第38話 「光の神獣」その2 完結編
やっと、ここまできました。
こんなにファンタジー一色なのは、HIKARIの中でも第3章のみなので、やりたい事は全部やってみようと思っています。
次回で完結の予定ですが、予想外にながくなったらもう1パート追加するかも知れません。
誤字・脱字など矛盾に気付きましたらご連絡頂けると助かります。
では宜しくお願い致します。
唯一結界を通過できるダークスパイデスが、崩れた城壁を掻い潜り、リュウジがいる城下町に侵入を試みる。
しかし、その大多数が召喚獣バルシェログの猛攻に成す術無く消え去ってゆく。
闇のクリーチャーが寄生していたロックスパイデスから、抜け出し、バルシェログに飛び掛る。
アウルが召喚したサラマンダーも、ロックスパイデス同様に闇のクリーチャーに寄生されダークサラマンダーとして召喚主に牙を向いた。
今回も同じ様に、バルシェログをも闇の生物に変えようとしているのだろう。
だが、その手はバルシェログには通用しなかった。
飛び掛る闇のクリーチャーを青白い光を放つ巨大な拳が掻き消した。
そして、巨大な口を開け獅子の咆哮と共に青い炎を纏う光の玉が発射した。その玉は地面を抉りながら、ダークスパイデスの群れを飲み込んだ。
リュウジと同じ様に、闇の軍勢の侵食によって一命は取り留めたモノの意識を失っていた兵士達が立ち上がる。
バーンニクス城の志願兵、加勢に来た兵士達が馬に跨り、まだ光を失っていない武器を掲げた。
そして、迫り来るダークスパイデスへと、城下町を下り突進して行った。
その流れとは逆に、リュウジは城へと向かった。
バルシェログの召喚との代償に焼け焦げた腕は使い物にならなく、それでも何とか背中に担いだ子供を城に連れて行こうとした。
城も、見た所被害の様子が伺える、生存者がどれだけ居るのかも想像が付かない。
ルナが無事なのかも……。
百虎の魂が木彫りの像から解き放たれた。
最後の玄武の魂を解き放ちたい所だが、セーデンがそうはせなかった。
清明の息の根を止めんと、網羅した闇の力を存分に振るう。
肺に含んだ息を吐きながら、妖艶に返した掌から、暗黒の蒸気が吹き出す。
それが、生身の人間には想像も付かない程有毒なモノだと清明は気付き、開いた扇で一気に吹き飛ばした。
「風除悪鬼」
発生した暴風がうねりを上げて闇の蒸気を掻き消した。
舌打ちしたセーデンが黒い炎を纏った稲妻を掌から発した。
危険を感じた清明は、その場から離れ地面に置いてあった荷袋から玄武の像を取り出した。
「させぬぞ清明」
そう叫び、再び攻撃を繰り出そうとした時、意識を取り戻した博雅が刀で斬りかかった。
「この死に損ないがッ」
怒りで目を充血させながら一喝したソラの顔を持つセーデン。
振り払った指先から真空の衝撃波が放たれ、博雅の刀を砕いた。
「ぐぁはッ!?」
またも岩壁に叩きつけられた博雅は、清明が玄武を呼び出すだけの時間稼ぎの為に、自らを奮い立たせ立ち上がった。
「セーデン。いや、道満……」
博雅の言葉をセーデンは冷めた目で聞こうとした。余裕の表れなのか?
「俺達の世界でのお前は、まだ人間だった……。鬼に代わろうとも心があった。悔やみ、悲しみ、そして憎んでいた。だが、今のお前は何だ? そんな感情も何も感じない。ただ、この世を闇に変える事だけに取り憑かれておる。道満、闇に染まるな。この先には何もないぞ」
「ふん、お前こそ何も分かっておらん」
鼻で笑ったセーデンが、博雅に語り始めた。だが、その視界にはしっかりと清明の動きも捉えながら。
「転生回帰、玄武。式神招来、急々如律ッ!?」
黒い稲妻が清明の術を掻き消した。
直撃を免れた清明が、床に転ぶ。
そして、その放電が不死鳥に直撃したが、不思議なヴェールがあるのか全く効かなかった。
セーデンが言っていた通り、不死鳥にはあらゆる攻撃が効かないのであろう。正規の手段を用いらない限りは。
「お前は、この先に何も無いと言うたが、この先にこそ我が目指す理想郷があるのだ。完全なる秩序と規律。人間などと言う愚かな生物は、規律を乱す生物だ。己の価値観や思考により己が心のままに生きようとする。そうなれば必ず波紋が生まれ、その波紋は次第に大きくなり、どこかにシワ寄せが来る。そのシワ寄せにより苦しむ者が現れ、その者がそのシワ寄せから逃れようとし、また波紋が起こる。ただ虚しいだけよ」
そう言うセーデンの目は本当に虚しいモノを見ているように博雅は感じた。
「いや、お前は間違っている」
「何?」
そう言いながら博雅は、腰に差していたもう一本の鞘から剣を抜いた。
それは、スフェニスソードだ。もう一つの世界で手に入れたモノだ。
「確かに、お前の理想郷なら、恐ろしいくらいに秩序が保たれた世界になるだろう。だが、そこには何も生まれない。静寂を永遠に保った水面など、寂しく詰まらないモノだ。味気ないモノだ。確かに、この世の中には辛い事、悲しみ、後悔や憎しみなどと言うモノがある。だからこそ人はそこから抜け出そうし、新たな何かを生むのじゃないのか? その新たなる何かはまた新たなる物を生んでゆく。どんなに暗い世からでも這い上がる事ができる。どんなに辛い目にあっても人を愛そうとする。散る花もあれば咲く花もある、その命の流れが人間の美しさだとは思わぬか?」
「そんな戯言は聞きとうないわ。源博雅」
そう言うと、セーデンは、博雅に向かって紫電を放った。
慌ててスフェニスソードで防ごうとした時、信じられない事が起きた。
何と、紫電がスフェニスソードに反射しているのだ。
流石のセーデンも狐に摘まれた表情をした。
跳ね返った紫電が洞窟の天井部を吹き飛ばし外の光が差し込む。
セーデンは、確かめるようにもう一度紫電を放った。
踏ん張る博雅の剣に当るや、プレッシャーが掌に返って来る。
博雅も、不思議な現象に驚きを隠せないでいた。
どんどん勢いを増す紫電に対し、博雅の手には何の圧力も感じない。
そして、怒りと同時に両手を開いたセーデン。
圧力が高くなっていた紫電が一気に開放され洞窟内を駆け巡った。
慌てて、結界を展開した清明と、清明の許へ駆け寄った博雅。
洞窟は完全に崩壊し、広大な平野に瓦礫と共に不死鳥の姿が現れた。
土埃の中から無傷で現れたセーデン。
清明達も同じだ。
ゆっくりと口角を吊り上げる清明。
その理由を聞かずとも、セーデンには解った。
膨張を始めた玄武の木彫りの像。
そして中から飛び出した光。
空中で漂う、青龍、百虎、玄武の魂が地上に落下すると、大地が揺れ、本来の魂の姿、――巨大な神獣の姿へと変貌した。
上空へ昇る青い龍。
白い毛が逆立つ虎。
その甲羅だけで一つの島だと錯覚する程、大きな玄武。
不死鳥の雄叫びに呼応するかのごとくそれぞれが咆哮する。
「これで四神がこの世で再臨したぞ」
博雅の言葉に清明はゆっくりと頷いた。
いきなり現れた四体の神獣に驚くリュウジ。
また、城の中からもアウル、大魔法使いフェルドゥグが、その存在を察知し、凄まじい力に体が竦み動かなかった。
兵士達も足が止まり、その神を見上げていた。
それぞれの神獣が互いに向けて光の帯を放った。
これで大きな結界を作り、闇の軍勢を封印しようとしているのだろう。
だが、セーデンの表情はまだ奥の手があるような余裕を見せていた。
「清明」
「何だ」
「良くやったと言いたい所だが、お前は詰めが甘い」
そう言うと、セーデンはバーンニクス城と炎の社の間にある大きな泉に向かって念を送った。
そして、次に大地に、空に……。
すると、泉が激しく動き出し、水が高々と盛り上がった。
大地もだ。
泉の水は、見る見る巨人の上半身へと姿を変えた。
「死の水の神、タナトス」
セーデンが顔を綻ばせながら恭しく紹介してみせた。
凄まじい地震と共に盛り上がる大地は、巨大なゴーレムへと姿を変えた。
「破壊の巨人、ウェンディゴ」
そして、空からはバーンニクスの付近にいる者達は初めて遭遇する闇の神獣。
「闇の神獣、邪龍王」
巨大な暗黒の龍が雲間から現れる。
「そして、この俺がッ!!」
清明達の前で顔を真っ赤にし、力みだしたセーデン。
全身の血管が浮き出し、充血した目は真っ赤に染まった。
「おいッ……」
異様な状態に怖気づく博雅。
「清明、不死鳥は倒せなくとも、残りの三体は殺傷できる。お前の苦労を無に帰してやろう。魔界の神達と共にッ!!」
もはや人では無い声がセーデンの口から発せられた。
ソラの顔が崩壊してゆく。
真っ黒に黒ずみ、膨張を始めた。
その姿は、完全に人では無い。
巨大なモンスターだ。
全身が不気味に蠢く四足歩行の化け物。
背中から更に四本の腕が飛び出し、頭部と思しきモノは巨大な五つの目が飛び出している。
体表を蠢いているのは無数の触手だ。
「せ、清明……コレは何だ? ここは地獄か?」
今、博雅の視界には、セーデン、邪龍王、ウェンディゴ、タナトス、それらに狙われる不死鳥、青龍、百虎、玄武。
この世の光景とは思えない。
そして、自分達の力、存在がどれ程ちっぽけなモノなのかを気付かされた。
この戦場に人間の居場所など無い事を……。
バーンニクス城の城門へ現れたアウル、フェルドゥグ。
「見よ、アウルよ」
「これは……何と言えば……」
「もはや神々の戦争だ。この世の命運がこの戦にかかっておる」
そこへ子供を担いだリュウジが傾斜を登って来た。
「アウルッ。あれは何だ!?」
後ろの光景を見ながらそう訊ねるリュウジにアウルは的確な回答が見つからず首をかしげた。
「神々の戦いだろう」
そう言い、リュウジの焼け焦げた腕を見てアウルは驚いた。
「お前、その腕?」
「俺、馬鹿だからよぉ、バルシェログを呼び出すのに何が足らないかなんて分かんねし、手っ取り早く代償としてくれてやった」
リュウジはそう言い、無理に勇ましい笑顔を作ろうとした。
「それよりも、城の皆は無事か?」
「あぁ、殆んどが生きている」
殆んどとはどれ程なのだろうか?
ルナはどうなっているのか?
その言葉からは推測する事すら難しい。愚かな質問だった。
やはり、実際にこの目で確かめるべきだとリュウジは悟り、アウルに別れを告げ、城の門を潜った。
不死鳥の結界は、バーンニクス城も含め広範囲の大地へ展開されていたが、これ程の巨大な神が揃うと、窮屈に感じる。
本来、結界を越える事が出来ないモノでも、結界内で召喚されてしまえば、どうと言う事は無い。
言わば不死鳥の結界の盲点でもあった。
そこをセーデンに突かれたのだ。
先に仕掛けたのはウェンディゴ。
豪快に振り上げた拳を百虎へ目掛けて振り下ろした。
その拳だけでバーンニクス城と同等の規模がある。
そんな拳が城に振り下ろされれば一発で壊滅してしまうだろう。
百虎は図体は大きくとも、動きは野生の虎と同じ、いやそれ以上だ。
サイドステップで拳をかわすと、鋭い爪でウェンディゴの頭部を切り裂いた。が、直ぐに再生……。
かわされた拳が大地を激しく揺さぶり、城の中の物が一気に倒れた。
皆、その振動に絶えれず地面に座り込んでしまった。
今にも世界が終わりそうな程の衝撃、恐怖に女、子供の阿鼻叫喚が木霊した。
その中、食堂を出たルナは、壁のブロックを指で掴みながらも廊下の小窓から外の様子を覗き込んだ。
「何よ……これ……?」
視界に広がる巨大なモンスターの群れ。
こんなモノが猛威を振るえば、人間など儚く脆い存在だろうと、戦いに参加していないルナでも分かった。
そして、今、自分を含め、皆がこの状況の中にいる事自体が、死と隣り合わせなのだと悟る。
みんな無事なのか?
計り知れない程の不安と、焦り、恐怖がルナを襲った。
「琴嶺ッ!!」
その言葉に振り返ったルナの前に、壁に寄りかかりながら這うように近づこうとしているリュウジが現れた。
だが、その表情は苦痛に歪み、降ろされた視線の先に、痛々しい腕が見えた。
「沢田君、どうしたの……その腕?」
「いや、それがさぁッ……!?」
リュウジの言葉の途中でルナがリュウジを抱きしめた。
咄嗟の出来事に状況が飲み込めないリュウジ。
「生きててくれてありがとう……」
ルナは、声を詰まらせながらリュウジの耳元でそう囁いた。
「う、うん……」
抱きしめ返してやりたかった。
だが、炭とかした二本の腕では、ルナを優しく包み込んでやる事ができなかった。
こんな状況で、ルナの温もり、優しさに浸っている場合では無い事は分かっている。
それでも、この緊迫した中でも、心の緊張が解れてしまうかのような心地良い感覚に浸り、ひと時の癒しに身を任せた。
「生きててくれてありがとう」
リュウジも、そう答えた。
水の怪物、タナトスが雄叫びを上げながら玄武の甲羅へ、巨大な水鉄砲を浴びせた。が、全くビクともせず、今度は、玄武の口から炎の玉が吐かれた。
炎の玉は、タナトスの水の体を貫いたがダメージは皆無だった。
空中では、二体の龍が絡みながら互いの体に噛み付き、鋭利な鉤爪で引っ掻き合う。
化け物になったセーデンの背中から触手が飛び出し、地上にいた清明と博雅を貫かんとした。
「道満ッ……」
目の前の姿に哀れみを感じた博雅だったが、「もはや、奴は道満でも人でもない」と清明は一喝した。
バックステップで触手の直撃を免れた二人。
「清明、この後はどうする?」
「わからん……」
「何!?」
そう言いながら、スイングする触手をしゃがんで避けた。
清明自身、道満が四神に匹敵するような式神を呼ぶとは夢にも思っていなかった。
完全なる誤算だった。
今ここで、四神の内の一つの存在でも葬られれば、希望は断たれてしまう。
セーデンの緑の目がそれぞれ別の場所を見ながら清明達の動きを捉え続けている。
その時、背中から飛び出した一本の腕が無数の黒い触手へと解けると、今度は複雑に絡み合い、筒の形状へと変化した。
すると、何かのエネルギーが筒の中に充填されて行く。
清明と博雅には、それがバスーカだとは分からなかったが、エネルギーの塊が放出されようとしている事だけは直感で気付いた。
「清明ッ!!」
黒紫色のエネルギー砲が清明達に向かって放たれた。
流石の清明でもこの時ばかりは足がすくんだ。逃げようが無いのだ。
その時、後方でじっくりと状況を観察していた不死鳥が褐色の翼を広げると、大きく扇いだ。
途端に発生した空間の歪みが波動となり、清明達の前で壁となった。
セーデンのエネルギーが清明達の前で侵攻を阻まれる。
「結界の中で結界を作ったと言うのか……」
そう清明は呟いた。
今度は不死鳥の眼が赤く光ると、セーデンのバズーカ部が破裂し、大爆発を起こした。
一瞬よろめいたセーデンの足がしっかりと地面を噛み締めると、大地が揺れた。
そして、反撃をしようと他の腕を触手へと解体し、新たなる結界を貫こうと直撃させた。
だが、ビクともしない。
しかし、その時、清明には見えた。
結界に直撃する触手から筋繊維のようなモノが張り巡らされていた。それが結界を侵食しようとしている事に気付く。
「まずいぞ」
前方の邪龍王を、龍殺しの剣で切り裂き、バーンニクス城へと向かうソラとロイド。
「まだ、着かないのか?」
とソラがロイドに訊ねる。
「いや、もう少しだ。しかし、この板は何なのだ? エクスフェリオンよりも早いッ」
すると、前方がやけに騒がしくなってきた。
目を凝らすと、数体もの巨大なモンスターが暴れている。
「おい、あれ何だよ!?」
ソラの体にしがみ付くロイドがその光景を目の当たりすると、絶句した。
「…………城は……」
「とにかくあそこなんだな」
そう言うと、ソラは風を切りモンスターの群れに近づいて行った。
つづく