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初めてのダンジョン

 街の中心に付近にある大きな建物。ダンジョンギルドと看板に書かれたその建物は街の中でも一番大きな建物だ。

 ギルドの中には大きなモニターが10個あり、それが試練のダンジョンの中を映し出している。モニターには番号か割り振られており、数字が小さいほど席も多い。


「ゲーム内からでも観れるのか」


 ネット上でチャットで話すよりは、ゲーム内でアバターに身を包んで盛り上がる方が楽しいだろう。そのゲーム内に入れる人間が少ないのだが。

 また、パーティーを組んでいたりする人は観ながら作戦を話し合ったりもできる。ボス前なんかはここで情報を集めた方がいいだろう。


「はい、登録してきたよ。これはプレイヤー?」

「ありがとう。いや、今映っているのはNPCのようだ。9層まではNPCが攻略しているようで、ここで情報収集ができるみたい」

「へー。じゃあ、私達が試練のダンジョンに一番乗りだね」


 映っている中にプレイヤーはいないようだ。本当に一番乗りかは分からないが、サービス開始から15分も経っていないから一番乗りの可能性は高い。

 装備もアイテムも整えずに推奨レベル10のダンジョンに挑むなんて馬鹿みたいなものだ。記念に突っ込む奴はいるかもしれないが、本気で攻略しようと思っているのは俺達くらいだろう。


 ギルドの奥にある扉。そこで受付に登録したカードを見せれば中へと入れる。


「カードの確認ができました。初挑戦頑張ってください」

「私達以外にプレイヤーは来た?」

「いえ。カードの登録に来られた方はいますが、中に入られた方はいません」


 やっぱり一番乗りだったか。これで、あっさりと死に戻りさえしなければいいんだが。


「ボス戦以外のダンジョン探索では、中継機能をオフにできますが、いかが致しましょうか?」

「オンでお願いします」

「かしこまりました。それでは頑張って下さい」


 中継機能をオフにするなんて、もともとの目的を考えればありえないから即答すると、受付の女性が扉に手をかざす。

 ゆっくりと開く扉の先には地下へと続く道と、大きな石碑がある。石碑は行ったことのある階層に飛ぶための装置らしく、今の俺達には関係のないものだ。


 階段の先は薄暗い。ここが現実ならば、この先に進むのにはかなりの勇気が必要だろうが、あいにくにもここはVRのゲーム内。もし、進んで死んだとしても待っているのはデスペナルティーのみ。

 大きく息を吐いて一歩踏み出す。隣を歩く凛花がいれば。二人でなら怖れることなどない。



「これがダンジョンなのか」

「予想外だね。もっと洞窟っぽいものだと思っていたよ」


 階段を降りた先は草原だった。青く澄んだ空も、ゆっくりと動く白い雲も、照りつける太陽さえある。

 地下だぞ、おい。さすがゲームと言ったところか。薄暗い洞窟よりはやり易いから文句はないが、これならこれで先に言っておいて欲しい。


 メニュー画面を開くと、上部に目のようなアイコンが表示されている。その横に書かれた数字が0から1へと変化したのをみると、これが中継を見てくれている人数なのだろう。

 数字がどんどん増えてきたので、慌ててメニューを閉じる。やはり、一番乗りで来たことは目立つようだな。


「とりあえず、あそこにいる小さい猪から倒してみる?」


 凛花が指差す先には猪なのか子供のうり坊なのかは知らないが、アイコンにはミニボアと書かれている。

 剣を構えた凛花に対し、支援魔法の詠唱を始めることで肯定の返事をする。

 敵は一体。最初の層だからそれほど強いことはないだろうが、それでも推奨レベルは10だ。気は抜けない。


「プロテクト。一応防御は上げたが、初期装備だ。できるだけ当たるなよ」

「任せて。初戦闘、勝利で飾るよ!」


 駆け出す凛花に、嫌な予感がしたので回復魔法の詠唱を始める。魔法を選択してウィンドウに表示された詠唱を読み上げるだけだが、慣れるまでは大変だな。

 凛花の攻撃がミニボアを捉えるが、HPバーは二割程度しか削れていない。ダンジョン内で一番弱いであろう入口近くのモンスターですらこれか。この先どうなることやら。

 単純な突進はかわしながら剣で切りつけるが、不慣れな剣という装備での切りつけでは力が乗っていないせいかダメージが殆どない。これがVRの難しさか。今までのゲームなら、適当にボタンを押していれば攻撃は当たり、ダメージは単純にステータスで決まる。VR、というよりはORDEALではステータスと力の込め方でダメージが決まるので、しっかり踏み込んで攻撃しないとダメージがまともに出ない。


「スラッシュ!」


 剣士の初期スキルを発動させる。剣の動きが先程までとは段違いの鋭さだ。ミニボアの背中を切り、ダメージは五割ほど出た。

 先程までよりも深く踏み込んだ一撃。ダメージを出すために必要だったその距離と、初期スキルとはいえ僅かに発生するスキル後の硬直時間が、ミニボアの反撃を避けるには間に合わない状況を作り出した。


「ヒール!」


 避けれないであろう一撃。当たるよりも早くヒールを発動させ、凛花へと飛ばす。


「くっ!」


 凛花のHPバーが勢いよく減っていき、半分を少し過ぎた辺りで、今度は俺のヒールによって回復した。自分のHPを確認して深く踏み込みもう一度スラッシュをミニボアに叩き込む。


「完全勝利! 1層くらいならなんとかなりそうだね」

「結構危なかったけれどな。ダメージも大きかったし、二発連続で喰らったらやられるぞ」

「二人でなら問題ないでしょ。さっきもナイスタイミングのヒールだったもん」


 さすがに凛花と息を合わせるのは慣れているから大丈夫だが、ゲーム面には慣れていないからきついんだぞ。

 さっきのだって、ヒールを使おうとしたが、対象を選択して回復なんて優しいものではなく、しっかりと飛ばす場所を決めてそこに投げるようなイメージで飛ばしたんだから。一歩間違えれば、何もない場所にヒールが飛んでいく。それだけならいいが、敵にヒールが飛んでいって、もしそのヒールで敵が回復する設定だったら目も当てられない。

 これは、魔法職全般的に厳しい流れかもしれないな。攻撃魔法でも味方を巻き込む可能性があるし、最初の内は邪魔者扱いされるかもな。俺だって、凛花以外に合わせるのはきついと思う。


「スキルは扱いづらいね。自分の感覚とは違って、体を操られるような感じがするから、タイミングとか覚えないとね」

「積極的に雑魚と戦いながら慣れていくか。俺の方も慣れが必要だから、死なない程度にならダメージも受けていいぞ」

「はーい! 敵の攻撃自体は、痛覚軽減のおかげでそんなに痛くないから怖がる必要もないからね。どんどん突っ込んでいくよ!」


 俺は先に魔法に慣れることからだな。戦闘に関しては余裕ができてからだ。まずはこの体に慣れる必要もあるから、時間がかかるだろう。


「次はあいつだー!」


 元気よく走り出す凛花の後を追って、支援魔法から詠唱を始める。さっきかけたプロテクトは残っているが、効果が切れるまでの時間が分からないから重ねがけしておく。




* *


「つ、疲れたー」


 どさっと凛花が地面に背中から倒れこむ。確かに疲れた。いったい何連戦したのだろうか。レベルがすでに8まで上がっているので、最初にしては頑張った方だろう。一戦一戦集中しないといけないから、疲労感が凄い。


「うわ、やべえ……」

「どうしたの?」

「閲覧者数見てみろよ」


 メニュー画面に表示されたアイコンの隣には1280と表示されている。これがリアルタイムで見てくれている人だとすれば、かなりの数だ。


「おー。スタートダッシュ成功だね」

「予想以上にな。他に競争相手がいないというのが大きいのだろうけど」


 少しずつ奥に進んでいるとはいえ、まだ他のプレイヤーに一回も会っていない。

 ダンジョン自体に挑戦しているプレイヤーが殆どいないのか、それとも挑んではいるがまともに戦えていないからすぐに死に戻っているのか。

 俺と凛花が二人で生き残れているから、しっかりパーティーを組めば戦えるとは思うから、挑んでいる数が少ないのだろう。最初はデスペナ自体はそこまで痛くは無いが、死に戻るよりは効率的に狩れる場所でレベルを上げる方が無難だもんな。

 スタートダッシュをするにしても、俺達のように開始直後ではなく、開始数時間後でも安定して戦えるなら問題ないだろう、


「あ! あれがカメラかな? いえーい!」


 宙に浮く玉のような物に向かって凛花がピースサインを作る。浮いている玉の表面には1と書かれているので1番のカメラなのだろう。このタイミングでこれだけ見ている人がいれば、トップなのは間違いないだろうな。


「ツキヤも手を振って!」

「お、おう」


 凛花が手を振りながら横に並んでくるので、俺も小さく手を振ると満足したのか再び剣を握る。


「もういいのか?」

「疲れたと言っても肉体的な疲れは無いから、少し休めば問題ないよ。それに、これだけ見てくれているからね。戦ってるところをもっと見せないと」


 俺はサポートしかできないから、凛花がいけると言うなら、全力でアシストするだけだ。


「そうだな。とりあえず、1層は抜けようぜ」

「おー! 頑張って次の層に繋がっているポートを見つけよう!」

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