勝利は
「ORDEAL開始直後からダンジョン攻略でトップを走り続けている二人のプレイヤー。圧倒的なプレイヤースキルとボスを相手に一人で道を切り開く勇者! そして、その最も近くでサポートし一人でパーティーの全ての役割をサポートするユーティリティプレイヤー! 果たしてどちらが強いのか、これは楽しみですね」
「レンヤ選手の実力は先ほどまでの戦いで見てきましたが、ツキヤ選手の実力は未知数。ダンジョン戦でレンヤ選手に合わせてかなりのプレイヤースキルを見せてきていますが、レンヤ選手に通用するのか」
「それでは、始めましょう! 試合開始!」
試合開始の合図とともに凛花が間合いを詰める。ミナトからもらったトンファーを装備し集中する。
三連撃。初っ端から勝負を決めにきたかのような攻撃。全て受け流し、スキルコネクトで放たれるスラッシュを弾く。
軽い!にやっと笑みを浮かべる凛花の表情が目に入り咄嗟に魔力を放出する。
「夢散華!」
その体勢から使えるのかよ!弾くために一歩踏み込んだ状態だったせいで一撃目は避け切れない。すかさずヒールの詠唱に入りながら、残りはなんとかさばききった。
「ヒール」
「よく受けきったね。調子は問題ないみたい」
「あの程度でやられるかよ」
だが、今の攻撃で全く反撃ができなかったの辛い。スキルコネクトの基本技術となるスキルキャンセルは、ただスキルを途中で止めるだけの効果ではない。スキルキャンセルを行うポイントによって効果は変わり、普段凛花がスキルコネクトで使うのは最後のキャンセルポイントで、スキル後の硬直時間に次のスキルを割り込ませるもの。だが、さっきの軽いスラッシュはそれよりも早い段階のキャンセルポイントを使ったため、スキル効果自体が発生しなかったので軽くなった。あの場合、スキル硬直が本来発生するまでの間時間経過だけが発生し、スキル硬直の実時間が短くなる。スラッシュなんかだと、硬直時間が短いので、実質硬直時間はゼロになってしまう。
あれを組み合わせられると、こっちの対応がかなり難しくなる。剣の重さで次の動きを知る必要があるが、考えてからでは間に合わない。
「レンヤ選手の猛攻をさばき続ける! スキルコネクトによる猛攻ですら、クリーンヒットは未だ一回のみ!」
いらない思考は無くせ。一瞬の迷いが致命傷になるのなら、考えることすらやめて全てを自分の感覚にゆだねろ。
「やっぱりいいね。全力で戦えるっていうのは!」
まだ上がるっていうのか。いや、こんなに簡単に受けられるのであれば、ここまで固執したりしない。
速くなる凛花の動きに合わせるかのように俺の動きもまた速くなっていく。凛花の攻撃を弾いて、俺も攻撃に転じるが、どうしても攻めきれずにまた攻守が入れ替わる。
「すごい攻防ですね……こんな動きがORDEALでできるとは、さすが数世代ぶっ飛ばしたと言われている技術力でしょうか」
「いや、ORDEAL自体の補正もあるでしょうが、あの二人が別格だからこそできることです……」
「と、言いますと?」
「レンヤ選手の動きはかなり良いです。スキルコネクトはかなりの技術ですし、スキル外の動きも本当に素晴らしい。あれは本当に天才の域に入った人間です」
「そうですね。誰が言い始めたのかはわかりませんが、良い意味で勇者と呼ばれるのにふさわしい実力でしょう」
「それに対して、同等の戦いを演じているツキヤ選手なんですが、ステータス補正によるフィジカルアシスト、職業は中継で見たことがある人ならわかると思いますがヒーラー系と支援魔法使い。支援魔法の効果と支援魔法使いの職業アシストにより通常行動のシステムアシストの恩恵をかなり受けてはいますが、ガードや攻撃に関してのシステムアシストは職業上全くありません」
「あの動きを自分の意思で全て行っているということですか?」
「はい。あれは天才……いや、化け物の一種と言っていいほどのプレイヤースキルです。まさにVRの世界にあった、いやこの世界のためにあるような才能です」
気がつけば、会場の騒がしさはなくなり、剣とトンファーがぶつかり合う音だけが耳に入ってくる。俺の集中力が周りの音をすべて排除したのか、それとも見逃さないようにと静かにただ見ているのかはわからないが、さらに深く、どんどん俺の動きは高まっていく。
「君のおかげで、私はまだまだ強くなれる。もっと限界まで高め合おう!」
「勝つのは俺だ!」
一度崩れればそれで全てが終わる。吠えるように捻りだされた声が、自分から出たのではなく別の何かから出たかのように、深く潜った感覚は全てが遠く感じる。
「残念だけど、これで終わりだよ」
今までよりもさらに速く凛花の剣が俺に迫る。その剣を左手のトンファーで逸らすと、ふと視界に入った凛花の表情が楽しそうに笑っていた。
やばい!そう本能が告げ体に寒気が走る。
凛花の剣が光りスキルが発動する。右肩、左肩、腹、首と連続で迫る刺突を逸らして避ければ、そのままスキルコネクトで三連撃が襲ってくる。一発右腕に掠りながらも直撃は避けると、次は夢散華へと繋がった。
「天才と張り合うのは天才か化け物。そうだとすれば、君は本当に化け物だ」
夢散華の全てをさばき切り凛花にスキル硬直が生まれる。
すっと力の抜けたような笑み。その表情に驚きながらも、俺の体は止まることなく凛花の胸元にトンファーに仕込まれたナイフを飛び出させて突き刺す。
「死ね!」
とった。手に伝わってくる感覚がそう告げる。それと同時に、すうっと感覚が普段通りに戻ろうとしたところで、またもや寒気が走った。
「理性を薄め、本能を極限まで呼び出す。でも、本能で動くせいで、これがゲームだと完全に割り切ることができない」
ゲームだから死んでも大丈夫。今まで一度も死に戻りすらしていなかったせいで、その感覚がまだない。
胸に剣が刺さろうとも、HPさえ残っていれば死にはしないし、HPがゼロになるまでは動くことができる。ここはゲームなんだから腕を切り落とそうとも再生するし、頭を貫いても動ける。
「まだ甘いね。もっと研ぎ澄まして全てを切り裂くくらいでないと」
凛花の剣が光る。クールタイムが空けたばかりの夢散華が、トンファーを突き出してがら空きになった俺に迫る。
咄嗟に後ろに飛びのくが、ほとんどが直撃した。HPはなんとか残っているが回復も間に合わない。
凛花はさらに一歩踏み出し、スキルコネクトでダメ押しの一撃を狙う。
「楽しかったよ」
あの入りからして三連斬だろう。あれなら、一撃目なら耐えられる。
「甘いのはそっちも一緒。手負いの獣は怖いんだ」
前に倒れこむように足を踏み出す。三連斬の一撃目が深く俺を捉えるが、HPゲージが一瞬で消えることはない。
ORDEALは適性職業でなくてもシステムアシストとスキルにさえ目をつぶれば装備することはできる。やろうと思えばなんだってできる。ものによってはする前にアカウント停止になったりすることはあっても、決してできないということではなく、やる前に止められるだけだ。
だから、俺だって剣を使ったり、今回はトンファーを使った。それと同じように噛みつくことだってできる。
二撃目が俺を捉える前に、凛花の首元に噛みつく。赤いエフェクトがダメージが発生したことを告げる。これで倒せるとは思っていないが、現実ならこれでもう一度殺せただろう。
「しょ、勝者はレンヤ選手! 最後はHPゲージが赤になるまで追い込まれましたが、最強の座は譲らず勝ち切りました!」
視界が暗転すると、気がつけばフィールドの端っこにリスポーンしていた。急に騒がしくなった観客席に苦笑いをしつつ、フィールドの中央で未だに立っている凛花を見て、自分が負けたことを再認識する。
まだ、届かないのか。せっかくミナトが無理してまで装備を作って背中を押してくれたって言うのに。
大きく溜め息を吐いて空を見上げる。遠いな。もっと強くならないと。




