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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
茜&紫苑編
30/161

29話 「一夜明け、再会」

 色々なことを喋りながらナギと歩いていると、いつの間にやら六宮の駅へ着いていた。駅まで真っ直ぐ向かったわけではないので、事務所を出発してから少なくとも一時間は経過していることだろう。


 長い距離を私にしては速く歩いたのもあり、息が荒れてくる。


 だが、温かな春の日差しとサラリとした空気のおかげで、比較的過ごしやすい日ではある。汗はあまりかかなかった。


「ちょっと疲れたみたいっすね。どこか店でも入るっすか?」


 ナギは疲れた様子の私に気を遣ってか提案してくれる。

 私にだけはなぜか絡んだり褒め続けたりしてこない彼だが、気遣いくらいはしてくれるらしい。それだけでも感謝である。

 しかし、彼と二人で店にはいるというのはどうもしっくりこない。


「そうですね……」


 そんな曖昧な返事をしつつ悩んでいた——その時。

 ちょうど通路の向こうから見覚えのある二人組が歩いてくるのが視界に入った。クリーム色の短い髪に華奢で小さな体つき。


「……どうして!?」


 すれ違う直前、私は大きな声を漏らしてしまった。


 その二人組が確かに茜と紫苑だったから。

 近くにいたナギの顔がほんの少し強張る。先日戦ったばかりの二人に街で遭遇したのだから、当然といえば当然だ。


 しかし小さな二人組は私たちを無視して通り過ぎていこうとする。


「待って!」


 私は半ば無意識に二人を呼び止めていた。

 燃える炎のような赤い瞳と、夜の闇のような紫の瞳が、私を捉える。


 その状況になってから、私は二人を呼び止めたことを少し後悔した。一般人もたくさんいるこの場所では戦いにはならないだろうが、もし交戦することになれば、こちらが圧倒的に不利である。


 なんせ、まともに戦えるのはナギしかいないのだ。

 彼はいつでも拳銃を所持しているようなので今も持ってはいるだろう。しかし、彼一人で茜と紫苑の両方を捌くのは、さすがに厳しいはずである。


 今はただ戦いが勃発しないことを願うのみだ。


「……天月沙羅」


 紫苑が驚いたように目を大きく開きながら、静かな声でそう言った。だがすぐに視線を逸らす。


「今日は戦う命を受けていないから。失礼するよ」


 どうも戦う気でこの辺りにいたわけではなさそうである。


「ちょっと待ってもらっていいっすか?」


 何事もなかったかのように歩き出そうとした二人をナギが制止した。彼の手には、彼の相棒である拳銃が握られている。


「ナギさん!? ここでそれはまずいですよ……!」


 こんなところで戦いになれば一般人も巻き込んでしまうことになりかねない。多くの人たちに迷惑をかけてしまうことになる。それだけは絶対に避けなくてはならないことである。


「えぇ? なになに?」


 口を挟んだのは茜。容姿を見た感じ明らかに茜だが、昨夜とは雰囲気が異なる。

 プライベートだからだろうか。


「さっき言ったはずだよ、今日は戦わない」


 紫苑は淡々とした調子で返すが、ナギは彼女らに銃口を向けたままだ。


「昨日は逃げといて、よくのうのうと姿を現せたものっすね」

「悪いけど……ぼくたち今日はプライベートだから——」


 落ち着いた様子の紫苑が言い終わるより先に、パァンと乾いた音が響いた。道行く人が振り返り、驚いた表情で離れていく。


「プライベートもなにもないっすよ。女の子でもアンタらは好きじゃない。逃げるような卑怯者は、いくら可愛くても無理っすわ」


 ナギの顔から普段の明るい笑みは消えていた。

 彼は続けて二発三発撃つ。紫苑は無言で銃弾をかわす。その頃には、紫苑の表情も変わっていた。


「まぁ、仕方ないか」

「買い物はどうするつもりっ!?」

「ごめん、茜。それはこの男を倒してからにしよう」

「えぇー」


 淡々とした態度の紫苑とは対照的に、茜は頬を膨らまして文句を言っている。子どもがごねるような感じだ。


「分かった。ただ……場所を変えようか」


 紫苑の紫色をした双眸には鈍い光が宿っていた。戦闘モードに入った時の目である。彼女はもはやプライベートモードではない。


 何もない平和な一日を過ごせる、なんて甘かった。そう簡単に平穏が訪れるはずなどなかったのだ。



 それから私たちは駅の裏にある路地へと移動した。いかにも不良の群れがタバコを吸っていそうな、少し不気味な暗い路地である。一人だったら絶対に通る勇気の出ないような場所だ。

 移動する途中、私は、茜や紫苑に気づかれないよう細心の注意を払いながら、レイへ電話をかける。電話をかけるといっても、何かを話せるわけではない。しかし、レイなら無言の電話をかけるだけで勘づいてくれるはずだ。


「さて! ここからは遠慮なく行かせてもらうっす!」


 ナギは改めて拳銃を構え、黒い銃口を紫苑へ向ける。彼の三つ編みにした金髪が冷たい風に揺れる。


「……やるからには本気でやらせてもらう」


 対する紫苑は、三本の細いナイフを構える。

 ナイフを握っているのと逆の手には、昨夜の銃創らしき傷が残っていた。やはり一夜で治るものではないのだろう。それでも彼女は戦う気があるようだ。決して怯んでいない。


 茜はまだ不満そうな顔つきのまま、様子を見守っている。


 私は不安に包まれながらナギの無事を祈るのみだ。

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