新アイテムは
クランハウスではミナトがアクセサリーのレシピの研究に勤しんでいるので、残りのメンバーで素材を集めがてら今まで放置してきていた普通のクエストなどを受けていく。今日の分のダンジョン探索もいつも通り行った後なので、面倒そうなクエストは受けないようにしているが、街の中ですらしっかり知らなくてあやふやな部分もあるのに、街の外にモンスターを討伐しに行ったり収集しに行くのは大変だ。
「北の門から出て北西に10分ほど真っ直ぐ行った森の中にあるみたいです」
「じゃあそっちに行くか。時間的にもこれが終わったら一回休憩だな」
VR世界での移動が面倒すぎる。いくら筋肉痛なんてないし、疲労もすぐにとれていくとしても一時的なだるさはあるのがな。街に戻るのなら転移結晶もあるが、あれは値段が高い。コスト無視で高速でクエストを進めるのならいいけれども、毎回使うには現状のモンスターを倒して得られるお金やアイテムでは赤字だろう。
俺達の装備はミナトが大半を作ってくれているので、そこまで金策には困っていないから遠いときは使ったが、片道10分だと勿体ない精神が働いてしまう。どうせ、早く戻ったところでダンジョン探索に行くわけでもないからな。
「最初の内から受けられるクエストだから、モンスターも弱いね」
「サクサク倒せるから楽だが、これでレベル上げをするのはだるいな」
「私達のレベルの問題もあるけれど、もらえる経験値が少ないものね」
適性レベルを超えているからもらえる経験値にマイナス補正がかかっているが、適性レベルの時でももらえる経験値は少ない。俺達がダンジョンばっかり潜っていたせいでもある。敵も弱いから俺の攻撃でも数発で倒せるから、本来ならこういう場所でVRの戦闘に慣れていくべきなんだろうな。あんな数発くらったらやられるような場所で戦うなんて疲れるに決まっている。
他のプレイヤーがいるからかもしれないがモンスターとの遭遇も少ないので、できるだけ戦わないようにしつつ森に向かう。
「この辺りの木の根元にあるみたいですね」
ナナカが調べながら教えてくれるが、パッと見ただけではどれがどれかわからない。カルバ草というアイテムの採集クエストだが、生えている場所がキラキラと光ったりなどの補助システムはないようだ。適当に近くにあった草を切ってみると雑草と表示されたのでこれは違うようだ。
これ集めるのだるくないか? 特徴があったとしても一々探さないといけないのか。
「生産系の職業などの一部でとれる鑑定スキルがあればアイテム化する前にも名前が表示されるみたいですね」
「ミナトがいた方が良かったのか……連れてくるのも面倒だな」
「この場所のカルバ草は大きな木の下を探せばすぐに見つかるようなので大丈夫だと思います」
大きな木ね。周囲を見ると少し奥に他と比べて1.5倍ほどの大きさの木があったので、そこに向かう。
根元の辺りに生えた草を切り取るとカルバ草と表示されたので、皆で手分けして必要数を集めて、クエストの完了条件は満たしたので、あとは街に戻って報告するだけだ。
採集系のクエストはダメだな。ミナトがいないとやっていられないから、今度からはいる時にしよう。
街に戻ってクエスト完了の報告をするとアイテムがもらえ、また違うクエストが受けられるようになったが、そのままクランハウスに戻り集めたアイテムをミナトに渡す。
「ありがと。これで多分アクセサリーも作れる」
「どういたしまして。一旦皆で休憩しよう」
「街にあったケーキ屋さんでケーキ買ってきたから食べよ!」
凛花が手に持ったケーキの箱を見えるように上にあげる。ゲームの中だから大丈夫だと思うが、あまり激しく動かすなよな。
「私はこのチョコのにしよっと」
「チーズもらう」
「私は苺の乗ったショートケーキにします!」
「じゃあ、私はフルーツタルトね」
机の上に置いたケーキを凛花が最初に選ぶとすぐに皆が自分の分を取っていく。俺は残った凛花と同じチョコのケーキをもらい、飲み物を配る。
ゲームの中とは言え、滑らかな舌触りや甘く口に残る感じも再現されていて無駄に作りこまれている。美味しいから良いんだけれどね。これで味のしないガムのようなものだったりしたらなくても良いコンテンツだとしてもクレームがあっただろうな。逆にこんなところに力を入れて、他が疎かだったらそれもそれでクレームものだが。
「んん!? んー!」
「ちゃんと食べてから話しなさい」
口にフォークを加えたままのナナカの頭をフィルがきれいに叩く。食べながら掲示板を流し見していたようなので、何か情報か変な書き込みでも見つけたのだろう。
「大変です! これは急いで準備しないと!」
ナナカが画面を大きくして皆に見えるようにしてくれたORDEALの公式サイトの最新情報に書かれた内容は、新アイテムの入手情報だった。
「魔法と一部遠距離攻撃のターゲット機能を備えた装備の入手方法です!」
「装備。どんなの?」
ミナトが画面に近づいて真剣に読み始めたので、俺は見るために乗り出した体を戻す。
ターゲット機能の解放か。もともと予定されていたものか、それとも要望で急きょ用意したものなのか。それにターゲットの精度も気になるところだ。
「とりあえず一度取りに行ったらいいんじゃない? 使えなかったら売るか倉庫にでも仕舞って置けばいいんだし」
「そうですよ。今回はフィールド上に現れる特殊なモンスターを倒して素材を集めるタイプのようなので、息抜きがてら倒しに行きましょう!」
「素材を落とすみたい。街の鍛冶屋に持っていくことで作れるみたいだけれど、基本レシピは公開されるようだから私でも作れる」
基本レシピは公開される。ということは、そこから自分でレシピを見つければ、好きな形に変えられるというわけか。それならミナトに任せて自分のための装備を作ってもらおう。使えるようなら、俺とナナカの分も集めないとな。
「じゃあ、サクッと倒して集めるか。とりあえず、それまでは敵の強さも分からないから、ダンジョン探索しつつレベル上げの普段のパターンだな」
誤字修正のため改稿しました。




