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第34話 「伝説の敗北」その1~Story of HIKARIチーム(後編)~

 闇の軍勢が城下町を越えバーンニクス城の庭園を占拠し、重い鉄の門を叩き潰していた。

 鋼鉄の扉は邪悪な力でひしゃげ、その隙間から体を自在に伸縮させながら闇の軍勢が侵入している。

 兵士達は、城の中で身を潜めている家族を守る為に、庭園で蠢いている軍勢に斬りかかった。が、体格の大きな兵士が振りかぶった剣は、全く手応えを感じる事なく、黒い騎士の体をすり抜けた。

 実態が無いのだ。

 その前で自分の無力さを痛感した兵士は、きょとんとした表情で地面に崩れた。

 後からやってきた兵士達も、剣戟の乱舞を放つがその全てが空を斬り、逆に闇の騎士が持つ槍が生身の兵士の胸を貫通した。

 自分の胸に突き刺さる槍と、ゆっくりと全身に伝わる死の感覚に恐怖し、兵士の絶叫が轟いた。

 騎士の擬態を持つ黒い者は、失血死しかかっている兵士の上に立つと、金属通しが擦れるような不快な奇声を発した。

 勝利の雄たけびのつもりなのか? だがそれは違った。次の瞬間、黒い騎士の全身から黒い血管のような組織が幾本も飛び出し、兵士の顔や腕、足に吸い付いた。

 そしてその血管は、兵士の血管に結合し黒い液体を流し始めたのだ。

 口から泡を吹き、白目を剥き出しにしながら痙攣する様に、覚悟を決めて突進していた兵士達の足が止まる。

「何なんだ!?」

 黒い液体は、兵士の首から顔に昇り頭まで進んでいる。

 それと平行し、皮膚が黒ずんで行くのが見えた。

 兵士の全身が黒く染まると、闇の騎士は血管を抜いた。

「おい、大丈夫か?」

 そう言って近づく別の兵士……。

 その時、黒く染まった兵士が、心配をしていた兵士の首を剣で斬り落とした。

 歓喜の表情で。

 そう……兵士は、黒い魔物に変えられてしまったのだ。

 奇声を上げるその声も、もう人ではない。


 そんな状況に足止めを喰らう兵士達をよそに、無数の軍勢が城内に侵入を続ける。

 門を侵入すれば、長い廊下が見える。

 そこを埋め尽くしているのが城外の窓から確認できる。


 アウルは、腰に掛けている大きな袋からメカニックボールを取り出し、レンズを押し込むと、力いっぱい投げ飛ばした。

 メカニックボールは、城の窓を突き破ると、一階の廊下に着地した。


 ………………


 ………………


 一瞬にして、凄まじい閃光がバーンニクス城の一階から噴出し、庭園にいる闇の軍勢までもを蒸発させた。

 残存する光に腕で目を隠しながら、アウルが城に近づく。

 ゆっくりと弱まる光の中、アウルは窓を突き破り廊下へと侵入した。そして再び入口の門から侵入を始める闇の軍勢に炎の刃を飛ばした。

「ヴェリタス・アヴェインッ」

 炎の刃は、赤いカーペットの上を目にも留まらぬ速さで突き進み、先頭の闇の騎士の額を貫いた。

「燃え尽きろ」

 アウルがそう言うと、闇の騎士の額から紅蓮の炎が噴出した。だが、相手は、闇の属性。

 何事も無かったかのように炎を振り払うと、闇の騎士達は紅い眼光を光らせアウルに襲い掛かった。

 たった一人のアウルに約三十体もの闇の騎士が同時に襲い掛かる。

 間違いなく、全てを防ぐ事は不可能。

 そんな事が分かっていても、引く訳にはいかない。

「シルディアッ」

 そう叫びながら床に掌を押し込んだアウルを中心に、丸い魔方陣が展開され、硬い防御壁が作られた。

 バーンニクス城を守る不死鳥の結界同様、アウルの周りに張られた防御壁が、闇の騎士の進行を食い止めた。

 だが、外の結界ほど強力ではない為、今の内に次の手段を考えなくてはならない。

「くそっ、パル。攻撃呪文だ……!?」

 咄嗟に出た言葉にアウル自身驚いた。

 いなくなったパルの名前を呼んでしまったからだ。

 長い今までの旅の中、二人で協力し難を逃れた事が何度もあった。兄弟のようでもあり、一心同体のようにコンビネーションを生み出し窮地を乗り越えてきた。

 パルが居る事が当たり前だと思っていた。だが、パルはもう居ない。

 自分が追い出してしまったのだから。

「クソッ」

 アウルは、袋から最後のメカニックボールを取り出すと、レンズを押し込んだ。



 城の門前である庭園では、兵士達と闇の軍勢の攻防が続いている。

 攻防と言っても、兵士達は一方的に防御に徹している。攻撃が効かないからだ。

 だが、闇の騎士が持つ武器は、大きな丸い盾で防ぐ事が出来た。

 それでも、時間と共に兵士達の数は減っていき、倒れる兵士の皮膚に黒い血管が突き刺さり続けた。

 黒い液体を体内に流され、ゆっくりと汚染されてゆく。

 そんな状況と同じ者がいた。


 ――リュウジだ。


 闇の軍勢を取り込み、化け物へと変貌したゲラヴィスク教のジェリル。

 正確に言えば、闇のモノがジェリルの死体に寄生しようとしたが、逆に彼女自身の精神力の強さに糧とされてしまった。

 そのジェリルの左右上下に裂けた口から飛び出た触手が、リュウジの全身に突き刺さり、流された黒い液体が今まさに、首許を駆け上っていた。

 口から泡を吐き、白目を向くリュウジの意識が薄れ、全身から力が抜ける。


 その時、ジェリルの頭部が爆散した。

 触手が体から抜けたリュウジは吹き飛ばされ、雑草の中に埋もれた。

 意識は依然回復しない。


 直ぐに頭部が再生したジェリルは、何が起こったのか振り返った。



 城内から最後の閃光弾の輝きが噴出した。

 何も見えない光の中、防御壁を解いたアウルは、上階に侵入した敵を倒すために、エントランスホールの大きな階段を上った。

 高価な絵画にアンティークのランプが飾られた石造りの壁に沿いながら、二階に到着すると、数多くの豪華絢爛な応接室を通り過ぎ、更に上階を目指す。

 三階へと到着すると、食堂へと通じる廊下の奥で子供達が闇の騎士達と戦っていた。

 フェイン率いる子供達は、武器庫から見つけた粗末な武器と盾を装備し、闇の騎士の攻撃に耐え続けていた。

 敵の攻撃に命を落とした子供達の亡骸を目にし、アウルは怒りに満ちた表情で飛び掛った。

「このぉッ!!」

 だが、空振り。

 アウルの到着に気付いたフェイン達が安堵の表情を浮かべ、それでも木製の盾を握る拳には力が込められていた。

「アウル様」

「俺がお前達を守ってやる。もう後悔はしたくないんだッ」

 その後悔とは間違いなくパルの事だ。

 アウルは、炎の塊を闇の騎士達の胴体に押し入れた。

 上半身が焼け消えたが、数秒もすれば再生するだろう。


 ただ、奴等の注意を引きたかったのだ。


 アウルは、敵の目が自分に向けられた事を確認すると、急いで一階まで戻った。

 しかし、調度残存していた光が治まった頃で、闇の軍勢が城内に入り込んで来ていた。

 額に汗を滲ませたアウルは、腰の袋に手を入れた。

「嘘だろ。もう全部使っちまったのか」

 袋の中には、既に閃光弾は入っていなかった事に気付く。

 ただの時間稼ぎだと解っていても、何か策を練るだけの時間が欲しかった。

 そう。今のアウルにもこの状況を打破するだけの術は無かったのだ。

 後方からもアウルを追いかけてきた闇の騎士達が迫っている。

 悲壮感漂う眼差しで、正面から門を潜り抜けるモンスターの大群を見つめた。

「この野郎ッ」

 アウルは、絶望の中で拳を高らかに掲げると、紫電を纏いながら一気に地面に叩き付けた。魔方陣が展開する。

「スプェイキーバーストッ!!」

 凄まじい放電がアウルを中心に広がり、暴れ周るスパークが闇の軍勢を掻き消す。

 壁面をスパークが削り落とし、シャンデリアが花火の様に電撃を帯びながら砕け散った。

 窓を突き破り外にいる敵をも掻き消す。

 勿論、一時的にだ。

 恐らく、アウルに残された最後の手段……。


 徐々に 勢いを失ってゆくスパークが、縮小していく魔法陣に共鳴しているかのように弱弱しくなってゆく。

 そして、精魂尽きたかの様にアウルは膝から崩れ落ちた。


 直ぐに闇の軍勢がアウルを取り囲んだ。

 伸びる触手が全身に突き刺さり、黒い液体が注入され始めた。


 その時、アウルの周りにいた闇の軍勢を何者かが次々に斬り倒して行った。

 金髪の少年。

 その手には白銀に輝く剣が握られている。

「僕の事、呼んでくれましたよね? 師匠」

「パ、パルか……」

 力無く驚くアウルに笑顔で応えるパル。

「どうして?」

「言ったでしょ。僕にだって出来る事があるって」



 城の外で振り返ったジェリルの先に、不死鳥の結界を貫通した鉄製のトンネルがあった。

 だが、闇の軍勢が入って来ない。

 次の瞬間。なんと、大量の人間達が馬に跨り侵入して来た。

 それぞれの手には白銀に輝く剣が握られている。

 雪崩のように押し寄せる人間の軍隊が、城下町で蠢く闇の軍勢を斬りながら駆け上がり、城内を目指す。


 軍隊の先頭で馬に跨る小柄な老人が、白く輝く杖を振り回すと、城内で身構えていたフェイン達の武器が白銀の輝きを帯び始めた。


 パルに、魔力を回復させる聖水を貰ったアウルは、一気に飲み干すと窓から外の様子を見下ろし、人間の軍勢を率いる老人を見て驚いた。

「大先生ッ!!」

 アウルは、完全回復した体で窓から飛び降りると、大先生と呼ぶ老人の許へ駆け寄った。

「アウルよ。よく絶えたのぉ」

「どうして助けに来てくれたんですか?」

「お前達の為ではない。パルの為だ」

「パルの為?」

 そう言って、振り返るアウル。

「エルダニヨン帝国にやって来たパルが、必死に訴えかけたのじゃ。敵国のバーンニクスが闇の軍勢と戦う事になるとな。初めは誰も耳を傾けんかった。じゃがのぉ……」




「何故我が国が、荒廃と堕落に浸る小国を救わねばならん?」

「あそこが落ちれば不死鳥も必ず殺されるでしょう。そうなればこの世界は終わりです」

 跪くパルが訴えかける。

「それは承知している。だからこそ我が国には偉大なる大魔道士フェルドゥグがいるのだ。彼の強力な結界がこの城を守り、風の神獣を司るアグリトュスの様に闇の軍勢の進行を防ぐ」

「その国は、滅びました……」

「何?」

 王の隣に居た大魔道士フェルドゥグは、眉を潜め何かを思案し始めた。

「たった数分で、跡形も無くなったのです」

「信じられん……」

「だからお願いです」

「ならん。お前が言っている戦いがもし、いにしえの戦いの再来と言うならば、その根拠を述べよ」

「HIKARI(光)が……。伝説の光の戦士が現れたのです」

 その言葉に、エルダニヨン帝国の王。その隣に座っていた王女。大臣達が息を呑んだ。

「それは本当か?」

「本当です。あのバルシェログを従えました」

「なんと……」

 王は、フェルドゥグに何かを訊ねるかの様に顔を向けた。

 それに気付いたフェルドゥグが返事をした。

「バルシェログがあの森から消えたのは事実ですじゃ。王よ、これから始まる戦が伝説の戦ならば、今こそ国との垣根を越え共に手を結び、先の世の子供達の時代を守る必要があるのでは?」

 金の顎鬚に手を当てながら、王が思案する。

「パルよ」

「はい」

「最後に問う。この大戦に加わる事になれば、我が国も大勢の犠牲が生まれる事にもなる。そうだとしても、そこまでしてお前がバーンニクス。この世を守りたい理由は何だ?」

 在り来たりな言葉なら王は断ろうと考えていた。

「僕には、大切な師がいます。ずっと一緒だったんです。苦しい時も楽しい時も……これからも共に旅がしたい」

「師を仰ぐ事は言い事だ」

 そう言う王の表情はまだ硬い。

「それに……」

「それに?」

「僕には……思いを告げずにいる人がいるのです」

「それは『愛』と言うやつか?」

「はい。だからこの戦いに勝って、救いたい。思いを伝えたいのです」

 すると、王の表情が綻んだ。

「愛は良い。良い響きだ。愛は神が人間に与えし素晴らしい感情」

 王の隣にいた王女もにこやかな笑顔で口を開いた。

「愛の力は闇をも切り裂く偉大なる力。王よ、これもまた運命かも知れぬ」

「バーンニクスの王が我々にした事は許す事は出来ぬ行為だった。力など貸せぬ。滅ぶなら滅ぶが良い。だが、パル。お前の為なら力を貸そう。良いか? フェルドゥグ」

「私も、もう歳ですじゃ。このままのんびりと暮らすよりも、大魔道士として腕を振るいたいモノです」

「では決まりだ」



 

 これまでの経緯を簡略的に聞いたアウル。

「そんな事が……」

「愛を尊ぶ国だからこそじゃ」

 そう言いながら、フェルドゥグはアウルに掌を向けた。

「お前の真の力を返す。あの日、ワシに啖呵を切って投げ捨てた力じゃ」

「まだ持っていてくれたんですか?」

「当たり前じゃ、お前はワシのたった一人の弟子じゃ。受け取れ」

「はい」


 そこへ近寄るジェリル。

 輝くエナジーの塊を受け取ったアウルは、ジェリルに気付くと瞬時にかまいたちを発生させジェリルを囲い込んだ。

「力が漲る」

「ワシも手を貸そうか?」

「いや、大先生は城をお願いします」

「わかった」

 そう言って、去っていくフェルドゥグを確認すると、アウルは更に風に狂気を織り交ぜた。次第に竜巻へと変わってゆく。

 普通の人間なら肉体が削ぎ落とされる程の風の刃が荒れ狂う。

 だが次の瞬間、内部からの激しい圧力によって、暴風の渦が解き放たれた。

 ジェリルは全くの無傷。

「へへッ」

 アウルは、まだ余裕の表情を見せ付けると、掌を突き出し反対の手を手首に添えた。

 アウルを中心に魔方陣が展開され、紋章が浮かび上がる。

「エクトプラズムッ!!」

 光刃が尾を引きながらジェリルを捉えるべく突き進む。

 ジェリルは、それを腕で弾きながらアウルへと駆け寄る。

 無数の光刃。その鋭さに腕が裂け、腹部を貫通するがジェリルは無表情で、突き進んだ。

 裂傷は直ぐさま治癒してゆく。

「化け物め」

 両手を広げ円を描き突き出すと、ジェリルは後方を大きく吹き飛び、城下町のメインストリートを突っ切った。

 闇の軍勢の進行で砕け散った城下町の城門の前へと飛ばされたジェリルは、腕を伸ばし、百メートルも離れた山頂のアウルの体に巻きつけた。

「何だ!?」

 そのままゆっくりと宙に浮くアウル。身動きが取れない。

 気付けば民家が小さく見える程に高らかに上げられていた。

 そして一気に振り落とされる。

 アウルは、隕石の様に落下すると、家畜小屋に突っ込んだ。

 レンガや木材が吹き飛び、藁と土埃が混ざった煙が巻き上がる。


 崩れた屋根を押し上げ出てきたアウル。

 藁のお陰でダメージが最小限で済んだ。

 その時、家畜小屋の壁を突き破り、伸びる腕が現れた。

 慌てて、家畜小屋から飛び出したアウル目掛け、待っていたと言わんばかりにもう一方の腕が迫る。

 アウルの周りに魔方陣が現れ、両手を振り下ろすと、光の剣が現れた。

 エナジーを硬質化させたのだ。

 その剣を握り締め腕を斬る。

 斬る。

 斬る。

 蛇の様に蠢く腕を幾ら斬っても、アウルの体力が消耗するだけだと確信したアウルは、城下町を駆け下り、一気にジェリル本体へ駆け寄った。


 ジェリルは、ニヤリと笑うと、口を大きく開いた。

 顎が裂け、耳元まで裂ける。

 すると、黒紫色の火炎球を発生させた。

 火炎球は、どんどんとジェリルの力を糧に膨らみ続ける。

 そして一気に吐き飛ばした。


 大気を歪めながら、突進する巨大な火炎球に、アウルは慌てて防御壁を作った。

「シルディア!!」

 しかし、火炎球の力の方が凄まじく、アウルのドーム型の防御壁を粉砕し、爆発。炎上した。




 雑草の中でピクリとも動かないリュウジ。

 すると、いきなり白銀のオーラが全身から噴出した。

「ありえねぇ……」

 そう言って立ち上がる。

「二十三回も殺されるなんてよ。まぁ良いか、これでスピリットと完全融合を果たしたって訳か」

 そう言って、後方を確認する。

 依然不死鳥の結界に悪戦苦闘する闇の軍勢。

 振り返ると、城下町からは炎が吹き荒れ、城が騒がしくなっている。

「んじゃ、第二回戦。始めっか!!」





 つづく


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