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第39話 「タイムラグの価値」その2

「半年前って俺達、何してたっけ?」と両腕を胸の前で組み思い出そうとするソラの横でアンリが、「高二になったくらい? 間違いなく普通に学校に通ってた次期ね」と口にする。

「私は、調度、街で芸能事務所にスカウトされたくらいかな」

 とルナが、細く白い指を顎に付けながら呟いた。

 その時、アンリが弾かれるように声を上げた。

「そうだっ。もしかしたら……変えれるんじゃ?」

「何をやねん?」

「歴史を」

 希望と期待感に目を輝かせるアンリに一同の視線が集中した。

「今なら、ゲラヴィスク教より先手を打てる。ガジャルを見つけ出して今度こそ復活できなく出来るかも。それに、ママや……神城君のお父さんも助けられるかもって」

 その言葉に、ソラも大きく反応した。

「そうだよ。『ピンチをチャンスに』ってこの事だよ」

 会議室の沸き立つ空気を、リュウセイの冷たい言葉が断ち切った。

「アホか。止めとけ」

「何で?」

 と、リュウセイの否定する意味を問うリュウジ。

「お前ら、パランドックスって聞いた事あるやろ。変に歴史を変えてみろ。今の俺らの身に深刻な事が起こるかも知れんし、第一、この世のバランスが大爆発を起こす事になりかねんぞ」

 リュウセイの頼れる存在と言う物を差し引いても、説得力のある言葉にルナが頷く。

「確かに」

 頷くリュウジの顔を見ながら、リュウセイは仮説を唱え始めた。

「仮に、松之宮の母親が助かったとしようや、松之宮は、何をきっかけに強い心を身に付けるんや? それぞれが、今に繋がるにはその過程でどうしても必要な事象があるんや。それを取り除けば、今が存在しやんくなるやろ」

 高揚した気持ちが一気に沈んだアンリは、断腸の思いでリュウセイの仮説に賛同した。

 ソラを除いて。


「俺は違うと思う」

 今度はソラに視線が集まる。

「歴史は変えても良いんだ。俺達の身に何も起こらないし、物事を有利に進められる。確かに寺村さんの言うパランドックスも有名な話だけど、あくまで仮説だ。時間軸は常に今の延長上なんだよ」

「なんか、実体験したような言い振りやな」

 リュウセイの疑惑の目が向けられる。

「いや、俺は、そうだと思うんです」

 実際、ソラは実体験をしている。

 目の前にいる仲間の死の歴史を塗り替え、実際に、今こうして同じ時間を共有しているのだから。

 仲間の死が無ければ、ソラは、仲間を助ける事には成らなかったはずだ。

 現に、仲間を死の運命から救っても、自分も自分として存在しているのだ。

 これは、仮説ではなく、実証なのだ。

 しかし、今のソラには面と向かって「死」の歴史を語るだけの勇気がない。


 そんな事を思案し、記憶の旅に巡っていたソラの意識をリュウジの怒声が連れ戻した。

「テメェ、何か隠してるだろ!?」

 胸倉を掴み上げ特殊ガラスの壁面に叩き付けた。

「だから、何も無いって」

 と苦し紛れに否定するソラ。

「嘘が見え見えなんだよクソが。これから一丸となって奴等と戦うって前に仲間内でシコリ作ってどうすんだ。あぁ?」

 真剣なリュウジの訴えにリュウセイも賛同した。

「神城。隠してる事があるんやったら早いウチに言うんや。わだかまりや隠し事は、後で大きな癌になって、全てを食い尽くしてまう。小さなウチに処理せぇ」

「やっぱり、あの星で、居なくなった時に何かあったんでしょ?」

 全員が聞きたかったその理由。

 硬く口を閉ざす惑星コールディンでのソラの体験。


 ソラは、精神的にも逃げ場を失った。

 苦渋の表情を浮かべながら、ソラは搾り出すように、これまでの出来事を語り始めた。

「俺は、あの宇宙船で逸れた後、皆が到着したコールディンの未来に飛ばされたんだ」


 まずは、平安京の事、安倍清明の事、そしてアンリの生まれ変わりであるユキの事。織田信長、蘆屋道満、自分の体から抜け出したシオン。

 そして、禁断の地で知った事実。

 タイムスフィアの事、過去に戻り、皆と再会できた事。


 これ程長く身の上話をした事は、無かった。

 ソラの告白に、一同の表情が神妙に包まれる。

 やはり、ソラが懸念した通り、自分達が死んでいたと言う事実が重く圧し掛かっていた。

「嘘やろって、言いたい所やけど、こんな状況で嘘付けるような奴じゃないのは皆知ってる」

 リュウセイの言葉に一同がゆっくりと頷いた。


 しかし、リュウジだけは終始笑顔でソラの肩を叩いた。

「なんだ、それだけの事か。大した事ねぇじゃねぇか。何を血迷ってたんだよ」

「へ?」

「くだらねぇ事でシケてんじゃねぇ、クソが。終わった事だろ? 大切なのは今じゃないのか? なぁ、寺村さん。これで神城の説の方が正しいって訳なら、今の俺達はこのタイムラグの価値を如何に高めれるかを考え、行動するのがベストだろ」

 異様に明るく、的確な意見を述べるリュウジに、半ば圧倒されたリュウセイ。

 きっと、リュウジは、ソラの事を気にして無理に明るく振舞ったのだろう。

「そ、そうやな。せやけど、お前、そのキャラ似合わんで。くだらん」

「は?」

「確かに」

 ルナは、クスリと笑った。

「そろそろタバコが切れたんじゃない?」

 とアンリもイタズラ顔で皮肉って見せた。

「ったくよぉ。通りでヤンキーモードにスイッチが入らねぇと思ったぜ」

 リュウジの優しい一面を感じた一同は、その思いを受け継ぎ、ソラの為にも明るく、楽しそうに振舞った。



 そんな彼等の思いやりに次第に顔が綻んだソラ。

 だが、更に心の奥底に眠る『真の悩み』は語る事が出来なかった。






 つづく


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