プラバスタ
5分ほど休憩した後は、ポートを解放して6層に出るだけ出て、ダンジョンを後にした。
ポートから出ると帰ってきたという感じがする。それとともに本当にゴブリンロードを倒して戻ってこれたというのも改めて実感する。
かなり騒がしいギルドの中。絶対に中に入ったら絡まれるだろうなと思いつつも、これだけ目立つことをすれば仕方ないと諦める。
「戻ってきたぞ!」
「一発突破とはさすがだな!」「さすが勇者ちゃん」「ゴブリンロードを一人で圧倒するなんてやべえな」「回復も見事だったぜ」「重戦士じゃないタンクでもあれだけ受けられるんだな」「おめでとう!」
一人が俺達に気づいたのを皮切りに、人が押し寄せてくる。ギルドの職員や一部の良心的な人が止めてくれたおかげでもみくちゃにされることはなかったが、握手してくれだのといったことはそこら中から聞こえてくる。
「皆ありがとう! 次の10層のボスも私達が倒すから見ててね」
凛花が笑顔で言うと歓声のような返事が耳をしびれさせるような大きさでくる。苦笑いで手を振っていると、ナトリが来て俺達を誘導する。
「記者陣に簡単でいいから感想など聞かせてもらえませんか? 記事にして公開すれば一々聞かれることも減ると思いますので」
質問なんかは一々答えるのは面倒だしな。記事にしてもらえば、感想なんかを聞かれることはなくなるし。
「疲れもあるんで手短にお願いします」
「じゃあ、まずは、戦ってみての感想を」
「プラバスタが中継で戦っている姿を見ましたが、実際にゴブリンロードと対峙するとプレッシャーが凄かったです。戦い自体はもともとの作戦通り上手くいったので、一度レンヤがピンチになったところ以外は順調でしたね」
「あの場面は何があったのでしょうか?」
「ゴブリンロードが予想以上に強かったのでヘイト管理ができていませんでした。本当はナナカがフィルにかけるヒールを俺が代わってヘイトを分散させないといけなかったところを、ゴブリンロードの強さに驚いて気が付くのが遅れたのが問題でした」
今考えてみれば、フィルのHPの減りが早いと思った段階で、ヘイト管理のために俺もフィルにヒールを使うべきだった。フィルはナナカにタゲが行かないようにいつも通りウォークライを発動するしかなかったのだから、手の空いている俺が対応するべき部分だ。
「ゴブリンロードを倒すときに、スキルを連続で使ったように見えましたがあれはどうやったのでしょうか?」
「あれは昨日発見した技で、スキルキャンセルという技術を応用したスキルコネクトという技ですね」
「スキルキャンセルですか?」
「スキルの発動中にスキルによって何か所かスキルを中断できるポイントがあるんです。そこで、行動を上書きするアクションをすればスキルが中止されるというわけです」
「ちなみに、あれはスラッシュとエアブレイドのスキルコネクトで、スラッシュの終わりのあたりにあるキャンセルポイントで移動スキルのステップを発動させて使ってまーす」
そうだったのか。考えれば、スラッシュの最中に同じ腕を動かすアクションで発動するエアブレイドを割り込ませることはできないから、任意発動できるステップを使用しているのか。
新技術のスキルキャンセルはこれからかなりの検証が行われるだろう、その検証結果を俺達も知ることができればありがたいので広めることは全然問題ない。まあ、広めたところで簡単には使えない技術だからしばらくは検証勢くらいしかつかわないだろうが。
その後も質問は続き、10分ほどかけてインタビューは終わった。記者の人達に誘導してもらって無事にギルドから出た俺達を追って、プラバスタのトライさんがやってきた。
「こうやって顔を合わせるのは初めてだな。プラバスタというパーティーでリーダーをしているトライだ。よろしく」
「クラン双天連月のリーダ―のツキヤです。こちらこそよろしくお願いします」
何をしに来たのだろうか。装備もつけずに一人で来たということは争うつもりはないということだろうが、本人も言っていたように会うのは初めてだ。
「ゲーム内だし、一応ライバルと思っているから敬語はいらないぜ」
「だったら、普通に話させてもらうよ」
見た目が完全に年上なので気を使っていたが、いらない心配だったようだ。中身が本当に年上かは分からないしな。
「まずは、5層突破おめでとう。先を越して挑んではみたが、俺達ではまだ時間がかかりそうだ」
「ありがとう。デュークさんともう一人のタンクの装備をワンランク上げれば、あとは慣れ次第でいけると思うが」
「その間に君達は6層の探索を進めるからな。頑張って追いつくさ」
デスペナルティーがあるから、一日に何度も挑むというのは限界があるだろう。
「また時間がある時でいいから、情報交換をしないか? と言っても、こっちが聞きたいことだらけだから、対価を出せるかはわからないが」
他のプレイヤーとの交流は無いからな。プラバスタならしばらくは競ったりも続くだろうから、仲良くしておいて損はないだろう。
「こちらが損ばかりにならなければいいさ。ある程度繋がりはあった方が、色々と助け合えるからな。そっちの時間がある時にでも誘ってくれ」
「ありがとう。また連絡するよ。今日は本当におめでとう!」
フレンド登録をするとトライは帰っていった。レベル上げをダンジョンでするのなら、ショートウルフのドロップ品があれば売ってもらえるか聞いてみよう。
トライの口調を変更しました