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第37話 「HIKARI(光)」その3 完結編

 長年の雨風を受け殆んどが風化しているアンリ達の石像は、鮮明ではないが、ソラは自分の記憶を頼りに石像の窪みを繋げ、彼等の本当の姿を思い浮かべていた。

 今は、ソラと共に時空を超えて来た携帯電話も、そのエネルギー源が枯渇し、電源ボタンを長押ししようとも反応すらしない。

 待ち受け画面の皆の笑顔に何度も助けられていたが、今では清明達の支えで何とか毎日を送っていた。


 その時、ソラの背後で小枝が折れる音が鳴った。

 振り返るソラの前に、ベーン村の村長が立っていた。

 白髪で奥深い掠れ声が、村長の風格を漂わせる。

「お主、またここに居るのか」

「まぁね」

 村長は、ソラの横に腰を下ろすと英雄達の石像に目をやった。

「ワシらが、今日も平凡に生活を送れるのは、彼らの犠牲があったからなのじゃ。彼らの意思を引き継ぎ、この世を救った光の勇者は、その後はどの記録にも残っておらん。死んでしまったのか? 今でも子孫がいるのかもな。名前も知らんのだ」

「俺は、ここで佇んでいる彼らに生きてて欲しかったよ」

 ソラの意味深な言葉に耳を傾けていた村長は、立ち上がると、ソラに家に来るよう促した。


「もう日も沈む、今日は、我が屋で休んでいかれよ」

 ベーン村に着いたソラは、村長が住む家へと案内された。

 丸太で組まれた外壁を雨風から守るように褐色の屋根が目立っている。

 村長の家に入ると、既に奥さんが用意していた芋のスープが楕円形の木製のテーブルに並べられていた。


 ☆     ☆


 白い髭にスープをしみこませるその奥から、村長の言葉が発せられる。

「お主、あの船を持主だったと言っておったが、あれはどう言う意味なんじゃ?」

 あまりにも唐突に掛けられる質問。どうやら、村長は最初から、その理由を知りたいが為にソラを家に招きいれたようだった。

 ソラは、スプーンをテーブルの上に置くと、これまでの出来事、知識を語り始めた。

 今のソラに、過去の出来事や歴史を隠す理由は無かった。ただ、溢れ出る言葉を無造作に吐き出し続けた。


 ソラの話を一通り黙って聞いていた村長は、椅子から腰を上げると、リビングと寝室の間の廊下に向かった。そして、床下扉を開けると、地下室に入り、暫く上がって来なかった。

 何をしに行ったのか?

 その理由もわからず、ただソラは、皿の上の芋をスプーンで真っ二つにし、片方を口に放り込んだ。


 五分程経った時、肩に埃を纏わせながら、村長は小さな箱を持ってやってきた。

「これをお前さんに見て貰おうと思ってな」

 そう言って、テーブルの上に置かれた朱色の木箱がソラの前に滑らされた。

 蜘蛛の巣を引き裂いた跡が残る上蓋をゆっくりと引き上げたソラ。

 そして、その中に入っていた『ある物』に目が釘付けになったソラを確認しながら、村長は説明を始めた。

「それは、ワシの先祖が拾ったモノじゃ。昔、セーデンの塔があった付近でな。なんとも美しい丸みと、当時に放たれたていた橙色の光が美しかったらしく、家宝として受け継がれておったのじゃよ」

 ソラには、目の前のモノが何なのかが、直感でわかった。

 それは、ソラが喉から手が出るほど欲していた代物。

 時空を越えるスフィアだった。


 だが、この時代のスフィアは、ソラの目の前で信長の一撃により砕け散ったはず。

 これはあくまで、ソラの仮説だ。

 前の時代、つまり、道満が過去に行った時代が今に繋がっているのなら、スフィアを持った道満が、今の歴史の過去にいた事になる。

 そこで、失ったスフィアが今、目の前にあるスフィアだとすれば納得が行く。

 つまり、今の歴史にはスフィアが二つ存在しているのだ。一つは砕け散ったが。

 このスフィアが最後の希望なのだと、ソラは悟った。

「すいません。このスフィアを……俺に譲ってくれませんか?」

 無理は承知だったが、ソラが今、先に進むためにはこのスフィアが必要不可欠なのは間違いない事だ。

「よいぞ」

「へ?」

 家宝とまで呼んでいたモノをあっさりと譲るとは思っていなかった為、拍子の抜けた声を上げたソラ。

「しかし、ある条件がある」

「条件?」

「悪いが、お主の正体を見せて欲しいのじゃ。それを託すに足りるかをな」


 村民が寝静まった夜中に、村長に連れられ、村のほこらに連れて来られたソラ。

 松明たいまつを手に、石造りの祠の階段を下って行った。

 すると、目の前に直径五メートル程の、湖が現れた。

「ここは?」

「ここは、真実の泉じゃ」

「真実の泉?」

「あそこを見てみろ」

 そう指差す先、泉の底に、二本の剣が突き刺さっている。

「あれは、伝説の勇者がセーデンを倒した時に使われたとされる『スフェニスソード』と『龍殺しの剣』じゃ」

 ロールプレイングゲームの中でしか見たことの無いような、勇ましく覇気が溢れる二本の剣にソラの胸が高鳴った。

「あの剣を湖から引き上げれば、お主に二本の剣と我が家宝をくれてやる」

「ホントかぁ!!」

 さっそく泉に入ろうとしたソラを村長が制止した。

「言っておくが、まだ誰もその剣を引き抜いた者はおらん。ワシ以外な」

「村長さん、スゲェな」

「勘違いするな。魔法を掛けたのはワシじゃからな。そして、何故、誰もその剣を取れんのか? 真実の泉はその者の真の姿を映し出す。そして、その者が二本の剣に相応しくなければ絶対に泉からは上がらんようになっておるんじゃ」

「きっと大丈夫さ」

 不安な要素など何もなかった。

 そう言って、ソラは泉の中に足を入れた。


 水深はそれほど深くは無い、剣の場所まで辿り着いても腰の上程が浸かっていた。

 村長が神妙な面持ちでソラの成功を祈る中、ゆっくりと腰を沈め、スフェニスソードのグリップ部を握り締めた。

「いくぜッ」

 そして一気に引き上げた。が、まるで、水面が強固な壁のようにスフェニスソードのグリップ部が当たる。

「あれ? おかしいな……何でだ?」

 後ろで村長の落胆混じりの溜息が聞こえた。


「まだまだ」

 そう言うと、ソラはバトルスーツの力を解放した。

 全身を包み込むレザーシャツとジーンズが音を立てて膨れ上がり皮膚に吸い付いた。

 拳に力を込め、グッと握り締める。

 そして、もう一度全力で引き上げた。

 大きな水飛沫が祠の天井を叩き付けた。

 だが、剣は水面からは顔を出さない。顔を紅潮させながら、歯を食いしばりながら全力で剣を引き上げようとするが、結果は同じだった。

「何でだよ? 冗談だろ!?」

 そう言った時、ソラの動きが止まった。

 波が静まるその水面に、ゲラヴィスク教の眼を見開いたソラが映っていたのだ。

「ま、さか……」

 忘れてはいなかった、だが、考えようともしてこなかった現実が、この真実の泉でソラを再び襲い出した。

「何を怯えてる?」

 泉に映るソラの顔が、勝手に喋り出した。

「は?」

 その言葉に対してなのか? 水面に映る自分の顔が喋り出したからなのか? 今、発した疑問符は、どちらとも取れた。

「安っぽい驚きなど必要ない、ずっと感じていたはずだ。お前は――モンスターだ」

「ち、違うッ!!」

 水面から聞こえる自分の声に最大級の不快感を覚えた。得体の知れない恐怖にも似た。

「既にお前は認めているはずだろ? この眼が、この力が必要だと? お前はもう、この強大で甘美な力の虜となっている。違うか?」

「黙れッ!!」

 ソラは、もう一人のソラを掻き消すかの様に、水面を力いっぱいに叩いた。

 拳が水を弾き、水柱と化す。その中心から幾重もの波紋が広がった。

 水面の波が再び静まると、散り散りになっていたソラの顔が再び繋がり、悲壮感漂うソラに対し、卑しい笑みを湛えた。

「その怒り、憎しみが、後に俺の力となる」

「は?」

「俺は必ず、お前の肉体を支配してみせる。足掻あがいても無駄だ。そして、お前の大切なモノを全て、この手で、葬ってやる」

 赤く光る眼に、全身が射抜かれたかの様な錯覚に囚われたソラは、慌てて泉から飛び出した。

 ソラは、村長に頭を下げると祠から出て行った。



 ――「その眼があると言う事は、お前の体にゲラヴィスク教の血が流れていると言う事。次第にその血がお前を蝕む。だが、お前には光の力、心も兼ね備えられている。これから辛い時期が来るだろう。光と闇の狭間で存在するが故迫られる選択。だが、自分を信じろ。正しいと思った事を貫くべきだ」


 シオンが最後に言い残した言葉がソラの脳裏に甦る。

 自分は、闇に取り込まれてしまうのだろうか?

 光の心の力とはどれ程なのだろうか?

 自分が一体何なのかさえ、分からなくなりそうだった。

 ソラは、とにかく叫び走った。


 ☆    ☆


 森の中で眠っていたソラの顔を、暖かな太陽の日差しが照らし始めた。

 四つの翼を持つ小鳥が、スズメの鳴き声のような声で一日の始まりを告げる。

 どうやら、あの宇宙船の下で眠っていたらしい。

 ソラは、起き上がると平安京に戻ろうと歩きだした。


 あの村長を出しぬき、スフィアを奪おうとも考えた。だが、そんな事をすれば、自分の中の暗黒面の喜ぶ顔が浮かんだ。

 今すぐにでも、手に入れたかったが、今一度、自分自身を鍛え、暗黒面に打ち勝った時に再び真実の泉に挑もうと決めたのだ。


「待て」

 その言葉に振りかえったソラの前に二本の剣を携えた村長が立っていた。

「ほれ、約束の物じゃ」

 そう言って、村長は、まだ状況が飲み込めていないソラの手にスフィアを忍ばせた。

「どうして?」

 咄嗟にそう訊ねていたソラに村長が答える。

「お前の光の部分を信用しよう」

「光の部分?」

「確かに、お前の中には邪悪な部分があるのかも知れん。じゃが、食卓でこれまでの事情を話してくれた時のお前さんの顔は、穏やかで芯が強く、断固たる光が見えた。それに、この機を逃せば、一生、この剣も誰にも使われる事無く一生を終えそうだったのでな。無駄に持っておっても仕方なかろう。求める者に託すのが、一番エエ」

「村長……」

「ワシの名は、アーヴェインだ」

「そっか。俺は、神城 空です」

 自分にもまだ、光の心がある。

 信じていれくれる者がいるなら、自分も信じよう。

 必ず、勝って見せる。

 ソラは、そう心に近い、アーヴェインに別れを告げた。


 ☆     ☆



 清明の屋敷の上空に到着したソラは、庭園に飛び降りながら塊に戻ったスフィアボードを太股のアタッチメントに差し込んだ。

「ただいまッ」

 そう言って、着地したが清明の姿が見えなかった。

「あっれ? 何処に行ったんだ?」

 廊下を進み、奥にある書庫へ入ると、巻物を読み耽る清明を発見した。

「せ……ッ!?」

 清明と呼ぼうとしたが、目の前を巻物がクルクルと漂っているのに、目を引いた。

 幾つもの巻物がまるで宇宙に存在する様々な惑星のように、緩やかな回転を保ちながら浮いていたのだ。

 その中の一つが宙で開き、その内容を真剣な眼差しで清明は調べ事をしているようだった。

 邪魔をしては悪いと思い、踵を返そうとしたソラを清明が引きとめた。

「間もなく、帰られる頃だと思っていた」

「えっ?」

「何やら朗報もあるのだろう?」

 ソラの全てを見透かすかの様な、神秘的な雰囲気を漂わせる眼差しが向けられる。

「な、何で分かんの?」

 別に隠すつもりも無かったが、言い当てられた事に動揺を見せたソラに「顔に書いておる」と、清明は口角を上げながら言った。


 ソラは、バトルウェアのコートのポケットからスフィアを取り出すと、清明に見せた。

「見つけたんですよ。スフィア。これがあれば、もしかしたら皆が居た歴史に行けるかも知れないんです」

 興奮気味に話すソラに対して冷静な様子の清明。

「でも、エネルギーが無くなっているのか……? 発動しないんですよね」

 すると、清明は、ソラの手からスフィアを受け取ると、懐から取り出した純白の絹の上に乗せた。

 そして、スフィアの外観、更にはその奥に潜む何かを捉えるかの様に目を凝らし続けた。

「空になっておる」

「えっ?」

「だが、案ずるな。私の気で何とかなるか試してみよう」

 そう言うと、清明はスフィアを絹でくるみ、狩衣の懐に仕舞い込んだ。

「しかし、ソラ」

「あ、はい」

「お前、もし、過去に行けたとして、どうするつもりだ? 皆を助ける策でもあるのか?」

「どうって?」

 言われて見れば、どうするのか? 考えてもみなかった。

 ただ会えるかも知れないと言う、期待感に胸を膨らませていたが、根本的な問題は、過去の世界が闇と光の戦争中で、アンリ達はその戦火の中にいると言う事だ。

 何も考えずに過去に戻った所で、何も変わらないかも知れないのだ。

「とにかく、スフィアが私の気に応えるかも分からぬ。また吉報は伝えよう。それまで、お前なりに腕を磨くも良し、何か策を考えるも良し」

「でも、もし、スフィアが清明さんの気に反応しなかったら……?」

 清明にもソラの不安を拭い去れる程の、言葉は出てこなかった。

 だた、ソラの為に、スフィアを復活させる事が最善だと言う事しか分からなかった。



 それから半年もの間、清明は、屋敷に篭り切りになり、ソラは気のコントロールを徹底的に鍛えなおした。

 幾ら、シオンと同化したとは言え、その莫大な力の50%も引き出せていない事は明白だった。

 100%の力を引き出す事が出来れば、リュウセイが言っていた通りに、バトルスーツが無くとも、戦えるのでは? と真剣に思った程だ。

 一向に清明からの吉報が知らされる事も無く、ソラの中で不安な色が強みを増して行った。



「恐れながらみかど、宮中の財政が、先の帝の折よりも悪くなっており、大臣達も色々と危惧されております」

「かまわん。俺は、民の命を重んじたいのだ」

 恐縮と不安が入り混じった表情の財政管理を担う役人に、そう告げた博雅は、退屈な毎日に嫌気が刺していた。

 そんな時、博雅の許に届いた一通の文。

 それを見た博雅は慌てて内裏を飛び出した。



 清明の屋敷の庭に神妙な面持ちで立っていたソラと清明。

「本当に良いんですか? 清明さん」

「ああ」

 申し訳なさそうにソラは、清明に問いかけた。

 大きな荷袋を体に巻きつけた清明は、手に持っていたスフィアを掲げた。

 そう、スフィアは復活したのだ。

 ただ、清明の気を持ってしても移動できるのは、恐らく一~二回が限度らしい。

 そこへ、息を切らした博雅が怒りに満ちた表情で現れた。

「清明ッ!!」

 バツが悪そうに振り返る清明に、博雅は怒りの念をぶつけた。

「こんな紙で納得出来るか!! 清明。何がお別れだッ?」

 ソラは、清明は博雅に何も告げていなかった事に若干驚いた。

「お前を巻き込む訳にはいかんのだ」

「清明ッ!!」

 その怒声に清明が口をつぐんだ。

「今まで、俺達はどんな危険な時でも一緒だったではないか。誰が、俺と一緒に酒を飲むのだ? 誰が俺の恋の悩みを聞いてくれるのだ? 誰が……。お前が居らん世など、俺は考えられんのだ」

 目に涙を浮かべながらそう訴える博雅に、二人の間には並の人間の絆より深いモノをソラは感じた。

 決して変な意味では無く、この世に無い言葉。友情と愛情の狭間にある感覚だろう。

「もう。二度と帰っては来れんかも知れんのだぞ?」

「そんな事は承知の上だ。お前がいるなら、どんな世も怖くは無い。だから、俺も行く!!」

 その言葉が清明の迷いを吹っ切った。



 検非違使の武装をした博雅、ソラ、清明が横一列に並ぶ。

「そういや、清明さん。その荷物は何ですか?」

 ソラは、清明が体に巻きつける荷袋にずっと疑問を抱いていた。

「先日、話したはずだ。ある秘策を」

「あぁ、じゃあ、あの為の道具ですか?」

 荷物の謎が分かったソラの横で、何も聞かされていない博雅がその秘策について訊ねた。

「清明、秘策とは何なのだ?」

「古い伝記や、過去の俺自身からの巻物に書かれていた事では、過去の時代では、火・風・水・土、それぞれの気を司る神獣が存在していた。それぞれの神が互いに霊脈を繋げる事で悪の気から人間界を守っていたのだ。だが、その均衡を道満、いや、セーデンが破った。神獣を次々と殺めたのだ」

「なんと、酷い……」

 眉を潜める博雅に清明は続けた。

「神獣が死んだ事によって、霊脈が断たれたのなら、新たに作れば良い。この平安の都を守りし、青龍・百虎・朱雀・玄武。それぞれの御霊を木彫りの像に封印した。それをあちら側で蘇生するのだ」

 もし清明の作戦が上手く成功すれば、勝算は見えるかも知れない、ただ、博雅にはある疑問が浮かんだ。

「清明、では四神が居なくなったこの平安はどうなる?」

「どうもならん。もう平安の世も、神を信じる者は無きに等しくなってしまった。それに共鳴し、神も力を失う。そうならば、この世界の神も過去であれば、またその輝きが増すと言う物」



 清明の手からスフィアがソラに手渡された。

 この瞬間への道のりがどれ程長く、険しかったか。

 この瞬間を願う者が居た事か。

 その重みがスフィアから伝わって来るような気がした。

「絶対に、皆を助ける。そして、過去を変えるんだ!!」

 ソラがスフィアに念を込めると、橙色のスパークが発生した。

 線香花火のような火花を散らしながら、その輝きを増してゆく。

 そして、ソラは庭先の塀に向かってスフィアを投げつけた。

 バチンと言う音と共に、スフィアの粒が広がり光の輪を作り始めた。

「良いか、行きたい場所、時を強く願うのだ」

 清明の言葉に頷いたソラと博雅。

 そして、三人は一気にゲートに飛び込んだ。


 ☆     ☆


――「やぁ、不死鳥殿」


――「お前はペトレ王ではないな」


――「そうか、既に見破られていたか。流石は炎を司る神獣」


――「不死身を意味する不死鳥。まさに不死身。だが、その血が流れる体内に人間の血が混ざればどうなるか?」


――「外の結界を開放してくれぬか?」


――「そうか。ならば、致し方ない」

洞窟内に不死鳥の断末魔が鳴り響いた。


 鉛色の空が黒さを増す。

「何が起こった?」とガイが空を見上げながら言った。

「何……あれ?」

 アンリの視線の先。

 雲間から現れる邪龍王の群れ。

そして、数十体の邪龍王がエクスフェリオンを包囲していた。

「くたばれ!!」

 ガイの掛け声と共に銃声が鳴り響き、アンリのエネルギー砲が発射された。

 同時に無数のエネルギー砲の集中砲火がエクスフェリオンに直撃した。


 エクスフェリオンを四方八方から邪龍王のエネルギー砲が貫いた。

 大爆発を起こし木端微塵に吹き飛ぶ。

 爆煙の中から、キラキラと輝きながら炎に包まれる黄金の残骸と共に、傷だらけのアンリが落ちて行く。



「このッ……クソ野郎!!」

 ジェリルの体内で爆散した閃光弾が、内部から闇の者達を吹き飛ばした。

 断末魔を上げるジェリルの口、目、鼻から凄まじい閃光が噴出す。

「ざまぁ、見やがれ」

 仰向けになり一息付くリュウジ。

「くっそ、もう動けねぇ」

 そう言いながら、空を見つめていると、雲が黒くなったのを感じた。

 体の痛みを堪えながら立ち上がると、不死鳥の結界に無数のヒビが入っている事に気付いた。

「どうなってんだ?」

 そして、次の瞬間。


 ガラスが爆風で木端微塵になるように、一斉に砕け散った結界。

 一気に押し寄せる闇の軍勢。

「マジかよ!?」

 凄まじいスピードで蠢く闇の軍勢の中、もがくリュウジの口に何かが入り込み、目や耳、鼻にも入り込んだ。

 必死な思いで、バルシェログの召喚石を握り締めたリュウジ。

「頼む、頼む、助けろっ。たす、け………ろ………」



 舌打ちするリュウセイの側で、空や空気の異変を感じ取ったロイド。

「邪悪が満ちている……もしかして、不死鳥が死んだ……」

「冗談やろ?」

 すると、突然、塔屋の中から大量の闇の軍勢が現れ、あっと言う間に取り囲まれてしまった。

「おい、カナリまずい状況ちゃうか?」

「これも罠だったという事か」

 二人は、剣を構えた。

「ロイドさん。まだ閃光弾は残ってるんかい?」

「もう無い」

「そっか。帰りの事なんか考えてなかったしな」


「「くっそぉぉぉぉッ!!」」

 リュウセイとロイドはそう叫びながら闇の軍勢に真っ向から突っ込んだ。



 皮肉にも、調度その頃、ロイドの子供の産声が上がった。

 ルナも喜び、額の汗を拭った。が、食堂の扉を強引に突き破るアウル。

「闇の軍勢が来るぞ!!」

「何ですって!?」

「嘘でしょ……」

 狼狽するルナ達をよそに迫る闇の軍勢に対し防御壁呪文を唱えたアウルだったが、防御壁ごと飲み込まれた。

 目の前で闇の軍勢に飲み込まれたアウルを目の当たりにし、絶叫したルナ。

 そして、余りの恐怖に顔を手で覆うルナや、その全てをも飲み込んだ。



 『無限の彼方から五人のHIKARI(光)が現われし時、この世の闇が光に帰す』

 アウルが言っていた伝説は、叶えられる事は無かったのだと。


 アンリは悲しみや悔しさが入り混じった涙を目に浮かべながら、闇の軍勢の中に落ちて行った。

 

 こうして、バーンニクス城は滅び……世界は闇に沈んだ。


 かに思えた瞬間。

 エクスフェリオンの残骸と共に地上に落ち行くアンリの体が何者かに掴まれた。

 お姫様抱っこのように抱えられる中、状況を掴めずにその主の顔にピントを合わせる。

 その髪、肌の色……顔!?。

 幻なのか? だが、幻では無い感覚が全身に伝う。

「そ……ら?」

 アンリの体をしっかりと抱き抱えるソラが、スフィアボードに乗り空を飛んでいた。

「もう二度と離さない」

「えっ!?」

「もう、お前の悲しむ顔は見たく無いんだッ!! 俺が変えてみせる。守ってみせる!!」


 絶対にアンリを守る。

 ユキの為にも。

 ソラは心に強く誓い、そう叫んだ。





 ~次回 第38話「光の神獣」完結編~


 遂に、HIKARIメンバーが居る時代へと合流したソラ。

 果たして、清明の秘策はこの世界を救う事ができるのか?


 時空の捻れが一つに繋がる時、奇跡が生まれるのか…。


 HIKARI(光) 第3章。

 遂に完結。


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