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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
襲撃編
42/161

41話 「動き出す」

 その夜、私は突然の凄まじい爆音によって目を覚ました。


 床が揺れたので最初は地震かと思った。しかしそれ以降は揺れなかったので、どうやら地震ではないな、と判断する。また、揺れる前の音も、地震というより爆発と受け取る方が相応しい。


 最初私は一人で確認しに行こうと思ったが。だがもし敵の襲撃だったりしたら危険だ。なので取り敢えず横で寝ているレイを起こす。


「……え、沙羅ちゃん? こんな真夜中にどうしたの?」


 レイは寝惚け眼をこすりながら言った。あの大きな爆音で目を覚まさないとは、よほど深く眠っていたようだ。


「さっき爆発みたいな音が」

「え!?」


 レイの目が大きく開かれる。驚きで眠気が吹き飛んだのか、一気に目が覚めたような表情になった。


「何だろう、よく分からないね。とにかく様子を見てくるよ」

「あの、私も行きます!」

「沙羅ちゃんは止めておいた方がいいと思うけど……」


 止められるのも当然だ。

 私が出ると余計にややこしいことに発展する可能性が高い。みんなの仕事を増やしてしまうことは目に見えている。


 大人しくしているのがみんなのため。出ていかないことが一番みんなのためになる。


 でもそれは、私がエリミナーレにいる必要はないということで——そんなに切ないことはない。


「一緒に行かせて下さい。私はもう、エリミナーレのお荷物ではいたくないんです」


 どうしていきなりこんなことを言ったのか、自分でもよく分からない部分が大きい。私が出たところで何も変えられはしない。それどころか周囲に迷惑をかけるばかり。


 ただ、なぜか、今なら変われる気がした。

 具体的な根拠はない。本当に変われるという保証もない。寝起きでテンションがおかしいだけの可能性もある。


「沙羅ちゃんは今のままでもお荷物なんかじゃないよ。だから無理することは……」

「お願いします!」


 それでも私は、この機会を逃したくないと思った。

 レイの瞳を真っ直ぐに見つめる。決して視線を逸らしてはならない。

 数秒間があり、やがてレイは少し呆れたように頬を緩める。


「沙羅ちゃんは言い出したら聞かないし、仕方ないね」


 やれやれ、といった声色だ。

 私の自分勝手な要求を受け入れてくれたレイは、とても心の広い人だと思う。


 足を引っ張ることは許されない——。


 私は自身に強く言い聞かせ、レイと共に部屋を出た。



 部屋出ると、廊下には既に武田とナギがいた。武田は落ち着いた表情だが、ナギは青くなっている。


「レイ、ちょうど良かった。起こそうと思っていたところだ。モルは?」

「まだ寝てるよ」

「そうか」

「起こしてこよっか?」

「いや、問題ない。モルは戦闘要員ではないからな」


 武田は極めて落ち着いた調子でレイと会話する。二人の会話は必要最低限の言葉だけであっさりと終わった。


「何があったんですか?」


 勇気を出して尋ねてみると、ナギが答えてくれる。


「エリナさんの自室で爆発があったみたいなんすよ。多分茜が紫苑を助けに来たんだと思うっすけど」


 エリナの自室の方へ視線を移す。扉の隙間から灰色の煙が漏れ出てきているのが見えた。

 辺りにエリナの姿はない。ということは、まだ室内にいるのだろう。茜らと戦っているか、あるいは爆発に巻き込まれて動けないか。いずれにしても心配だ。

 エリミナーレのリーダーである彼女がやられるのはまずい。


「ナギ、紫苑はちゃんと確保しているの?」

「エリナさんの部屋にいたはずなんすけどね……見当たらないっす」

「じゃあ、もしかしたらもう逃げたかもってこと!?」


 ナギは降参というように両手を上げ、「分からないんすよ」と何度も繰り返す。恐らく怒られる気がしたのだろう。レイはナギに対してだけはとても厳しいので、怒られるような気がするのも分からないことはないが。


「いや。それはないだろう」


 武田は低い声で言い、一呼吸空けて続ける。


「まだ気配がする」


 直後、背後で空気が動くのを感じた。素人の私にも分かるような空気の揺れ。

 素早く反応した武田は振り返る。

 つられて振り返った私の視界に、ぼけた写真のような人影が入る。私の目には顔をはっきりと捉えることはできない。だが、恐らく紫苑だろうということはなんとなく予想がついた。


 繰り出された蹴りを即座に片腕で防ぐ武田。


「……やはりな」


 地面に着地したのは、やはり紫苑だった。

 クリーム色のベリーショートヘア、華奢で小さな体。紫の瞳から放たれる鋭い視線は健在で、腕の拘束は解かれている。


「とすると、さきほどの爆発は茜か」


 紫苑は一言も答えない。彼女は沈黙を貫く気のようだ。

 しかしその数秒後、後ろから甘ったるい声が聞こえてきた。


「そうだよぉ」


 後ろに立っていたのは紫苑と瓜二つの茜。その真っ赤な瞳を見れば、すぐに紫苑と識別できた。

 茜の子どものような顔には、不気味さを感じるくらい純粋な笑みが浮かんでいる。彼女が茜でなければ、笑顔が素敵な可愛い少女だと好感を持ったに違いない。それほどに曇りのない笑みである。


「まずは紫苑を返してもらうねぇ」


 余裕のある表情でそう告げる茜に対し、銀の棒を取り出したレイは鋭く叫ぶ。


「一体どこから入ったの!」


 すると茜は、「そんなことも分からないのぉ?」とでも言いたげな顔になる。レイを愚かだとバカにしているようにも見える顔つきだ。


「簡単なことだよっ! わたしの爆薬で窓を破壊して中へ入ったんだ。あのリーダーみたいなおばさん、想像してたよりたいしたことなかったなぁ!」


 その発言によって、空気が一気に凍りつく。


 リーダーみたいなおばさん、というのは恐らくエリナのことだ。茜の話を聞くに、やはりエリナはやられたのか——いや、気の強い彼女がそう容易くやられるわけがない。

 私はエリナが戦う場面を見たことはない。だが、武田を従えているくらいだからそれなりに強いはずだ。


「そもそも気配に気づくのが遅いし、しかも足下ががら空きなんだよねぇ。やっぱり加齢のせ——」

「よくもボロクソ言ってくれたわね」


 饒舌な茜の言葉を、大人の女性らしい声が遮る。声の主は、部屋から出てきたエリナ本人だった。


「「エリナさん!」」


 彼女の名前をほぼ同時に叫んだのはレイとナギ。息がぴったりである。


「……まだ動けるとはねぇ」


 エリナの姿を目にした茜は、不愉快そうに顔を歪める。茜らしからぬ表情だ。


 よく見ると、エリナの右足首は赤く濡れていた。茜らにやられたのだろう。一応歩けてはいるものの、非常に歩きにくそうである。

 怪我を心配してか、ナギがすぐにエリナに駆け寄る。


「残念。相手が悪かったわね」


 口元にうっすらと笑みを浮かべ、強気に言い放つエリナ。ナギが手を貸そうとしたが、彼女はそれを断る。


「エリミナーレのリーダーたる私をこの程度で止められると? 随分甘いお嬢ちゃんね」


 今までエリナをこれほど頼もしいと思ったことはない。


 嫌みを言う、不機嫌になる、武田絡みでは妙に競ってくる。私の中でのエリナ像は、どちらかといえば『面倒臭い上司』だった。

 しかし不思議なことに、今は彼女が『頼もしい上司』に思える。


「舐めた真似をしたこと、後悔させてあげるわ。覚悟なさい」

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