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[1作品目]  作者: Norad
1/12

01(3269文字)

 俺は青春という言葉がとても嫌いだ。

 それは何故か。別に俺とは一切合切無関係だから。

 側でイチャイチャとされた時なんて思わず吐きそうになるくらいだし、もし夜にカップルを発見したならロードバイク用の一際明るいライトの点滅状態で照らしたくなるくらい。

 大体、どうして人と関わらないといけないのか分からない。

 大切な家族がいればいいじゃないか。それも結局他人と関わっているじゃないかと言われれば痛いところを突かれたって感じだが、家族は誰にだってそういうものだろう。


「あ~この地球からカップル消えないかな~」


 いくら嘆いたところで何も変えられない。それでも言わずにはいられないのだ。

 あちらにも言い分があるように、こちらにだってあるのだから。

 そんなグレーな状態の俺を笑ってる奴らも一緒くたに消してほしい。

 願ってばかりじゃなくて実際に力や勇気、行動力があればとっくにやってる。

 けれど、大切な家族、それもお世話になって両親には迷惑をかけたくないというジレンマ。

 第一、そんな小汚くイチャついてるカップルを○して刑務所なんぞに入りたくないしな。

 というわけで、俺の1日の大半はこうして嘆いて終わってしまうといわけだ。

 すなわち、学校にいる時はそのことしか考えてない。

 話しかけられたり、ましてやこちらが話しかけるなどありえない。

 学校が終わればダラダラと下校し、帰ってゲームやって飯食って風呂入って寝る。

 他から見れば普通でつまらない毎日と捉えられるだろう。が、普通で何が悪いと言いたい。

 顔だって普通だ。運動能力だって学力だって普通。

 普通、普通、普通、別に中間あたりに所属しているなら何も問題はないのだ。

 ま、コミニケーションスキルは最低より遥かに低いのだが。

 しかし、いかに他人を普段から見下していても、何かの拍子に話しかけられればつい返事がどもる。

 散々馬鹿にしてきた奴らでも瞬時に脳が多分判断してしまうのだろう。奴らの方が格上の存在だと。

 んで、その話をたまに姉や母親にすると散々笑われるわけだ。


「思い出したら腹たってきた。大体なんだよ、俺と1つくらいしか変わらないのによ」


 基本的に姉に逆らうことはできなかった。弟もいるにはいるが、何故か弟は除外され長男である俺だけが使われる毎日。

 クタクタに疲れて帰った時だってアイス食いたいから買ってきてだの、本買ってだの、本当に勝手な姉だ。しかも金を払わない。

 一度だけでなく大げさに言えば何百と被害にあったために今では小遣いを貰ったその日に全て消費する日々を送っている。


「やめよ、いちいち自分から悪い方に持ってく必要はないし」


 俺のような弱者はよくこうやって考え事や思い出しをして自らマイナスへ持っていく癖があるからな。

 これ以上姉の振る舞いの被害にならないよう最大限に警戒しなければならない。それをできるのは俺しかいないのだから。

 他人に変わることを期待するなんて愚か者のすることだ。


「ただいま~」

「兄ちゃん、おかえり」

「おう。今日は早いんだな峻大(しゅんた)

「うんっ。クラブ休みだったんだ」

「そうか」


 やる気や積極性がある峻大は俺と違ってサッカークラブに通っている。

 いつもは俺が帰る夕方頃に再び自分の学校へと舞い戻りサッカーをやっている時間だ。

 ぼけっとしながらほぼ毎日峻大がいない食卓を迎えるたび、よーやるなって思うのはきっと俺だけではないはず。


「クラブ、楽しいか?」

「楽しいよ! 兄ちゃんもやってみる?」

「そんなところに俺がいっても足引っ張るだけだし、そもそも年齢が全然ちげえよ」


 実を言うと子供から大人までが自由に参加できる野球で言うところの草野球ならぬ草サッカーチームみたいなものだから参加しようと思えば参加できるのは知っていた。

 というのも、あまりにも峻大がしつこくやらないかと誘ってきたためにお試しで言ったところ、わずか5分くらいで全ての体力を使い果たした苦い思い出があるのだ。

 うちの高校のサッカー部の連中は陰キャ揃いだが峻大は全然違くて、とても明るく人懐っこい。そのために俺とは違いモテてるらしい。

 おまけに憎き相手である姉、花華(はなか)もモテるため、いつも母さんにあんたまだ彼女できないのと言われる立場になっている。


「母さんは?」

「仕事だって。なんか急用らしい」

「ほーん。やっぱ忙しいんだな」


 何やってるかは特に聞いたことはない。けど、過去にも何度かこういうことがあった。

 そして、こういう場合は基本的に自由な夕食になるのも恒例行事。

 何を食べようかと冷蔵庫を物色していると、その件のボスが一階へとお出ましになられる。


「翔~何か作って~」

「自分でやれ!」

「姉に向かってその口のききかたはよくないと思うけど~?」

「だったら姉としてしっかり振る舞ってくれよ……なぁ峻大」

「う~ん、まぁ姉ちゃんも姉ちゃんで疲れてるわけだし、それに兄ちゃんの作る卵焼きが食べたい気分なんだけど……」

「峻大……お前もか」

「あはは、ごめんごめん」

「思いっきり笑ってるのがムカつくな。姉貴もそれでいいか?」

「うん、それでいいよ。ま、そもそもの話、あんた卵焼きしか作れないしね」

「うっさい。文句言うなら食わせねーぞ」


 とかなんとか言いつつ作ってしまう自分が情けない。

 卵焼きへの知識を深めるならとても難しい調理になってしまうが、俺が作るものなんて適当に卵を焼いて巻いての簡単卵焼きだ。ものの5分くらいで完成し、机に置かれた皿の上にその物たちが並ぶ。


「いただきます」

「いただきま~す」

「いただきますっ」


 食べている最中は無駄に会話をしなかったり、口をちゃんと閉じて噛んだり、終始の挨拶をきちんとしたり、そういう躾は両親から嫌というほどつけられたので破るものはいない。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした~」

「ごちそうさまでしたっ」


 食後は皆で温かいお茶を飲むのも恒例なこと。俺らが大人になるにつれて両親がいる回数は極限まで減ってしまったが、その恒例だけは当たり前となっていた。

 俺が好きな普通、当たり前な日常がそこにある。

 憎き相手である姉ちゃんも、可愛げのある弟も、俺にとっては大事な家族であり人間だ。

 だから、その誰かが欠けてもだめなのだ。もし誰かが死んだら、俺も死ぬって決めてるくらいの勢いで。


「翔、あんた友達ちゃんといるの?」

「友達? はっ、大体友達の定義ってなんだよ」

「……いないのね。それじゃあ彼女なんかまた遠い夢か」

「別に彼女なんかいらないやい。足枷にしかならんし」

「あんたねぇ、世話になった両親に孫を見せるのが子供ができる最大限の行為なんだよ?」

「そうかぁ? 母さんも父さんも別に見たかないと思うんだけどな。第一姉貴がいるし峻大だっている。俺が頑張る必要はないんだろうよ」


 それに頑張ってどうにかなる問題じゃないしな。無駄に終わる努力なんてしたかない。


「も~可愛げなくなっちゃって。いつからそんな捻くれ坊主になったんだか」

「最初からさ。露見してなかっただけだよ」


 俺にだって期待していた時期だってあった。けど、あれだけ蚊帳の外を過ごしてく者の気持ちも分からないくせに無理言わないでほしい。


「姉貴が股開けばすぐに解決する問題だろ」

「簡単に言わないでよっ。どうして男ってそんなデリカシーないの! もう知らないから」

「俺だって今後のことなんて知らねーよ」


 先に話振っといてそれはないだろ。とは言わずにそれだけ言って背を向けた。

 この通り、俺と花華の間では喧嘩が耐えない。そして、それをハラハラと見つめる峻大というのがいつもの構図だった。


「悪いな峻大」

「別に僕はいいけどさ。兄ちゃんもお姉ちゃんに優しくしてあげなね」

「……お前だけでも優しくしてあげればいいんだよ。可愛げのない弟なんていらないんだろ、きっと」


 誰が欠けてもなんて言ってもこんな矛盾行為を続けてきた俺はおかしいのだろう。

 でもどうしようもない。他人に変わることを望むなどもってのほかだが、自分を変えるということも難しいのだから。


「ま、ぼちぼちやっていきますかね」


 俺の言葉に峻大も反応することなく、その呟きは虚空に消えていった。 

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