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第34話 「伝説の敗北」その4~Story of HIKARIチーム(後編)~

 洞窟の中で息絶える、バーンニクス城のシェフ。

 溢れ出る首許の血を剣に塗ると、ペトレ王は不死鳥のいる空洞の扉を開けた。

「やぁ、不死鳥殿」

 岩場の頂上で丸くなっている不死鳥は、真紅の羽根と橙の羽根が混じり合う翼に顔を埋めながら片目だけ開いた。

「お前はペトレ王ではないな」

 全身に振動が伝わる程の重低音な声が空洞内に響く。

 不死鳥には、その者が偽者だと言う事が一目で解った。

「そうか、既に見破られていたか。流石は炎を司る神獣」

 そう言いながら、ペトレ王の姿はソラの姿になった。

「不死身を意味する不死鳥。まさに不死身。だが、その血が流れる体内に人間の血が混ざればどうなるか?」

 黙ったままの神獣。

 本当なら、不死鳥は炎を巻き上げ徹底抗戦するだろう。だが、今の不死鳥には、そう出来ない理由があったのだ。

 それだけは、絶対に気付かれたくない事。

 リュウセイ達は知っている。

 不死鳥の翼の中には卵がある事を。

 親心だ。

 親心ゆえ、下手な衝撃を与えない為にも、不死鳥は静寂を貫いているのだ。

「外の結界を開放してくれぬか?」

 セーデンの問いかけを無視し、不死鳥は目を閉じた。

「そうか。ならば、致し方ない」


 洞窟内に不死鳥の断末魔が鳴り響いた。




 光り輝く黄金のエクスフェリオンが、凄まじいスピードで邪龍王を翻弄していた。

 船体からほどばしるエネルギーのスパークが邪龍王を包み込み、追い込む。

 だが、邪龍王も負けじと、エネルギー砲を繰り出し、鱗を飛ばし、破壊力のある尾を振り回した。

 格段に機動力が上がったエクスフェリオンは、もはや、重力とは無関係な動きを繰り出し、その全てを掻い潜った。

 だが、何故、そんな状態になれるのなら普段からならないのか?

 それは、激しすぎる船の移動に人間の体が付いていかず、船員達が外に投げ飛ばされるのだ。

 船内に居れば安心と思うが、激しく壁に叩きつけられ、命を落とす者も少なくは無い。

 それだけではない、コアのエネルギーを全て使い果たしてしまうのだ。

 これがガイが最後まで躊躇していた真実だった。

 

 大切な弟や、フェルッチオロデュテーション号、船長、乗組員を殺され怒りが頂点に達したガイは、コアに似立てた球体に手を当てながら、ダイレクトに船を操っている。

 アンリも、必死に柱に掴まったが、振り解かれそうになり、マストに掴まったが、マスト自体も折れそうだった。

 幾本ものエネジースパークが邪龍王を貫き、苦痛の声を上げる邪龍王。

 もはや、咥内にエネルギーを蓄積させる余裕も与えなかった。


 だが、その時。

 一瞬にして、空気が変わった。

 鉛色の空が黒さを増す。

「何が起こった?」とガイが空を見上げながら言った。

 アンリは、マストにしがみ付きながら雲間を見ていると、絶望と言っても過言ではない事実を知った。

「何……あれ?」

 アンリの視線の先。

 雲間から現れる邪龍王の群れ。

 よく見ると、ダークリーパーが巨大な力を得たのか? 突然変異を起こし、邪龍王に進化していた。

 すると、エクスフェリオンの攻撃を受けていた邪龍王も息を吹き返したようにスパークを跳ね除けると、船体に鉤爪を引っ掛けた。

 大きく傾いたエクスフェリオンの船尾に、もう一体の邪龍王が手を掛ける。

 振り落とされた船員が地上に落ちるまでに、別の邪龍王の食事となった。

 そして、数十体の邪龍王がエクスフェリオンを包囲していたのだ。


 ガイは、甲板に振り返った。

 残っているのは数人の船員とアンリだけ。

「HIKARIのアンタだけでも逃げてくれ。船底に脱出用の船がある」

 アンリはマストから降りると、ガイの側に歩み寄った。

「私だけ逃げる訳には行かない。それに、みんなアナタを信じていたからこそ、船で逃げなかったの。だから私も最後まで戦うわ」

 アンリ自信、悔しい思いはあった。だが、力を出し惜しみする事無く全力で戦っただけに後悔は無かった。

 全ての邪龍王が稲妻を全身に浴び、咥内にエネルギーを充填し始めた。

 狙うはたった一隻のエクスフェリオン。

 邪龍王の咥内から噴出す光がエクスフェリオンの黄金の光を弱弱しく見せた。


 ガイは、腹帯から一丁の銃を取り出すと、目の前で船首に鉤爪を掛け、大きく口を開く邪龍王に狙いを付けた。

 アンリも、最後の力を振り絞り白銀のオーラを噴出し、光の武器を具現化した。

 円陣を作り上げ、エネルギー砲を放つ準備をする。


「くたばれ!!」

 ガイの掛け声と共に銃声が鳴り響き、アンリのエネルギー砲が発射された。

 同時に無数のエネルギー砲の集中砲火がエクスフェリオンに直撃した。




 ジェリルの伸びた拳の吹き飛ばされ、リュウジが民家に直撃した。

 ゆっくりと立ち上がるが、疲労困憊と言った感じでふらふらに成っている。

 何度倒しても、闇の騎士同様死なないのだ。

「いい加減にくたばれよッ」

 そう言うと、リュウジはポケットに忍ばせていたホログラフイミテーションを発動させるペンダントを握り締めた。

 瞬時に現れる五体のリュウジ。

 それぞれがジェリルを囲み、白銀のオーラを込めた拳を振りかぶった。

 だが、今のジェリルにはそんな『まやかし』は通用しなかった。

 本物のリュウジの存在を感じ取ったジェリルは、後方から飛び掛っていたリュウジの首を掴み上げた。

「がはっ!!」

 苦痛の声が漏れた。

 赤く腫れ上がった眼球にリュウジの顔が映る。

 すると、ジェリルの口が縦横に裂けた。

「俺を喰おうってのか?」

 そう言いながら、リュウジは、ズボンのポケットから最後のメカニックボールを取り出すと、躊躇する事無くジェリルの口に強引に押し込んだ。

 ジェリルの大きく開いた口に、リュウジの腕が肩口まで入った。

 苦痛に顔を歪めるリュウジ。

 なぜなら、体内でリュウジの腕を咀嚼そしゃくしている為か、ジェリルの口から血が吹き出ていた。

「このッ……クソ野郎!!」

 そして、次の瞬間。

 ジェリルの体内で爆散した閃光弾は、内部から闇の者達を吹き飛ばした。

 断末魔を上げるジェリルの口、目、鼻から凄まじい閃光が噴出す。

 ジェリルの口から腕を引き抜いたリュウジは、皮膚が抉れ骨が剥き出しの腕を反対の手で抑えながら、地面に倒れこんだ。

「ざまぁ、見やがれ」

 体内から闇のエネルギーを失ったジェリルは、干物のようになってしまい、そのまま息絶えた。


 仰向けになり一息付くリュウジ。

「くっそ、もう動けねぇ」

 そう言いながら、空を見つめていると、雲が黒くなったのを感じた。

 体の痛みを堪えながら立ち上がると、不死鳥の結界に無数のヒビが入っている事に気付いた。

「どうなってんだ?」

 そして、次の瞬間。


 ガラスが爆風で木端微塵になるように、一斉に砕け散った結界。

 一気に押し寄せる闇の軍勢。

「マジかよ!?」

 そう良いながら、城にいるルナの事を心配した時には、闇の軍勢に飲み込まれていた。

 凄まじいスピードで蠢く闇の軍勢の中、もがくリュウジの口に何かが入り込み、目や耳、鼻にも入り込んだ。

 それは間違いなく、闇の軍勢であり、リュウジもその一員にされようとしていた。

 必死な思いで、バルシェログの召喚石を握り締めたリュウジ。

「頼む、頼む、助けろっ。たす、け………ろ………」



 皮肉にも、調度その頃、ロイドの子供の産声が上がった。

 痛みと苦痛から開放されたロイドの妻は、我が子を抱き上げ安堵した。

 ルナも喜び、額の汗を拭った。が、食堂の扉を強引に突き破るアウル。

 助産師が慌てて注意した。

「何事ですか? 男子禁制と書いているでしょう」

 慌ててロイドの妻の下半身に布を被せたルナ。

「闇の軍勢が来るぞ!!」

「何ですって!?」

 もう、闇の軍勢は食堂の前まで迫っていた。

 言うまでも無く、他の者達は……。

 バーンニクス城を助けに来た一万の兵や大魔導師フェルドゥグ、パルも飲み込まれてしまったのだ。


 アウルの言葉を聞き、ルナの心臓が痛くなった。

 リュウジはどうなったのか? リュウセイは? アンリは?

 みんな死んでしまったのか?

「嘘でしょ……」

 狼狽するルナ達をよそに迫る闇の軍勢に対し防御壁呪文を唱えたアウルだったが、防御壁ごと飲み込まれた。

 目の前で闇の軍勢に飲み込まれたアウルを目の当たりにし、絶叫したルナ。

 そして、余りの恐怖に顔を手で覆うルナや、その全てをも飲み込んだ。



 セーデンの塔を脱出しようとバルコニーに出たリュウセイとロイドだったが、既にバイクは死体の床に飲み込まれていた。

 舌打ちするリュウセイの側で、空や空気の異変を感じ取ったロイド。

「邪悪が満ちている……もしかして、不死鳥が死んだ……」

「冗談やろ?」

 そうは言ってみたもののリュウセイ自身も異様な空気を全身に感じていた。そして、頭に浮かんだのはアンリやリュウジ、ルナの顔だった。

 みんな死んでしまったのか?

 嫌でもそんな事を勘ぐってしまう。

 すると、突然、塔屋の中から大量の闇の軍勢が現れ、あっと言う間に取り囲まれてしまった。

「おい、カナリまずい状況ちゃうか?」

「これも罠だったという事か」

 二人は、剣を構えた。

「ロイドさん。まだ閃光弾は残ってるんかい?」

「もう無い」

「そっか。帰りの事なんか考えてなかったしな」


「「くっそぉぉぉぉッ!!」」

 リュウセイとロイドはそう叫びながら闇の軍勢に真っ向から突っ込んだ。

 勿論勝算は無い。

 最後の抵抗と言うやつだった。



 エクスフェリオンを四方八方から邪龍王のエネルギー砲が貫いた。

 大爆発を起こし木端微塵に吹き飛ぶ。

 爆煙の中から、キラキラと輝きながら炎に包まれる黄金の残骸と共に、傷だらけのアンリが落ちて行く。

 どうやら、直撃は免れたようだ。

 しかし、バトルスーツは焼け焦げ、ダメージは大きい。

 ゆっくりと目を開いたアンリは、目の前の光景に絶句し涙した。

 全てが暗黒と化していた。

 視界の隅に見える山に、さっきまでは確認できていたバーンニクス城も飲み込まれ消えていえる。

 自分達は負けたのだと、アンリは悟った。


 『無限の彼方から五人のHIKARI(光)が現われし時、この世の闇が光に帰す』

 アウルが言っていた伝説は、叶えられる事は無かったのだと。


 アンリは悲しみや悔しさが入り混じった涙を目に浮かべながら、闇の軍勢の中に落ちて行った。

 

 こうして、バーンニクス城は滅び……世界は闇に沈んだ。




~次回 第35話「アイツが死んだ」Story of 神城 空(後編)~


 平安京の帝が、鬼と契約を結んだ陰陽師 蘆屋あしや 道満どうまんに殺され、遂に魑魅魍魎跋扈ちみもうりょうばっこし殺戮の地獄絵図とかしてしまったもう一つの世界。


 ソラと同じく、その時代にいるはずの無い織田おだ 信長のぶながが意味する事とは?


 アンリの祖先かもしれないユキを連れ去ったまま宙を漂う浮遊城に乗り込んだソラ、源 博雅みなもとのひろまさ、そして陰陽師 安倍あべの 清明せいめいの戦いが始まろうとしていた。


 もう一つの世界のクライマックス。


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