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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
畠山宰次編
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84話 「調べものをするために」

 武田の提案で出掛けることになった私は、速やかに鞄の用意をし、玄関へ向かう。

 武田とモルテリアは既に準備を終えていたらしく、二人とも靴を履いているところだった。いや、身軽な二人にはそもそも準備するものがないのかもしれない。


「沙羅、用意はちゃんとできたのか。忘れ物のないように」


 そんなことを言いながら、靴箱から私の靴を取り出してくれる武田。私は軽く礼を述べ、彼が取り出してくれた靴を履く。


「特に携帯電話。くれぐれも忘れないようにな」

「あっ、はい! ちゃんと持ってます」


 武田はいちいち細かなところまで確認してくる。ありがたいことではあるのだが、本音を言うなら、少し面倒臭いと感じてしまう時もある。

 だが携帯電話を忘れたらどうしようもないことは事実だ。


 それから武田は、視線を私からモルテリアへ移す。


「モル、今日はしっかり頼む」

「……何を?」

「今日は沙羅がいる。緊急時には彼女を護るように」


 無表情な武田は、話が理解できていないモルテリアに対し、淡々とした声で告げた。そこまで説明を受け、モルテリアはようやく納得したように頷く。


「……うん。霧吹き、ちゃんとある……」


 あれか。


 彼女が言う「霧吹き」とは、恐らく昨日の「酢プラッシュ」なる技に使っていた、あの霧吹きだろう。ということは、またあの技を使う予定なのか。なかなか恐ろしい。

 だが、逆に心強くもある。なんせ吹蓮さえ怯ませることのできた技だ、一般人にでも効果はあるはずである。……酢、だが。


「ところで武田さん。今日はどちらへ?」


 事務所を出てから、気を取り直して尋ねてみる。

 行き先も分からず歩き続けるのはどうも性に合わない。私は目的地を把握していないと心配になるタイプなのだ。

 そんな私の問いに、彼は嫌な顔一つせず答えてくれる。


「図書館だ」


 しかし、その答えには首を傾げてしまった。

 調べものをするために図書館へ行くのは分かる。至って普通の行為だ。だが今日調べるのは、吹蓮にエリミナーレ殲滅を依頼した者について。それを調べるために図書館が役立つのだろうか。


「え、図書館……ですか?」

「あぁ。今日は沙羅、お前の存在が役に立つ」

「私の存在?」

「そうだ。行けば意味が分かる」


 行けば分かる、か。

 前以て教えておいてほしい気もするが、武田がそう言うのなら仕方ない。私はもうそれ以上聞かないことにした。敢えて深入りする必要もないだろうから。



 図書館へはすぐに着いた。

 特別急ぐこともなく、普通の速度で歩いたのだが、到着するまで三十分もかかっていない。予想していたよりかはずっと近かった。


「す、凄いっ!」


 図書館の外観を目にし、私は思わず漏らしてしまう。

 というのも、図書館がこれほど立派だとは考えてもみなかったのである。

 白と銀を基調とした、ほどよくシンプルでありながらも安っぽさのない建物。それは、周囲の住宅とは印象がかなり異なる。漫画や映画で見かける近未来の世界に建っていそうな雰囲気すら感じさせる建物だ。


「沙羅はここへ来るのは初めてか」


 始終先頭を歩いていた武田が、足を止めて尋ねてくる。


「はい。図書館へ来ることなんてほとんどなかったので」


 それは事実だ。

 私の暮らしには「図書館へ行く」という行為が定着していなかった。


「武田さんはよくここへ来られるんですか?」

「日頃は私もあまり来ないな。用事がある時だけだ」


 少し離れて後ろにいるモルテリアが、ててて、と駆け寄ってくる。相変わらず小股の走り方だ。小鳥のようで可愛らしい。


「……何の話、してるの……?」


 彼女が自ら参加してくるのは珍しい。非常に新鮮に感じられる。


「日頃図書館に来るかどうか、という話だ」

「……図書館、に?」


 モルテリアは愛らしく首を傾げた。


「モルさんは図書館、初めてですか?」


 彼女だけ話に参加できないというのも少し可哀想なので、私は彼女に質問してみる。

 すると彼女は首を左右に振り、「たまに来る……」と言った。食べ物にしか興味のなさそうな彼女が、図書館に来たことがあるとは驚きだ。


 私がモルテリアと話していると、武田が唐突に言う。


「よし。ではそろそろ行くとしようか」


 その言葉によって私は思い出した。今日は遊びにやって来たのではないのだ、と。


 これも仕事の一環だ。

 一応危険な仕事ではないが、だからといって気は抜けない。いつ何が起こるのか分からないのがエリミナーレである。


「ここからしばらくは沙羅と二人で行動する。モル、お前は喫茶店に入っていて構わん」

「……いいの?」

「あぁ。どのみちお前は入れないからな。だが、緊急時には駆けつけてくれ」

「……嬉しい。ケーキ、パン、食べ放題……」


 モルテリアは丸い頬を赤く染め喜びを露わにした。

 喫茶店へ行けば色々な物を食べられる。それは彼女にとってかなり嬉しいことなのだろう。ケーキやパンを食べられることは、至上の喜びなのかもしれない。


「……行ってきまーす……」


 モルテリアは蝶のようにふわりふわりと、喫茶店の方へ歩いていく。完全に気を取られている。

 それにしても、モルテリアは喫茶店で私は武田と一緒に行動。この差は不自然だ。


「モルさんは入れない場所へ行くんですか?」

「あぁ。重要なことの書かれた書物がある書庫だからな、モルは入れない」

「じゃあ私も無理なんじゃ……」

「いや、沙羅は恐らく入れる。お前の父親は確か新日本銀行に勤めていただろう」

「それ関係あります?」


 今まったく関係のない話のように思えるが、どうやらそうでもないらしい。このタイミングで無関係な話を始めたりはしないだろうから、なにかしら関係あるに違いない。


「あぁ、関係ある。その肩書きはかなり大きいからな」


 彼は一度だけ首を縦に振り、それから私に手を差し出す。私のより大きな手だ。


「では、行こうか」


 その手を取らずにはいられない。それが私である。


「よく分かりませんが、力になれるよう努めます」

「……固いな」


 怪訝な顔をされてしまった。

 元気な声を出しても、真面目な言葉を選んでも、結局違和感を感じられてしまうようだ。


「気にしないで下さい」

「そうか。すまない」

「悪くはないので、謝らないで下さい」

「……そうか。色々すまない」

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