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[1作品目]  作者: Norad
6/12

06(3404文字)

 今日も件の英語の授業が始まった。

 しかし、昨日とは違い愛は早く来て自分の意思で俺の隣に座った? みたいなので、無意識に怯えさせるといったことはなくなったようだ。

 少しだけ会話した仲とはいえ、幾ばくかは気楽になった。


「橘くん、ここって……」

「ああ、そこはspellが入るんだと思う。俺も詳しくないから分からないけど。間違ってたらごめん。

「そんな……ことないよ。ありがとう」

「おう」


 基本的に愛がこちらに聞いてくる流れだったが、俺が分からないところは愛に聞いたりしたりして、なかなかいい時間が過ごせた自信がある。

 そういうときは時間が早く経つのが理なのですぐに授業は終わった。と、同時に昼休みを迎える。


「はぁ~久々に真面目にやった気がするわ。英語の授業」

「そうなの?」

「おう。基本的に適当に板書するくらいしかしなかったからな。だから新鮮だった」


 班活動――――というよりは二人組だったが、結構悪くない時間だった。

 たまにはいいことするじゃんと英語の教科担任に対して上から目線で評価して、先程からずっと頬を膨らませてだんまりを決め込んでいる面倒くさいお姫様の相手をすることを決意する。

 触らぬ神に祟りなし。しかし、時々ポカポカ叩いてきたりしてくるので関わらないともっと面倒くさいことになりそうだ。仕方なく、そう仕方なく対応。


「言いたいことがあるなら言葉を発しないと分からないぞー」

「……愛ちゃんばっかりと喋ってるんだもん。私って浮気されちゃったの?」

「そ、そんなっ、う、浮気だなんて……」

「変なこと言うなって。愛さ……面倒くさいから愛でもいいか?」

「う、うん……大丈夫」

「そうか。それと、いちいち愛もこいつの言葉真に受けなくていいから。面白がってるだけだぞこいつ」


 なんで毎回おかしなことを言うんだか。そもそも俺らは付き合ってもねえし、まだ仲良くもそんなにはないはずだ。

 別に鈍感なわけではない。ただただ単純に、事実としてそういう仲ならともかく、何にもなってない今の間柄で言うような言葉ではないだけ。


「ぶぅ……失敗しちゃったかなぁ……」

「は? 何が?」

「こっちの話ー乙女の独り言をいちいち拾わないでよ」

「なら言わなきゃいいんじゃありませんか? お姫様」


 身近な女で知っているのが花華だけっていう状況で物を言わせてもらうと、女って基本的にこういう我儘なところがある。……といっても関わったのは灯里と愛だけ。

 群れると強く、1人だと声も小さいという奇跡と呼べるほどのギャップ(偏見)をやってのける彼女たちはきっと多少は自己中心で生きていかなければならないのだろう。……これも偏見。


「愛は灯里の真似をして、灯里は愛の真似をした方がいいんじゃないか?」


 足して2で割ると良さそうな方向に向かうとよく聞くが、残念ながらそれはすぐにできることではないので、まず最初は極論で相手の全てを真似てみるのはどうだろうかと提案すると、


「翔くん……の馬鹿。う~ん、愛ちゃんはやっぱ間が上手いっていうかゆっくりだよね~」


 早速ノリの良い灯里が愛の真似をし始めた。馬鹿は余計だが、そこはかとなく新鮮な感じもあることは確かだ。


「愛ちゃんも私の真似してみてよ~」

「え……えっと……翔くん……の馬鹿……?」

「そういう真似じゃなくて、私らしい喋り方だよ~」


 勘違いしたことが恥ずかしいのか一瞬で真っ赤になった愛はやたらと忙しなくブンブン頭を左右に振り始めた。が、流石に長時間は厳しかったらしく、すぐによろけてしまう。

 倒れそうになる愛の腕を掴んで引き寄せると、それはそれで落ち着きなくなり始めたので、同性である灯里に愛を託した。


「お~よしよし、翔くんにセクハラされなかったかい?」

「してねえよ」

「ご、ごめんなさい……名前呼び……」

「俺のこと? いいって。大体俺も愛のこと呼び捨てだし。別にそのままでいいよ」

「……う、うん……」

「出た! フラグ建造マシン! 主人公!」

「……余計なことは言わなくていいからな? イラッとゲージがどんどん溜まってるからな?」


 ちなみに全部で8個まで貯めれるが、その瀬戸際まできていることはきちんと知っているだろうか。

 ……とにもかくにも、灯里は余計な一言が多すぎる。


「そういうところがあるから愛以外に友達がいないんじゃないのか?」

「そ、そんなことないもん。愛ちゃん以外にもいるもんね!」

「いいや、いないね! 何故なら散々時間が経っても見たことないし、最悪ここに証言できる愛がいるからな!」

「翔くんの憶測でしょ! ねぇ愛ちゃん」

「……わ、私も見たことは……ないかな?」

「ほらな! わはは! 直さなくちゃだな!」

「いーやーだー! そもそもそんな事実がないもん! 確かに私はつい余計なこと言っちゃうけど、直す必要があるとは思えませーん! 翔くんだって私と愛ちゃん以外に友達いないくせに!」

「別に必要性が感じませーん! 多ければいいってもんじゃないですー!」

「はぁ……はぁ……なら……私の交友関係にとやかく言うのはおかしいんじゃ……ないかな?」

「……はぁ……そうだな……俺たちは同じ問答を何回……繰り返すんだろうな」


 もう俺たちにとって永遠の問題なのかもしれない。両親に花華や峻大に言われても同じことを言い続けてきたし自分の意見は常に決まっている問題を解こうとしても時間の無駄だった。

 完全なブーメランだ。それを似たような存在の灯里にぶつけて何やってるんだか。自分自身に呆れてしまう。


「……仲良く……ね?」

「おう。悪かったな灯里。俺も人のこと言える立場じゃねえわ」

「わ、私が余計な一言を言っちゃうのも悪かったんだし、一方的に翔くんが悪いわけじゃないよ。私もごめん」

「……お前がしおらしいと雨が降りそうだな」

「はいそこぉ! それが私でいう余計な一言ってやつだからね!」

「ぶっ、何だよその必死な顔」

「……灯里ちゃん……面白い顔」

「愛ちゃんまで!? ちょっと待ってよ、今どんな顔してた私!」


 過去は変えられない。いつだって過去の過ちを悔やんで前にだけ進むしかないのだ。

 もっとも、別にそんな黒歴史でもなんでもないちょっとした変顔など、一週間もすれば灯里の頭からは消えているだろうが。

 過去を変えたい、戻りたいなんて感情は少なくとも俺にはほとんどない。強いて言えば余計なプライドを持って周囲を拒んで悦に浸っていた俺をぶん殴りたいってだけ。……十分あるな。

 基本的に流れに乗って学校に通い、卒業し、社会に出る。誰が何をしようが、その流れからは避けられないため、俺らは一種の道具や物なんじゃないかと疑問に思うことも多々ある。

 そこに介入しようがないのだ。受験のある保育園や小学校など選択しても大学に進学することを決意したとしても社会に出るというところは変わらない。

 定年まで働き続けるということは人間のあり方として既に決まっており、過去なんか一切関係ない。

 いつだって過去を過ごしたあり方を悔み、戻りたいと思ってもその意思は汲み取られない。他人も今しか見ない。……犯罪者や問題のある人物は除く。


「翔く~ん? 何難しい顔してるの?」

「ちょいと考え事。人間って基本的に生き方を決められてるなって思ってさ」

「そうなの? でもさ、人によって全然違くない?」

「そりゃ細々と見ればな。俺が言いたいのは大まかな枠の話だよ。小中校、進む人は大学まで進んでも結局社会に出たら同じだろ? 定年まで働くということはさ」

「なるほど~翔もそんなこと考えるんだね。基本的に何も考えてないみたいなこと言ってたから、今を生きてる人かと思ってた」

「正直その通りだけどな。俺だってたまにはそういうときもあるさ」


 考えなくていいのならできれば考えたくない。答えが出ない問いを繰り返しても時間の無駄だから。

 けどそれでいい、済むという話でもない。避け続けてもいずれ直面するわけだし。


「……翔くんなら……きっと大丈夫」

「そうか? しっかり者であろう愛がそう言ってくれるなら安心だな。灯里に言われると少し不安になるけど」

「またそんなこと言う。私、泣いちゃうよ?」

「泣けば? お前って卒業式とかも泣かなそうだし涙出しといた方がいいぞ」

「な、泣くし! 何ならテストの結果が出る度に泣いてるし!」

「多分両親はその娘の姿にもっと涙してんだろうなぁ」


 その姿を思い浮かべるといかん、俺の目にも涙がこみあげてきた。

 ……将来のことを思って、少しだけ不安になった日となった。ついでに、灯里は頭が悪いということに気づいた日となった。

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