したが、そこに人の形は無い、だが地面にはさきほどの男のモノであろう、黒い影がくっきりと残っていた。
アンリは急いでソラの下に駆け寄った。
「神城君、大丈夫!?神城君っ」
全く反応が無いソラ…アンリはソラの口元に耳を傾けた。
「息が無い!」
アンリは急いで救急車を呼んだ…
……………
キュアラクトの治療液が排水溝から排出されていく…リュウセイは目をゆっくり開き、呼吸器を取り外した。そして、壁に掛かっているバスローブに袖を通し、そばにあったベンチに腰掛る。
「かなり厄介な状況みたいだね」
救急治療部門の研究医 ヒール博士が言った。インテリメガネが似合う、キリットした顔立ちをした、リュウセイよりも3つ上の25歳。 キュアラクトの開発者だ。
リュウセイは一度、深く息を吐き、「あぁ、しっかり届いてると良いんやけど」と、髪をかき上げながら言った。
そこにアンリが息を切らしながら入って来る。
「寺村さんっ神城君が!」
「どうした?」リュウセイはベンチから立ち上がった
「また変な男が出てきて、神城君がスピリットで…」
アンリが言い切る前に、リュウセイは問いかけた「って事は、スピリットは神城の所に届いたんやな?」
「あっはい!でも、神城君が倒れた時にスピリットが急に光りだして、神城君が」
「おい!ちょっと落ち着けよ、安心しろ、スピリットが発動したんやったらお前同様体内に取り込んだはずや」
アンリは一度深呼吸をしてから口を開く「神城君、手から光の様なモノをだして、学校の植物園が吹っ飛んでしまってあの変な男も恐らくその時に死んでると…」
「で、今、神城はどこにいる?」リュウセイは問い返した。
「今は、救急車で聖都総合病院で治療してます」
その時、壁に背中からもたれて腕を組んでいた、ヒール博士が口を開いた「でも、まずいんじゃないか?流星、これまでの状況を考えると…」
リュウセイが続いて口を開く「恐らく、神城が危ない」
「えっ?」アンリは意味が解らなかった。
「おそらく、その聖都総合病院は血の海になるかも」ヒール博士は腕を組みを解きながら言った。
「どう言う事なんですか?」アンリは問いかける
リュウセイは、もう一度ベンチに腰を下ろし話し始めた。
「俺が、スピリットが隠されている遺跡に着いた時、既に何者かが侵入してたんや。周りに警戒しながら進んでた時、目の前に立ちはだかったのが、お前の家に押し入った時の様な男や女数人、アレだけの人数を動かすにはカナリ強力な念の持ち主って事や。それに、お前の家の位置まで解り、新たなスピリットの存在・隠されている遺跡まで知ってる。
そして、お前の話じゃぎりぎりスピリットで助かったが、神城の居場所まで掴まれて襲われた…今、病院で治療中って事が知れると、アイツが弱っている間にトドメを刺しにくるはずや!」
「じゃあ早く戻らないとっ」アンリは慌てた。
「あぁ、やけど、まずは戦闘準備や、丸腰で行ってどうすんねんっ?って話や」
リュウセイは腰を上げ、歩きだす。
「着いて来いや、戦闘準備室に案内したるわ」
「あっはい!」
アンリはリュウセイの後に着いていった…
うっすらとおぼろ月が顔を覗かせる。夜空は不気味なくらい漆黒の闇が広がっていた。
コンクリートの床に光りのサークルが現れた…渦巻く風と共に聖都総合病院の屋上にアンリは現れた。
「よしっ」気合いを入れ、黒いバトルスーツを身に纏っているアンリは急いで、非常口から6階の入院病棟に階段を下りていった。
この病院は15階建ての巨大病院で夜はセキュリティシステムが作動している。
「ほらよっ」警備室で監視カメラをチェックしていた警備員に、巡回から返ってきた警備員が缶コーヒーを手渡した。
「サンキュー」
警備室内に缶のフタが開く音が鳴った。警備員の一人がコーヒーをすすりながらモニターを見ていると不気味な現象が起こった。
20台あるモニターの1番右上のモニターに急にノイズが現れた…
「ん?故障か?」
単なるモニターの故障かと思ったが、隣のモニターへとノイズはどんどん広がっていき、20台全てのモニター画面がノイズで埋め尽くされた。
「どうなってんだ…っ?」まだ1口も缶コーヒーに口を付けていない警備員は唖然としている。
その時、2人の警備員は背筋に凍る様なモノを感じた。警備員が振り返ると、そこには、黒いローブを纏って口から上を悲しそうな白い仮面をつけた人が立っていた。
「なっなんだお前っ!?」
警備員はその恐ろしく不気味な姿に足が震えていた。黒いローブを纏った者は両手を絡め、韻を結び何か呪文のようなモノを唱え始めた。
−−632号室−−
アンリは病室の前に「神城 空」のネームプレートが掛かっているのを確認した。
もしかしたら、既にあの男達がソラにトドメを刺しているかも知れない。病室の中に居るのかも!?
アンリは恐る恐る扉のノブに手を掛けようとしたその時、病室の扉が開いた。
ソラの父親だった。アンリはホッとして軽く会釈をした。
ソラの父親の姿が見えなくなったのを見計らい、アンリはソラの病室の扉を開けた。
「松之宮っ!」ベットで呼吸補助マスクを付けられ、腕に点滴のチューブが巻き付いていたソラは驚いて目を開けた。
「目覚めたわね」
「何が…?」
「ずっと待ってたわ、あなたを」
「お、俺を…」ソラの顔が赤くなった。
「スピリットの持ち主…」
アンリは、今のソラとあの時の自分が重なった様な感覚に襲われた。 不思議な感じがした…
「あっ、水晶玉っ!」
ソラは慌ててベットから起きた。
「安心して、あなたが取り込んだわ」
「取り込んだ…?」
あの時の自分と同じ質問を返してくる…
「アレは水晶玉じゃなくてスピリット…あなたの前世での力の結晶よ」
「あっ…えっ…?」
ソラの心境は凄く良く解っていた、かつての自分も同じ事を思っていたから…
「今は解らなくても仕方ないわ、私も同じだった。ただ、今日をさかいにアナタの人生は一変するわ…早く体を治す事ね、アイツらは待ってくれないわ」
アンリは特に異常が無い事を確認し、病室を後にした。
アンリは階段で屋上まで上り非常口の扉を開けた時、またしても見たく無いモノを見てしまった!
くっきりと漆黒の闇の浮かぶ満月は、口から首の後ろを貫通し、突刺さったままの槍と共に横たわっているソラの父親を照らしていた。
アンリは全力で階段を駆け下りた…
〜次回 第6話「初戦」〜
ソラの身に迫る危機
ソラを守るべく突き進むアンリ
そしてリュウセイは…?
黒いローブを纏った者、ソラ達がついに本領発揮!
深夜の大病院で繰り広げられる戦慄の初戦
「HIKARI(光)」の物語の幕がついに開かれる!