今は
「って感じかな」
「リィブルト戦自体は順調だったのに、その後一瞬映った時に疲れていたのはそれが原因だったのか」
30層で他のメンバーがポートをくぐった段階で中継は切れたが、中継機能をオフにしたわけではないので31層に出て戻るまでの映像は中継されていた。時間自体はあいつがそもそもいじっていたのか、化け物を相手にして一瞬たりとも気を抜けなかったせいなのかはわからないが、俺達が31層に後から入るまでに5分も経っていなかったので、ナナカ達にはリアルで連絡があってとごまかすことはできた。
少しだけだったが、あれだけの戦いをしたので疲れはさすがに隠しきれなかったようで、貝塚にはばれていたようだ。俺が凛花のことをよく知っているように、貝塚も俺のことをよく知っているので気付いたのだろう。
「二人が化け物だって思ったってことは相当だったみたいだね」
「あれはやばかったね。姿を見て少しの間は震えが止まらなかったから、向こうに戦う気がなくて助かったね。最初からやりにきていたら無理だったよ」
俺よりは断然ましそうだったが、凛花もかなり気圧されていたようだ。最初は凛花の様子を見る余裕すらなかったので、それは俺も初めて知った。
凛花でも差を感じる。俺からすれば凛花よりも上なことはわかったが、そこからの差はどれほどかわからなかった。まだまだ凛花相手ですら差があるということか。俺の感じている限界もまだまだ本当の限界ではないということだ。
「世界の改変に原初ね。ゲーム的な演出でないとすれば、VRASとORDEALというオーバーテクノロジーが突如現れ、一般向けとして発売されたのにも関わっているのかもね」
フルダイブ型のVR技術が発表された時には、技術の進歩を数段飛ばしたと言われていたので、何かしらのファンタジーな話が混ざっていたと考えた方が納得がいくかもしれない。
「元の技術や目的がファンタジックな何かだとしても、今の俺達にはどうすることもできないか」
「そうだね。試練のダンジョンを攻略していけばわかるだろうから、今はゲームとして楽しめばいいだけだよ」
ORDEALに試練のダンジョン。名前からして、そこに答えがあると考えていいだろう。
ただ、今の俺達では答えにたどり着く力がない。ゲームの中でもっと成長して、イクスと名乗ったあいつに追いつかなければ。イクスが言っていた内容からしても、もっと強くなれば何かがわかるかもしれない。
「そういえば明日には第三陣か」
「明日はずっとインしているのかい?」
「できる限りはインしていようとは思っているが、まあ人も来ないだろうからいつも通りかな」
トライの知り合いは明日はトライがゲーム内を案内とかすると言っていたので、顔合わせがあるかどうかってところだろう。
「明日は私達はインできないからゆっくりしておいていいよ」
「そういえばそんなこと言ってたっけ。家でもやることないからクランハウスでゴロゴロしているか」
完全に忘れていた。四人とも用事があるから明日はインできないと言っていたな。どうせ、明日は新規勢が来るからダンジョン内部以外は混むだろうな。一人でダンジョン探索はする気が起きないし、たまには完全に休息も悪くはない。
「あ、夏樹。明日もしかしたら連絡するかも」
「ORDEAL内でも端末リンクでわかるからいつでもいいぞ」
「連絡するとすれば10時過ぎかな。よかったら時間空けておいてくれ」
10時ね。明日は朝から出かけるようなので今日の夜はそこまで遅くまでORDEALをやらないだろうから問題なく起きられるだろう。貝塚がわざわざ連絡するかもと言ってくるということは何か用事があるのだろうが、今言わないのは凛花がいるからか、それともタイミングが関係してくる話なのか。
明日になればわかることなので今は聞かずに待っておくか。
「うーっす。三人一緒か。貝塚時間あるかー?」
「月野先生お疲れ様ですー」
「お疲れーっす。30層突破おめでとさん。ちゃんと見てたぞー」
「ありがとうございますー」
「先生時間なら大丈夫ですよ。二人とも待たなくていいから。また今度」
「はいよ。じゃあ、先生お先に失礼します」
「ゲームばっかしてないで勉強もしろよー」
月野先生には言われたくない。まあ、先生という立場からすればゲーム漬けで成績を落とされたらって言うのはあるだろうが、本当にそんなことは考えていないだろう。単純に自分がそんなに話に混ざれないゲームに熱中するなってとこだと思う。ゲーム友達はネット上にはそれなりにいるが、リアルな知り合いで話せる人がいないことを嘆いていたこともあったので、俺と凛花の両方がORDEALしかやっていないことへのあてつけだろう。
貝塚と月野先生の組み合わせも珍しい。月野先生が先生らしいことをしていることも珍しいので、誰かに呼んでくるようにでも言われたのかもしれない。
家に帰ればORDEALか。イクスとのことがあったので少し気が重いが、やるべきことがわかったのはありがたい。結局、今まで通り凛花を超えることを目指していればいいのだ。凛花もまだ伸びるだろうから、俺と凛花に追い付くことができれば、その時は二人でならイクスを超えることもできるだろう。
「夏樹は勝てると思う?」
「イクスにか? 今は無理だが、いつかは勝てるだろう」
「そっか。そうだよね!」
少し不安げな声色で聞いてくる凛花だったが、振り向いた顔は元気よく笑っていた。
あいつは凛花が自分に近いと言った。そして、あれだけの力を持つのに、自分が原初とやらになることは考えていなかった。限界を超えることが原初への道だとすれば、あいつはカンスト近い能力を持っているが、その先には絶対にいけない存在なのかもしれない。
そうだとすれば、俺か凛花のどちらかが限界を超えることができれば、もしくは限界を超えられずとも二人ともが限界手前までいくことができれば超えられる。
それも、凛花という存在がいるからこそだ。近くに目指すべき壁があるからこそ、頼りになる味方がいるからこそ、伸びることができるしあれを超えられると思えたのだろう。
「帰ったらすぐに特訓だね!」
「ほどほどにな。焦ったところで変わりはないだろうから」
「いつも通り。でも甘えずにだね」




