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第41話 「2%のズレ」その3

 CDショップの店頭の棚から一枚のCDを掴んだ。

 ジャケット写真に写っているルナと、その横で綺麗な水着姿で決めポーズをするアンリ自身に「あーららぁ……」と苦笑いを浮かべる。

 主力商品を推奨する店頭の棚には、残り数枚しかない事からカナリの人気がある事が推測される。

 ラメやスパンコール、繊細な刺繍が施されたブラからこぼれそうな程のバスト。

「私、こんなに胸あったっけ?」とエメラルドブルーのワンピースの上から自分の胸を触って確認する。

「盛ってるな……コイツ」とそこに写る自分自身に言った。


「ちょ、やべぇ。杏里ちゃんだ」と今の歴史で生きる松之宮杏里のファンらしき小太りの男が一眼レフのカメラを取り出し近づいてきた。

 慌てて顔を伏せるアンリ。

「ちょちょっと辞めて下さい」と言うアンリの訴えは叶わず、容赦のないシャッター音が響く。

 気付くと、四方から男性ファンに囲まれていた。

「可愛いよアンリちゃん」「ルナちゃんとは一緒じゃないの」「てか、今日は大阪でライブじゃなかったっけ」

 その言葉に、自分の存在が明るみになっては今の時代の自分に迷惑が掛かると気づき、慌ててその場から立ち去った。


「勘弁してよぉ。こんなんじゃどこも歩けないじゃん」と顔を伏せながら、人目のつかない場所を探す。

 スフィアを使うところを誰にも見られないようにする為だ。

 初めに降りた場所が悪かったのか、繁華街のど真ん中では路地を探すのも一苦労だ。

 やはり、どこかの建物の屋上しかないと思い高いビルを探す。

 家電量販店の店頭に展示されている大量の大型4Kテレビ全てにアンリとルナの大阪でのライブ中継が映し出されている。

 その前を横切るアンリ。

「これって、あと3カ月もすれば私が彼女の人生を引き継ぐって事だよね。無理だよこんなのぉ」

 そう言いながら、アンリはタワーズマンションの住人が玄関のオートロックを開錠するのを見かけ一緒に入った。

 この時代には、自分の居場所は無い。

 この時代・この歴史は彼女の物だ。

 複雑な心境で戸惑う指先がエレベーターの最上階のボタンを押した。


 ☆     ☆


 空手部の練習が終わり、マンションに帰宅する神城空の姿を向かい側のマンションの廊下から見下ろしていたソラ。

「親父も仕事だし、特に変わった所もないな」

 目の前の何も知らない神城空がこれから壮絶な人生を歩んでいく事になると思と不憫な思いに浸っていく。

 あと一ヵ月程が過ぎれば、学校の校庭でスピリットを見つけマインダーに襲われる。聖都総合病院に入院し、そこで父親が屋上でゲラヴィスク教に殺されソラは初めての戦いを経験する事になる。

 今の力なら父親を奴らから救えるかも知れない。

 しかし、その結果が招くであろうこの時代の神城空への影響が気がかりだ。

 彼が戦いに身を投じるきっかけがその後に現れるのだろうか?

 この件に関してはもう少し考えたいと思い、一旦気持ちを切り替えソラは踵を返した。


 非常階段から屋上に出た時、嫌な空気を感じ取るソラ。

 振り返ると、そこに一人の男が立っていた。

 歳は二十代と言った所だろうか、軽くパーマをかけた金髪が夜風に靡く。

 カッターシャツの上からブルーのジレを着こなし、タイトなジーンズにグレーのブーツ。

 見た感じはどこにでもいる青年に見えるが、その全身から放たれる異様な空気がただならぬ予感をソラに感じさせていた。

「誰だ」とソラは聞いた。

「あぁ、俺はゲラヴィスク教らしい」と今までのゲラヴィスク教の者達とは違って軽々しく答えるその男。

 途端にソラの中で二つの疑問が浮かび上がった。

 まず、ゲラヴィスク教特有の全身を覆う黒いローブと仮面が無い。そして、この男はソラの記憶に存在しないのだ。

 ただ会っていたなかっただけなのだろうか?

 何故だかは分からないが、そうでは無いと言う確信はある。

「らしい」と訝しげに訊ねる。

「俺らあんまし興味無いんだわ、宗教とかさ。ただクロノスが言っていた『時間を歪めし者』がどんな奴が見たくてね」

「クロノス」とまた聞きなれない言葉に首を傾げる。

 男はソラの問いを無視しながらジーンズのポケットから取り出した大量のビー玉を遠くの空に向かって全力で投げ飛ばした。

 ゆっくりと放物線を描く大量のビー玉が異常なまでに旋回を始める。

 そして、その全てがソラに向かって弾丸の如く降り注いだ。

「マジかよッ」

 今のソラはバトルスーツを着ていない。単なるパーカーとジーンズだ。

 まともに直撃する事だけは避けたい。

 咄嗟に右手首に嵌めていたブレスレットのスフィアを青く光らせる。

 グリップの付いたシールドから光のヴェールを展開し、頭上に掲げた瞬間、強烈な幾つもの衝撃が全身に伝わった。

 マシンガンから鳴る銃声の様な音と共に、ソラが立つコンクリートの床に無数の穴が作られていく。

 何とか耐え忍んだが、そこに男の姿は無かった。

 直後に声だけが響いた。

「俺の能力はシューティングスター。何処からでもどんな物を使ってでも狙った獲物は射抜く。今日は挨拶代わりだ。確かあと3カ月は自由にできないんだろ? 3か月後を楽しみに待ってるよ。その時が来たら全力で戦おう」

 そう言い残し、ソラを包み込んでいた不気味な空気は消え去った。


 あまりに想定外の事が重なりその場から動けなかった。

「あいつ、なんで俺達の事を知ってるんだ……」

 この時代、歴史を調節しようとしている自分たちは既に大きな渦の中に取り込まれているのかも知れない。

 ソラはそう思った。



 ☆     ☆


――「もしもし、俺だよ……シューティングスターだ。クロノスの言っていた奴に会ってきた」

――「あんまし大したこと無かったな。もっと強そうな奴かと思ったけどさ。あと3カ月かけて強くなったとしても、俺らよりは弱いと思うぜ。てか相当ビビッてたよ」

――「わかった、明日だな召集かけとくよ」

 男はそういうとスマートフォンの通話を終了した。





 ~次回 第42話「ゲラヴィスク教の血」~


 突如現れた謎のゲラヴィスク教。


 ソラ達の存在を把握するクロノスとはいったい……。


 歴史が切り替わる3カ月間をゆっくりと待ってくれる訳ではない。

 もう新たなる戦いが始まろうとしていた。


 そして、次回、ソラが持つゲラヴィスク教の眼の秘密が語られる。


 その先にある衝撃の事実とは?

次回は、ようやく幾つかの伏線回収を行います。

お見逃しなく!!

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