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練習は

「いつも遅くまでインしてますが大丈夫ですか?」

「眠いっちゃ眠いけど、どうせ授業なんてぼーっとしているから問題ないかな。休みの時にでもちょっと長めに寝るよ」


 ナナカが心配そうにこちらを見てくるが、別に徹夜でやっているわけではなく四時間くらいは寝ているので問題があるほどではない。俺よりは寝ているだろうが、夜更かしばかりでナナカも大丈夫なのかと思うが、楽しそうにしているので問題ないだろう。

 最近は試行錯誤しつつ自分のプレイスタイルを考えているようで、他の人のプレイなんかも見て研究しているようだ。最初はヘイト管理もできずフィルの後ろでヒールをしていただけだったので、そこから考えるとかなり成長したと思うし、安定度で言えば現状トップクラスのヒーラーだとは思うが自分では気に入らないのだろう。

 自分でどうにかしようと思って行動するのは良いことだから上手くいってほしいが、根は詰め過ぎないようにしてほしい。


「ツキヤさんは良いヒーラーってなんだと思いますか?」


 良いヒーラーね。色々タイプはあるから難しいところだ。味方のプレイスタイルにも左右されるから、絶対にこれだというプレイスタイルもない。

 今の俺達のパーティーでは、ナナカのように完全に止まった状態であっても、ヒールを使い続けることができるヒーラーが合っているとも思う。


「難しいところだけど、死なないヒーラーかな。蘇生魔法もアイテムも現状はほとんどないから、唯一蘇生魔法を持ったナナカが死ねば立て直すこともできなくなる。そういう意味では最後まで生き残ってくれるのが、俺達のパーティーでは一番良いヒーラーだと思う」

「生き残る、ですか」


 そうそう凛花が死ぬとは思えないが、一番危険な位置で戦っているから絶対に死なないわけではない。その時に蘇生役がいなければ詰みに近い状況だ。さらに起こりにくい状況だとは思うが、ナナカ以外の全員が死んだときは、凛花さえ生き返らせることができればそこから立て直すこともできるかもしれない。

 無理して攻撃なんかしなくてもいいから、最後まで生き残る立ち回りをしてくれるのがこのパーティーでの最善ともいえるだろう。


 ただ、ナナカは職業が二つともヒーラー系だ。耐久力という点ではパーティーで最も低いので、生き残るといってもかなり難しい。攻撃があたらないような立ち回りをする必要があるので、絶対にヘイト管理を間違えない、攻撃の余波に巻き込まれない位置を取り続ける、範囲攻撃をいち早く察知しあたらない位置に移動するなど普通よりもかなり離れた位置での戦闘をするか、敵の行動パターンを読み切って動く必要がある。

 タグリッドブレスレットがあるとは言っても、魔法は必中ではない。離れれば離れるほど外す確率は増えるし、かと言って近づけば被弾率が上がる。タグリッドリングが出てからも後衛職が完全には見直されていないのも耐久力とどうしても起こってしまう誤射が原因だ。

 回避自体は普通のRPGゲームとは違い、自分で避けるという手段があるため100%避けるということすらも理論上ではできる。ただ、アクションゲームのように回避行動中に無敵時間が数フレーム発生したりすることもないので、ノーダメでの立ち回りというのはかなり難しい。

 生き残るだけなら、盾であるフィルやミナトの作ってくれる装備を上手く使えば確率は上がるので、そういった味方やアイテムを利用するのも覚えた方がいい。


「よかったら少しだけ練習に付き合ってくれませんか?」

「いいよ。今から行く?」

「はい! 場所はお任せします!」

「この時間ならデスペナルティ受けても明日の夕方にインするときには解けているから、きついとこに行こうか」

「が、頑張ります!」


 デスペナルティによるステータス低下の効果は10時間の継続なので、今から潜って3時頃に死んだとしても昼には解ける。アイテムロストはクランハウスにおいていけば問題ないので無理しても問題はない。

 練習しつつ行けるようならダンジョン探索もできればいいな。




「じゃあ、やりたいように動いて。回復はできるだけこまめにお願い」

「はい! 頑張ります!」


 22層。現状の最下層で普段ならパーティーでゆっくりと攻略していくところだが、そこに二人で入る。ナナカには攻撃スキルはないので、俺が前衛を引き受け回復をもらいながらのゾンビアタックだ。まあ、俺にも攻撃スキルはないが、自己バフの分を含めればナナカとはステータスは大きく差がある。

 モンスターの数が少ない部分を探し、念入りに気持ちを落ち着かせてから攻撃を仕掛ける。


「ヒール!」

「助かった!」


 一撃で予想以上にダメージをくらったせいで驚いたが、すかさずナナカがヒールをしてくれたのでそのまま倒されることはなかった。

 思ったよりも一撃が重い。最近はフィルのタゲ取りがかなり安定しているおかげで被弾がほとんどなかったからこれほどとは思わなかった。三発連続でくらえば雑魚でもやられるかもしれない。自分のヒールとナナカのヒールがなければ厳しいな。ただ、これならばナナカの練習にもなるだろう。


 俺の攻撃ではなかなかHPを削れないが、探索よりも戦闘練習がメインなので戦闘時間が長引くこと自体は問題ない。バフと支援魔法を無駄うちしながらタゲをとるが、フィルほどの範囲とヘイト値はないので時折ナナカにも攻撃が向く。


「大丈夫か?」

「は、はい! これも練習なんで!」


 攻撃を避けながらの詠唱。今までやってこなかったので時間はかかっているようだが、距離を取りつつなんとか魔法を使えているので、他のプレイヤーの動きを研究していたのは役に立っているようだ。


「きつくなったら言ってくれ」


 一体だけとはいえ、慣れていなければ被弾ゼロというのは難しい。俺よりもさらに耐久力の低いナナカではクリーンヒットなら二発どころか一発耐えられるかどうかと言ったところなので、無理はできない。


「は、はい! ……あっ」


 返事と同時に被弾して、なんとかHPは残ったが足が止まってしまい、そのまま倒されるナナカ。リスポーンまでの待機状態に入り、今なら蘇生魔法があれば生き返らせることはできるが、あいにく俺に蘇生魔法はないのでこのままリスポーン待ちだ。ダンジョン内で死んだ時は、その戦闘が終了してから五分経つか、戦闘中でも十分経てばリスポーンできるが、それまで俺が一人で耐えられるわけもない。


「あ、これ無理だ」


 ヒールもポーションもクールタイム中に被弾してしまい回復手段がない。被弾によるのけぞり中に次の攻撃が迫ってきているのが見えたが、ここからではガードも間に合わない。

 体に衝撃が二つ走り、目の前が暗転する。近くに生きているパーティーメンバーやフレンドがいなければそのまますぐにダンジョンの外でリスポーンできるので、30秒ほど経てば視界に光が戻った。


「すいません。私が動きを止めたばかりに」

「練習だから、これから慣れていけばいいよ」


 ダメージをくらった際にそのまま動き続けるためには慣れるしかない。今まで自分がタゲを取って被弾することが無かったナナカには、まずそこから慣れていってもらわないとな。


「今日はデスペナでこれ以上は無理だから、軽く反省点の振り返りと、明日から何を意識して戦闘するかの確認をしよう」

「はい。お願いします!」


 今日はここ最近から比べると速く寝れそうだな。だらだらとしているよりはやることを決めてやった方が良いということか。

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