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全力は

一応、二章の続きです

閑話的な感じの三章への繋ぎ

「ん……あれ?」


 ここはクランハウスか。いつもログインやログアウトに使っている自室扱いの部屋のベッドで横になっていた。と言っても、今ログインしてきたわけではない。

 こんなところで寝た記憶もないし、最後はどうなったんだっけ。


「あ。起きたんだ。体は大丈夫?」


 どうなったのか考えていると凛花が部屋にやってきた。銀色の髪に青い瞳。その容姿が、ここがORDEALの中だと再認識させてくれる。

 頭がぼーっとする。思考が少しまとまらないが、これは疲労か。そういえば、大会の最後に凛花と戦ったんだっけ。それでやっぱり勝てなかったと。


「さすがにゲーム内のアバターだから体は大丈夫だ。集中しすぎたせいで、頭はぼーっとしているが、このくらいなら問題ない」

「よかった。現実なら、あれだけ動いたら筋肉痛程度じゃ済まないだろうから、VR様様だね」


 現実であれだけ本気で動けば、全身筋肉痛だけでなく、筋くらい普通に痛めていてもおかしくない。前に本気でサッカーなんてしたときには、試合から帰って晩ご飯食べずに12時間くらい寝て、翌日は筋肉痛で体がバキバキだったし。

 VRだと体にかかるフィードバックは気にしなくて大丈夫なのが救いだ。その場の少しの間は痛かったりするが、すぐに治るからいくらでも動ける。


「ORDEALの中だったからステータス補正があって助かったよ。現実だと夏樹を背負ってここまで来るなんて無理だからね」

「凛花が運んでくれたのか。悪かったな」

「いいよ。楽しかったから」


 闘技場でリスポーンして、フィールドの中央に立っていた凛花を見た後の記憶がないと思ったら、そのまま寝てしまったのか。

 あれ?あそこって、観客どころかネット中継されているんだよな……もしかして、凛花に運ばれたところまで全部映ってる?

 ……やばい。死にたい。


「下で皆待ってるから動けそうなら来てね。無理ならチャット飛ばして」

「ああ。もうちょっとしたら行くよ」

「うん。次も楽しみにしてるよ」

「次は勝つ」


 楽しそうに笑みを浮かべて部屋から出ていったので、もう一度ベッドに寝ころぶ。

 あれだけ準備をして、凛花はその前に戦闘もしていたというのにまだ届かないのか。凛花の動きもかなりキレが良かったが、それは言い訳にしかならない。状態で言うならお互いに良かったのだから、むしろ本気で戦えて良かった。

 次こそ勝つために、ちゃんと今日の戦いは後で振り返っておかないとな。せっかく現時点での凛花の本気が見れたのだから、それには対応できるようになっておかないといけない。


 ほんの少し目を閉じてリラックスした後に、部屋を出て下に向かう。

 とりあえず、ミナトには謝っておかないとな。せっかく装備を作ってくれたのに、勝てなかったから。


「あ! もう大丈夫なんですか?」

「もう大丈夫だよ。VR内だと体の負担はないから、少し寝たらスッキリした」


 まだ完全にスッキリしたわけではないが、心配そうに俺を見るナナカの不安を和らげるためにも、笑顔を見せる。一回ログアウトして糖分でもとってきたら良かったかもしれない。


「回復したなら良かったわ。栄養にはならないけれど、一緒に食べましょう」


 凛花の優勝祝いに用意された料理をフィルが取り分けてくれたのでありがたく受け取る。皆に混ぜって食べるが、お腹が満たされないということは現実でもお腹が空きはじめているのか。まだまだ問題ない程度なので、こっちでゆっくりしてからでいいか。


 タイミングを見計らってミナトの横に移動する。ミナトもまだ少し眠そうにしながら料理を食べているので、あの後ゆっくり寝ていたりしたわけではないようだ。


「せっかく装備を作ってもらったのに勝てなくて悪かった」


 ミナトが顔をあげて俺をじっと見る。10秒ほど言葉も発さずに見つめ合ったところで、視線が外れた。


「いい。良い戦いだった。作った甲斐は十分あった」


 また肉をもきゅもきゅと食べ始めたので、それ以上は何も言わずに俺も料理を食べる。ナナカがテンション高く凛花や俺に話しかけてくるのでそれに答えながら適当に時間を潰す。

 30分くらいするとナナカも少し落ち着いたので、眠そうなミナトと俺のために終わらせることになった。あれだけ戦った凛花が元気なのがムカつくが、凛花に背中を押されながらログアウトするために移動する。


 ログアウトして現実に戻ると、一気に体が重く感じる。眠たいがお腹も空いているのでどうするか迷っていると部屋のドアがノックされ凛花が入ってきた。


「どうせ、ご飯作るの面倒だとか考えているだろうから持ってきたよ」


 途中で何かメッセージを送っていたと思ったらご飯の用意を頼んでいたのか。ありがたく受け取って凛花と一緒にご飯を食べる。ゲームの中でも食べていたところなので変な感じはするが、お腹は空いているので問題なく食べられる。


「やっぱりORDEALやって良かったね」

「そうだな。こんなに本気でやれるとは思わなかった」


 ORDEAL自体は情報公開からずっとやりたかったが、実際にやってここまでハマるとは思わなかった。凛花と戦えたことも良かったが、それを抜きにしても楽しい。動きにさえ慣れることができれば、VRの爽快感は他では味わえない。ゲーム開始からもう一か月弱が経っているとは思えないほどに、初めて見る景色やモンスターとの戦いであっという間に時間が過ぎていく。


「明日には第二陣が参戦だね」

「人が増えるのは良いが、問題とか起こらないと良いが」

「ちょっとくらい何かある方が面白いけどね。楽しければどんとこいだよ!」


 俺達が知らないだけかもしれないが、今のところ何か大きな問題とかは起こっていないからな。プレイヤー間のいざこざなんかはすぐに運営による対応が入るみたいだし。


「夏休みもあと二週間もないからその後が問題だね」

「絶対にトップからは落ちるだろうな。さすがに毎日徹夜なんかはできないし、ダンジョン探索くらいなら問題なくできるだろうが、準備なんかは遅れるだろうな」

「私達は部活とか塾とかもないから夕方からはインできるからね。三人はどうなんだろ」


 この一か月ほどはほとんどインしていたから仕事はしていないとは思うけれど、学校があるならインできるかはわからないから、今度一度話し合わないとな。あまりプライベートな話を俺からするのもあれだから、凛花に頼んでおこう。


「じゃあ、今日は無理せずゆっくり寝なよ。また戦おうね」


 しばらくは戦いたくないが。また勝てる見込みがあればいつでも戦ってやるさ。

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