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悪の親は悪

「こほん。では御披露目会の準備をするとしようか」


「そうですねザルム様」


俺のスキルを見てトリップしていた2人が5分ほどしたら落ち着いたようで戻ってきた。

俺を処分する気が無くなったから、5歳の誕生日を祝う御披露目会の話に…ならなかった。


「と、その前にジルアに聞きたい事があります」


グラムは俺に向かって口を開いた。

俺は少し驚いて右足を少し後ろに下げた。


ちなみに様付けでない理由は俺が子供だから、だけではない。グラムはザルムの弟、つまり叔父であるからだ。

この世界の貴族は長男だと家を引き継げるが次男以下は特筆すべき点がない限り長男の秘書などになるのが通例であり、そこに不満などが生じる事はあまりない。

不満が生じにくい理由は幼少期から洗脳に似た教育がされているからだろう。


「なんですか?」


さて、そんな事は置いてグラムの話を聞く。


「ステータスのことですが、魔力量と精神力について何か心当たりはありますか?

5歳児の魔力量は上流貴族でも平均1万ほど、それが10万近くもある、精神力Aはハッキリいって異常です。精神力Aは死すら生温く感じる拷問に耐えられる値ですよ?」


「魔力量が10万近くに精神力Aだと!?それは本当か?」


「はい」


グラムは返事と共に俺のステータスプレートをザルムに見せた。


「その他のステータスに関しても思考力Cは1年に1人、国にいるかいないかぐらいで存在しているのであり得ない話ではないですが。

精神力Aは本当に異常です。

前例など無いでしょう」


2人は俺をジッと見つめた。

ふむ、魔力量については本当のことを言えばいいか。


「魔力量は3歳ぐらいから本に書いてある魔力制御の遊びを魔力切れまでしていたからだと思います」


魔力制御の修行は遊びとして貴族は子供にやらす事が多いと本に書かれてあった。

体外に出した魔力で自分の想像した形を作る修行は粘土遊びに似たもので子供の意欲を掻き立てるので効果的らしい。


「魔力を操作しても危険がないよう理性が発達する10歳から教えようとしていたが、とんだ嬉しい誤算だ」


「危険ってなにがですか?」


ザルムがトリップしそうになったが、その前に質問をする。本には危険性など書かれていなかった。


「平民に良くあることだが半端な知識と未熟な精神の持ち主が魔力を体内で制御しようとする際、誤って体内に魔法が発動し死亡。

なんて事が良くある。

これは魔法を使う者が最初に叩き込まれる常識だ」


「領主邸にある本は、既に魔法が使える者を対象としたものだから常識として記述はなかったのでしょう」


ザルムの言葉にグラムが補足をした。

へぇ、そんな危険性があったなんて…

もし俺が失敗していたら…

そのことを考え俺は身震いがした。


「ふふっ怖いか?しかし恐れを感じるのも、お前の賢さの表れなのかも知れないな。

馬鹿は過去の失敗から何も学ぼうとしない」


ザルムは俺を見て笑った。

ん?何か勘違いしてるな。

俺は予想外な事が起こる可能性が潰れてしまった悔しさに震えただけなのに。

まあいいや。


さて、魔力量はこれで誤魔化せるだろうが精神力はどうするか?何も考えていなかった。

この言い訳は本に頼るか。


「精神力Aは恐らく母上が残した本を読んでいたからだと思います。母上のことを知りたくて」


「…なるほど、それなら納得だ」


「そうですね。子供がアレを読むのはやっぱり異常だとは思いますが」


ザルムとグラムは苦笑しながら頷いた。

母が残した本と言ったが、母は死んでもないし離婚しているわけでもない。

母は元々持病を患っており俺を産んだ3年後に悪化、現在は空気の良い田舎で闘病生活を送っている。

感染の不安もあったため、悪化前から接触は控えられており、まともなコミュニケーションを取った記憶がない。


さて、そんな病弱な母だが趣味はスプラッタだ。

体調が悪いときほど動物や人間の無残な死体などの絵を見て心を安らかにさせるなど、なかなか良い趣味をしている。流石俺の母親だ。

そんな母が集めた本は皆、常人が読めば心が病んでしまうようなショッキングな内容のものばかり。

ザルムやグラムが納得するぐらいには説得力がある内容だ。


俺は選択を間違えずにすんだとホッとして、少し後ろに下げた右足を戻して、靴のつま先から出していた自作の毒針を靴の中へ戻す。

万が一の備えがナイフだけなわけがないだろ?

ここまでする必要があるかって?

あるに決まってる。

ザルムは恐らく自身の子が規格外の産まれながらの化物だと判断すれば、若い内に徹底的に調教して手足の代わりにするだろう。

それはまだいい。問題はもう一つの可能性だ。


この世界では転生者という存在が少なからず認知されている。それなのに、このクソみたいな文明レベルには鼻で笑わざるを得ないが、そこはどうでもいい。


文明が進んでいる異世界の知識を持つ転生者なんて、気づかれる可能性がほんの僅かだがある。

そうなったら手足を千切り自害もさせずアイデアを出させる機械にする。

幼少期から自身を何より優先とするように教育(せんのう)して、常識として叩き込んできたからな。


しかしそれが、転生前の常識や知識から、効いていない可能性が生まれる。

洗脳が効いてなければ自身の立場を揺るがす脅威となる可能性がある。

そんな脅威は排除するが、利益は欲しい。

ならば、機械にしよう。

それがザルムの思考回路だ。


凄く臆病で強欲なその思考は手に取るように分かる。だからこそザルムは無能なのだ。


「さて疑問も解決した事だ。早速、御披露目会の準備をするぞ!グラムはジルアを連れて服を!金に糸目をつけるなよ!盛大にやってやるからな!」


「はっ!」


グラムに引き連れられ馬車に乗る。

そして代々ゾルート家の礼服などを扱ってきたという服屋に向かう。

その際、馬車の中から初めて街並みを見たが、使用人達からの話を聞いていたよりもずっと発展してるように見えて笑った。


流石ザルムだ。

こんなハリボテで自尊心を満たすなんてな。

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