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感覚は

 授業を一時間削って行われているホームルームの時間。机に突っ伏しているが、がやがやと騒がしい教室の中ではゆっくりと眠ることさえできない。

 気がつけば、俺の机の周りにも四人クラスメイトが集まってきて話をせざるを得ない状況になってしまった。


「皆よろしく! 目標は大きく優勝といこうぜ! このメンバーなら問題なく狙えるっしょ」

「自信はないけど足を引っ張らないように頑張ります」

「バスケの経験者は藤沢だけだからきつそうだけど、目標は大きい方がいいよね」


 二週間後に控えた球技大会の種目決めの結果、バスケットボールになってしまった。バスケットボールってサボるとすぐに結果に出るから嫌だったんだよな。サッカーとか野球なら試合中でも休める時間はあるけど、バスケットボールだと攻めでも守りでも全員動かないといけない。


 一番テンションが高く引っ張ろうとしているバスケ部の藤沢篤と、女子の中ではそこそこ運動神経は良いが少し控えめな中里春菜。あとは俺と貝塚と凛花の五人のチームになっている。

 男女混合でバスケ部は最大二人まで、女子は二人以上で三人目から10点追加というルールだ。貝塚が言ったように経験者が藤沢しかいないためバスケ部が二人いるチーム相手には少し辛いところだが、凛花がいるので女子相手にはむしろプラスになるだろう。


「練習とかどうする? 一応、体育の時に練習できるけど、やりたいならコートは空いてる時間なら取ってくるけど」

「無理して練習する必要はないんじゃないか。どっかで一回か二回は練習したいけど」


 休み時間や放課後に毎日練習するのは嫌だ。はっきり言えば練習なんてしたくないけれど、勝ちたいって言ってるやつの横で練習しないとは言えない。数日の練習で急に上手くなるわけでもないので、互いの連携の確認がてら数回練習すればいいだろう。


「そうだな。体育だけでも十回はあるから十分か。俺はいつでもやれるから、やりたくなったら言ってくれ」

「はーい。ボールだけしばらく借りるとかできるかな?」

「一個でいいなら俺の家にあるの持ってくるよ。6号のボールは妹がしばらく使ってないやつがあるから」

「ありがとー。妹ちゃんにもお礼言っといてね」


 そういや男子と女子だとボールのサイズが違うのか。まあ、バスケなんて体育くらいでしかやった事ないから、多分いつものと同じサイズだろう。高校からはバスケは男女混合だったから、むしろ7号のサイズ感の方がわからないだろうな。

 バスケ部が一人いる。とは言っても、周りは体育でしかやったことのないような人間なので、ポジションなんて言ったってわかりやしない。結局のところ、バスケなんて全員が攻めて、全員が守らないと行けないのだから、フォワードが、シューティングガードが、ポイントガードが、センターがとかいったところで相手もごちゃごちゃ動いてくるだろうから関係なくなってしまうだろう。

 作戦なんてほとんど話し合うこともなく、ルールの確認くらいしか話すこともない。


「俺、バスケ部だけど、パス回しとディフェンスはあんまり得意じゃないんだ。だから、基本的にゲームメイクは任せてもいいかな?」


 誰だって得手不得手はある。苦手だとはいえ、素人よりはボールキープとかは上だから任せたいところだが、本人が避けようとしているので無理に頼むのは悪い。かと言って、俺がとは言えるような実力はしていない。俺もパスとか出すのは苦手な方なので、チラッと凛花の方を見る。


「じゃあ、私がやるよ。ゴール下にいても男子には身長差で負けるからね」

「悪いな、神城。無理そうなら代わるから」

「全然いいよー。その代わりガンガン点取ってね」

「おう! 点取りなら任せとけ!」


 凛花なら大丈夫だろう。女子相手なら負けないだろうし、男子相手でも抜き去ったり高さで勝つのは無理でも、パスを出せるくらいに崩すのはやってみせると思う。


「ディフェンスはバスケ部以外のところを狙うとして、一応夏樹と貝塚君と藤沢君でその場に合わせて対応してね」

「ある程度は点を取られるのは仕方ないと思うしかないね」


 相手のミス待ちってところだな。バスケ部もいつもとボールのサイズが違えばミスも出るだろうし、シュートが外れたところをどれだけ取れるかが大切だろう。






 凛花のパスを受け取って一瞬ゴールの位置を確認する。体育の授業。それも素人同士の対戦ともなれば、マークは緩くゆっくりと前を向くことができる。

 重心を前に傾けて右足を出そうとしたところで違和感に襲われて、中途半端に踏み出したところから一気に後ろに飛ぶ。


 着地してゴールに視線をやると、ちょうど心地よいネットを擦る音を鳴らしてボールはリングの中央を通り抜けた。


「ナイスシュート! あれを決められたらバスケ部の立場がなくなるぜ」


 ゴール下にいた藤沢がディフェンスに戻るついでに俺の肩を叩いていく。

 いや、まぐれだから。狙って決められるなら上手いのだろうが、俺の場合体が勝手に動いた結果なので同じプレイができるかと言われれば難しいところだ。むしろ、フリーで打っても入らない気がする。


「フェイダウェイしながらのスリーポイントなんて、あんまり目立ったプレイしているとマークきつくなるよ」

「気づいたら打ってたんだから仕方ないだろ。それに、俺にマークが来てそっちが薄くなるならそれはそれでありがたいし」

「バスケ部相手だとなかなかフリーにさせてくれないから、連れて行ってもらえると助かるよ」


 ゆっくりとドリブルしながら相手のバスケ部がボールを運んでいるのでマークにつきながら貝塚と話す。

 相手のバスケ部の一人がゴール下まで来ずにパス回しをしてくれているので、凛花がそのままマークについている。そのせいで、俺のマークする相手が女子になっているので少し距離をとって位置だけ確認しながら貝塚と話す余裕がある。一応、凛花が抜かれた時のカバーに入れるようにはしているので、完全に暇というわけではないが。


 左右にワンフェイク入れて凛花の位置をずらす。さらにそこからサイドハンドでのパス。凛花の伸ばした腕がボールに触れることはなく俺と凛花の間を通り抜ける。

 指先にボールが触れる感触。ほんの僅かに軌道が変わっただけのタッチ。ボールはそのまま貝塚がマークについていたバスケ部の手に入り、ゴール下に潜り込まれることは貝塚が防いだが上手く反転されてジャンプシュートを決められてしまう。


「ナイスディフェンス! レイアップにさえ行かさなければ外す可能性もあるからな。今のでいいぜ」

「ありがと。さすがに身長で負けてるからシュートブロックはきついね」

「あんなん手を伸ばすだけでいいぜ。飛んじゃうとフェイクで抜かれる可能性が出るからな」


 手が伸びてくるだけでもプレッシャーにはなる。バスケ部相手にそれで外す確率がどれどけ変わるかはわからないが、下手に抜かれてレイアップまで持ち込まれるよりは可能性はあるってところだろう。

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