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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
歓迎会編
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2話 「貧血には気をつけて」

 美人な女性とおしゃれなカフェでリラックスできる時間を過ごす。私にこんな日がくるなんて、夢にも思わなかった。なんせ、五年間友達と出かけることは皆無の日々だったから。

 だからこうして今彼女と過ごせていることが嬉しい。ただ一つだけ思うのは、クールで美人な彼女の隣に人並みの私がいると、不細工に見えるかもしれないなということだ。だが、そんなことはどうでもいい。せっかくの機会だ、楽しまなくては損である。


「さて、それじゃあ沙羅ちゃん。これからざっとだけエリミナーレについて説明するよ」


 レイは姿勢を正して切り出した。そんな彼女の様子につられて私も少し背筋を伸ばす。いよいよ本題に突入。再びドキドキしてくる。


「ところで沙羅ちゃん、エリミナーレについてどのぐらい知ってるのかな?」


 いきなり振られ、緊張でがちがちになりながらも、勇気を出して答えようと気合いを入れる。こんなことで動揺しているようではこの先ずっとやっていけないと分かっているからだ。今ここに逃げる選択肢はない。

 知識がないわけではないのだから、落ち着いて考えれば普通に話せるはず。


「私が知っていることですか。では、取り敢えず言ってみます!」


 勇気を出して言ってみることにした。


 新日本警察エリミナーレは十年前に設立された組織。今が二○四六年だから、設立されたのは二○三六年。そしてもう一つ。名称には「新日本警察」とついているが厳密には警察ではなく、メンバーも警官という呼び方はしない、ということ。


 就職するにあたり最低限学んだことはすべて話した。

 いつもなら相手がどのような表情をしているかを窺って話していただろうが、今は相手の顔色など気にならなかった。レイが、ちょっとやそっとで怒らないと信頼できる人だからかもしれない。


 私が話し終わると、レイはその整った顔に笑みを浮かべる。


「うんうん。沙羅ちゃん、結構勉強してるね」


 納得したような表情で頷くレイを見て私はホッとした。色々調べてある程度の知識は身につけたが、間違えていたりしないか不安もあったのだ。しかし、メンバーであるレイがこういう反応をしてくれているところを見ると、私の知識は間違っていないらしい。


「あってましたか?」

「うん。輪郭は大体掴めてると思うよ」


 私は改めて胸を撫で下ろす。


「それで仕事内容だけど、あたしたちは基本的にはのんびりした活動をしてるんだ。交通安全教室を開いたり、パトロールしたりとか」

「普通ですね」

「うん。エリミナーレは警察と仲良しだから。お手伝いくらいはしてるってわけ」


 警察ではないが、警察と協力関係ではある。それがエリミナーレの立ち位置らしい。


「でもエリミナーレの仕事はそれだけじゃない! ここからが大切なところだから聞いててね」


 レイは片手の人差し指を立て、少し自慢げに胸を張る。今までは序章のようなもので、ここからが本当に注目してほしい部分だということなのだろう。

 私は頷き、彼女をじっと見つめる。その方が彼女も「聞いてもらえている」という安心感があるだろうから。


「社会の裏で活動する悪い奴らを掃除する。それがあたしたちの本当の役割だよ」


「……へ?」


 つい情けない声を漏らしてしまった。レイの発言があまりに唐突すぎたからだ。


 裏社会の悪を掃除する——。


 そんな話は漫画やアニメの世界でしか聞いたことがない。この現実にそんな組織が存在するなど、考えてみたことがなかった。だが彼女が冗談を言っているとは思えないので、恐らく真実なのだろう。


 しばらくして、ようやく理解できてくるにつれ、私は青ざめていく。全身から血の気が引いていくような気がする。

 もしかして私はとんでもない世界へ飛び込んでしまったのではないか、と今さらなことを考える。もっとも、時既に遅しだが。


「あ、でも大丈夫だよ! 沙羅ちゃんをいきなり危ない目に遭わせたりは絶対しないから」


 私が顔色を悪くしているのに気がついたのか、レイは苦笑しながら言う。少し慌てたような様子だ。


「……あ、はい」

「沙羅ちゃんったら。大袈裟だよ。心配しなくても基本はのんびりだし、メンバーで旅行だってあるんだから! 絶対楽しく過ごせるよ」

「あ、いや……そうじゃなくて……」


 そろそろ本格的に気分が悪くなってきた。ショックが大きすぎたのか、貧血になってしまったようだ。最悪のタイミングである。


 その時、レイがガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。


「もしかして貧血!? 沙羅ちゃん、気分悪いの? 大丈夫?」


 気づいてくれたようだ。


 そう思った瞬間、全身の力が急激に抜けた。視界が歪み、冷や汗が泉のように湧き出る。「沙羅ちゃん」と名前を呼ぶレイの声が徐々に遠ざかっていく。次第に意識も薄れていき、まるで眠るように気を失うのだった。



 ——あぁ、なんてこと。


 私は武田というあの男性に憧れて、彼にもう一度会いたくてエリミナーレに入ることを希望した。それだけだったのに、私は何やらとんでもないことに巻き込まれ始めているような気がしてならない。


 邪な理由で就職先を選んだ罰だろうか……。


 社会へ出て一日目。

 爽やかな風が心地よい春の朝は、貧血で倒れて終わった。

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