第38話 「光の神獣」その3 完結編
神獣達が激しい肉弾戦を繰り広げると共に、揺さぶられるバーンニクス城の至る所から、悲鳴を上げるかのように躯体が軋む。
両腕を振りかざしたウェンディゴ。
両拳が結合し、巨大な岩の塊と変化させ、百虎の頭上へ振りかざした。が、やはり、素早い百虎はその攻撃を避け、大地が震える程の激震の中、ウェンディゴの腕を駆け上がった。
レンガの鎧を纏うウェンディゴの頭部に噛み付いた百虎は、鋭い爪を振りかぶり、その巨体の腹を切り裂いた。
しかし、裂けた傷口がみるみる内に砂が吸い寄せられ修復されてゆく。
そのまま、傷口から飛び出した巨大な拳が、百虎の一瞬の隙を突き、遥か上空に叩き上げた。
ウェンディゴの攻撃の力は凄まじく、百虎は勢いを失う事なく上空の結界をすり抜けると、体勢を立て直し一直線にウェンディゴに飛び掛った。
不死鳥の結界は、邪悪な者を寄せ付けない壁。
闇の軍勢が越える事が出来ないが、逆にそうでないモノには空気みたいな物なのだ。だから、百虎は結界をすり抜けた。
もし、全ての物質を透過させない壁だとすれば、百虎はある程度のダメージを負っていたに違いない。
不死鳥は、全てを透過させない結界を作る事も可能だが、あえて複雑な規制を設けた結界を張り巡らせている事から、もしかするとこうなる事を予期していたのかもしれない。
しかしながら、清明達をセーデンの攻撃から守ろうと展開した結界が、今、セーデンに浸食されようとしていた。
黒い繊維状の物が結界に張り巡らされてゆく。
そして、本来のプラスの力を持っていた結界は、マイナスの力へと変わってしまった。
逆に収束を始めた結界は、そのまま、不死鳥の許へと帰っていき、逆に不死鳥を締めつけた。
辛うじて、結界の性質が変わる前に抜け出した清明と博雅は、慌ててその場から走り出した。
上空では、青龍と邪龍王の熾烈な戦いが繰り広げられていた。
体格では邪王龍の方が二回りも大きいが、青龍はその体格差に屈する事も無く、頭部への攻撃に集中している。
無数の稲妻が、邪龍王の背ビレに吸い寄せられる、そして、咥内に溜め込んだエネルギーを一気に吐き飛ばした。
その一本の赤い光線は、青龍の腹を掠めると遠くの空に消えた。
しかし、腹が削られた青龍は、思った以上に致命傷を負ってしまった。
宙を浮く為に一番大切な部位を打たれたのだ。狙い澄まされた一撃だったのかも知れない。
青龍は、浮遊のコントロールを失い、上昇や旋回を繰り返した。
この状態では、また放たれようとしている破壊光線を避ける事は不可能だろう。
そこへ凄まじいスピードで近づくソラとロイド。
ソラは、暴風に乾く目を腕でガードしながら、前方の光景に言葉を失っていた。
「バーンニクス城は?」
そう叫ぶロイドは、数多の巨大モンスターの間に視線を巡らせた。
赤い尾を引くスフィアボードが、咥内にエネルギーを充填している邪龍王の腹を掠めた時、咥内のエネルギーが消え去り屍と化した邪龍王は地に落ちた。
龍殺しの剣を握りしめたソラが、一旦宙で停止した。
バーンニクス城は無事だった。
「セーデンを探さなくちゃ」
ソラと同じ姿のセーデンがきっとどこかに潜んでいる。そう思ったソラだったが、ロイドは、「いや、あれがセーデンだ」と、禍々しい暗黒の巨大モンスターを指さした。
「あれが!?」
突飛押しも無い言葉にソラの声が裏返った。
「俺には、分かる。いや、……感じるんだ」
「じゃあ、メタモルフォーゼ的なヤツなのか……」
まだ、納得のいかないソラだったが、ロイドにしか分からない感覚があるのかもしれないと、彼を信じる事にした。
「でも、どうやって倒すんだ?」
「この剣で……斬り裂くのみ」
そう言い、勇ましくも覇気が溢れるスフェニスソードを腰から抜いた。
ドラゴンの翼をモチーフにした鍔、赤い宝石がグリップの先端に埋め込まれ、古代の紋様が描かれた長い刀身。
鍔に埋め込まれた神秘的な青い石が、淡い光を漂わせる。
ソラの視線の先には、黒いモンスター、いや、セーデンの攻撃を避けながら地上を走る清明と博雅の姿が見えた。
野球のドーム球場程の図体はあるセーデンの背中から無数の触手が蠢き、絡み合い、腕になるモノ、キャノン砲のような兵器となるモノなど、その擬態の幅は様々だ。
清明は、扇をチラつかせ、そこへセーデンの気を引き、攻撃の照準をずらしていた。
そして、博雅が持つもう一本のスフェニスソードが迫りくる触手を斬り裂いていた。
走る二人の前に、突如現れた玄武の足。
振り下ろされるタナトスの水の塊。
衝撃で宙に浮き、尻もちを付いた博雅の股の間にセーデンの触手が突き刺さった。
間一髪、地面に突き刺さった触手を斬り裂き、博雅は清明の跡を追った。
「清明ッ」
「マズイぞ」
清明達の窮地に駆け付けようにも、今はロイドと一緒にいる。
その時、ソラ達の存在に気付いたセーデンの触手がスフィアボードを弾いた。
「うわっ!?」
衝撃で、振り下ろされるソラとロイド。
慌ててバトルグローブをボードにかざすソラ。
だが、ロイドは、覚悟を決め、セーデンの許へと飛び掛かった。
「セーデン、覚悟ぉぉッ!!」
白銀のオーラに包まれたロイドの額に、勇者の紋章が浮かび上がると、スフェニスソードの青い石が輝いた。
そして、刀身に描かれた古代の文字が光を帯びる。
決死の特攻を察知したセーデンが無数の黒い触手を舞い降りるロイドへ向けた。
向かい来る触手を斬り裂き、斬り裂き、その核を目指す。
セーデンの核に近づくに連れ、スフェニスソードの輝きは激しさを増し、襲いかかる触手が嫌がる様に避けてゆく。
……………………セーデンが見えた。
全身から溢れ出る黒い触手が見える。
表情は溶け落ち、目、鼻、口がかろうじて窪みと捉える事が出来る。それを、今のロイドはかつてソラの顔を持っていたとは信じられないだろう。
ロイドの覇気を恐れない触手を斬り裂き、攻撃範囲に入ったロイドは、怒涛の雄叫びと共に、スフェニスソードを振りかぶった。
「喰らえぇぇぇぇッ!!」
次の瞬間、ソラの視線に映ったのは、全身を黒い触手に貫かれ、空中に押し返されたロイドの姿だった。
「そんなッ!?」
輝きを失ったスフェニスソードもろとも、ロイドは全身から血を流し地上に落下した。
その光景をバーンニクス城の門前で目の当たりにし、血相を変えたアウルが坂道を駆け下りた。
「兄さんッ!!」
廃墟と化した城下町で今も戦うダークスパイデスと、兵士達の間を掻い潜りながら一目散に突き進む。
砂利の地面をアウルのブーツが削りながら、滑るようにロイドの許へと駆け寄った。
「兄さん……」
「アウルか……」
辛うじて生きていた。
だが、全身の貫通痕をみれば結果は見えている。
口から血を流しながら、ロイドは虚ろな目でアウルの目を見つめた。
そして、傍らに落ちていたスフェニスソードをゆっくりと掴みながらアウルの前に掲げた。
「これを……」
「何だよ?」
スフェニスソードを力なく持ち上げる手をアウルの手が支えた。
「お前が……セーデンを、倒せ」
「兄さん……」
「俺には、分かって……いる。その剣に……相応しいのは、お前だと……」
「何言ってんだよ、これは兄さんの剣だ」
「あの時、お前はワザと俺との決闘に負けた事は分かっている。……お前……は、俺の立場、や、結婚を控えている事を考え、その身を引いた。俺をとっくに上回っていたのにな……」
「そんな事は無い……」
と言ったが、本当はロイドの言った通りなのだ。
ペトレ王が作った国宝剣士制度により、勇者の血を受け継ぐ者を一人決め、負けた者は国外追放と言うとんでもない法律が出来た。
互いに勇者の血を引く両者の決闘が始まったが、開始早々アウルは悟ってしまったのだ。
兄を超えてしまっている事を。
だが、その後ろでロイドの勝利を願いながらも、弟である自分への気持に胸を痛めていた婚約中のロイドの彼女の前で、勝つ事など出来なかった。
あの日、アウルは不注意に見せかけて剣を落とした。
しかし、ロイドは気付いてしまった。
気付いてしまったが、彼女の喜ぶ顔を見ていると、言えなかった。
その事が、ずっと心に引っかかっていたのだ。
そんなロイドの弱みに付け込み、ペトレ王は、ロイドを思いのままに操った。
妻を守る為、将来生まれる子供の為に少しでも裕福な暮らしをさせてやろうと。
いつしか悪事や隠蔽工作などに手を染めてしまったロイドは、自己嫌悪に苛まれた事もあった。
そんな中、帰って来たアウルに、ロイドは胸を張る事が出来なかった。
ロイド自身悟っていた、既に勇者と名乗る資格も、スフェニスソードを握る資格も無い事を。
その結果が今、死を迎える事に繋がっているのだと。
「さぁ……お前の中に眠る真の英雄の血を俺に見せてくれないか……」
「兄さん……」
そう言うと、アウルは、ロイドの手からスフェニスソードを受け取った。
ゆっくりと立ち上がったアウル。
額の赤いバンダナをむしり取ると、目を瞑り意識を集中した。
ゆっくりと噴き出る白銀のオーラ。
逆立つ髪。
そして、額に現れた勇者の紋章。
スフェニスソードがこれまでに無い輝きを放った。
その勇ましい後ろ姿を目に焼き付け、ロイドはゆっくりと上半身を地に下ろした。
そしてロイドは願った。
――神よ、この世に久遠の光があらん事を。
――神よ、願わくば、我が妻子に溢れんばかりの幸福を。
――神よ、我を……許したまえ……。
新たなる勇者の気配を察知したセーデンが無数の触手をアウル目掛け放った。
その後方では、逃げまどう清明達にも触手が猛威を奮っている。
ソラは、とにかく清明達を安全な場所に避難させようと迫りくる触手の間をすり抜けながら突き進んだ。
その光景を、バーンニクス城の窓から目撃したリュウジ。
見慣れない、空を浮くボードを操る。
目を疑ったが、それが間違いなくソラだと分かった。
「あの野郎、今まで何してやがった!!」
その顔には笑顔と力が蘇っていた。
リュウジの動かない腕を自分の肩に掛けながら支えるルナも自然と笑みが零れた。
この絶望的な状況でも、一縷の光がまた輝きだしたのだと感じた。
視線をソラから地上のアウルに下ろす。
今までに見た事無い力を放つアウルが、黒い触手の猛攻に一歩も進めないでいる。
「何とかして、あの触手を掻き消す方法はねぇのかよ」
必死に得策を思案しようとも、何も解決策は無い。
その時、ふと、自分が着ているバトルジャンパーウェアの胸ポケットが膨らんでいる事に気付いた。
「おい、琴峰。俺の胸ポケットに入ってる物を出してくれねぇか?」
「え、あぁ、うん」
そう言って、ポケットの中の物を掴むとルナはリュウジの目の前に差し出した。
「これは……閃光弾ッ!?」
「閃光弾って、あのすんごい光が出るメカニックボールの事?」
「あぁ、俺とした事が、ポケットに入れたまま、完全に忘れてた。だが、これがあれば……」
「あの黒い化け物を吹き飛ばせるのね」
「そう言う事だ」
そう言って、リュウジは、歩こうとしたが、ルナが制止した。
「何するの?」
「ソラが帰ってきてんだ。こんな所で休んでる場合じゃねぇだろうが。クソが」
そう言うが、何をするにも不自由な体だと言う事がルナには分かる。
ましてや、閃光弾を投げる事など不可能だろう。
「そんな体じゃ無理よ」
そして、ルナは覚悟を決めた。
「私が行く」
「はぁ? 無理だろお前じゃ」
スピリットの力も無い、ルナが戦場に飛び込もうなど、誰が聞いても命を捨てる様なモノだとわかる。
だが、もし、可能性があるのなら、それを実行に移せるのはルナしかいない事も事実だった。
「皆、必死に命を賭けて戦ってるのに、こんな所でじっとしてるなんて出来ないじゃん。確かに怖いけど、アンタだってその体じゃ無理。私がやってみる」
ルナの強い眼差しを受けるリュウジ。
「俺もサポートするぜ」
その声にリュウジが振り返ると、鼻を指で擦るパルが立っていた。
「パル」
「僕も、まだまだ出来る事があるんだ」
パルは笑顔で応えた。
清明達の許へ近づくソラを襲う触手。
旋回しつつも危うい場面が何度も訪れる。
「清明さんッ!!」
「ソラッ!!」
博雅がそう叫び、スフェニスソードで触手を斬り裂いた。
そこへ、向けられた巨大キャノン砲。
バズーカ砲の形状をした物とは比べ物にならない。
「清明ッ」
今、エネルギーを放たれれば一溜まりも無い。
「この野郎ッ!!」
ソラは、旋回し、キャノン砲の主砲へと向かった。
放射口に暗黒のエネルギーが充填されてゆく。
ソラも、宙で拳に白銀のエネルギーを充填した。
無数の光の粒が拳に吸い寄せられてゆく。
「まだだ」
ソラの拳で次第に膨れ上がる光の塊が光輪を放つと、一気に振りかぶった。
「喰らえッ!!」
無数のエネルギーが散弾銃のように主砲に降り注ぐ。
それでも、暗黒のエネルギーは清明を吹き飛ばそうと力を増し続ける。
その時。
ソラ放った一発のエネルギーが触手の間を掻い潜り根幹を破壊した。
一瞬にして大爆発を巻き起こす。
噴き出す暗黒のフレアと衝撃波にコントロールを失い、ソラは遠くに吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁぁ」
「ソラッ!!」
博雅が叫ぶ後ろで、清明は、指を下唇に当て、扇を一振りした。
「退魔破陣北斗聖霊急々如律令」
すると、清明の足許から、真っ白な光が噴き出した。
そこから、光のラインが地を這ってゆく。
一定の距離まで進むと、また光が噴き出し、またラインが伸びる。
その光景を城の窓から見下ろすリュウジは、思わず呟いた。
「北斗七星」
大地に浮かび上がる巨大な北斗七星の中心にいたセーデン。
いや、たまたま居たのでは無く、恐らく清明が誘導していたのだ。
攻撃を避けるフリをしながら、地面に気を送りこみ呪縛を形成していたのだろう。
それもカナリの規模だ。
「終わりだ道満」
そう言って、最後の呪文を唱えようとした時、地面から一本の触手が飛び出し、清明の腹を貫いた。
トラップを仕掛けていたのは清明だけでは無かった。
大地に突き刺さった触手は、初めから地底の中で清明を追っていたのだ。
信じられないと言った表情で、清明は、ゆっくりと博雅の顔に目をやった。
それは博雅も同じだった。
「せ、清明ッ!! 嫌じゃ。お前は……」
上空へと持ち上げられる清明。
垂れ流れる血液が、博雅の額に掛かった。
そして、さらに五本の触手が清明の体を貫くと、それぞれが別の方向へ清明を裂き、空中分解した。
清明の頭部が宙を舞った。
これが最後なのかと、清明は思った。
視界が真っ白に変わる。
すると、過去の記憶、いや、それ以外のビジョンが脳裏に甦った。
走馬灯とは似て非なるモノ。
だが、その光景は決して心地の良いモノでは無かった。
清明自身の奥底に封印されていた何かが溢れ出て来るような。
――「安陪清明か、あの白狐の子か」
卑しい笑みを浮かべる老人がそう言った。
――「狐の子よ、狐にそっくりだ事」
――「化け物だ。子供の頃から鬼が見えたとか……」
――「妖怪……」
十二単を着た女中や、大臣が口ぐちにそう言った。
陰陽頭賀茂 忠行が、必死に何かと戦っている。
「あれは、白狐……」
清明にはそう見えた。
賀茂 忠行の術により、白狐は、女の体に封印された。
そして、また次のビジョンに切り替わる。
一人の若い陰陽師が、女を連れて平安京を脱走している。
そして、愛し合う……。
次のビジョン……。
生まれた赤子を幸せそうに抱きかかえる女と、笑顔を浮かべる陰陽師。
――「清明」
――「清明」
幸せそうに赤子にそう名乗る二人。
「母上? 父上?」
そして、ビジョンが消えた。
全てを悟った事を知ったかの様に。
「私は、白狐」
そして、また純白の世界に包まれた。
博雅は、続いて起きた光景に度肝を抜かれていた。
目の前に、巨大な白狐が現れたのだ。
そして、それが清明であると直感で感じた。
「清明なのか?」
純白の毛を靡かせ、青い双眼でセーデンを見つめる巨大な狐。
次の瞬間、巨大な白狐の全身からセーデンに向かって光の放射が放たれた。
大地を抉りながら突き進む放射が、セーデンが放ったキャノン砲と激突した。
神獣達の終わる事のない戦いに、揺さぶられ続ける大地。
バーンニクス城を飛び出したルナとパルは、城下町を囲む城壁の一番高い場所を目指して走った。
視線の先にかろうじて残存している高台からなら、なんとかセーデンに閃光弾が届くと信じて。
襲いかかるダークスパイデスの間を掻い潜り、パルの援護で突き進む。
家屋から噴き出す炎を振り払い、赤く熱を帯びる岩を飛び越える。
その光景を唇を噛み締めながら見下ろすリュウジ。
本来なら、自分が行くべきなのだと、自責に念を感じていた。
高台に到着し、崩れた岩場を駆け上がる。
パルが先に登り、ルナに手を差し伸べ引き上げた。
梯子を登り、高台に立つ。
間近でセーデンの姿を改めて確認し、ルナは腰が抜けそうになった。
例えようの無い歪感と不気味さ。
自分の全身がミミズに埋め尽くされたかのような錯覚に囚われそうになった程だ。
「さぁ、早く」
パルの言葉に、我に返ったルナは、閃光弾のレンズを押しこんだ。
メカニックボールを埋め尽くす他のレンズが秒読みを始めた。
「とどけッ!!」
そう叫びながら、ルナは思いっきり閃光弾を投げ飛ばした。
そして、そこへ、パルの魔法によって放たれた波動が加速力をプラスした。
「行けッ!!」「行けッ!!」
ルナとパルの言葉が重なる。
そして、リュウジの祈りも。
空を切る閃光弾は、触手を掻い潜りながらセーデンの方へ真っ直ぐに向かって行った。が、突如現れたウェンディゴが閃光弾をキャッチしてしまった。
戦っていた百虎は、致命傷を負ったのか? 大地の上でのた打ち回っている。
ルナ達の思いは、無機質なウェンディゴによって脆くも消え失せてしまったのか?
無情にも、カウントダウンは止まる事を知らない……。
そこへ、バルシェログが猛突進。
「バルシェログッ!!」
まさかの登場にリュウジは驚いた。
そして、感じた。
召喚主と召喚獣は心が繋がっているのだと。
だから、バルシェログはリュウジの祈りに駆け付けたのだ。
だが、バルシェログはウェンディゴと共に、セーデンの触手の中に取り込まれてしまった。
そして……。
凄まじい閃光が噴き出した。
セーデンの触手を掻き消し、吹き飛ばす。
まさかの非常時に弱まるキャノン砲を白狐のエネルギーが飲み込んだ。
何も見えない。
ただ、大地や空気までもが激しく揺さぶられた。
☆ ☆
……光が収まった。
それぞれが、ゆっくりと目蓋を開ける。
そして、皆が見たのは、弱弱しく蠢く、人とは思えない溶解した生き物に、スフェニスソードを突き刺したアウルの姿だった。
もはや抵抗する力も残っていなかったのだろう。
閃光弾に防壁を崩され、白狐と化した清明の一撃で核以外を全て吹き飛ばされたのだ。
何と、情けない姿なのだろう。
ルナの目には、有名な絵画「ムンクの叫び」に描かれた、叫んでいる者のようも見えた。
セーデンは、砂時計の砂が落ちるように崩れて消えた。
逆らってきた時間が一瞬にして元に戻るかのように。
つづく