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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
李湖&吹蓮編

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78話 「借金アイドル」

「さて。それじゃあ話を聞かせてもらおうかしら」


 お馴染みの席につき、足を組んで、エリナは言った。鋭い目つきとは対照的に、紅の塗られた口には笑みが浮かんでいる。


 レイと武田に拘束された李湖は、そのままエリナの前に立たされた。

 エリミナーレ全員がリビングに集まっているにもかかわらず、室内は静まり返っている。ぴんと張り詰めた空気が全身を硬直させるようである。


「庵堂李湖。貴女は護衛を頼んでおきながら、私たちを倒そうとした。理由を説明しなさい」


 落ち着いた調子で言い放つエリナの声は、氷のごとき冷たさだった。背筋が凍るような恐ろしさのある声色。私が言われているのでなくて良かった、と思うほどだ。


「バァーカ! 説明なんてするわけな……ひぃっ!?」


 反抗的な態度をとりかけた李湖だったが、首もとにレイの銀の棒を近づけられると、一気に怯えたような顔つきになる。声も上ずっていた。


「……い、言うから! 話すってー! ちゃんと言うから止めてぇ!」


 銀の棒を首に突きつけられた李湖は震えている。余程怖いのだろう。厚化粧した顔面は青ざめ、歯はガチガチ鳴っていた。

 それでもレイは銀の棒を戻さない。彼女は李湖を微塵も信頼していないということだろう。

 だが、それは正しい。李湖が到底信頼できるような人間でないことは、わりと疎い私ですら分かっている。


「り、李湖は……李湖は悪くないんだよぉ……」

「そういうのは要らないわ」


 話し出す李湖に対し、エリナが鋭く言った。結構苛ついているように見える。


「……李湖はもともとアイドルだったんですぅ。それなりにファンもいましたぁ」


 この顔と性格で? と思ってしまったことは秘密。


 ようやく事情を語り始めた李湖。これさえも偽りということは考えられるが——エリナに見つめられながら嘘を述べるのは難しいだろう。

 なんせ彼女の瞳は独特だ。じっと見つめられるだけで、心を見透かされているような錯覚に陥る。そんな不思議な力を持っているのである。


「何年も続けてぇ、やっと全国ツアーが決まったんですー。なのに、そんな矢先に……!」


 李湖はらしくなく声を震わせていた。


 それにしても、全国ツアー。

 今までずっと芸能関連には縁がなかったので、それがどのくらい凄いことなのかはよく分からない。だが、全国を回るからには、新日本各地にファンがいるということだろう。そう考えればわりと凄い気もする。

 もっとも、私は一生関わることのない世界だと思うが。


「矢先に、ですって? 全国ツアーが中止になるような何かが起こったというの?」


 怪訝な顔をして尋ねるエリナ。


 レイと武田に両側から拘束されている李湖は、そのまま俯き黙り込んでしまう。俯いているせいで顔全体は見えないが、悔しそうな表情であることは分かった。


「親の事業が失敗して、ツアーどころじゃなくなったんですよぉ……。家からは追い出され、李湖に残されたものは借金だけ……」

「それはおかしな話だわ。借金だらけの娘が護衛を頼むなんて、何か特別な人脈がない限り不可能じゃない」


 護衛をエリミナーレに頼むとなると、そこそこのお金が必要になるだろう。借金のある李湖が、お金を、果たしてそんなに持っているだろうか。


「……実は、人脈的なのがー……」


 李湖は遠慮がちに言う。今までのような激しい自己主張はしない。


「吹蓮さんって人にー声をかけてもらったんですぅ。事業の失敗を知ってぇ、途方に暮れて街を歩いていた時のことでした」

「えっ! ちょ、マジっすか!?」


 李湖の口から出た吹蓮の名に驚いたナギが大きな声を出した。エリナは彼に鋭い視線を向け、速やかに黙らせる。


「続けてちょうだい」


 エリナの顔つきが徐々に険しくなっていく。もちろん、レイや武田も。

 リビング内の空気が冷えていくのを感じた。


「吹蓮さんは占い師らしくってぇ、李湖が借金でヤバいことを知ってくれてたんですぅ。借金をなくせる良い仕事があるって聞いてぇー」

「それがエリミナーレの殲滅というわけ?」


 エリナの問いに李湖は頷く。本当に主張のない、小さな頷き方だった。


 李湖の小さな頷きを目にしたエリナは、ふぅと息を吐き出し、ゆっくり足を組み換える。

 それから怒りに満ちたような目つきになり、「エリミナーレもなめられたものね」と漏らす。その声は低く、彼女が不機嫌になりつつあることがよく分かった。


「依頼人のふりをして何人かを引き離すだけって言われたからぁ……全国ツアーやりたくてつい……」


 李湖も吹蓮に利用されたのだと、私はそう思った。


 楽しみにしていた全国ツアーの直前に親の事業が失敗するという事態に絶望していた李湖。吹蓮は、そんな彼女の弱った心を、上手く利用できると考えたのだろう。

 手駒を増やしたいがために、無関係の者にまで声をかけたのだ。世の中善人ばかりではないな、と思った。


「吹蓮って、武田がさっき言ってたお婆さんだよね」

「あぁ、厄介な老婆だ。おかしな術を使ってきて迷惑この上ない」


 レイと武田が小声で言葉を交わす。二人は話が始まってからずっと黙っていたので、久々に声を聞く気がする。


 その時。

 エリナが突然、椅子から立ち上がった。


「分かったわ」


 その一言に、リビングにいた全員が彼女を見る。視線が一点に集結した。


 もちろん私も吸い寄せられるように彼女へ視線を向けた。マイペースでいつもぼんやりしているモルテリアですら、今は、エリナをじっと見つめている。


「庵堂李湖、一つ頼まれてくれるかしら」

「えっ。り、李湖ぉ?」


 濃いファンデーションのせいで重苦しい顔に、今までで一番派手な驚きの色を浮かべる李湖。


 エリナは片側の口角を持ち上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。


「吹蓮を呼び出してちょうだい」


 彼女の意図が分からず、部屋中に動揺が広がった。

 唐突なことに驚き戸惑っているのは李湖だけではない。


「李湖。それができたなら……貴女の裏切り行為、許してあげてもいいわ」

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