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第33話 「奇跡の攻防」その1~Story of HIKARIチーム(後編)~

 荒廃した大都市。


 少しの衝撃で一気に崩れそうな程の、亀裂だらけのビル。鉄筋や鉄骨が剥き出しになり大きく湾曲し、砕け散ったコンクリートから顔を出す。

 めくれ上がったアスファルト。

 人は居ない。

 車もない。

 閑散とした交差点の信号も、その存在がもはや意味を成していない事を知っているのか? 沈黙を続けている。


 そんな交差点の中央。


 直径二十メートル程の大きなクレーターの底から、鉛色の空を見つめていたアンリ。

 バトルスーツのジャケットは散り散りになり、シャツやジーンズパンツも至る所に損傷箇所が見られる。

 見るからに鋭利な物で斬られた裂傷だ。

 破れたシャツからは、くびれた腰が見えるが、その脇腹の裂け目からはどす黒い血と共に内臓が飛び出ていた。

 アンリは、朦朧とする意識の中で、喉の奥に溜まる血を吐き出そうと口を開くが、流れが止まる事は無く、鼻からも流れ出し呼吸が出来ぬまま生き絶えた。


 その様子を氷の表情で見下ろすマリカ。


 暫くすると、地面に転がっていたコンクリートの塊やガラスの破片が振動を始めた。

 その振動は次第に激しさを増し、遂には宙に浮き出した。

 至る所の地面から建物の破壊によって飛散した残骸が宙を漂い上昇してゆく。そして、それは元ある場所へと帰っていき、今にも崩れそうだったビルは、そうなる前の状態へと戻るのだった。

 無数のガラスの破片がキラキラと光を反射しながら舞い上がり続ける。


 捲れたアスファルトも石が削れる音と共に平らになり、アンリが息絶える大地も、凹んだ鉄板を反対側から押して戻すような音を立て何も無かったかのように静まり返った。


 すると今度は、アンリの体から垂れ流れる血が動き出し、体の中に戻ってゆく。

 飛び出ていた内臓も中に戻り、血の跡も消え傷口が癒える。

 散り散りになっていた服の破片も何処からとも無く集束を初め、アンリの身なりが元の綺麗な状態へと戻った。


 そして……。


 体に電気が走ったかの様に、突如としてアンリが飛び起きた。額に汗を滲ませ荒い呼吸で。


「大分、滅入って来たな」

 そう冷たく言ったのは他でも無く、マリカだ。

 白い羽衣に掛かる金の髪が風に靡く。

「もう何百回も殺されて……いつになったら……終わるの?」

 体が再生されても記憶だけは残っているようだ。

 アンリは丸で廃人のような虚ろな目でマリカを見上げた。

「そうね。お前が『イエス』と言うか、私を越えるまでは永遠に。イエスと言い、お前の体を私に預けた方が楽だと言う事は確かさ」

「それだけは……絶対……嫌ッ!!」

 そう言って、アンリは再び構えた。


 気合いを入れた瞬間、アンリの体の周りに光の武器が大量に現れマリカに照準を合わせた。

 マリカも同じく武器を出現させると、アンリ目掛けて飛ばした。


 空中で互いの剣、斧、槍、矢、鎌、それぞれの種類毎に沢山の形状の光が弾き合う。

 連撃の金属音と、衝突時に飛び散るエネルギーのフレアが両者の間に壁を作る。

 そのまま、二人は交差点から大きく跳躍し、空中で攻防を繰り広げた。

 弾かれた一方の斧が向かい側のビルの上層階を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 アンリが飛ばした大剣をマリカの斧が弾き飛ばしアスファルトを捲り上げながら爆発した。

 アーケードの看板は空振で粉砕し、窓ガラスが爆散する。


 フレアに弾かれたアンリは、オフィスビルの外壁に着地し、追ってくる槍を交わすために跳躍した。

 爆発するオフィスビル。

 慌てて、マリカの現在地を確認しようと顔を上げた時、無数の武器の先をアンリに向けた状態でマリカが突進して来ていた。

 急いで、自分の武器をアンリの体の周りに呼び寄せ、重ね合わせて盾を作る。

 そして、上空で凄まじい衝撃波と光が放出した。


 少しずつ光が治まると、アンリの武器は吹き飛ばされ、マリカの武器がアンリの体を貫いていた。

 肩、腹、胸、足、見ただけでも八箇所も串刺しにされ、裂傷だけで三十箇所以上。

「バンッ!!」

 マリカは手で銃の形を作り撃つ真似をした。

 その瞬間、アンリの体も粉々に吹き飛んだ。


 そして、また繰り返される……。



 それから、更に四十二回目の蘇生後。ついに……。


 膝から崩れ落ちたアンリ。

 その口は『イエス』の『イ』を言おうとしていた。

 想像を絶する拷問としか感じなかった。

 何度殺されようと、気が狂いそうな程の激痛を味わおうと、次の瞬間には蘇生され、また殺される。

 それでもアンリは八百八十一回も耐え続けたのだ。

 裏を返せば、それだけマリカとの力のさは大きかった。


 イエスと言えば、楽になる。

 そんな甘い囁きが天の救いだと感じたのだ。

 だが、最後の意地だけは残っていた。

 例え、自分の代わりにゲラヴィスク教を殲滅しガジャルを封印する為だとしても、体を乗っ取られる事だけは我慢ならなかった。

 それならば……。

「殺して……」

「ん?」マリカの眉間にシワが寄る。

「私を殺して、本当の肉体も込みで」

 暫く沈黙すると、マリカは頷いた。

「では、お前には天国へ連れて行ってやろう」

 そう言うと、指を鳴らした。


 瞬時にブラックアウト……。

 意識が遠のくアンリ。そして長い間忘れていた安息に身を委ねていった。



 ……………………。



「杏里起きなさいっ。遅刻よ!!」

 懐かしい声が聞こえた。

 ゆっくりと目を開けると、そこはアンリの寝室だった。

 白を基調とした清潔感のある部屋。

 イケメンシンガーのポスターが壁に貼ってあり、コルクボードには親友達との笑顔の写真が、花柄の押しピンで飾られている。

 出窓の縁には観葉植物やオシャレなサボテン、ビーズなどの小物も多数飾っていた。


 どうやって戻って来たのか?

 それとも今までの事は途轍もなく長い夢だったのか?


 そんな疑問が頭の中を錯綜さくそうする。


 そして、アンリの部屋の扉が開いた時、アンリの目から大粒の涙が溢れ出した。

「お母さんッ!!」

 アンリはベッドから飛び出し、母親を強く抱きしめた。

 いつものシャンプーの匂いも感じる。

 暖かみも感じる。

「もう二度と離さないから」

「ちょっと杏里ぃ。苦しいから」

「本当にお母さんだよね?」

 アンリは、幻では無いかと思い確認した。

「お母さんよ」


 アンリは思った、ここが天国なのかと。

 だが、もうどうでも良かった。

 母親がいて、普通の生活が待っているこの世界なら。現実だと思いたい。


 久しぶりに触る制服。

 慌ててかじる食パン。

 全てが幸せに感じながらも、自転車に乗り学校へと向かった。


「おはよー。杏里ぃ」

 アンリが教室の扉を開けると、ゲラヴィスク教にマインダーにされてしまったはずの、親友の奈菜瀬ななせ 美津穂みつほが笑顔で出迎えた。

「みっちゃん!!」

 アンリは、美津穂を母にした時の様に強く抱きしめた。

「無事だった?」

「何が? てか苦しいし、みんな見てるし」

 教室内の男子達は好奇な目や、興味津々な目を向け笑う。

「松之宮と奈菜瀬はレズかよ」「チューしろよ」

 煽られるほど美津穂がアンリを引き離した。

「どうしたのよ?」


 すると、教室の後ろの扉が開き、学生服のソラが入って来た。

「朝から加藤の説教とか最悪だぜぇ」と言い、友達と戯れる。

 その姿に慌てて声を掛けた。

「神城君ッ!!」

 ソラもまた、ブラックホールに突入した宇宙船の中で消えてしまって以来だった。

 ソラが消えてしまったのは、自分の責任だと思い、責め続けていたのだ。

「大丈夫なの? 宇宙船の中で消えたから心配していて……私の為に。本当にゴメンなさい」

 すると、ソラは少し顔を赤らめながら「な、何の事?」と訊ねて来た。

「えっ? 覚えてないの? ほら、ゲラヴィスク教にみんながマインダーにされちゃって」

「げらヴぃすくきょう……って何?」

 その言葉に驚くアンリ。

 全てを忘れてしまっているのか?


 唖然とするソラの顔を見て、アンリは教室内を振り返った。

 自分に向けられる疑惑の目。

 いつしか、アンリは普通の生活が送れない程の経験を積んでしまっていた。

 不思議と孤独感が襲ってきた。


 だが、それもじきに慣れるだろう。

 そう思った時、教室の扉が勢い良く開いた。

 そこに立っていた人物を見て一同が硬直する。ソラでさえも。

 その人物の正体を知っているのはアンリだけ。

「ゲラヴィスク教ッ!!」

 黒いフードを全身に纏い、悲しそうな仮面を付けている。そして、傷だらけのアンリの母親が、ゲラヴィスク教に無理や連行させられていた。

「杏里ぃぃ」と泣きながら逃げるように訴えかける母。

 だが、今のアンリは、昔の非力なアンリではなかった。

 マリカに何度も殺されはしたが、その力は大きく飛躍している。目の前の敵を倒せるだけの力はあると確信した。


「もう誰も死なせはしない。私がみんなを守るッ!!」


 そう叫び、アンリは全身に力を込めた……が、何も起こらない。

 どれだけ集中しようが力を入れようが、スピリットの力を感じないのだ。

「えっ!? 何で?」と驚きを隠せずに自分の両手に目をやる。

 ゲラヴィスク教は、アンリの母の首を左手で掴み上げると、右の手に槍を現せた。

 串刺しにしようとでも言うのか?

「や、やめて」

 悲壮感漂う表情で飛び掛ったアンリだったが、ゲラヴィスク教の拳に弾かれ、窓際の壁に激突した。

 内臓が悲鳴を上げ、息が出来なくなり、机と椅子を薙ぎ倒しながら床に崩れ落ちた。

「い、イヤァァ!!」

 絶叫する母の言葉に耳を貸す訳もなく、ゲラヴィスク教の槍がアンリの母の口から後頭部を貫き、壁に突き刺さった。

 両目が上を向き、口から溢れる血は槍を伝い、滴り、木目の床に広がってゆく。


 騒然とする教室内。

 阿鼻叫喚。

 ゲラヴィスク教が振り回す剣が、赤い血飛沫を巻き上げ、クラスメイトの腕や足、顔が次々と宙に撥ねられた。

 大切なクラスメイト、母親をまたしても救えなかった自分に激しい憤りと、それ以上の哀しみ、絶望感がアンリを襲う。

「どうして、力が……」


 両手を失い、失血死間近のソラが涙を流しながらアンリに訴えかける。

「逃げろ……に、げ……ろ」

 すると、今度は、教室にリュウセイが入ってきた。

「て、寺村さんッ!!」

 ゲラヴィスク教は、リュウセイを見るや、瞬時に距離を詰め、エルボーを顔面の食らわせた。

 黒板に激突し、崩れ落ちるリュウセイを追う。

「お前の仲間を全て殺してやる。全てな」

「やめて……」

「力の無い自分を恨むのだ」

「やめて……」

 リュウセイの首を掴み上げ、反対の手に槍を出現させる。


「やめろって言ってるだろッ!!」

 怒りが頂点に達したアンリの体から突如として吹出した白銀のオーラ。

 体の周りに現れる光の武器がゲラヴィスク教を貫いた。


 そしてブラックアウト……。



 気が付くと、そこは荒廃した大都市。

 交差点の中心で白銀のオーラを纏い立っていたアンリ。その前に立つマリカ。

「八百八十二回で合格か。前世よりも百七十回多いが、まぁ良いだろう」

「夢……?」

「幻覚さ」

 マリカはそう言うと、アンリの目の前に空間の歪みを作った。

「私がお前と関わるのもこれが最後だ。その歪みに触れれば、私はお前と完全に融合する。この力をどう生かし、磨いていくかはお前次第」

 真剣にマリカの言葉を聞くアンリ。

「その歪みに触れれば、今までの外での記憶が戻り、お前の意識は元の体に戻る」

「わかった」

「頼んだぞ。私の生まれ変わりよ」


 アンリは力強く、ゆっくりと頷くと、歪みに触れた。



「おいッ!! 起きろッ!!」

 リュウセイの叫び声が聞こえた。

 ダークリーパーと邪龍王の襲撃を受ける空賊船エクスフェリオン。

 マリカであった時の記憶は全て甦った。

 姿がアンリに戻り、驚くリュウセイの前に立ち上がったアンリは全身から白銀のオーラを放出し数多の武器を作り上げた。

 吹き荒れるオーラだけでダークリーパーが消滅する。

「お前……」

 リュウセイの問いにアンリは答えた。


「今度は私が守る。寺村さん、アナタも」


 次の瞬間、強烈な光が邪龍王を貫いた。





 つづく


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