トップクランは
ダンジョンに潜る前にギルドの中を通るとモニターの前に人だかりができていた。まだプラバスタが15層へのポートを見つけたとは聞いていないし、俺達が15層に挑むのもまだだから他のパーティーだろう。
時間が無いというわけではないので、少しモニターを見ようと皆に言って開いている席に座る。
ゴーレム戦か。10層ということは現状の二番手集団の一つだ。10層を突破しているパーティーは今のところ俺達とプラバスタだけなので、これで抜ければ一歩先を行くことになる。
「これはアルバですね。現状一番大きいと言われているクランです」
「そうだな。アルバの一軍パーティーだ」
「デュークさん!? 見に来てたんですか」
「アルバには知り合いもいるからな。連絡をもらって見に来た」
アルバね。覚えておこう。一軍パーティーということは、他にも数パーティー作れるだけの人数がいるということか。
ナナカとデュークさんがアルバについて説明してくれたので、それを聞きながらゴーレム戦の様子を見る。パーティーはタンク2、近接アタッカー2、ヒーラー1のプラバスタと同じ戦法だ。しっかりと見るとヒーラーの指にはタグリッドリングらしきものがつけられているので、ヒールを飛ばすのか魔法攻撃も覚えているのかどちらかだろう。
リーダーはタンクのオルム。タンクとしただけの実力ならばデュークさんの方が上だろうが、タンクをしながらの状況判断、そして攻撃への参加までしていてかなりの実力だ。
「これは余裕そうですね」
「負けることはないだろう。オルムは総合力としてはナンバーワンプレイヤーと言ってもいい実力を持っているし、アタッカーのサディはレンヤと比べられるほどの実力者だ」
「レンヤと……」
両手に剣を持った双剣スタイルのアタッカー。サディ、どこかて聞いたことのあるような名前だが、その姿は見た記憶がない。スキル重視のプレイスタイルならいいが、双剣は普通に扱おうとすれば相当難しい。スキルによるアシストの入った状態なら攻撃できるが、ほとんどアシストのない状態で両手に剣を持って重たい攻撃ができるか。普通のプレイヤーならできないだろう。システム的にいくら剣で切ろうともしっかりと踏み込まないとダメージがかなり減算されてしまうので、ちまちまと切るだけではなかなかアタッカーとしての仕事はできない。
それなのに大手クランで一軍に選ばれる実力。これは本当に凛花と並ぶプレイヤースキルを持っているかもしれない。
「速いね。あれは現状のレベルでのステータスによる補正だけでは到達できない速さだよ」
映像を見た凛花が呟く。
確かに速い。攻撃と攻撃の間の隙がほとんどない。凄まじい速さで距離を詰め、スキルによる攻撃をしたらすぐに離れる。そこからまた距離を詰めての攻撃。DPSだけを考えれば凛花には劣るだろう。だが、激しく動き回るゴーレムの攻撃に全くあたらずにダメージを稼いでくれるのは、ヒーラーからすればかなりありがたい。
「あのヒーラーやっぱり攻撃魔法も使えるのか」
前半戦を余裕をもたせながら削りきったアルブは中盤以降、ヒーラーのミディスがファイアーボールを使い攻撃の手を強めた。
その分回復が間に合わなくなるが、タイミングよくポーションを使用することで補い、一気にHPを削る。時間をかければ結局MPポーションを使用する量が増えるし、疲労も溜まっていくから悪くない判断だろう。前半戦で攻撃魔法を使わなかったのは、様子見かヘイト管理だったのかもしれない。
「圧倒的でしたね。まだまだ余裕そうです」
「そうね。討伐時間もかなり早いし、崩れそうになる場面も全くなかったわ」
あれが、トップクランの実力か。今のままでは、20層のボスにたどり着く頃に追いつかれていてもおかしくない。向こうは先にレベル上げをしているから、探索速度も速いだろう。ボス前にちまちま準備していたらそのまま先を越されてしまいそうだ。
「現状一番バランスが良いのはアルブだろう。だが、俺達も双天連月も負けているわけではない。アタッカーナンバーワンはレンヤだろうし、タンクナンバーワンは俺だ。ヒーラーは難しいがクレスかナナカだろう」
デュークさんが言ったことは間違ってない。
アタッカーとしてはDPSを考えれば凛花が上だろうし、トライだって負けてはいない。
タンクもタンクとしての実力ならデュークさんが上だ。フィルも盾スキルが有用になる相手なら負けてはいない。
ヒーラーは安定性ならばクレスさんだ。ナナカはまだヘイト管理とスキル回しに難があるが、二つとも回復職のため多様性ではトップだ。ミディスさんは攻撃魔法を使える分火力にもなれるが、そのせいで回復量が落ちている。
レベルとクランの総合力では負けているので、このままではジリ貧だが、それでも簡単に負けるほどではないか。
「ライバルは多い方が面白いからね。簡単に負ける気はないよ」
「うちも同じだ。20層までは互いに競い合おう」
ゴーレムが倒れたのを確認してダンジョンへと向かう。ポートに続く扉の前まで来たところでゴーレムを撃破したアルブがすぐにダンジョンから出てきたようで遭遇した。
「双天連月か。今からダンジョン探索かい?」
「ああ。そっちはゴーレム戦お疲れ様。さすがトップクランだな」
「攻略階層では負けているけどね。頑張ってすぐに追いつくよ」
オルムは思ったよりも良い奴みたいだな。トップクランのクランリーダーともなればもっと鼻にかけたやつか荒い奴かと思っていた。
去っていくアルブのメンバーの中でサディだけが俺を睨むかのように見続ける。何かしたかな?名前は聞いたことがあった気がしたが、会うのは初めてだと思うんだが。
「あなたがツキヤ?」
「他に同じ名前のプレイヤーがいるかもしれないが、俺もツキヤだな」
「負けないから。最速は私」
いや、あの速さは俺には無理だと思う。速さに特化したスタイルではないことは見たらわかると思うんだが。
「訓練室のスコア。どうやったの?」
「訓練室? ああ、あれか。あれは単純にひたすらガードと受け流しでさばき続けただけだ」
そうか。そこかで見た名前だとは思っていたが、訓練室のスコアボードで二位に入っていた奴だ。それで、記録を更新した俺のことを敵対視しているのか。
あれは俺の得意分野だから勝てるかもしれないが、動きのスピード自体では勝てる気なんてしないがな。
「私の剣の方が速い。それだけは覚えておいて」
そう言って去っていくサディ。小柄な体格に、あれは獣人系の種族だろう。職業も軽戦士か何かを選んでいるから、最初からスピード特化でキャラメイクしたプレイヤーか。
「また変なのに目をつけられたね。でも、あの子のスタイルならツキヤが負けることはないと思うけど」
「まあ相性的には良い相手だろうな。とは言っても、戦うことなんてないだろうけど」
DPS=Damage Per Second=ダメージ/秒=一秒当たりのダメージ量
サディについては第22話「準備は」参照




