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ここから三章です

 19層。ほとんど海岸と言っても良いフィールドは、地面が砂のところも多く、踏み込むと足をとられることも少なからずある。

 スキルであれば、踏み込みは自動で行われるので問題なく戦えるが、俺は攻撃スキルがないので自分で前に出るには足元の注意は怠ることはできない。軽やかに動く凛花とは違い、砂が足に絡み重い動きの俺はできるだけ動かずに戦っていた。


 探索を終えてギルドに戻ると、アルブの一軍パーティーがモニターに映っている。まだ入ってきたポートの近くみたいだが、すでに19層にいるので差はなくなったと言っていい。プラバスタも19層に到達しているので、完全にポートを見つけた者勝ちな状態だ。


「さてさて。今日もクラン加入希望者からの申請が来てるね」


 第二陣が参加してからは、参加したいクランに加入申請を出す機能が解放された。クラン側から条件を指定したり、一覧に載せないようにしたりといった設定はできる。

 一応いくつかの条件だけは指定した状態で載せてはいるが、とるつもりはほとんどないことをナナカ達にも伝えているし、ナトリに記事にもしてもらっている。


「生産職持ちはいない。インフリケードが大々的に募集しているから仕方ない」

「しばらくは引き続きミナトに頑張ってもらうしかないか」

「任せて。装備作るのも楽しい」

「ミナトちゃんの装備は見た目もいいからね。楽しみだよ」


 これまでの情報やこの間の大会で、やはり職業は二つとも戦闘職にしておかないとステータスの差が出てしまうということがわかったので、第二陣のプレイヤーは二職とも同じ装備に適性を持った職業を選んでいる。そのせいもあって、生産職をしたいプレイヤーは完全に生産職になり、大手のインフリケードに入ることがほとんどだ。

 インフリケードは市場にもアイテムを流してくれているので問題はないが、完全に生産職と戦闘職で別れるのもどうかとは思う。全体を考えれば、大手クランが抱え込むよりは、供給が行き渡るだけましではあるか。


 申請を一つずつ確認して拒否しながらコーヒーを飲む。この世界でコーヒーを飲んだところでカフェインを摂取できるわけでもないが、香りと雰囲気だけでも気持ちが和らぐので好きだ。

 むしろ、現実と違ってトイレに行きたくなったり、空きっ腹に飲んで胃もたれすることもないから気楽に飲める。


「とりあえず、20層まではトップで抜けたいね」

「20層と言わずに25層も30層もトップで行っちゃいましょう!」

「そうできたら良いんだけどねー。皆は学校とかないの?」


 来週から学校か。考えるだけで気が滅入るが、どうせ学校に行ったところで、授業中はぼーっとしているか寝ているだけなんだが。何かしないといけないことがあるってのが面倒なんだよな。


「私はほとんど大丈夫です!」

「私とナナカはORDEALが発売するからって、今年の前期まで講義を詰め込みまくって単位は取ったから、週三回午前中に学校行けば大丈夫よ」

「二人とも大学生なんだね! 週三回だけっていいなー」


 確かに羨ましいが、そのためにどれだけ講義を詰め込んだのやら。できる時にやっておくというのは良いことだが、実行するのは大変なんだよな。よく乗り切ったものだ。


「私は専門学校で、あとは資格試験の勉強だけだから大丈夫」


 それは大丈夫なのか?本人が大丈夫というならいいけれど、俺達が学校に行っている間なんかはポーションなんかの作製は置いておいて、勉強しておいてほしい。


「皆年上なんだね。私とツキヤは高校が始まるから、16時くらいまではインできない日が多くなりそう」

「二人とも高校生だったんですか!? しっかりしているので年上かと思ってました」

「学校は仕方ないわね。トップに居続けることが目的でもないから、楽しみながらダンジョン攻略をして、トップ集団に混ざれるように頑張りましょ」

「ゲームなんだから楽しむことが大切」


 凛花に頼んでいたが、まだ高校のことなんかは伝えてなかったのか。普通に受け入れてもらえたので良かった。


「授業終わったらささっと帰ってインするから! 負けないように頑張ってどんどん進もう!」

「はい! 全力でサポートします!」

「あまり張り切られると、こっちの出番がなくなりそうで怖いわ」


 本当にな。凛花が張り切って進んでいったら、ついていけるか不安だ。凛花なら大丈夫な気もするが、張り切って進みすぎてモンスターに囲まれて死亡とか、目も当てられないから適度にセーブしてくれよな。





"プレイヤー名:トライ より、メッセージを受信しました"


 クラン加入申請も全て拒否し終え、ゆっくりとしていたところでトライからメッセージが届いた。ギルドやダンジョン内で会えば話をするが、メッセージでのやり取りはあまりしない。

 何か約束したこともないから、どうしたのだろうか。


「あー……抜かされたか」

「どうしたんですか?」


 俺の手元に表示されたウインドウを覗くかのようにナナカが俺の方に身を乗り出すが、ウインドウの表示内容は人に見えないように不可視化してあるので、ナナカはそのまま俺の顔を覗く。


「プラバスタとアルブが20層へのポートを見つけたようだ」

「ええ!? アルブは今日19層に到達したばかりですよ」


 プラバスタは二日前に俺達と一時間差くらいで19層に到達したから仕方がない。アルブはほんの二時間前くらいだが、俺達とプラバスタの探索状況から情報収集班がしっかりマッピングして、未探索エリアに絞って本気で探索したのだろう。

 どの辺りのポートを発見したのか。俺達の探索エリアから遠ければ、今までの探索は無駄になってないのでいいのだが。


「プラバスタはこのまま帰還して、早くても明後日までは準備するようだ。アルブも一度帰還したが、かなり急いでいたようだから、もしかするとすぐに挑むかもしれないってさ」

「こっちはまだポートも見つけてないです」

「どうする? ポーションは余裕ある」


 ポートの一番乗りは負けてしまったが、結局一番大きな部分はボス攻略だ。アルブとプラバスタがともにボスに負ければ、差はなくなる。むしろ、ポーションなんかのアイテムの状況的にこちらが有利になるかもしれない。

 だが、一発突破されれば差は大きくなる。少しで差を詰めるために急いでポートを探すか、焦らずに休むか。道中で全滅することは今の階層では無さそうだが、それも絶対ではない。今日の探索もして疲労がある状態で焦ればどうなるかはわからない。


 四人の様子を見る。ナナカは焦ったように掲示板で情報を探し、フィルは抜かされたことで少し落ち込んでいるのか静かにナナカの開いている掲示板を一緒に見ている。ミナトはアイテムの数を確認して、必要な物を取り出している。

 凛花を見ると、凛花も他の皆の様子を見て何か考えているようだ。自分の手を何度かぐっと握り、そして俺の方を見る。

 視線が合うと、口パクで大丈夫?と尋ねてきたので頷く。聞いてきたということは凛花は大丈夫だと判断したのだろう。それならば、俺が反対することはない。


「じゃあ、今からポートを探しに行くよ! アルブの動きはわからないけど、私達もポートを見つけて、明後日までに準備を終わらせる!」

「はい! まだまだこんなところでは離されません!」

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