範囲攻撃は
範囲攻撃。20層までのダンジョンでは範囲攻撃を持つモンスターはいなかった。ゴーレムやハイオークのなぎ払いが範囲としては最大級で、それもタンクが手前で受ければ問題ない攻撃だ。
結局、20層への一番乗りは間に合わなかった。無策で突入すれば一番乗り自体はできたかもしれないが、それはさすがに無謀としか言えない。20層へのポート自体はあの後二時間もせずに見つけられたが、その10分ほど前にアルブが翌日に20層に挑むと発表していたので一足遅かった。マナーがどうのってのを無視すれば挑戦することはできるが、ここで突っ込んでも完全に凛花頼りで相性運ゲーになるだけだし。
双天連月とプラバスタは20層へのポート自体は見つけているが、いつ挑戦するかは発表せずにアルブのチャレンジを見てから決めることにして、準備だけ進めて翌日を待つことになった。
その結果が、中継モニターに映し出された光景だ。
ボスモンスターは予想通りヤドザミの上位種であるキングヤドザミ。前半戦はヤドザミと同じような行動パターンで火力はさすがに高かったが、アルブのタンクが崩れる気配はなかった。
だが問題はHPが半分を切り、行動パターンが変わってからだった。半分を切った最初の行動が、フィールド全体に届くような細い水のブレス。初めての範囲攻撃に対応が遅れ、タンクの二人以外はほぼ直撃と言ってもいいくらい方をした。
耐久力の低いヒーラーは一撃死。ヒーラーのミディスが落ちたことにより、回復が完全に間に合わなくなった。
オルムの立て直しは上手かったが、ポーションのみの回復では回復が追いつかず、ポーションの使用のためにサディが攻撃に参加できなくなって火力も落ちる。
最終的に、三度目くらいのブレスでオルム以外の全員が落ちたので、キングヤドザミのHPの残り具合からしても粘り勝ちはないと判断したオルムが諦めて全滅という形で20層の初見挑戦は終わった。
「勝てると思う?」
「勝つだけならぎりぎりいけるかもな。この後の行動パターン次第だが」
「でも、それじゃあ面白くないよね」
ナナカとミナトを切り捨てて、フィルをポーション役にする。俺と凛花がキングヤドザミに張り付いて戦えば、ぎりぎり回復は間に合うだろうし、ダメージ量も自然回復を上回れるはずだ。
二人切り捨てて、一人をポーション使用だけの役割にしてもぎりぎり。突破だけならそれでいけるかもしれないが、一発成功も厳しいだろうし、パーティーの意味もない。これが100層ならそれもありかもしれないが、ここはまだ20層なのだ。今からそんな強硬策をとっていればいつか完全に行き詰まるだろう。
「あの水の範囲攻撃って水属性も乗ってるのかな?」
「今の映像だけだとわからないわね」
「後でじっくり動画で確認します!」
属性攻撃だったらフィルの盾スキルが活きるかもな。属性ダメージの軽減でどのくらい被ダメージを減らせるかにもよるが、タンクが安定するのは助かる。
「ナナカと私の装備も作る」
「装備は頼んだ。直撃しても耐えられるまではいかなくとも、ガード越しなら耐えられるようにしてくれ」
「任せて」
横なぎのブレスだからガードが上手くできるかもわからないが、少しダメージを減らせられれば耐えられる程度にはしたい。近接職にしては軽装備のサディがなんとか耐えられていたので、せめてプロテクト込みであのラインには持っていきたい。
話をしているとアルブのメンバーがギルドに戻ってきたが、そのテンションの低さに誰も話しかけることはできず、少し離れた位置で視線だけ送る。
他のメンバーをクランハウスに帰して、オルムは遠巻きで見ていた記者を呼んでインタビューに答え出す。
「よ。今度のボスは手強そうだな」
「トライか。今までが順調だったからな。ここで少し足踏みしそうだ」
「一ヶ月で20層だからな。運営もそろそろ焦ったのかもな」
単純計算だと五ヶ月でクリアしてしまうからな。さすがに後半はそんなに簡単にはいかないだろうが、テコ入れしてきた可能性もゼロとは言えない。
「プラバスタは挑むのか?」
「まだ考え中。ただ、挑むとしても全滅前提で様子見するくらいだな。粘ってポーションを消費したら、次に挑むのが遅れちまう」
アルブは今回結構粘ったから消費アイテムは多かっただろうな。アイテムは豊富に持っているだろうが、無限ではないので痛手なのは間違いない。
一回挑みたいというのもわかる。アルブのメンバー基準でのダメージ量なんかは映像でわかるが、ステータスがわからないので、そっくりそのままこちらのダメージ量になるわけではないので、被ダメージを調べたり、ブレスの迫力を知るために挑むのはありだ。
「俺達ももう少し準備をする。早くても週末だろうな」
「そんくらいはかかるか。ヒーラーが二人いる分、立て直しは早いだろうが、一発は耐えられないと意味ないからな」
「さすがに火力が高すぎる。オルムでもガードして三割強持っていかれるとなると、プロテクトあっても一撃だ」
横なぎのブレスだから裏に回り込めば当たらないだろうが、遠距離組が裏に回るなんてできないし、近づけば通常攻撃の餌食になる可能性がある。
今のところは耐久力を上げて一撃は耐えられるようにするくらいしか対策は思い浮かばないな。
オルムへのインタビューを終えたナトリが俺のもとにやってきたので、双天連月とプラバスタも準備に時間をかけることを告げてクランハウスに戻る。
アルブも一週間は準備に時間をかける予定だと聞いたので、それほど焦る必要はなくなった。だが、それでも俺達が勝てる保証もないので、できることはやっていかないといけない。
「今回も基本的にはレベル上げしつつ素材集めだな。いつもと違うのは、どんなボスかわかっているから対策をしっかり考えられる。やれることはやっていこう」
「夏休みが終わるまでに20層は突破したいね。できれば一番で」
結局三パーティーともボスに対しては有効打を持っているわけでもないから、完全に並んでいる状況だ。有用な何かを発見するか、それとも装備やレベルを上げてなんとか突破するかどちらになるかはわからないが、ここで大きく差がつくこともなさそうだ。
「夏休み最後の記念に、20層突破一番乗りを目指しましょう! できることはなんでもやります!」
「ナナカとフィルはキングヤドザミの行動パターンをしっかり覚えておいて。二人が崩れることがなければ勝率はかなり上がるから」
フィルが崩れなければ、俺さえミスらずに生き残れば勝機はある。一撃耐えられるのならば、ナナカのヒールタイミングは重要になる。行動パターンの分析なんかは二人が得意そうなので、そのまま自分達でしっかり覚えて対応できればかなり戦況は楽になるだろう。
凛花にはブレスを回避してもらうとして、ミナトがどうなるかだな。守備力さえ足りればいいんだが。




