第33話 「奇跡の攻防」その2~Story of HIKARIチーム(後編)~
アンリが放った光の武器が邪龍王の喉を貫いた。
砲撃に備えていた咥内のエネルギーが、原型を維持できなくなり爆発を起こす。
黒煙を上げる邪龍王の顔が仰け反り、エクスフェリオンの頑丈な木の外装に食い込んでいた爪が引き抜かれた。
「お前、戻って来たんか?」
リュウセイの問いにアンリは笑顔で頷いた。
そのアンリの体表から噴出す白銀のオーラ。
それこそ、マリカが言っていた光のエネルギーなのだとリュウセイは一目見て分かった。
リュウジが放つ金色のエネルギーよりも強力で、真のスピリットの力。
「おい、また来るぜッ!!」
舵を切るガイの警告に身構える一同。
顔を纏う黒煙を振り払うと無数の裂傷が現れ、苦痛な表情が伺えた。が、瞬時に怒りに満ちる。
鋭い眼光が真っ赤に染まった。
「これ以上俺の船を傷つけられてたまるかよッ!!」
ガイは、スピードレバーを限界まで押し込み、一気に発進させた。邪龍王から発せられる憎悪と怒りが殺意へと入り混じり、全員の体を縛り上げた。
船員達は、その殺気にやられ身動きが取れずにただ震えているのだった。
「中々しぶといわね」
そう言うと、アンリは船尾で仁王立ちになり、追って来る邪龍王を見据えた。
一先ずダークリーパーの群れを抜け、巨大な山脈を越えた。
すると、前方に一本の線が垂直に立っているのが見える。それは遥か彼方の雲を突き抜ける程で、頂上は見る事も出来ない。
「アレが恐らくセーデンが居る闇の塔だろう」
「まだまだ遠いなぁ」
「今は、糸のようにしか見えんが、近づくと途轍もなくデカイぞ」
ガイの言葉にリュウセイが訊ねる。
「見た事あんのか?」
「一度近くを通った事がある。あの塔は、人間とエルフの死体で出来ているんだ」
「死体って!? どんだけやねん?」
まだどれ程の規模かは定かではないが、雲を突き抜ける様からして、その量は計り知れない。
邪龍王は、アンリの攻撃に深手を負い失速していた。とは言え、着実にエクスフェリオンとの距離を縮めていく。
アンリの許へ近づくリュウセイとロイド。
「お前、勝てるんか?」
リュウセイは涼しげなアンリの横顔を覗き込みながら訊ねた。
「わかりません。……だけど、足止めをする位なら出来ると思います」
邪龍王は、エクスフェリオンが射程圏内に入った事を悟ると、咥内にエネルギーを充填させ始めた。
無数の雷が、邪龍王に力を与える。その様子を確認すると、アンリも体の周りに無数の光の塊を発生させた。
「下がってて下さい」
その言葉に後退りするリュウセイ。
リュウセイは、この時思った。アンリを頼りにしている事を。
もう既に、アンリはリュウセイの力を大きく上回っている。それは近くにいるだけで感じる事実である。
それだけ、マリカの試練が凄まじかったと言う事だろう。
だがリュウセイは……悔しかった事も事実だった。
「何で俺は……」
スピリットの力は引き出せるが、一定値からは全く引き出せないのだ。ソラやアンリ、リュウジ。それぞれが目まぐるしく成長し、力を引き出して行く中、不思議とストッパーが掛かったかの様に強くなれない事をリュウセイはずっと感じていた。
アンリは、光の塊を個々の武器へと形状を変えると体の前に集結させ一輪の花びらを連想させるかの如く並べて見せた。それは円陣のようだ。
円を描く武器は、互いの距離の均衡を保ちながらエネルギーを連結させていった。
そして、容赦の無い邪龍王の砲撃が繰り出される。
大気を歪めながらエクスフェリオンを目指し伸びる膨大なエネルギーに向かって、アンリの気合と共に武器の円陣から強烈なエネルギー砲が発射さた。
互いのエネルギーが空中で衝突し、大地までもを揺るがす。
強烈な閃光、ほどばしるエネルギーのフレアが雲を掻き消し、近くのダークリーパーを瞬時に蒸発させた。
アウルが掛けたパワーアップの呪文で、数倍の威力を放つアンリのエネルギーで、やっと互角だった。
邪龍王は体を撓らせ砲撃に勢いを掛けながら突進を繰り返す。
「ここまで来て負ける訳にはいかないのよッ!!」
アンリは力強く踏ん張りながら、武器の円陣に向かって両手を突き出していた。
闇の軍勢はあらゆる場所まで進軍を進めていた。
バルシェログの森もその一つだ。
大木の間でひしめき合う暗黒の生命体。
それは、リュウセイ達が乗ってきた宇宙船までもを飲み込んでいた。
側に立てられている十字架を象った木が倒れる。そこに書かれている『ゲラヴィスク教』
宇宙船内でリュウジの一閃に命を落としたゲラヴィスク教の「ジェリル」の墓だ。
いくら敵対する相手であろうと、葬ってやろうと言うリュウセイの提案で埋められていたのだが……。
闇の軍勢を掻き分けて盛り上がる土。
まるでゾンビの様に這い出てくるジェリル。
それは恐らく、暗黒の力を秘めるジェリルの死体に反応した闇の軍勢が侵食、寄生したのだろう。
皮膚は黒ずみ目は溶けている。
口を開くと無数の舌が蠢いていた。
その刹那……。
無数の舌が周りの闇の軍勢を絡め取り喰い始めた。
限界以上に喰らおうと開く口は耳元まで裂け、縦にも裂ける。
のど許まで避けた化け物の様な口は何体もの闇の軍勢を喰い続けた。
そして……。
「ユル……セヌ……リュウジ……スピリッ……ト」
ジェリルの肉体に宿る記憶が闇の軍勢を支配し始めた。
ジェリルは、食事を済ませると黒いローブを身に纏いながらバーンニクス城へと歩いて行った。
バーンニクス城の前で脅える兵士達の下へ大勢のダークスパイデスが八本の足で突き進む。
「おい、来るぞ。俺達殺されるぞ」「アウル様はどこだ!?」「向こうで化け物の戦っているぞ」
すると、一人の兵士が剣を握り締めた。
「脅えるなッ!! 忘れたか!? 我々は己自身の為に戦うのではない。守るべきモノの為に戦うのだッ!!」
そう言ったのは城から見守るフェインの父、ダート。
「モロコシしか栽培していなかったアンタに何が出来るんだ!?」
その時、一体のダークスパイデスが商人に襲い掛かった。腰を抜かし崩れ落ちる商人の前にすかさず飛び出したダートが、盾で攻撃を防ぎ剣で足を斬り落とした。
地中から飛び出すダークスパイデス達の奇襲に恐怖し、怯む兵士達の中、ダートと数人の兵士は無我夢中で剣を振り回した。
貴族のダリルは、悲壮感溢れる表情で地面に伏せていたが、目の前の土が盛り上がり慌てて飛び上がった。
ロイドに習った通りに剣を振るダートの後ろで断末魔を上げる兵士。ダークスパイデスの鉤爪がのど許を掻き切っていた。
飛び散る鮮血を盾で防ぎながら剣を腹に突き刺した。
「駄目だ戦える人間が少なすぎる!!」
そんな兵士達の恐怖を一本の矢が掻き消した。
貴族に襲い掛かろうとしたロックスパイデスの額を貫いた矢。
一同が振り返ると、バーンニクス城の数箇所のバルコニーから子供達が弓を構え応戦してくれていたのだ。
彼らを率いるフェイン。
「父さんッ!!」
「フェインッ!!」
あれだけフェインを否定していた貴族の娘であるカルニアも慣れない手つきで弓を構えていた。
「お父様ッ!!」
それぞれの子供、または妻達が、フェインの説得で動き出したのだ。
彼らにとっても兵士達は大事な守るべきモノ。
心と言うのは理屈で抑えられる物ではなかった。
バーンニクス城のバルコニーを埋め尽くす家族に勇気付けられた兵士達は、剣と盾を握り締め奮起した。
弓を使えない者達の応援の言葉さえ、今の兵士達にどれだけの勇気と力を与える事か? 兵士達はこの時、初めてその事に気付いたのだった。
黒炎の大蛇の腹が地面をこするだけで、草が焼け消え、土の中の石が赤くなる。
「セルファス デスフィーヌッ!!」
そう叫んだアウルの手が炎の社との間にある大きな湖に向けられる。すると、湖の水が勢い良く水柱を作るや、アウルの体に引き寄せられるように湾曲した。
体を反転させながらその手を振ると、水柱はアウルの体の周りを旋回し渦巻き始めた。
ダークサラマンダーの突進を跳躍で交わしたリュウジは、新アイテムのエナジーグローブを使い、瞬時に炎蛇の腹の中で爆発を起こした。が、弾け飛んだ炎は再び集束をする。
「このクソ野郎が!!」
アウルの手がダークサラマンダーに向けられると水柱は、一気に直撃した。
ダークサラマンダーは、水柱に噛み付くように向かい、凄い勢いで水蒸気が発生した。
「頭冷やして冷静になれサラマンダーッ!!」
踏ん張る足に力が入り、突き出す右手だけではプレッシャーが大きく、左手を手首に添える。
アウルの食いしばる歯が顔を出す。
そんな召喚主の事など、闇の軍勢に寄生されたサラマンダーにはただの敵にしか見えない。
ダークサラマンダーは、迫り来る水柱を自らの熱で蒸発させながらアウルの許へ突き進んだ。
そして、零距離まで進んだダークサラマンダーは一気にアウルを呑み込んだ。
「アウルッ!!」
つづく