話は
「で、話ってなんだ?」
26層の真ん中辺りに位置する見晴らしの良い場所。ただし、21層からはのんびりとするには向いていないハゲた渓谷風の地形なので、照りつける日差しが肌を焼く。実際のところはゲーム内なので、日焼け止めすら必要がなく、ただ暑いと感じるだけではあるが。
26層で顔を合わせている。つまりは、無事にプラバスタも25層のワイバーンは突破できたようだ。
無事に、とは言っても、俺達はすでに28層に到達し、アルブにいたっては29層に到達している。トップ争いをしている三パーティーでは一番遅れていて、差もすぐには巻き返せない程度には開いた。
土曜日の昼過ぎ。ダンジョン探索に出る絶好の時間帯だが、そんな時間を潰してまで俺達に話があるということなので、全員でここまでやってきた。
俺達は午前中に探索をしたので、今は休憩がてらなので問題ないが、プラバスタは午前中にダンジョン探索をしていたようではないので大丈夫なのだろうか。
「双天連月はクランメンバーの募集をするんだろ?」
「ああ。この前も言ったが、そろそろ人手が必要だからな」
少し気まずそうにしているトライはなかなか続きを話さない。それをトライの斜め後ろから見ていたクレスが呆れたように溜め息を吐いて、トライを横に押しのけて俺の正面にきた。
「簡単に言うとね、私達を双天連月にいれて欲しいの」
「双天連月に? トップ争いから抜ける気か?」
「別に抜けるわけではない。ただ、俺達もお前達も単独ではアルブに勝つのは相当身を削らなければいけない」
「双天連月とプラバスタのパーティーは残しておいて、同盟を組まないかって話だ。情報やアイテムを互いに融通し合って無駄を減らせば、今よりは楽になるだろ」
確かに、情報やアイテムを共有できれば楽になる部分はあるだろう。
合理的ではある。俺達も素材集めに関してはそれほど力を割けていないから、代わりに集めてくれる奴がいると助かる。だが、プラバスタのメンバーがダンジョン攻略を続けるのならば、俺達の旨味はそれほど大きくない。
「そっちの利点が少ないってのはわかってる。だから、アイテムや装備に関してはそっちの余りでいい。俺達としては、クランハウスを一から作るよりはお前達のを使わしてもらいたいってのが一番の理由だ」
クランハウスは一から作るとなると最低でも100万はかかる。そこから設備ごとに強化費用をかけてグレードアップしていくのだから、その分を節約できるのであれば楽にはなるだろう。
「俺達がクランハウス用に用意していた金の半分を設備強化に使う。その代わりに、設備は共有したい」
それなら悪くない話だ。現状では今の設備でもミナトには十分なようなので困ってはいないが、これから先もっと良いアイテムを作るには必要になるかもしれないし、新メンバーに生産スキル持ちがいれば必要になるかもしれない。
凛花に視線を送れば、すぐにオッケーと軽く頷いた。残りの三人を見ても反対意見はなさそうなので、すぐに了承してやってもいいが、少しくらいは引き出しておくか。
「いくら出せるんだ? それなりに貯めてはいるんだろう?」
「生憎と、20層突破のために使っちまったからな」
「不要になった対策装備は売ればいいから、300万くらいはあるか」
「基本性能の高い装備は乗り換えで使ってるから全売りはきついって」
「なら、ある程度残して200万ってとこだな。半分の100万はもらって、残りで足りない装備を整えればいい。余った分はクランの共有費用として残しておこう」
「ぐっ……」
こういうのは先に決めておかないとな。後でこれだけしかないと言われても困るから、散財される前に金額だけでも決めておく方がいい。
「わかったわかった。100万はとりあえず出す」
「100万か……」
「130万だ。その代わり、上げる施設はこっちにも決めさせてくれよな」
「そのくらいならいいさ。じゃあ、これからよろしくな」
「ありがとよ。きっちり礼はゲーム内でするぜ」
肩に手を回してバシバシと叩いてくるので、鬱陶しいと押し退ける。
手を組むとは言っても、俺達とプラバスタが争わないというわけではない。互いに競い合うことも成長するには必要なことなので、同じクランにはいるが中ではライバルと言った感じだろう。
だが、全く馴れ合いをしない必要もないので、今日はこのままゆっくりしてもいいだろう。
「じゃあ、皆でクランハウスに行くか。上げておきたい設備を強化しよう」
「ついでにパーティーだね!」
「お、いいね! クランハウスでなら騒いだって文句も言われねえからな。店で騒いだら通報されたからよ」
「あれはトライが悪いわ。よろけて隣の席に突っ込んだ挙句に喧嘩しようと煽ったんだから」
何をやってるんだか。まあ、確かに店で打ち上げなんかをしても貸切にでもしなければあまり騒がないだろう。
雰囲気酔いというのはあったとしても、実際にアルコールで酔うわけではないので、酒場のような場所でも皆シラフだからか白い目で見られる。
いつもより賑やかな帰り道。人が増えるのも悪くはない。ゲームの中とは言え、VRの世界では本当に顔を合わせて話している感覚になる。実際のところはどれだけ猫被っていたりするのかはわからないが、現実であろうと性格なんかは偽わろうと思えば幾らでも偽れるので、自分を知らない相手に対して話すと思えば、この世界の方が素で話せる気もする。
「なにしけたツラしてんだよ。ツキヤはどの設備を強化したいんだ?」
「っ!? 俺は別になんでもいいけど、訓練室は欲しいかな」
トライが俺の肩を思いっきり叩いてきたので、少し声が漏れた。痛み自体はほとんどないが、もし現実だったら赤くなっていてもおかしくない威力だったぞ。
「訓練室ね。スキルの練習なんかには使えるからあった方がいいな」
クランハウスの大きさってどうなるのだろうか。設備を追加すれば自動的に大きくなるのか、それとも中の空間だけ広くなって外観は変わらないファンタジーな仕様なのか。ゲームだから後者で全然構わないが、気になるところではある。
「お前らは何を強化したいんだ?」
「俺達は生産系だな。炉だったり調合室だったりが欲しい」
生産系ね。プラバスタには生産職がいないからそれも仕方ないか。
そういや、今のクランハウスにはミナト用の部屋はあれども生産用の部屋はない。ミナトがそういった設備を欲しいと言ってきたこともないが、必要なのだろうか?
「スキルでの生産には今のところ設備は不要。上位アイテムになれば必要になるかもしれないけど」
「そうなのか。だから今まで部屋で作ってたのか」
「スキルなしでも、現実でできることは大抵できるんだぜ。武器や防具なんかは実際に使っているやつもいるみたいだ。ただ、スキルありの方が手っ取り早いし、付加効果も付きやすい」
現実と同じようにやれば作れはするが、スキルより効率も性能も低い。ただ、スキルで作れないものでも作れるといったところか。
現実で作れるもの。それがどこまで含むのかにもよるが、使い方次第では色々なことができそうだ。
ポーションなんて非現実的なものが、非現実的な素材さえあれば現実の技術で再現できるのかも気になるところではある。
「じゃあ、さっそく設備の強化をしようぜ!」
「えー……やっぱりやめておこうかな」
「そんなこと言わずにな! こういうのは早ければ早いほどいいってもんだぜレンヤちゃん」
「はいはい。双天連月の決定権はクランリーダーのツキヤにあるから、ツキヤに頼んでね」
「頼むぜツキヤよ〜」
「わかったから! 鬱陶しいから離せ!」




