攻略方法は
「うー……これは無理です……」
唸りながら机に突っ伏したナナカに視線が集まる。動画を何度も巻き戻してキングヤドザミの行動パターンを調べているが、二時間ほど経ったところで頭を抱え始めていた。
無理か。遠距離職であるナナカとミナトが生き残るには確実にガードが必要なことはわかっている。避けることができれば話は別だが、それをするにも予備動作を見極め、事前に動き始めなければいけない。
「予備動作から攻撃までが早すぎます。これだと待ちの状態からでないと避けるのは間に合いません」
一応キングヤドザミの範囲攻撃は避けられると予想されている。よくある息のように拡散する形ではなく、レーザーのような真っ直ぐな水流であるので上か下に避けられる。地面に寝転べばあたらないと考えられているが、上下に動かすことは可能であるため早く寝転んでしまうと追ってきてあたってしまう。
プラバスタが試しに挑戦した時は、クレスさんが寝転んで挑んだが、二回目のブレスが下に振り下ろされてやられた。
避けるとすれば最初から寝転ぶのではなく、ブレスを確認してからにしないといけない。立った状態から寝転ぶまで、予備動作を確認して倒れるように寝転んだとしてもVRだと倒れきるまで早くても一秒はかかる。さらに詠唱中だったり動いている最中だったりすれば時間はもう少しかかるだろう。
「装備も一撃耐えるのは厳しい」
話が聞こえていたのだろう。奥の部屋から出てきたミナトは溜め息を吐きながら椅子に座る。
サディで耐えられたならとは思ったが、あの時のサディはある程度速さを捨て、耐久振りの装備だったようだ。プラバスタから聞いたダメージ量から考えると、今すぐに作れる装備だけではまだ足りない。
「一応、ツキヤにはローブを作ったから、これで一撃は耐えられる」
「ありがとう」
俺の現状の装備とプロテクトにさらにローブまで足して確実に耐えられる範囲に入る。ガードができれば話は違うが、盾持ちでも範囲の広さでダメージを結構くらうほどだから、俺ではガードは無理だ。
「結構きついね。蘇生アイテムは現状見つかっていないから、ナナカちゃんはせめて生き残れないとね」
「うう……申し訳ないです」
「こればかりは仕方ない。ミディスでもクレスでも耐えられないなら、ヒーラーが耐えられる攻撃ではないからな」
切り捨てるしかないのか?だが、HP半分から凛花の攻撃だけになるとかなりの時間がかかる。俺の集中力は絶対に保たないから、何度か休憩を挟まないといけないがそのタイミングでブレスが来たら終わりだ。
どうしたものか。時間をいくら使ってもいいならレベルを10や20上げれば済む話ではあるが、それだけ上げようと思えば睡眠時間を削っても一週間は早くてもかかるだろう。ORDEALは普通のゲームと違って自分で動かないといけないから、レベル上げにしても長時間続けていられるようなものではないし。
確実に勝つためには全員がブレス後に生き残っていないといけない。誰かが落ちるとそれだけ態勢を整え直すのに時間がかかり、運悪く畳み掛けられると崩れる。
だが、現状では確実に全員がブレスを耐えられるだけのステータスを用意できない。
やっぱり運ゲーに賭けるしかないのか?
結局、これまでもどんなボスかわからずに突っ込んで運ゲーをしていたのだから、賭けに出ること自体に問題があるわけではない。ただ、今回はせっかくの情報があるというのに勝ち目の薄い賭けに出るということに引っかかっているだけだ。負ける前提の戦いは好きではない。たったそれだけのことなんだよな。
「後衛の守備力が低い分はタンクの私がどうにかしたいところだけれど、範囲攻撃ではね……」
今まではフィルが攻撃を受けることでナナカとミナトが狙われることはなかったためにどうにかなってきた。それがタンクの仕事でもあるから任せてきたが、今回は範囲攻撃。タンクといえども誰かに向けられた攻撃以外を自分に集めることはできない。
フィルの盾スキルは今回のキングヤドザミ戦では役に立つだろう。ゲームだからこそなしえる技だが、実際の盾よりも広範囲を守るスキルや属性攻撃を軽減するスキルは有用だ。
ORDEALは現実的な部分とゲーム的な部分が入り混じっている。体を動かすのは完全に自分の意思であり、現実的に不可能な関節の動きなども行えない。本気で関節を壊すイメージで動いてすかさず回復すればもしかしたらできるのかもしれないが。かといえば、アクセサリーで守備力が上がったり露出の激しい装備で鎧と同等の守備力を出せたりもする。一応、露出部分はダメージ補正がかかったりするようだが、オシャレ装備で攻略なんてことも可能だ。俺達の装備も、金属製ではなく、布製だが性能は現状のトップレベルだ。
現実的な部分とゲーム的な部分。
そうか。もしかしたらいけるかもしれない。
「ナナカとフィルは仲良いよな?」
「はい! 一緒に住んでます!」
「友達でもあり親戚でもあるからね。一緒にゲームするくらいだから仲が悪いなんてことはないわ」
一緒に住んでいるのか。同じ大学みたいだからルームシェア的な感じなのかな。親戚同士なら親も知り合いだろうし、娘が一人暮らしするくらいなら二人で住ませる方がとなってもおかしくはないか。
「ミナトは俺とくっつくのは大丈夫か?」
「必要があるなら問題ない」
考える素振りすら見せずにノータイムで返事がくる。嫌われたりはしていなくてよかった。まあ、好感度が下がるようなことはしてはいないはずだから大丈夫だと思ってはいたが、ちょっと不安だった。
「思いついたの?」
「ああ。耐えれないなら耐えられる奴が盾になればいい」
「範囲的に大丈夫なの?」
「盾スキルの範囲ならぴったりくっつけば大丈夫なはずだ」
凛花は盾スキルの効果をしっかり見ていないからわからないだろう。MP消費量に合わせて盾の効果範囲を広げるスキルは、その気になれば人一人を完全に覆うことができる。消費MPが多いのが難点だが、ブレスに合わせて使うだけなら問題ない。
「HP半分まで削ったら、ナナカはフィルにぎりぎりまで近づいていつも通り。ブレスの予備動作が来たらフィルにくっついてできるだけ体を縮めてくれ。フィルはそれに合わせて大きめにシールドアッドを覆うように使ってくれ」
「ナナカを守れば良いのね」
「できるだけぴったりくっつきます。もう少し小柄だったら良かったんですが……」
そんなに大きくはないから気にしなくていいと思うが、ここで大丈夫だと言う勇気もないのでナナカはフィルに任せておく。
「ミナトは俺のローブの中な。HP半分までいったら前衛がレンヤ一人になるから魔法はどんどん使ってくれ」
「わかった。防御は任せた」
ミナトが作ってくれたローブは少し大きめなので広げれば抱きしめるくらいの形にはなるがミナトを覆うことはできる。現実ならこんなローブを着ていれば動きにくいが、それが苦にならないのもゲームならではだろう。そのおかげで今回は助かることになった。
範囲攻撃と言えども、ブレスはガードさえすればその奥に貫通しては来ない。薙ぎ払うような軌道なので直線状でもガード部分から離れていると余波をくらい兼ねないのでぎりぎりまで近づく必要があるが、盾二枚に守るべき後衛二枚ならなんとか守り切れる。
ナナカがいつもよりモンスターの近くに陣取ることになるので、通常攻撃の余波が怖いところだが、そこは耐えてもらうしかない。フィルの動きに上手く合わせれば、ダメージ自体はそれほど受けずに済むだろうから、そこは数日練習しておこう。
「私は?」
「レンヤはひたすら貼りついて攻撃。ブレスは気合で避けるか、できるだけダメージ減らすように立ち回って」
「あー、やっぱり。ま、やれって言うならやってみせるよ」
凛花ならできるだろう。貼りついてひたすらに攻撃して、ブレスの予備動作を見てから回避かガード。タゲがフィルに向くようにしておけば、運悪くブレスの開始点の直線状にいなければなんとかしてくれるだろう。凛花のステータスなら、一撃で全損することはないからの作戦でもある。




