表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/136

第40話「流星の涙」HIKARI(光)特別編 エピソード0.5 その3

お待たせしました。


パート3を配信します。

恐らくこれで固まると思いますが、矛盾などがあれば修正するかもです。


このパートからバトルが激しさを増します。

やっぱり、まだまだ表現の限界を感じますね。

結構良いとは思うのですが、これで並み以下の評価ならちょっと残念な感じです。


次のパートも初っ端から激しいバトルが始まりますので、またお待ち下さい。

 遠くの空が白み始めた頃、漆黒の空が今も残る逆方向へと歩いている男がいた。

 見た感じは至って普通の団塊世代のサラリーマンの様だ。

 スプレーワックスで固めた七三分け、黒縁の眼鏡。

 だらしなく緩んだネクタイや皺だらけのスーツを見る限り、その男は帰宅途中である事が伺える。

 カバンを持つ手と反対の手をポケットに突っ込み、仏頂面で歩く男の前から、四人の若者が横一列で歩いて来ていた。

 それほど広くも無いアスファルトの道は、その四人で遮断された状態になり、サラリーマンの男が通ろうとするなら、誰かが道を譲らなければならない。

 だが、若者達にその様な親切心などは微塵も無かった。

 そして、それはサラリーマンの男も同じだった。

 互いに道を譲ろうともせず、結局、サラリーマンの男の肩がニット帽の若者の肩にぶつかる。

 すると、血気盛んな若者は振り返り様に舌を巻き「こらぁぁ、オッサン。どこ見て歩いとんねん?」と罵った。

 しかし、サラリーマンの男はたじろぐ事も無く、無言で歩みを止めない。

「おら、オッサン。何シカトこいてんねん?」「殺すぞ」「ナメとんちゃうぞ、コラァ」

 ニット帽の周りにいた仲間が、更に煽り出す。

 

 サラリーマンの男が歩みを止めた。


「…………でやねん」

 ボソボソと聞き取れない音量で話す男に、ニット帽の若者が詰め寄った。

「何喋ってんのか分からんねんけど。日本語ぉ?」

「何で、お前らみたいな社会のゴミが幸せに暮らしてんねん」

 眼鏡越しに睨みつける男の言葉に、ニット帽の若者の額に血管が浮き出た。

「おぉコラ。マジで殺すぞ」と、男のネクタイを掴み上げる。

「コイツ、マジで行っちゃってる系?」「面白そうやん。いくら持ってんの?」

 と他の若者が指や首を鳴らし、戦闘の準備を始め出した。


 サラリーマンの男は、目の前の四人の憤る姿を前にしても慌てる様子も脅える様子も見せない。

 その態度が若者達の剥き出しの神経を更に刺激している事は言うまでも無いのだが。


 ニット帽の若者が一旦距離を取り、助走を付けながら男の顔面へ拳を振りかぶった。

 次に聞こえたのは男の断末魔か?

 違った。

 なんと、ニット帽の男の苦痛に歪む姿と叫び声だった。

 何が起こったのか?


 他の若者達の目の前を横切る肉片。

 宙を舞う指。

 視線を男の方へ向けると、黒い霧が噴き出す掌に握られた日本刀が見えた。

 親指以外が綺麗に斬り落とされた手の平を驚愕の表情で見つめ、混乱から発作を起こすニット帽の若者。

「ひっ、ひっ、ひっ、助けぇ……ッ!?」と言った時には、僅かな疾風と共に、視界がグルグルと回っていた。


 血煙りを浴び、真っ赤に染まるサラリーマンの男が卑しい笑みを零す。

 その光景に若者達の表情から余裕が消え、瞬時に恐怖の色が滲み出た。

 そこからの光景は虐殺だった。

 若者達に逃げる隙も与えず、腕を斬り落とし、足を斬り落とす。

 腹を抉り、内蔵を引き裂いては宙にばら撒く。

 阿鼻叫喚も途切れ途切れに、次には断末魔へと変わる。

「ゴミが、ゴミが、ゴミが、ゴミがッ!! えぇッ!! 働きもせんと親のスネ齧りながら生意気な生き方しやがって。お前等みたいな奴が生きてると迷惑なんじゃ。この害虫がっ、寄生虫がっ!!」

 と、気が狂ったかの様に奇声を上げ、罵倒し続ける。


 静寂が戻った。

 目標物を失ったロボットの様に、男が茫然と立ち尽くす。

 そこへ現れたローブを纏いし男。

 ゲラヴィスク教だ。

「どうだ、新たなる力は?」

「最高です」

 と、笑みを零す。

「我らに忠誠を尽くすと誓うなら、その力はお前の物だ」

「異議はありません。ロデゥーン様」

「そうか」

 下卑た笑い声を上げるロデゥーン。

「早速だが、今晩にでも大仕事がありそうだ。頼むぞ」

「勿論です」


 会話が終わると、サラリーマンの男は刀を消し去り、歩みを始めた。

「寺村 蓮。あと、何人必要だ?」

 そう言い残すと、ロデゥーンの姿も消えていた。

 


 ☆     ☆



  木製の机がコンコンと鳴り続け、教室内に木霊していた。

 レンは、終始、険しい表情で紙に建物の平面図と矢印を書きながら、左指で机を叩いていたのだ。

 そして、時折、ナチュラルワックスで立たせた髪を掻き乱す。

 深い溜息を吐くレンを見兼ね、鮎野が声を掛けて来た。

「アンタ、またイライラしてんの?」

「あぁ」

 素っ気ない態度で答えると、再び机に向かう。


 レンは、博物館のパンフレットの平面図から、侵入経路と方法を探していたのだ。

 前日は軽い下見だった。

 警備員の数、センサーの数、そしてその範囲。

 警備員は常駐しているが、閉館すると館内は機械警備に切り替わり、従業員入口付近の警備室で一人、そして仮眠に入る者が一人と言う態勢になる。

 人目に付かない状態でとなると、やはり、閉館後の警備の手薄な時間帯を狙うしか無かった。

 だが、逆にその状況で待ち構える障害は、冷酷な機械警備である。

 パッシブセンサーと呼ばれる振動感知器が建物の窓枠に取り付けられ、熱線感知器、赤外線感知器と豪華な仕様となっている。

 勿論監視カメラは常時録画状態だろうが、顔を見せなければどうと言う事は無い。

 さすが、世界の遺産、貴重な品々を展覧する博物館だけの事はある。


 博物館の一階。

 まず玄関に入ると、広大なエントランスホールがあり、四方八方に世界観の異なる展示スペースがある。

 エントランスホール中央からは、二階へと繋がるアーチ型の階段が左右に設けられ、絵画が飾られる回廊からは一階のホールを見下ろす事ができる。

 そして回廊を進み、メインホールへと導かれるのだ。

 メインホールは、エントランスホールよりも広く、ガラスケースに収められた高価な出土品が数多く展示されている。

 下見に行ったはずのレンだったが、歴史を感じさせない程の輝きを放つ宝剣や、鎧、土偶や書物、純金で作られた法典に目を奪われる程夢中になってしまった。

 そんな魅力ある展示品の更に奥。

 主役級の展示スペースに、あの「セラスの器」が強烈な存在感を放っていた。

 細やかな彫刻が施された隙間に金銀の装飾、宝石が散りばめられ、天井より放たれるハロゲンライトの光が見事に反射し、眩い程の輝きと美しさが湛えられている。

 まさに聖杯だ。


 実は、レンは下見の最中、聖杯に向かってさり気無くエネルギーの波動を送ってみたのだが、跳ね返る圧力を十分に感じ、本物だと確信した。

 一般人が大勢いる中で大胆な行動は取れない為、今、こうして策を練っているのだ。


「…………ねぇ、聞いてんの?」

 鮎野の不機嫌そうな声が、レンを思案の世界から抜け出させた。

「あぁ?」

「あぁ? じゃないよ。昨日も休んだでしょ」

「仕方ねぇだろ」

「仕方無いって、何やってんのさ?」

 レンは、会話の勢いでタブーを話しかけたが、咄嗟にブレーキがかかり、そのまま飲み込んだ。

 その様子に、何か言えない事が有るのか? と訝しげな表情を見せる鮎野。

「お前には関係ないだろ。苦しんでんのは俺だしよ」


 すると、博物館のパンフレットの上に、一冊のノートが投げ捨てられた。

 そして、急に落ち着かない様子で鮎野が説明した。

「アンタ、来週が期末試験て知ってた? 出題範囲……私なりに纏めておいたから」

 鮎野に言われるまで、レンは期末試験の存在さえも忘れていた。

 残り出席日数の計算云々の話では無かったのだ。

 しかし、何故、鮎野はそこまでして協力的なのか?

「あ、ありがとう。てか、どうして?」と、その意図を探ると、鮎野は更に困惑した表情を見せた。

「どうしてって……」

 鮎野は教室にいる他の生徒達を見ながら「進級できなかったら困るでしょ

」とだけ言った。

 本当は別の事を言いたかったのだろうが、周りに聞かれたくない事なのかもしれない。

 鮎野の妙な緊張感がレンにも伝わった。

「わ、わかったよ。参考にさせてもらうよ」


「ところでさぁ」

 レンは、唐突にある事を訊ねてみようと思った。

 自分一人の考えではもう整理が出来ないからだ。

「例えばの話だぜ」と、冒頭に抑える。

「ある宝物が厳重な警備網の中にあって、それを破壊しないと行けないとするだろ? 振動センサーや、熱、赤外線感知器があって、お前ならどう攻略する?」

「はぁ?」

 やはり、質問をした相手が間違っていた事に後悔した。

 ただの女子高生に答えが出せる訳がない。

 しかし、鮎野はあっさりと答えを口にした。

「破壊する事が目的なんでしょ? だったら、そんな警備網なんて関係ないよ。入って壊して出て来れば良いだけの話しじゃん。最近、ニュースにもなってるけどさ、サコムとかの警備会社も、警報が鳴った瞬間に現場に来れるならまだしも、結局事後なんだから」

 その説得力ある言葉にレンは思わず納得してしまった。


 破壊する事が目的なら、警報に引っかかっても強引にセラスの器を破壊し、脱出すれば良いだけの話だ。

 変に警備網をややこしく考えていた事が愚かだと思えた。

「そっか。そうだよな。サンキュー鮎野」

 と満面の笑みで鮎野の手を握ったレン。

「なんか解んないけど、良かったね」と頬を紅潮させた鮎野が微笑み返した。



 ☆     ☆



 今夜は、雲に覆われた夜空が広がっている。

 重苦しい空だと思いながらレンは、博物館の門を飛び越えた。

 数多の花が植えられた庭を進み、玄関の扉の鍵をピッキングツールで開け、その中の自動ドアの鍵も開けた。

 誘導灯が発する緑色の光以外に光源が無いエントランスホールを見渡す。

 ………………誰も居ない。

 そして、赤外線などの警報装置は相変わらず完璧な仕事を遂行している。

「行くか」

 大きく息を吸い込んだレンは、目を瞑り、背を伸ばした。

 息を吐きながら目を開き、そして、一気に駆け込んだ。



 ☆     ☆



 警備室内に、一斉に鳴り響く警戒音。

 中年の警備員が緊急事態に慌てて席を立つと、監視盤で何が発報しているのか確認する。

 熱感知器と赤外線感知器が、警報を発しており、その感知ポイント数がどんどんと増えてゆく。

 慌てて後方の監視モニターを確認すると、エントランスホールを疾走する者が確認できた。

「おい、緊急事態や!!」

 と、仮眠中の警備員を起こすと、一人が全速力で現場に向かった。

 仮眠から起きた警備員は、万が一の時の為に、警備室から関係部署に連絡を行ったりしなければならないからだ。

 そして、これだけの規模の建物だと、警報が発報した段階で警察も出動する仕組みになっている。

 その引継ぎの為にも、同時に現場に向かう事は出来ないのだ。



 ☆     ☆



 レンは、エントランスホールの中央から大きく跳躍し、二階の回廊の手摺に着地した。

 メインホールに入り、ガラスケースの間を縫う様にしてセラスの器を目指す。

 すると、セラスの器の前に目に入ったのは……ゲラヴィスク教だった。

 歩みを止めるレン。

「待っていたよ。寺村 蓮」

 その言葉には聞き覚えがあった。

「ジークス……?」

「そうだ」

 レンの表情に怒りが満ちる。

「覚悟しろ。今此処で……八つ裂きにしてやる」

 因縁の相手に憎しみが篭った言葉を発したが、ジークスはあざ笑った。

「良いぞ、その怒りを腹に溜めろ。もっと憎しめば良い」

「あぁ。今すぐ殺してやりたい」

「だが、世の中そうもイカンのが常だ」

 ジークスがそう言ったとき、レンの周りのガラスケース越しにローブの者達が立っている事に気付いた。

 ざっと二十人はいるだろう。

「よくもこんなに揃えたな。下僕を」

 皮肉を言うレンだが、余りの数に若干の動揺を見せる。

 だが、ここで逃げる訳にも行かない。

 自らを囲む敵よりも更なる標的に到達しなければならないのだから。

「命に値する任務かよ。どけぇッ!!」


 一斉に飛び掛るローブの者達。

 レンは、側近の者を蹴り飛ばすと、後方の敵にバックスピンパンチを放った。

 向かい来る無数の拳を受け流しながら、ハイキック、スピンエルボー、アッパー、サイドへの肘打ち。

 そこへ、刀を振るうゲラヴィスク教。

 レンは、ブレスレットからエネルギーソードを召喚すると、一気に刀身を出現させた。

 そして、刀と鍔迫り合いに持ち込もうとするや、一瞬にしてフレアの状態に戻す。

 刀を持っていた者は、対峙する衝撃を予測していただけに、消えた刀身をすり抜け、空振りした。

 エネルギーソードのグリップを握り締めたまま、レンのパンチが刀の男に突き刺さる。右頬、左頬をグリップで弾く。

 下突きで、体をくの字に曲げるや、男の後頭部を手で押さえた。

 次の瞬間、下顎に押し込んだグリップからエネルギーの刀身が噴出し、脳天を貫いた。

 断末魔と共に、悲しき仮面の隙間から青い光が噴出す。


 一人目。


 あっさりと倒された仲間の姿を目の当たりにしても、今回の下僕達は怯む事は無かった。

 次は何処から攻撃が来るのか?

 レンの視線が忙しなく動く。


「くたばれぇッ!!」

 後方から斧を真っ直ぐに振りかぶるゲラヴィスク教。

 瞬時にレンの姿が五人に増えた。

 その内の一人を斧が切り裂いたが感触が無い。

「ホログラフか!?」

「当り!!」

 斧を持つ男が、不思議な現象のカラクリに気付いた時には、首が宙を舞っていた。


 二人目。


 今度は、格闘技を習っていたのか?

 動きにキレがあるゲラヴィスク教が鋭いパンチを放ってきた。

 体勢をずらし、顔の際で避けたレンの反撃のパンチが避けられる。

「おら、大した事ねぇじゃねぇかよ」

 と、仮面越しに笑みを零す男。

「どうかな?」

 レンの手の平から放たれた波動に吹き飛ばされ、後方の四人が巻き添えを食らう。

 ブレスレットからレーザーアローを召喚した。

 機械仕掛けのアーチの先端から高密度の赤外線レーザーが照射され赤い光の弦が完成する。

 十本の赤いエネルギーの矢を出現させ、吹き飛ばした男目掛けて解き放った。

 五人のゲラヴィスク教の体に突き刺さった赤い矢が、スピンをしながら体を抉り体内で爆発した。


 七人目。


 まだ勢いが止まらない。

 二刀流の攻撃をかわしながら、槍をかわす。

 レーザーアローの高密度光線の弦を利用し、刀を切り裂き、相手の体を横真っ二つにした。

 ジュッと言う音と共に、ステーキが焼けたような匂いが立ち上った。

 そのままレーザーアローを持つ手を回転させ、槍を切り裂く。

 前蹴りで男の顎を粉砕し、反対の手に召喚したエネルギーソードが、股から頭頂部に向けてを一刀両断した。


 九人目。


 下僕の中でも、特に狂乱している者がいた。

 手の平から黒い煙と共に、マシンガンを出現させ引金を引く。

 連射される弾丸がガラスケースを撃ち砕き、展示品を破壊する。

 そのまま弾道をレンに向け、自分も追いかける。

 空中に飛散するガラスの破片と貴重な宝の残骸。

「ゴミが、ゴミがぁ!! 社会も知らんガキが、調子乗ってんちゃうぞぉッ」

 レンは、弾道から逃れながら、セラスの器の位置を確認した。

 案の定ジークスの姿が無い。

 良く見ると、レンの後方……回廊の中央に浮遊し、状況を眺めている。


 レンは、セラスの器の前に立ち止まると、前方のジークス目掛け、強力なエネルギーを放とうと、意識を集中し始めた。

 セラスの器が後ろにあれば、破壊を望まない彼らの攻撃が止むだろう。

 だが、マシンガンの軌道は止まらない。

「おい、何考えてんだよ」

 その場から飛び退いたレンの下で、セラスの器がマシンガンにより粉々に砕け散った。

「壊しやがった!?」

 レンに聖杯を破壊させない為に、阻止しようとしてるはず。

 何故?

 そう思い、顔を上げた時、ジークスの放ったエネルギーの塊が頬を掠めた。

「うわっ!?」

 爆発音と衝撃がレンの背に降り注ぐ。

 屋根と壁の一部が無くなり、吹き飛ばされたレンが、ホールの中央に落下した。

 間髪を入れず、無数の弾丸が襲う。

「この野郎ッ!!」

 レンの掌から放たれた光の塊が、マシンガンの弾道を押し返しながら、弾丸を粉砕してゆく。

 そして、ゲラヴィスク教の腕をマシンガンごと吹き飛ばした。

「がぁぁぁあッ」

 レンは立ち上がりながらレーザーアローを放った。


 十人目。



 ☆     ☆


 バック通路からエントランスホールにやってきた警備員。

 回廊の先で人が暴れていると思い、階段を上る。

 無線機を取り出し、警備室へモニターの様子を伺うも返答が無い。

 何故なら、警備室には生きた警備員が居なかったからだ。

 腹が内部から爆発したような無残な姿となって横たわっている。

 その側で、死体を見下ろすゲラヴィスク教が居た。


 堪えようの無い、恐怖が警備員を襲う。

 何が起きているのか?

 展示品を狙った強引な強盗団か?

 その時、回廊の中央に浮いている人影が目に入った。


 そこで、警備員の意識は途絶えた。



 ☆     ☆



 向けられた拳を屈伸でかわす。

 その腕を掴み、アッパーでへし折る。

「あぁぁっ!!」

 悲痛な叫びを上げるローブの男の腹へ一瞬にして八発のパンチの連打を放つ。一発一発に骨が折れる感覚が伝わった。

 そして、後頭部を掴みながら飛び膝蹴りを顔面に沈める。

 相当な陥没から息を吹き返す事は無いだろう。


 十一人目


「ハッ!!」

 気合と共に二本の剣を振り回して来たのは、声からして女だ。

「俺は、女だからって手加減はしないぜ。殺されたくなかったら帰えんな」

 額を掠める刀。

 真っ直ぐ振り下ろされた刀を、体勢を縦にしかわす。

 廻し蹴りで刀をへし折り、エネルギーソードを下から突き上げた。

 ローブの女が反り身でエネルギーソードの軌道から逃れたが、仮面が真っ二つに割れてしまった。

 その顔を見て、レンの表情が凍りついた。

 二人の驚愕の目線が繋がる。

「み、美香さん……!?」

 何と、目の前でゲラヴィスク教の一味としてレンを倒そうとしていた相手が、天野 流星の恋人でもあるミカだったのだ。

 全く状況が掴めず、思考回路が一時停止したレン。

「どうして……?」

「りゅーちゃんには黙ってて」

 そう言うと、先に我に帰ったミカの廻し蹴りがレンの額を吹き飛ばした。

 リノリウムの床を二回転したレンは、ようやく我に返った。

「どう言う事だよ!?」

 怒声混じりにミカに問いただした時、回廊に追加のゲラヴィスク教が十人やってきた。

 一斉にレンに飛び掛るゲラヴィスク教に、キリが無いと悟ったレン。

 腰を下ろし、両手を左右に広げた。

「ハァッ!!」

 気合と共に、全身から爆風が発生し、全てのゲラヴィスク教の下僕を四方八方に吹き飛ばした。

 その大多数が博物館の外壁を突き破り、その他の残りは意識を失った。

 ミカの事も気になったが、状況が状況だけに、どうする事も出来なかった。

 今は、生き残る事が最優先である。


 レンは、できる限りこの技は使いたく無かった。

 何故なら、数多くの貴重な展示品まで巻き添えを食らってしまうからだ。

 だが、何時までも相手にしている余裕は無い。

 ジークスに勝負を挑むなら、今しかないのだ。


「覚悟しろッ!!」

 一気にダッシュしたレン。

 硬く握り締めた拳にエネルギーが蓄積してゆく。

 全身から噴出す白銀のオーラと共に、更に加速した。


 回廊の中央で笑みを湛え続けるジークス。

 まるで待っているかのようだ。


 レンの拳から光の輪が放たれた。

 拳のエネルギーが飽和した合図だ。と同時にバースト状態に突入し、全身がロケットの如く加速する。


 激突する瞬間、突き出したジークスの拳が、レンの拳と衝突した。


 閃光。


 ほどばしるスパーク。


 エントランスホールの窓ガラスが衝撃で一斉に粉砕した。

 レンの推進力の勢いも衰える事なく、だが、ジークスも1ミリも下っていない。

 両者のやり場の無いパワーとプレッシャーが暴れる稲妻となり、拳の合間から荒れ狂う。

 回廊の手摺を蒸発させ、壁を抉る。

 天井がバリバリと音を立てながらコンクリートの破片を吐き出し、アーチ型の階段を吹き飛ばした。

 歯を食いしばるレンの目の前で、涼しげな表情を保っているジークスだったが、「まだまだっ」とレンが更にパワーを高めると、ようやく真顔になった。

 次第に、腕が振るえ口が開き始める。

 余裕から焦りに変わるジークスの様を確認し、躍起になったレンがパワーの限界へ挑戦した。

 喉から響くような咆哮を上げながら、凄まじい白銀の光が噴出す。


 ここで勝負を決める。

 レンの力を見くびり油断した傲慢さが仇となるのだと、思い知らしめてやりたかった。


「行けるッ!!」

 そう確信した瞬間、レンの脳が揺れた。

 激しい衝撃と共に、視界が縦に割れる。

 一瞬にして消え去ったレンのオーラ。

 そして、エントランスホールの赤い絨毯を抉り、陥没したコンクリートの底に叩きつけられた。


「ここは、俺に任せて貰えるか? ジークス」

 そこに現れたのはロデゥーンだ。

「ロデゥーン。何の真似だ?」

 訝しげに問いかけるジークスにロデゥーンは鼻で笑った。

「今宵の作戦は、元々俺の案だ。どうしようが勝手だろ? それに、俺もアイツと戦いたくてウズウズしてるんだよ」

 ジークスは、不満げな表情でロデゥーンを睨んだが、一息つくと、渋々了承し、姿を消した。



 ☆     ☆



 圧し掛かる重いコンクリートを押しのけ、レンがゆっくりと立ち上がる。

 何が起こったのか?

 視線を巡らせると、上空からローブを纏う者が降りてきた。

「ロデゥーンか?」

 直感でレンはわかった。

「そうだ」

「邪魔すんなよ」と言いながら、グレーのパーカーに付いた土埃を払う。

「言っただろ? 今度会った時が貴様の命日だと」

「くだらねぇなぁ」

「一つ教えてやろう」

 そう言いながら、ロデゥーンは人差し指を突き上げた。

「セラスの器……。あれは偽物だ」

「はぁ?」

「お前を誘き寄せる為の――餌だ」

「餌だと?」

「考えても見ろ? 本当にあの盃が『セラスの器』だったら、我々が無防備に展示させておくか? 早急にセラス様に謙譲し、一つになって貰わねばならん。そして、その瞬間、お前など一瞬にして消し去られてしまうがなぁ」

 騙されていたと知り、動揺の色を見せるレンの姿に、仮面の奥で細い目が弧を描いた。

「どうでも良いけど、どうせ脱ぐなら早めに頼むな」

「そのつもりだ。間も無く、赤いライトを携えた無能な公務員が神輿みこしを担いで遊びに来るからなぁ」

 そう言いながら、ロデゥーンは、仮面とローブを脱ぎ捨てた。


 爬虫類のような人相。

 その顔に似合わない程に整えられた髪。リクルートカットとでも呼ぶべきか。とにかく整った短髪だ。

 そして、引き締まる所は引き締まり、盛り上がる所には盛り上がる、無駄の無い筋肉。

 やはり、使いッ走りの下僕達とは比べ物にならない程の威圧感と存在感がある。


「皮肉が上手いな。笑いそうになったよ」

 とレンが、腰を屈め、ガードを固める。

「お前にとっての人生最後の笑いだ」

 ロデゥーンが全身に力を溜め込んだ。




 つづく


ちなみに、現在、人生最大の腰痛です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ