成果は
25層のワイバーンを倒してからというもの、再び職業の評価が慌ただしく変動している。
タグリッドリングの追加により遠距離職に見直しが入った以降は、大会でのトライの戦闘により奇術師が一時的に話題になった以外に動きがなかった職業評価が目まぐるしく動き始めた。
「最近、ギルドで中継を見ていると知らない人から声をかけられて集中できないです」
「今一番注目されているプレイヤーだから仕方ないさ」
「うー……こんなことになるなんて思ってもいなかったです」
ワイバーン戦でのナナカの戦闘がかなり評価された。今までのヒーラーはナナカだけでなく、クレスやミディスもそうだが、基本的に戦闘中に動くことはなかった。
タグリッド装備による軽いロックオンがあったとしても、動きながらの狙いが定まらない状況では、ヒールの誤射も起こりやすくなる。
ナナカは今回、その動きながらのヒーラーに挑戦した。回避の練習から入り、ヒールの誤射を減らすための練習もして、ヒールの誤射はほとんどなくなった。
それによりフィルの動きも、ナナカの盾になるという制限がなくなったために良くなった。重戦士と違い、盾使いでは盾を装備しないといけないという点以外での防具の幅は広がる。
鎧の重量を抑えることにより、移動速度を落とさないようにすることや体力の温存ができるので、動き回りタゲの取りづらいモンスター相手には向いている。
ヒーラーと盾使いの株が上がったことにより、他の職業にも動きが出た。もう少しすれば第三弾の新規プレイヤーの参入もあるので、攻略サイトや記事なんかでは新規プレイヤーおすすめ職業などが多く見られる。
「ナナカのおかげでおすすめ職業にヒーラーが載るようになったから良かったよ」
「ヒーラー少ないですもんね。なかなか他のパーティーがダンジョンに来ないのもヒーラー不足が大きいですし」
ヒーラーの絶対数が少ないせいで、パーティーにヒーラーがいないなんてことも少なくない。
通常フィールドでならば、複数パーティーで一緒に狩りをすることができるので、ヒーラーがいなくとも交代で後ろに下がって回復する余裕はできる。
ダンジョン内では、ポートを通れる人数に限りがあるため、次の階層へのポートの取り合いになったり、そもそも合流するのが面倒だというのがある。そのせいで、一つのパーティーでの攻略が主になり、余裕のない戦いを強いられると、ヒーラーがいないというのは厳しい。
それでも、ヒーラーが少ないのは仕方がない。ヒールの誤射というのも大きいが、職業枠とステータスによる身体能力補正がある。
ソロでプレイするのならば、職業枠は自分だけの二つ。ヒーラー系統の職業は軒並みステータスが低いので、身体能力補正が少ない。もう一つの職業で補うにしても中途半端な性能しか出さずに苦しくなる。それに一人でならば、回復ポーションでなんとかする方が、詠唱をしてヒールを使うよりも楽だ。
パーティーをもともと組む予定でのキャラメイクならいざ知らず、普通にキャラメイクすれば近接型になるのは仕方がない。
ORDEALは生産数に限りがあるので、友達と一緒にというのがまだ難しい。そうなると、パーティーが組めるかわからないのに、パーティー前提のキャラメイクなんてなかなかしないだろう。試練のダンジョンにさえ行かなければ、現状はヒーラーなんていなくてもいいのだから。
「でも、移動しながらの魔法の使用は、ツキヤさんは最初からしてましたよね?」
「俺はしていたけど、俺だからできているとでも思われていたんじゃない?」
「それは事実。動いている味方にヒールをあてることすら、ツキヤだからできると言われてた」
「ミナトさんも起きてたんですね」
「ワイバーン戦で使ったアイテムの補充をしてた」
貝塚に教えてもらって掲示板の古いログを見ていたのだが、俺と凛花に関しては通常のプレイヤーとは別枠で考えられていた。開始直後からプレイヤースキルが高かったから、運営アカウントではないかと疑われていたくらいだし。
だが、俺も凛花も普通の人間だからできないことはできない。俺達ができることは他の人達も努力すればできることだろうし、今の俺達にできないことをできる人だっている。たまたま最初に目立ったからだとは思うが、ここまで別格扱いされているとは。
「支援魔法使いなんてほとんどいないから、情報もないし辛い」
「支援魔法は便利だとは思うんですけどね。もう少し魔法職をやるプレイヤーが増えれば、兼任する人も出てくると思います」
「ステータス補正と武器補正が全くないのがきつい。全バフ乗せるのも難しい。完全にサポート役」
普通バッファーと言えばサポート役だから問題ないと思うが、今はサポート役をパーティーに入れる余裕がない。支援魔法自体がヒールと同じように誤射が問題になるし、さらには支援魔法による身体能力変化に合わせるのが難しい。
あてられるかわからない支援魔法を、戦闘中に切れる時間を計りながら、確実に味方にあて続ける。それができなければ、支援魔法使いを選ぶ利点が少なくなる。
凛花でさえ、速度アップの支援魔法は感覚が狂うから要らないと言うくらいだ。急に加速したり急に減速するのは戦闘中には致命的な隙を生みかねない。
それに、自分自身のステータスが低いのも問題だ。自己バフ全部乗っけても、装備補正分でアタッカーよりも火力が、タンクよりも耐久力が出せない。
ここから先に覚えるスキル次第というのもあるが、今は不遇職の中の不遇職だろう。
「ヒーラーが見直されたから、次の新規プレイヤーではヒーラーが増えればいいな。最悪、ヒーラーを勧誘できなくとも、うちは俺もヒーラーができるからパーティーは作りやすいだろうが」
「ツキヤ抜きで30層は厳しい。レンヤ頼みでも、支援魔法が無いと今まで通りの戦いができるとは思えない」
凛花が特攻できるのも、支援魔法で耐久力がタンク並みになっているのはある。だが、それでも凛花ならなければないでプレイスタイルを変えて対応できるだろう。
「いくら練習して動けるようになったと言っても、ツキヤさん並みに動けるわけではないですし、本気で動き回っているレンヤさん相手にヒールをあてるなんてできそうにないです」
いや、そこは頑張ってくれ。すぐにとは言わなくとも、後々は一人で全員のヒールができるようにならないと。俺のヒールは保険程度に考えてくれないと、俺も回復量を上げるためのスキルを取らないといけなくなる。
「新メンバーが入っても負けないように努力しないとな」
「はい! 今日も練習のお付き合いお願いします!」
「私も練習したい」




