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見つけたのは

 いつもは円上に探索範囲を広げていくが、今回は真っ直ぐに進んで探索する。どうしても円上だと視界の範囲やモンスターのリポップを考えるとロスが大きい。ただ、円上に進んだ方が入口のポートに近いので避難しやすいという利点もある。

 今は安全よりも効率が欲しいので、ある程度の安全を犠牲に探索を進めている。


「やっぱり簡単には見つからないね。これ以上探索を続けると体力的にきついから、一旦帰る?」

「無理して全滅よりはいいからな。帰ろうか」


 プラバスタも探索を終えてしばらくは再開しないだろうから、まだアドバンテージは残っているはずだ。

 探索は一旦諦めて、クランハウスへと戻ってくると、ミナトが机に突っ伏していた。アイテムがいくつか散らばっているので、途中で力尽きて寝たのだろうか。


「ん……ああ、おかえり」


 音で起きたのか、ミナトが顔を上げて辺りを見渡して俺達の方を見る。


「ただいま。やっぱりポートは簡単には見つからなかったよー」

「それは仕方ない。簡単に見つかれば苦労しない」


 簡単に見つかるような物なら未だ4層に到達しているのが二パーティーしかないなんてありえないだろう。見つからないからこそ、早くダンジョンに潜り始めて運よくポートを見つけ続けた俺達がトップにいるんだもんな。

 このまま探し続けて先にポートを見つけることができるのだろうか。それもあるし、ポートを見つけたところで、ボスを倒すのであれば俺達のレベルではきついだろう。レベル上げなんかもするのであれば、できる限り早くポートを見つけて、準備に時間をかけたい。


「ちょっと出かけてくる。またダンジョンに行ったりするならチャットでもしてくれ」

「はーい。無理しないでね」


 凛花には俺の性格からして俺が何をしに行くのかなんてバレているだろう。ゲームの中だからそれほど心配もしていないようだが。

 クランハウスから出て、一人でダンジョンへと向かう。ポートで飛ぶのは4層。凛花から預かっている予備用の剣を握り、集中して意識を薄める。俺のステータスでは、一人で4層で狩りができるとは思っていない。支援魔法と自己バフをすべて自分にかけて、全力でフィールドをかける。


 ギルドのモニターで4層には今誰もいないことは確認している。もし、他のプレイヤーがいれば甚だしい迷惑行為だろう。モンスターを引き連れた状態でポートを探すためだけに走り続ける。いわゆるトレインという状態だが、周りにプレイヤーさえいなければ非難されることもない。一応、中継も切っているのでこんなことをしていると知っているのは俺と凛花だけだろう。


 バフを何度もかけなおし、ヒールも何回使ったかわからないが死に戻りはせずに進み続ける。何度か障害物を使って休憩を取りつつも、さすがに数十分この状況が続くと体力も限界に近づく。一度ダンジョンから出てゆっくり休憩してを繰り返し二時間ほど探したがポートは見つからず、先に凛花からチャットが届いた。


「その様子だと見つからなかったみたいだね」

「ああ。だが南側は近くにはポートが無いことは確認したから、さっき皆で行った東側も捨てて、西か北を探そう」

「じゃあ、ちょっと休憩してきて。30分後にパーティーでもう一度行くから」

「ああ。ちょっとログアウトして休憩してくる」


 ログアウトしてVRASを外す。確かに向こうの世界での方が体は軽いが、現実での方がよっぽど慣れているから動かしやすい。この微妙な感覚のずれを何とかしないと、俺が本気で戦闘をすることはできないだろう。


「夏樹。ご飯作ったから食べて」

「いや、なんでいるかな?」

「幼馴染だから」


 当たり前のようにドアを開けて部屋に入ってきたのは凛花だった。ご飯ができているということは、俺がダンジョンに潜っている間から用意していたのだろう。たしかに、お腹は空いている。今の時間が14時30分だから、6時間半何も食べていないことになる。


 自分の部屋からリビング兼ダイニングの部屋に行くと、机には鯖の生姜煮が置かれていた。ここで鯖の生姜煮なあたり、俺が食べたいものを分かっているなと感心しながら食べる。


「夏樹がここまで熱中するのも久しぶりだね」

「それだけ面白いからな、ORDEALってやつは」


 あれだけの世界をゲームの中と言えども作り上げたのは素直に感心する。それをサービス開始からプレイできたのは本当に良かった。凛花と凛花のおじさんには感謝しかないな。


「5層は私に任せて。多分、装備とレベルがもう少し整えばいける」


 まだどんなボスかもわからないが、凛花がそう宣言するのなら、俺は信じる。後はできる限りのサポートをするだけだ。


「だから、次の、10層のボスは夏樹も本気でね」

「それまでに慣れることにするよ。今回は凛花に任せた」

「うん。任された! この後の探索で頑張ってポート見つけようね」




 再びダンジョンに戻ってきた俺達は、次は入口ポートの西側を探索することにした。凛花が敵を引き連れ、フィルがタゲを奪うという流れは変わらないが、凛花の動きのキレが今までよりもさらに良くなり、次々とHPを削っていく。


「スラッシュ、エアブレイド、スラッシュ!」


 二回目のウォークライを発動させるよりも早く、凛花が4体の敵を倒し切る。小さく息を吐いて、今の感覚を確かめるように頷いて、凛花はまた進みだす。

 自分の力で5層のボスを倒すと決めたから意気込んでいるのだろう。少しでも自分のプレイヤースキルを上げるために、ナナカとフィルの練習のために普段は手を抜いていた部分をやめたようだ。


「私達が足を引っ張っているから怒らせてしまったんでしょうか?」


 凛花の心境の変化を知らない二人からしてみると、凛花が自分たちに呆れてしまったのではないかと思うのも無理はない。今までは合わせてくれていたのに、今の戦闘では使われていたと言ってもいい雰囲気だった。

 だが、それは仕方がないことだ。凛花という俺達よりも数段上の実力を持った存在であれば、俺達に合わせて戦うよりも、俺達を使って戦う方が良い結果を生む。だから、自然と使ってしまうのだ。


「怒っていないから安心していいよ。あれは、レンヤが本気でボス攻略をしようとしているだけだ」

「そうなんですね。だったら、私達は自分のできることをし続けないとですね」

「そうだな。少しでもレンヤの負担を減らせるように頑張ろう」


 強い子達で良かった。ここで差を痛感して折れてしまうやつは多い。あれを超えようと思うのであれば、絶望的な差だと感じてしまうのかもしれないが、別に超える必要なんてない。自分のできることを考え、共に戦うことを諦めなければいいんだ。

 凛花の気迫に少し押されながらも、しっかりと今まで通り戦闘を行う二人に安心していると、凛花が足を止めた。


「見つけた! あったよ5層に続くポートが!」


 凛花の指さす先にはポートが一つ。少し小高くなったこの位置からは、そこからさらに1kmほど奥に行ったところにもう一つポートがあることも確認できた。


「やりましたね! これでここまでは一番乗りです。一度ポートの近くまで行って、見つけたことを中継でアピールしましょう」


 ポートの場所を知られるのは嫌なので、一度中継を切りポートまで向かう。ポートの前で中継を再開して、ポートを見つけたことを見ている人に伝えて、一度クランハウスまで戻ることにした。



「やったよー! ポート見つけてきたよ!」

「お疲れ様。掲示板で話題になっていたから知ってる」


 クランハウスに戻ってくると凛花も少し気を抜いたのかいつも通りに戻った。掲示板の方でももう話になっているのか。ただ、装備作製とレベル上げをしないといけないからすぐには挑めないんだよな。死ぬ前提で挑むってのもありだけれど、今回は本当にレベルが足りない。


「装備の方はどうだ?」

「レンヤとフィルの分はもう少しでできる。私達の分は素材の数も足りないから、何か所かだけ新しくってところ」

「攻撃を受けるのはレンヤとフィルだからそれでいい。そうなるとレベル上げだな」

「せめて私とツキヤのレベルを10にはしたいね。後はフィルちゃんのレベルもできるだけ上げたい」

「それなら三人でダンジョンに行ってレベル上げをしてきてください。私はミナトさんの手伝いをしておくので」


 経験値は獲得経験値を貢献度などで割合が決められてパーティーメンバーに分配される。メンバーが少ないほど同じ数を倒した時の一人当たりの経験値は多くなるので、三人で行くのは悪くない。俺のレベルもそれほど必要ではないので二人でも良いのだが、クランハウスを買って金欠気味なので回復役を抜いてポーション頼りにするのはきつい。

 少しでも二人に経験値を分配するために、魔法の使用量をひかえめにするか。


「じゃあ、悪いが三人でレベル上げに行こうか。2層ならなんとかなるだろう」

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