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第41話 「2%のズレ」その2

ほとんど会話です。

「お、俺っすか?」とソラがリュウセイに訊ねる。

 リュウセイはマスターからジョッキに入ったビールを受け取るとゴクリと大きく一飲みし、ソラ達がいるテーブルに向けられた浮遊ソファに腰を預けた。

「別にお前を責めている訳やないで、アレは仕方なかった」

「アレって?」とアンリが首を傾げた。

「今の時間軸に来たって事や。あの時は仕方なかった。ガジャルに殺されかけたんやからなぁ」

「宇宙船が破壊された時の事だな……」

 リュウジが腕を組みながら当時の光景を頭に浮かべた。

 ルナは持っていたガラスのコップをテーブルの上に置いた。

「惑星コールディンに飛び立って半年後の地球時間に戻ってきたけど、ガジャル復活に地球崩壊……。そこで神城が持ってたタイムスフィアでコールディンに飛び立つ半年前に飛ばされたって訳や。つまりこの時間軸に置いて、約1年間のタイムトラベルしてる事になる」

 そう語るリュウセイの言葉の後に懐かしい声が続いた。

「タイムトラベルの障害が起きてるのさ」

「ヒール博士ッ」

 ソラとアンリは直ぐに分かった。

 相変わらずインテリメガネが似合う博士が一同に視線を巡らせる。

「今の僕にとっては初めましてだね」とメガネのフレームを指で押し上げ「これはあくまでも仮説の話だが、タイムトラベルをすると時間軸に2%のズレが生じるらしい」と語る。

 そしてリュウセイが続ける。「この世の中は、歴史A、歴史Bみたいに微妙に歴史が違う世界が無限に重なって出来てるんや、まぁ、ミルフィーユみたいな感じかな。大体の座標は分かってても、そのミルフィーユの層の一部分を目掛けてダーツの矢を投げたとしても100%命中する事はなかなか難しいやろ?」

 幾ら馬鹿なリュウジでも理解できるように砕けた説明をするリュウセイだが、それでもリュウジはポカンとしていた。

 博士が口を開く。

「神城君が持っていたタイムスフィアはこちらに飛んだ瞬間に砕け散る程に脆かった。いわば持ち手の震えたダーツの矢って所さ。大体の座標はあっていたが元居た世界にクリーンヒットはしなかったと言う事が今君達に起きている事情だ」

「せやけど、タイムスフィアが無かったら全員があそこで死んでたんや。それを思うと今がある事に関しては感謝せなアカン」

 その言葉を聞いてソラは少し心がホッとした。そして「肝心なのは、一体何がどれだけ違うかって事ですよね」と呟いた。

「そう」とヒール博士はズバリの意見に頷いた。

「この時代の俺は虐められっ子の変体オタク野郎だった……」とリュウジが語ると「えっ……まじ!?」とルナが眉をひそめる。

「一体、何がどうなってるのか一度調べた方が良さそうだな」

 ソラのその言葉に全員が頷く。


 少しの沈黙の後、リュウセイが一つ咳をした。

「3カ月前にもみんなと話したと思うけど、この時代の俺らには惑星コールディンに行ってもらわなアカン。そこで、やっとこさ俺らの時代が戻ってくるんや」

「いや、ちょっと待てよ」とリュウジが割り込む。「俺達の居た元の歴史はどうなるんだよ。あっちには親父や弟が俺を待ってるんだ。こんな所で一生を終えるつもりはないぜ」

 その言葉にまたも一同が黙り込んだ。

「じゃあ聞くけど、どうやって戻るんや?」

「………………それは……」

「重要なんは、今、俺らは生きてると言う事や。たとえ2%のズレがあったとしてもゲラヴィスク教との抗争が消え去ってるとは到底思えん。もしそうやったら願っても無い事やけどな。今生きてるこの歴史を守っていくしか無いやろ。もしかしたら、俺らの元いた歴史にも俺らの旅立ちを待ってた別の歴史の俺らが居ったかも知れん。そう思わなやってられへんで」

 リュウセイは、全員の目を見ながらそう言った。

「しっくりはこないけど、とにかく前に進むしかないですよね」とソラ。

「前にも言ってたけど、このタイムラグの価値を生かさないと。トレーニングだけじゃなくて、奴らに勝つヒントとかを見つけなくちゃ」

 アンリがそう言うと、リュウセイが勢いよく立ち上がった。

「もう、ここに隠れとく必要もないやろ。事態が変わってる以上、行動を起こさな勿体ない。ただし、ここの俺らの流れは壊さん事や」

「はい」

 ソラ、アンリ、リュウジ、ルナ、それぞれがその場から立ち上がった。


 その場に残されたリュウセイ。

「久しぶりの再会やろうに、もうちょっと俺を労えよアイツら」と口を尖らせるがその表情は綻んでいる。

 歩み寄るヒール博士。

「この時代の君と今朝初めって会った。初対面のフリは中々難しかったよ」

「博士との出会い方は、俺が記憶してる出会い方と合致してるからそこはクリアかな」

「でも、今君はこの時代の君に格闘戦術を叩き込んでるんだろ? それってどうなんだ?」

 するとリュウセイは頭を掻きながら苦笑した。

「記憶は無いんやけど、ゲラヴィスク教の事、フォースライドの事、スピリットの事とかいつからか知ってる。もしかしたら別の歴史の俺自身に教わった可能性が高いんやわ。今俺がやってるみたいに」



 ☆     ☆


 漆黒のバトルスーツを身に纏うリュウジ。

 学校の体育館程の広さの全面ガラス張りのトレーニングルーム。

 その中でSAGサイレント・アサシン・グローブを右手に装着し何度も遠方の人型の的を爆散させていた。

 初めて使用したのは惑星コールディンでの事だ。

 直感で目標とした場所に一気に爆発を起こす。エネルギーの弾道もなく、狙った場所で爆発を引き起こす事ができる為、気付かれずに忍びより抹殺すると言う意味から『サイレント・アサシン・グローブ』と前世より呼ばれているようだ。

 まだ使用した事があるのはリュウジだけだが、非常に的が絞りづらく邪念が入ると座標も狂う。

 武器庫の中でも人目に付かない地味な場所に保管されていた事からすると、前世達の中でもあまり使用頻度は高くなかったのだろう。

 しかし、反骨の精神の塊であるリュウジには逆にこの扱いづらい武器を使いこなしたいという衝動に駆られていたのだ。

 暴れ馬のようなこのSAGを使いこなす事が出来れば戦術の幅が広がると確信していた。


 リスト部のレンジを捻り出力を調整する。

 リュウジがレンジを調節し気付いた事は、爆発の出力に制限を掛けるのでは無くアップスケーリングに近い。

 元々のリュウジの力を増幅させる機能だ。

 当初は、直感で爆発ポイントを決める機能があるなら、直感で出力を調節できた方が便利だと思っていたが、少しでも力み過ぎると余計に出力が上がり、スピリットの力を莫大に消費してしまう。


 天井に浮遊している蛍光玉がリュウジから遠い位置へと降りると、人型へと変形した。

 右手を突出し意識を集中する。

 リュウジが力むと的が爆発と共に砕け散り、粉々になった光を放つ欠片が天井付近へと上昇、収束し再び蛍光玉へと戻る。

 その光景をガラス越しに眺めていたルナ。

 リュウジの視線とぶつかり少しはにかんだ。

 通路側のガラスの壁面にリュウジが近づくと表面に空洞が現れそこが出入り口となる。

「何見てんだ」

「龍二君、何してんのかなって思って」

 亜麻色の長い髪を弾ませ笑みを零すルナに「俺の魅力に惚れてるんだろ」と冗談をかます。

「惚れてるよ」

 一瞬にしてルナの表情が真剣になり、空気が変わった。白い頬が桜色に染まり、大きく綺麗な目が潤む。

 吸い込まれそうになるその瞳に息を呑んだリュウジ。

 その刹那、ルナの細い拳がリュウジの頬を弾いた。

「うぉあ、痛ぇ!!」

「へへーん。隙ありッ」

 ニヒヒヒと卑しい笑い声をあげなら両手でピースしはしゃぐ、ルナの着ているフォースライドで買った白いワンピース。その胸元から悪戯心溢れる舌がベロベロと動くのが見える。

「テメー犯すぞ」と叫ぶリュウジだがその顔は笑っていた。


 ☆     ☆


 都内の雑居ビルの屋上に光のサークルが降臨した。

 そして次の瞬間、アンリが現れた。

 辺りは既に煌くネオンの街へと化している。

 アンリは、屋上の角に立つとその夜景を眺め、背伸びをした。

「久しぶりだなぁ地球の景色……って言っても、時間軸が違うんだけどね」

 少し、視線を前に向けると大きな交差点に向かうファッションモールの建物が見えた。

 外壁に設置されている巨大な液晶モニターに、各スポンサー企業のCMや映画の予告、ミュージシャンの新曲のPVが流れている。

「取りあえず、非常階段から降りないと」とアンリが踵を返した時、巨大モニターから新曲のPVが流れ出した。

 だが、その歌声には聞き覚えがあった。

「ルナちゃんの歌声だ」と振り返った時、もう一人の歌声と共に現れた女の子の姿に目を疑った。

 そこに映る、可愛い衣装を身に纏い華麗なダンスを披露しながら楽しそうに歌う松之宮 杏里……自分自身がそこに映っていたのだ。

「冗談でしょ……」


 アンリはそのPVが終わっても暫く放心状態で動けなかった。





 つづく

そろそろバトルを書いていきます。

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