第5話 「決断」その2
「今日はスッキリとした快晴となりますので、洗濯物を干すには最適な一日になるでしょう」テレビの天気予報士のお姉さんは今日も笑顔を振りまいている。
今度はテレビのCMから軽快なラップ曲が流れ出した。
「SOUL`d LOVE新曲!『Dream Fly』本日発売!」
アンリは、誰も居ない一軒家でいつもの様に長い髪をゴムで束ね、学校へ行く用意をしていた。母親が殺されてから、アンリは毎日一人で家にいる。小さい頃から、母親の家事を手伝っていたアンリにとっては、生活はそれほど困らなかったが、生活費は親戚から毎月援助して貰える5万円と、バイトの給料の5万でやりくりして行く予定だ。
あれから、アンリは家で口を開く事が無くなった。父親を6歳の頃に病気で亡くして以来、母親しか話す相手が居なかった 、しかしアノ事件で誰も居なくなってしまった。
毎朝当たり前の様に声を掛けてくれた「あんりぃ、ご飯わぁ?」はもう2度と聞く事は無いんだと思いながら、アンリは食パンをかじり、家を出た。
−−「家って、こんなに寂しいモノだっけ…」−−
教室に入ると、朝から男子生徒の数人が教室の中で、キャッチボールをしていた。
「あんた達ガラス割れたらどーするのよ!」親友のみっちゃんは大声で注意している。
アンリは自分の机に着きながら窓際に目をやった。ソラは、椅子に着き空をボーっと眺めている。
「今日で5日目か…」
リュウセイからソラの護衛を任されて、5日目に突入していた。 リュウセイからの連絡も未だに無い。どうしてしまったのか…
アンリはソラと目が合った。だがソラは照れる様に視線をそらした。
「はいっ!今日はここまで、明日は期末テストだからしっかり復習しとけよ!」担任でもある国語科担任の加藤はお馴染みのセリフを吐いた。
「起立っ!」アンリはシャーペンを犬の絵が描かれている缶ケースにしまい込みながら起立した。
「礼っ!、着席!」号令と共に加藤は教室を出て行った。
3時間目の加藤の受業が終わって直ぐに、アンリの携帯のバイブレーションが振動した。アンリは2つ折りの携帯電話を開いて画面を確認した。
「寺村さんからだ」アンリは電話の受話ボタンを押した。
「杏里ちゃんか!何とかスピリットを手に入れたけど邪魔が入ってカナリ手こずった。呪術に掛かった連中も結構おったし。これからそっちに向かうから。神城 空にも、もしかしたら危険が及ぶかも知れんから今まで以上に用心してくれ!」リュウセイは走りながら電話をしているのか、息切れをしながら話している。
「このヤロっ!うぅらぁぁっ!」
電話の向こうから、リュウセイが何者かと闘っている音が聞こえる。
「わりぃ切るわ!」
「はい、わかりました」
アンリは電話を切ると再びソラに目をやった…
相変わらず空を眺めている…
そして放課後…
「アンリぃ、今日はバイト?良かったら一緒に帰らない?」
「ごめ〜ん、今日、用事があるんだぁ、ホントごめん」アンリは申し訳無さそうに両手を合わせた。
「そっか、じゃあまた明日ね」美津穂はニコリと笑い教室を後にした。
アンリは教室を見渡したが、さっきまで居たはずのソラがいない!
「ああっやばいっ!」
廊下を急いで走っているアンリは、3階の窓から1階のグラウンドを歩いているソラを見つけた。
「ハァ…ハァ…」
アンリは急いで階段を駆け下りる。
焦る思いでアンリは1階に降りてグラウンドを見渡したがソラの姿が無い。
「ハァ…ハァ…どこっ?」
アンリは、植物園の側を通りかかった。
「そのスピリットを渡してもらおうか」アンリは聞き覚えのあるセリフを耳にした。まさかと思い、植物園の格子から中を覗き込んだ。
その瞬間、花壇に激突するソラを目撃した! 地面に崩れ落ちるソラ…
ソラの手から転がり落ちたスピリットをみて男はうつむきながら、ニヤリとした。
「任務完了だな」
アンリが意を決してソラを救出しようとしたその時、ソラのスピリットが白く輝き出した! スピリットを中心に暴風が吹き荒れる。そしてその光は一気にソラを包み込んだ!
アンリはあまりの光に目を開ける事が出来ず、腕で目を覆った。
「なんだっ!」男は驚き、目を塞いでいた。
光がおさまり、アンリは目の前の状況を確認した。
光と風の中から現れたのは、目付きがいつも以上に鋭く、体中に白いオーラを身に纏ったソラだった。
男が後ずさりをした次の瞬間、ソラの拳は男の腹部を貫いていた!
吹き荒れる男の血…
アンリはあまりの恐ろしさに顔が引きつった‥
そのままソラは仰向けに倒れた男の上に馬乗りになり、片手を上に突き上げた。
ソラの手の平に光りが集まる。
バスケットボール位の大きさまで光りが膨らんだと同時にソラは男の心臓目掛け、光をねじ込んだ!
ほとんど直感で危険だと感知し、校舎の壁に飛び込むアンリ。
その直後、植物園は爆風と共に木っ端微塵に吹き飛んだ…
つづく