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第39話 「タイムラグの価値」その3

「ところでさぁ。まず何するよ?」

 浮遊するクリスタル製の椅子に腰を深く預けたリュウジは、両手を頭の後ろで組みながら皆に訊ねてみた。

 ただ漠然と歴史を変えると言ってたのか、具体的なプランが頭の中で整理されていない事に一同が気づき出す。

 それぞれが目を小刻みに上方向で動かす中、先に口を開いたのはリュウセイだった。

「あのさぁ、提案やねんけど。やっぱり、変えて良いモノと変えたらアカンモノがあるんとちゃうか?」

「変えたらダメなモノ?」

 と、アンリが繰り返す。

「やっぱり、この時代の俺らには強くなってコールディンに出発してもらわんと、アカン気がしてな。もし、全てを俺らが処理してもうたら、この時代の俺らは、何もわからんと生活してるんかも。そうなって、もしゲラヴィスク教に襲われてもただ殺されるだけやと思うねん。せめてもの流れって言うか、同じ世界に同じ人間が二人居るのも変やし……」

「確かに、今の俺達が全てを変える力があるとしても、マナーがあるはずだ」

 ソラが言った。

 ルナが着いて行けなさそうな表情でそれぞれの顔を眺める。

「自分勝手な考えかも知れんけど、この時代の俺らが今の俺らと、ある程度は同じ道筋を歩んでくれんと、俺らの存在の定位置が定まらん」

 リュウセイの言葉にリュウジが反応した。

「だったらどうするんすか?」

 一同の視線がリュウセイに注がれる中、一息ついたリュウセイが語り始める。

「知る事は罪じゃないやろ。このタイムラグに隠された真実があるんやったら、それを調べるのも一つの方法。やけど、この時代の俺らの動きには干渉は控えるべきやと思う。俺らの存在を気付かれるのもNGやな」

「ですね」

 とソラとアンリが応える。


 一通り話しが纏まったのを確認し、ルナが次の議題を持ち出した。

「あの、私達、家に帰れないって事ですよね? もしかしてココに住むんですか? 半年近くも……」

 ソラ、アンリ、リュウジは、フォースライドで住み込む事も覚悟していたが、リュウセイの口から別の案が出ることを期待し、表情を伺った。

 すると、既にこの議題が挙がる事を予想していたのか? それぞれに一枚のカードを手渡した。

 淡いグリーンの半透明なクレジットカードの様な物体。

 目を細めると、薄いカードの中を小さな光のネットワークが行き来してるようにも見えた。

「それは、特別パスカードや」

「特別パスカード?」

「さっきから一々繰り返すなよ」

 とリュウセイはソラに注意した。そして、説明を続けた。

「以前に、このフォースライドには居住エリアがあるって言ってたやろ? これから案内するから、そこで暮らすとエエ。そのカードは残高無限やから、どこのホテルに泊まろうと、何を食おうが遊ぼうが自由や。やけど、常識の範囲で頼むで」

 そう言うと、リュウセイは自慢げに笑みを浮かべた。

「お前等、さっきまで死にそうな経験して、その前はコールディンで大戦争やってんやから、ちょっと休め。上手いモン食って、寝て、遊んで、糞して、歯磨いて、笑え」

「何か、余計な言葉が混ざってませんでした?」

 真剣な表情で訊ねたソラに、少し困った表情を見せたリュウセイ。

 そのやり取りにアンリ達は笑い声を上げた。



 ☆     ☆



 フォースライドのメイン通路、何時もは通らない通路を進み、透明のエレベーターを乗り継いだ。

 すると、今までは、どこか殺風景で冷たい雰囲気だったフォースライドの通路に華やかさが目立ってきた。

 きっと、研究室ばかりのエリア故、そう言った美的や歓楽といった要素は削除されていたのだろう。

 赤い絨毯、白と黒のタイルが市松模様に広がる。通路の両脇には大きな壷や花が生けられている。

 そして、正面の重く大きな鋼鉄の扉がゆっくりと上下に開いた。


 鋭い閃光に一同が目を塞ぐ。

 だが、直ぐにその光は暖かな太陽の光だと感じた。

 ルナとアンリは、目を覆っていた手を下ろすと、眼前に広がる美しい景色に息を呑んだ。

 見た事の無い程、美しいビルや建物が立ち並ぶ。

 どこか近未来的なその世界。

 巨大なビルを取り囲む金色のサークル。良く見ると、そのサークルの中を人が歩いている。

 一番高く細長いタワーの様な建造物は、頂上部から水が噴射され、アクアヴェールが発生し、その建物を優しく包み込んでいる。

 芸術がメインなのか? 実用性がメインなのかは解らないが、そんな美しく、幻想的、しかし、科学的な要素を併せ持つ大都市が広がっているのだ。

 そして、そんな建物の向こう側には山に繋がる大自然と広大な海が見える。

 ソラ達にとって、フォースライドの印象がガラリと変わった瞬間だった。



 ☆     ☆



 とにかく、街まで下りた一同。

 日本の繁華街に似て非なるその世界に、興奮と戸惑いが交錯する。

 まず、アンリが気付いた美しさの理由の一つは、この街にはアスファルトの道が無い事だ。

 クリーム色や茶褐色のタイル調のプレート、そして所々にメカ的な光を放つプレートが敷き詰められている。

 道路の両脇には、美しい花壇と木々や花が色鮮やかに見え、更にその周りを水のリボンが覆っていた。

 ソラは、見た事無いそのリボンに近づき、指を突き刺してみた。

「おぉ、冷てぇ。やっぱり水だ」

「水のリボンが宙を浮いてるぞ」

 リュウジがそう言った時、リボンの内側から水の塊が飛び出し、花壇の花々に掛かった。

「美しさと機能性が両立してるんやろ。俺らの日本も最終的にはこう言うのを目指したら良くなるんやろうけどな」

 リュウセイがそう説明する。


 街を歩く人々も、見たことの無い装飾を身に纏っている。

 目の前からこちらに向かって歩いてくる三人の若い女の子。

 ボディーラインを際立たせる程のタイトなシャツのメーカーロゴが生き生きと動き、広告プロモーション動画などが小さな背中に写っている。

 時折、色が変わる服に、一同の視線が奪われる。

 リュウジは、そんな彼女達の豊満な胸に鼻の下を伸ばしていた。

「ちょっと」

 と何故か不機嫌なルナがリュウジの耳を引っ張った。

「いてて」


 リュウセイは、豪華絢爛な洋風のホテルへと皆を案内すると、腕時計を確認した。

「すまん、俺、ちょっと用事があるから、フォースライドに帰るわ」

「えっ!?」

 とアンリが声を上げる。

「このホテルがお薦めやけど、お前ら好きにしたらエエわ。ほんじゃ」

 そう言い残し、足早に去っていくリュウセイ。


 残された四人は互いに顔を見合わせ、目の前のホテルの門を潜った。





 ~次回 第40話「流星の涙」HIKARI(光)特別編 エピソード0.5


 以前公開したエピソード0の完結編でもあり、HIKARI本編の記念すべき40話に当たる物語。


 たった一人のHIKARIの戦士。

 ファーストスピリットの寺村てらむら れんと、リュウセイの物語です。


 師であるスーの遺言「セラスの器」を破壊する為、大阪にやってきたレン。

 そこで出会うリュウセイとの絆。


 HIKARI第1話以前に起こった大きな戦いを描いてます。

 僕が今まで書いたHIKARI至上、最高のドラマと迫力かつスピーディーなバトルが見所です。

 現在の全精力を注いで執筆しています。


 乞うご期待下さい。


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