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強さとは

想像以上に長くなってしまいました。

普段の三倍近くあるので読む際は注意を。

 性能の紹介もあらかた終わり、ステージの上から的や機材が全て片付けられる。

 ゲーム内なので、インベントリに入れるだけで片付けは終わる。ほんの僅かな休憩時間だが、それでも最前列に張り付いているプレイヤー達には長く感じるようで、そわそわとしているのが見てわかる。


「それでは、最後に銃の強さを体験してもらいたいと思います。対人戦に自身のあるプレイヤーはいませんか?」


 会場が一気に静かになった。銃を欲しているプレイヤーの多くは、自分の実力に自信のない者だ。簡単に強くなれるアイテムを欲しがり集まってきたプレイヤーに、大衆の目の前で銃を相手に戦闘し無様に負ける姿を見せるなんてことができる奴はそういないだろう。


 最初に手を挙げたのは見覚えのある記者だった。記事を書く上で、実際に体験することでより深いものにしようとしてのことだろうが、プレイヤースキルとしては中の下といったところだろう。スキル発動に手間取りすぎて動く前に撃ち抜かれて死亡というなんとも残念な結果に終わったが、動く前に遠距離で倒しきれるという様にも見て取れるので観客席は盛り上がっている。


「どうだい? いけそうか?」

「問題ない。あの早さなら、私の方が速い」


 オルムが何やらサディに確認をとった。力強く頷くサディの様子を見たオルムは、俺に視線を送り手を挙げた。


「僕達も試したいんだけれどいいかな?」

「っ!……いいでしょう。こちらへどうぞ」


 俺達の姿を見て少し躊躇いを見せたが、ここで断れるはずもなく招いた。

 ざわざわと騒がしくなる会場に、俺達も有名になったものだと思いながらオルム達の後ろについていく。


「こっちは五人。一対一を五回でどうだい?」

「それで構いません。ルールはどうしましょう?」

「スキルの発動は開始後から。詠唱に関しては先にしておくのは可。銃に関しては引き金を引く直前までは準備しておいていいよ」

「わ、わかりました」


 引き金を引く直前。すなわち、開始後ノータイムでの発射が可能ということだ。

 それに対して、こちらは詠唱まで。引き金を引くのとスキルを発動して動くことを考えれば、完全にこちらの分が悪い。


 これが狙いか。これで俺達が勝てば、銃の強さというのはそれほど高いものではないというのがわかる。


 だが、勝てるのか?これを持ちかけたということはオルムとサディは自信があるのだろう。凛花に関しては問題ないだろうが、問題は俺とトライだ。

 俺もトライも開始の瞬間に弾丸を防ぐことができるようなスキルは持っていない。トライならばステータス的に一発は耐えられるから二発目よりも早く勝負を決めさえすればなんとかなる。

 一番の問題は俺なんだよな。ステータス的にバフがかかっていない状態であの一撃を耐えられるか怪しい。そうなると、一発目を防がないといけないわけだが、その手段がないんだよな。


「最初は私がいくよ」

「頼んだよ。最強の力を見せてくれ」

「負けることは許さない」

「ははは……まあ、あの程度なら買ってくるよ」


 オルムとサディからのプレッシャーも笑ってかわせるほどには余裕のある凛花が、トップバッターとしてステージに上がる。

 五対五ということで、向こうも裏方作業をしていたメンバーを集めて五人用意したようで、先程まで話していたプレイヤーとは違う奴がステージに上がってきた。


「戦えるの?」

「ぜ、全員、銃の練習はしてるので大丈夫です」


 凛花の気迫に圧されたのかおどおどとしながら返事をする相手に少し同情する。

 ORDEALの現状最強プレイヤーという肩書き。そして、目の前に立った時の凛花の圧。どちらも相手にとっては恐怖でしかないだろう。

 銃というアドバンテージがあると思っていても、自然と打ち破られるのではないかと思ってしまうほど、凛花を相手にするのは怖い。

 何かがあるわけではないのだが、その余裕のある態度や立ち振る舞いが、そう思わせるのだ。



「先手は譲るよ。そっちが攻撃するまでは手は出さない」

「こ、後悔しても知りませんからね!」


 ぷらぷらと剣は持たないとアピールする凛花に苛立ちを感じる相手。この場はもう完全に凛花の流れになっている。あとはどうやって初撃を対処するのか、それ次第でその後の展開は一方的なものになるだろう。


「それでは試合を開始します」


 会場に鳴り響くAIの声。視界にカウントダウンのタイムが表示され、一気に会場に緊張が走る。


「3、2、1、開始!」


 開始の合図とほぼ同時に鳴り響く銃声。練習をしていたというのは嘘ではないようで、迷いなく引き金を引いた。


「なっ!?」


 それが相手が発した言葉なのか、観客席から聞こえてきた言葉なのかはわからない。驚愕の声の先では、凛花が半身の体勢になって銃弾をかわしていた。


「狙いがわかりやすすぎる。面と向かって撃つなら、銃口は直前まで隠しておくべきだね」

「ふ、ふざけたことを!」


 ゆっくりと近づいていく凛花に対して、焦ったように次弾の準備をする。セミオート式とはいえトリガーをもう一度引かなければ次弾は発車できない。さらに、銃に不慣れで上手く扱えていない人では、拳銃とはいえ反動で腕が弾かれまた構えなおさなければいけない。


 大きな音と共に放たれた弾丸は凛花がいた場所を通り過ぎて、フィールドの端に設置された障壁にあたり地面へと落下する。

 移動系スキルのステップで簡単にかわした凛花がそのまま距離を詰めて、ゆっくりと剣を引き抜いて突きつけた。


「私の勝ちでいいよね?」

「はい……降参します」


 展開についていけずに静まり返った会場内に、恐怖で力が抜けた男の座り込む音が響く。

 圧倒的すぎて理解が追いつかない。そんな状態が会場にいるプレイヤー全員に起こっている。凛花がフィールドの外に出て、ようやく会場が騒がしくなってきた。


「お疲れ様」

「予想通りだったから楽だったね」

「お疲れ様です。こちらとしては予想以上のものを見せてもらったので、この後が必要なのか疑問になってきましたよ」


 戯けたように言うオルムだが、何割かは本心が混ざっているようだ。

 確かに今の戦いを見れば、もう十分だと思ってしまうが、それをやったのが凛花だと言うのが問題だ。最強が最強であることを証明したところで、並みのプレイヤーからすれば雲の上の出来事。

 銃の性能と自分の腕を知っている相手だったからこそ心を折ることができたが、生半可な知識で見ているだけの観客には、今のがどれだけの出来事だったのか正しく認識している奴がどれだけいるだろうか。



「今の、ど、どうやったんだ?」


 凛花を雲の上の存在と思わず、ただ自分より少し強いだけのプレイヤーと認識しているトライですら、状況を正しく理解できていないのだから、見ていただけの奴らには、銃がいまいちだったのではなく凛花がただ凄かっただけにしか見えないだろう。

 実際にあれを一発勝負で簡単にやってみせるのだから凛花が凄いのには変わらないのだが。


「簡単だよ。銃を撃つ時にはどうしてもトリガーを引く必要があるからね。トリガーを引く動作を見せた時に、銃口の向きからわかる着弾点から体をずらせばいいだけだよ」


 それができる人間がどれだけいることやら。

 VR環境のおかげで、体を動かそうとしてから実際に動くまでの時間と、動かした時のスピード、初速の大きさの全てにおいて現実よりも数段上にはなっている。

 それでも、相手が反応できないタイミングから体を動かし始めるならば、猶予は瞬きの時間ほどしかないだろう。早く動き過ぎれば狙いを変えられる。遅く動き過ぎれば避けることなどできない。読みと賭けを入れたとしても余裕を持てる状況ではないんだよな。


「さ、参考にさせてもらうぜ」

「弾の速度は現実よりも遅いと思うよ。システム的なアシストは受けないけれど、システム的な制限は受けるのかな」


 まるで実際の銃弾すらも避けたことがあるかのような言い方だが、そんな経験はしていないはず。

 遅いと言っても、目で追い切れるような速度ではないので、十分な速さだろう。


「次は私が行く。一瞬で終わらせる」


 相手が出てきたのを見てサディが立ち上がる。

 一瞬でというのは比喩でもなんでもなく、本気でそう言っているのだろう。スキルの発動までの時間がどれだけあるのかはわからない。サディなら即時発動系の移動スキルを持っていてもおかしくない。

 一撃目さえ避けることができれば、いや、一撃目をくらいながらでも倒し切れるだろう。


 スタート位置に関しては、一定の場所より後ろ側であれば問題ない。サディも相手も規定の位置よりもかなり後ろ目に位置取って開始の合図を待つ。


「開始!」


 開始の合図とともに鳴り響く銃声。

 それと同じタイミングで姿を消したサディ。


 気がつけば、相手の背後で剣を振り抜いた体勢のサディが、頬から血を流しながら立っていた。


「せめてフルオートを用意してからきて」


 最速のプレイヤー相手に、二発目を手動で用意する時間はない。一撃目をかわしきることはできなかったようだが、掠っただけではダメージはHPを一割も削れていない。

 仮に直撃して、クリティカルが出たとしても削りきることはできなかっただろう。そこでサディが怯みさえしなければ、勝敗は変わらない。


「前よりも速くなってないか?」

「よく気づいたね。二割増しくらいにはなっているよ」


 大会で凛花と戦った時のサディは、すでにシステムアシストの限界値に到達していたはずだ。ステータスか上がったとしても、あれ以上の速さで動くことはできないはずなのに、今の動きはあの時以上の速さだった。


「システムアシストの本当の限界値はプレイヤーに依存する」

「君達に勝つために特訓してわかったことだよ。システムアシストの限界値はプレイヤーがまともにプレイできるラインを参照する。そのプレイヤーがそのラインに慣れて上にいけるようになれば、システムアシストの限界値も高くなるというわけだよ」


 動きに体と意識がついていかなくなるからシステムアシストは限界をむかえる。だが、限界値の動きに慣れてしまえば、そこが限界ではなくなり、さらにシステムアシストは大きくなるということか。


 言葉にすれば簡単だが、それがどれだけ難しいことか。頭の中の常識を取り除き、恐怖心を乗り越えて動き続けなければ限界値の動きを続けることはできない。無意識に制御してしまう力を、無理やり解放する。現実でやろうとすれば、後遺症が残ったっておかしくはない。

 これもまた、フルダイブ型VRという世界だからこそのものというわけか。


「次は僕だね。僕は普通に勝たしてもらうよ」


 普通にと言いたくなる気持ちもわかる。最初の二人が最強と最速の戦いを見せたから期待が高まるが、あんな派手なプレイはできる方が少ない。オルムとしても、派手にやるのではなく無難に勝ちたいといったところだろう。


 盾を構えた体勢で相手と向き合うオルム。あの状態ならば、装備の隙間に三発くらいもらわないと死なないだろう。それだけの腕が向こうにあるとも思えないし、オルムもそのあたりはわかっているだろうから簡単には抜かせないから、じわじわと距離を詰めて終わりと言ったところか。


 タンクがそれなりの装備と技術を持っていればヒーラーと組み合わされば、今の拳銃には負けないだろう。これで、それなりのタンクであれば銃相手に勝てることは証明される。三連敗ともなれば、観客からしても銃に対する評価を改めるしかないだろう。

 最初の二人に比べてオルムの実力は突出していない。たしかにトッププレイヤーに分類され、タンクの中での評価はかなり高いが、それは状況判断能力と安定性、パーティーの指揮といった面なので、個人としての突出したプレイヤースキルではない。なので、今までの二人からするとオルムが堅実なプレイで勝てるというのは、俺達の目的からすれば良い材料になる。


「開始!」


 またもや開始の合図とともに鳴り響く銃声。

 今までと違うのは、それが金属にあたって弾かれる音がしたことだ。弾はオルムが開始と同時に少し上にあげた盾にあたったようだ。

 焦って次弾の準備をする相手に余裕そうな表情で近づくオルム。敵も距離を取りつつ二発目を撃つが、動きながら焦った状態で撃った弾は盾に直撃してダメージにならない。

 七発目の弾を撃ちきりマガジンの交換に入る。七発しか充填できないシングルカラム式のマガジンを使っているあたり、オリジナル要素はなく、ネットで調べた単純な銃の機構をそのまま流用しているだけか。


 マガジンの交換に手間取った相手のスキを見逃すはずもなく、距離を詰めたオルムの剣が手に持った銃を弾き飛ばして勝敗は決した。

 せめて、銃以外にも装備を持って、マガジン交換の隙を埋めるくらいのことはしないと、耐久力のある相手にはきついだろう。


「無事に勝てたよ」

「あのくらい勝ってもらわないと困るわ」

「初弾はよく防いだな。あれで完全に敵も動揺していたようだし」

「レンヤくんが言っていたように、銃口の向きとトリガーを引く指を見ていれば意外となんとかなるね。かわすとなると話は変わってくるけれど、盾で防ぐ程度ならできたよ」


 装備のない部分を狙うとなるとかなり狙う部分は減る。その上で銃口の向きからさらに着弾点を絞ればほぼほぼ狙う場所を特定することはできるだろう。

 あたったところで死にはしないというのと、ミスったところで怯みさえしなければ詰め切れば勝てるというのはあったとしても、恐怖をぬぐい切るのは難しいんだがな。


「ラストは任せたぜ。俺があっけなく散ったらその分はツキヤが塗りつぶしてくれ」

「俺もお前も負けたところで、それなりの効果は三人のおかげであるから気負わずに行こう」

「いや、二人とも勝ってほしいな。こういうのは最後の方が印象強いものだからね。あっけなくやられたら上書きされちゃうかもしれない」


 さすがにここまでやってそれはないだろうとも思うが、簡単に負けるなというオルムの気持ちなのだろうから反論はしない。それに、俺だって簡単に負けようとは思っていない。


「ま、俺は俺のやることをやってくるさ。あとは頼んだぜ」

「頑張ってね。さくっと勝ってきちゃいなよ」

「それはまた難しい注文だな。だが、それに応えるのも男ってもんよ」


 剣を片手にフィールドに向かうトライ。普段装備している盾を装備していないあたり、今回はまた何かやるつもりなのだろうか。


「ここで銃の強さを見せてあげます。僕は銃の扱いに関しては一番うまいので、残念ですが連勝はここで終わりです」

「御託はいい。さっさと始めようぜ」


 FPSのガンゲーでもやってきたプレイヤーなのだろう。自信はあるようだが、それがVRMMOというシステムの中で通用するかはまた別の話だ。

 今までのゲームセンスが活きる場面もあるだろうが、ORDEALというゲームはそれだけで通用するものではない。ゲーム的感覚と現実的な感覚を融合させ、ちょうどよいバランスで引き出さなければ、この世界で先を見ることはできない。


「開始!」

「それはまた別のは──」

「遅いよ」


 トライのスキルが発動しきる直前に銃弾が眉間を突き抜ける。すかさず二丁目の銃に持ち替えて追撃をくらわせてトライのHPを削り切る。

 口だけではないさすがの銃さばきといったところか。後ろに倒れていくトライの表情が驚愕に染まっているあたり、予想以上だったか。


「話なんだよな。さすがにちょっと焦ったぜ!」


 倒れ行くトライのアバターが煙のように消え去り、相手の前に姿を現した。


「な、なんで!?」

「奇術師のスキルだ。発動五秒前から発動後十秒までのダメージを肩代わりする幻影を作り出す。詠唱が長いのがネックだったが、開始前に詠唱はしてオッケーというルールが俺に味方したようだ」


 首元に突き付けられた相手はなす術もなく降参する。スキルを使った完璧な勝ち方と言ってもいいだろう。銃の力というのもたしかに見ることはできたが、それ以上にトライの見せたスキルが強烈すぎて霞んでしまった。

 これまた強烈な勝ち方をしやがったせいで、俺のかかる期待が大きくなってしまった。スキル的にできることもないし、かといって派手ななにかを持っているわけでもない。堅実に勝てる手段すらないっていうのにどうすればいいんだよ。


「自信がない素振りをしてた割には相当大きな隠し玉を持っていたね」

「あればっかりは成功するかどうかが賭けだったからな。性能が尖りすぎてて練習すら碌にできていないスキルを一発勝負で使う羽目になるとは」


 スキルコネクトにしても裏ではかなり練習して凛花との戦いで使ったようだから、意外とトライは堅実な戦い方を選ぶタイプなのかもしれない。


「さて、ラストは俺の番か。勝てるといいな」

「勝ってくれると信じているよ」


 良い笑顔で言ってくれるじゃないか。ぶん殴りたくなってくるが、それは俺が弱いのが問題なので文句の言いようもない。


「夏樹ならいけるでしょ」


 耳元でささやかれるその言葉には心配の色は含まれていない。

 そうだよな。俺が目指している壁はもっと大きいんだ。こんなところで立ち止まってなどいられない。


「凛花、あとは頼む」

「この世界でなら安心して暴れてきなよ」


 叩かれた背中の痛みがこの世界が現実でないと告げてくれる。この世界でなら、限界は限界でなくなる。サディが見せてくれたように、俺もその域に到達すればいいだけの話だ。


「サディの剣を貸してくれないか?」

「別にいいけど。使い慣れたやつの方が良くない?」

「今はできるだけ軽い武器がいいんだ」

「それならどうぞ。その代わり勝ちなさい」

「ありがとう。まあ、勝ってくるさ」


 集中力の波を一度極限まで抑えつける。この感覚は嫌いじゃない。けれども、すべてが終わった後の疲労感が嫌いなので使いたくはないが、この世界でなら筋肉痛などの心配はいらないので休めばいいだけだ。


「最後にレンヤさんが来ると思って大トリに来たのだけれど、君でも十分宣伝になるか」


 最後に来たのは銃の紹介をしていた一番メインになるプレイヤー。多分一番銃を触ってきたのだろう。これまでの試合を見てきてもまだ自信があるあたり、他のプレイヤーにそれほどの期待はしていなかったというところか。


「勝てればの話だがな。俺にすら負ければ評価は地の底だ」

「君相手なら問題ない。ステータス的にはヒーラー程度のものなのはわかっているし、スキルの隠し玉もないだろ」

「それでも、人間の力っていうのは計り知れないものさ。ましてや、システムアシストによって強化されたこの世界ではなおさらにな」

「大きな口を叩けるのもここまでさ」


 試合の開始を告げるカウントダウンが始まった。トリガーを引いてからの反応ではどれだけシステムアシストがあろうとも間に合わない。引こうとする動きを見て動き出せ。それならば、予測も含めて間に合わせるだけの時間は確保できる。

 見てから考えるな。見えたら動いていろ。


「3、2、1、開始!」


 開始の合図とともに銃を持つ右腕に力が入るのがわかった。その時には俺の体も動き始めていて、銃声が聞こえた瞬間には腕が目の前まで上がってきていた。


 キィンという心地良い音と共に俺の頬を何かが掠めていく。振り上げられた腕の先では県がしっかりと握られていて、そこから微かな振動が伝わってきた。


「なにっ!?」


 慌てて撃たれた二発目は俺の足を掠めて地面に刺さる。三発目は右肩への軌道だったはずだ。感覚的に振られた剣がまた弾丸を捉えて今度は鈍い音を立てつつ弾を弾いた。

 世界がゆっくりに感じる。それでもなお、思考よりも先に動く体を制御しようとはせず、本能に任せたまま状況と経験だけを処理していく。


 前に進む俺と後ろに下がりながら撃つ相手。距離は詰まらないが、徐々にバフもかかってきて完全に俺に有利な状況になった。

 撃ち終えた銃を投げ捨てて二丁目の拳銃に手を伸ばし、さらに銃弾を重ねるが、一発たりともクリーンヒットはない。半分くらいは、焦って自分で狙いをずらして掠めているのだから仕方がない。


 13発の弾丸を撃ち終えたところで俺のバフも最低限はかかり、最後の一撃ならくらっても耐えられる。そこで気を抜いたのか、集中が途切れて世界が早くなったので、一気に距離を詰める。

 最後の一発が左肩にあたり、ほんの少し怯んでしまうが前に進むのを止めなければ距離は問題なく詰め切れる。

 俺の剣が伸びる瞬間に、にやっと相手が笑ったのが見えた。


 ──まだ終わっていない。これだから無駄なあがきをする人間ってやつは嫌いなんだ。


「誰が七発しか入らないって言った!」


 あのマガジンだけ別で作ったものだったのか。もう一度引かれたトリガーにより、聞き飽きた銃声が耳に入る。


「な、なんでこの距離でっ──」

「死んどけ」


──……ケタ。


 剣が相手の首を捉えたところでまた意識が戻ってくる。振り抜かれた剣が勝負が終わったことを教えてくれ、小さく安堵の域を吐き出す。

 フィールドを後にして、皆の待つ場所まで戻る途中で凛花がやってきた。


「お疲れ様。ゆっくり休んでいいよ」

「悪いな後は頼む。サディには剣の耐久値がかなり減った分の詫びはするって言っておいてくれ」

「はいはい。弾を切るという選択肢を取るとは思わなかったけど、良い戦いだったよ」


 まじで頭がくらくらする。普段ならこんな短時間でここまで来ることはないが、今回はいつも以上に限界まで潜ったせいで反動が凄い。この世界でなら、これの先に到達することすらできるのだろうか。

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