第38話 「光の神獣」その5 完結編
バルシェログの森を抜けると、宇宙船が現れた。
ソラは初めて来たが、別の時代で来たので見覚えがあった。
そこには、信じたくない事実が石像と共に残されていたが、これからは永遠に存在しなくなる。
巨大な円盤から伸びる四本の足の下に立った一同は、アウル達の方へと振り返った。
「これでお別れやな」
最後の別れを惜しみながらリュウセイは笑顔を作った。
「世話になったな。言葉に出来ない程の感謝を湛えたい」
アウルは、感謝の気持ちを込めてリュウセイと握手をした。
そしてリュウジ、ルナ、アンリ、ソラへと続けた。
「ソラ」
白い狩衣を纏う清明がソラの名を読んだ。
そして、オレンジ色のスフィアを手渡した。
「これは……」
「あと一回は使えるだろう」
「駄目だ、これが無いと、清明さんと博雅さんは、元の時代に帰れないじゃないですか?」
そう言って、タイムスフィアを返そうとしたが、今度は博雅が制止した。
「違うのだ、ソラ。清明とも話をした結果、この世で生きて行こうと決めたのだ」
「何で?」
その問いに、清明が答える。
「お前も分かるであろう。もはや、この時代の延長上に俺達の知っている時代は存在しない。今ここから始まっておるのだ」
「きっと良き未来を作ってみせよう」
そう博雅は笑顔で断言した。
「賢く使うのだぞ」
その言葉に、ソラはゆっくりと力強く頷いた。
そして、今度はソラが、清明に言葉を投げかけた。
「清明さん」
「何だ?」
「見つけたよ。綺麗な色をさ」
そう言って、リュウセイや、リュウジ、アンリやルナに目線を向けた。
「勿論、清明さんも、博雅さんも。前は分からなかったけど、こんな近くにあったんだ。だからきっと良い絵、描いてみせるよ」
「楽しみにしておる」
「そうだ、俺も、お前に渡す物があったんだ」
そう言って、アウルは、スフェニスソードをリュウセイに手渡した。
「良いのか?」
「あぁ、二本あるからな。一本くらい、どうって事ない」
「そっか、じゃあ遠慮なく貰っとくわ」
すると、今度はガイが一歩前に出た。
「俺は、コイツらみたいに大した物を渡せ無いけど、今度、市場で発売する事にしたガイ印のミルクパンを「遠慮しとくわ」」
と、リュウセイは、すかさず拒否した。
「おい、そんなのありかよ」
「冗談やって、有り難く頂戴しとくわ」
「もぉ」
二人の掛け合いに、その場から笑い声が上がった。
「おい、童貞」
今度は、リュウジがパルに声を掛けた。
「ど、童貞って何だよ?」
すると、リュウジは卑しい笑みを浮かべながら耳打ちした。
途端に顔が紅潮したパル。
「ぶぁ、ぶぁか者ぅ」
「ははは、だけど、まだ思い伝えてないんだろ? 今のお前なら大丈夫さ。頑張れ12歳の思春期君」
「うん」
最後に、アウルがルナに、ロイドの子供の出産を手助けした感謝が伝えられた。
この世界で何も役に立てなかったと思っていたルナだったが、感謝の言葉を述べられて感極まった。
そして、ガイからも、アンリに、エクスフェリオンでの死闘に感謝の意を述べられた。
最後の別れを告げた一同が、降下したリフトから中に乗り込んだ。
メインドライブルームに到着し、それぞれのリクライニングチェアーに腰を沈め安全ベルトを装着した。
「なんか、長いようで、短かったよね」
アンリの言葉に、一同は頷いた。
ソラを除いて。
「俺は、長かったな」
宇宙船の円盤の縁に光の流動体が回転を始めた。
メインドライブルームの巨大モニターに地上で宇宙船を見上げるアウル達の姿が見えた。
「じゃあな、バイバイ」
リュウセイはそう言い残し、手動の起動ボタンを押しこんだ。
光輝く宇宙船は、一瞬の閃光を残し姿を消した。
宇宙に飛び立った宇宙船。
「直ぐに、ブラックホールに突入や」
「マジすか!? もうあんな経験は二度とゴメンっすよ」
ソラが情けなく呟いた。
「冗談やって、こっちのコールディンの座標をセットしたから、スフィアの転送で一気にフォースライドの近くまで戻れるから」
「良かったぁ」
宇宙船の船体からスフィアが射出された。
そして、光の魔法陣が展開される。
その中心に宇宙船が突入すると、激しい震動と共に、光が包み込んだ。
やっと帰れる。
一同がそう思った矢先、またもアクシデントが発生した。
スフィアゲートを突破した途端、暗黒の渦の中を宇宙船が旋回していた。
激しく揺さぶられる宇宙船の中を即座に緊急エラーのアナウンスが流れる。
「おいおいおい、どうなってんだ!?」
とリュウジが叫ぶ。
「わからん、何やねん、今度は?」
「地球の近くに来たんでしょ?」
アンリの言葉に、座標を確認したリュウセイは間違いないと叫んだ。
大きな塊が宇宙船を幾度となく打ち付け、変形してゆく。
「ヤバいんじゃないすか?」
ソラが慌てて、安全ベルトを外した。
「アホ、安全ベルト外すなや!!」
赤色灯で真っ赤に染まったメインドライブルームが逆さまになる。
天井に背中を打ちつけたソラは、今度は、操作盤に頭を打ち付けた。
すると、巨大モニターが宇宙船の外の様子を映し出した。
その光景に一同は絶句した。
「ち、地球が、粉々……」
モニター越しに映るスカイツリーの残骸が宇宙船の船体を擦った。
慌てて、リュウセイが、日時のモニターを確認した。
「俺らが、旅立って半年経ってる……」
「え、何で半年も?」
「やっぱり、向こうの宇宙とじゃ時間の流れが違うんか!?」
凄まじいスピードで損傷レベルが上がってゆく宇宙船。
数分も持たない事は全員が悟っていた。
モニターに映る大きな漆黒の影にアンリが気付いた。
「ねぇ、アレ……何?」
遠くに見える漆黒の巨大な影。
一二枚の翼を持っている事は分かるが、それは、人でもなく、例えようの無いモノだった。
真っ赤にそまる二つの眼が見える事からそれが生きている事が伺える。
その光景に、リュウセイは、ある可能性を導き出した。
恐ろしい最悪の結末だ。
「まさか……ガジャル!?」
一同は驚愕した。
「これが……ガジャル……」
次の瞬間、ガジャルの開いた口から凄まじい衝撃波が発生した。
一気に船体が凹み、モニターがブラックアウトした。
目の前で、天井のボルトが外れ、明らかに船内の空気が外に漏れ出している。
「もう、持たないッ!!」
ソラは、咄嗟に清明から貰ったタイムスフィアを展開した。
「いきなり使っちまうのかよッ」
そう言うと、全員に向かって叫んだ。
「フォースライドを思い浮かべて飛び込め!! そして逸れないように、手を繋ぐんだ!!」
ソラの言葉に、一同が必要な荷物を手にし、ソラに掴まった。
そして、巨大モニターが宇宙に飛ばされ船内が崩壊していくのと同時に、タイムゲートと共にソラ達は姿を消した。
~次回 第39話「タイムラグの価値」~
衝撃のラストを迎えた第3章。
物語は、更なる加速を始める。
そして、ゲラヴィスク教との本格的な全面戦争が開始する。
予告
遂にゲラヴィスク教との全面戦争勃発。
互いに力を増す戦いは止まる事を知らない。
その中で、己の悪と戦うソラ。
謎の病の真実に気付くリュウセイ。
知っては行けない秘密を知るアンリ。
そして、リュウジ、ルナは?
互いを愛し、信頼し、疑い、裏切る。
更には、突如として現れた謎の浮遊島。
天空の城ラピュタ=ムー大陸。
今、この世に現れた理由とは?
全ては、第3章より始まった。
第4章 絆編 突入