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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
茜&紫苑編
21/161

20話 「女の勘?」

 検査の結果、特に異常は見つからず、私は予定通り次の日に退院することが許された。右肩に軽い掠り傷ができただけ。これほどの軽傷で済むとは、本当に信じられないような幸運である。


 そして女の子は無事だったということは一夜明けて知った。というのも、翌朝、女の子が母親とともに病室へやって来て、「ありがとう」とお礼の言葉を述べてくれたのだ。


 それに加え謝りもされた。しかし「軽傷なので大丈夫」と言って、謝らないようお願いした。こちらの立場になってみて初めて思うことだが、謝罪されるより感謝される方がずっと嬉しい。謝罪されると少し罪悪感が芽生えるが、感謝されると素直に「良かった」と思えるものだ。もし今後私が助けられる側に立った場合は、述べる言葉は「ありがとう」にしようと思う。



 ——それから一週間。


 その日の朝、エリナから全員集まるように指示を受けた。いきなりだった。突然のことに驚きつつもエリナの前に集まる。

 エリナはお馴染みの椅子に座り、足を組んで、肩肘をデスクについている。確かに彼女はリーダーだが、随分尊大な態度である。しかし彼女の人並み外れたオーラが違和感を抱かせない。つまり、エリナは尊大な態度がよく似合うのである。


「全員集まったみたいだから、さっそく本題に入るわね」


 彼女の一声で空気がガラッと変わる。

 レイに褒めながら絡んでいたナギは大人しくなり、饅頭をむさぼっていたモルテリアも咀嚼を止めた。


「最近隣の芦途(あしと)市で放火が流行しているそうなの。でも新日本警察は、その何件もの放火事件が、一人の犯人によるものだと考えているらしいわ。もちろんそれらしい証拠や証言も出ているわ」


 一連の放火事件は、いずれも廃墟や工事現場で起こっているとエリナは話す。すべて夜間に起こっていて、住宅や店舗は今のところないらしい。

 すぐ隣の市でそんな物騒なことが頻発しているとは知らなかった……。


「犯人の顔や情報はあるのですか?」


 落ち着いた声で確認するのはレイ。


「顔は今のところないわね。情報は今話した分よ」

「でも証拠や証言はあるというお話でしたよね? その内容は?」

「もちろん情報提供は求めたわ。でも公開できないとか言い出すの。エリミナーレは新日本警察内の組織ではないから、ですって。だったら依頼してくるんじゃないわよ! って話よね。まったく呆れるわ」


 そこへ口を挟むのは武田だ。


「愚痴はいいので続けて下さい」


 淡々とした調子で彼はそう言った。この状況でエリナを沈められるのは彼しかいない。それを見ていると、この組織大丈夫なのだろうか、とたまに思ったりする。もちろんそのような恐ろしいことを言えるわけがないが。


「そうね、話は手早く済ませましょう。作戦の決行は今夜。芦途市の一番南にある資材置き場にて、犯人を捕獲するわ」


 実に大雑把な説明だが、これがエリミナーレのやり方なのだろう。綿密な計画を立てるのは面倒、といった空気である。


「沙羅、今回は貴女が必要よ」

「えっ。私ですか?」


 私が必要な作戦だなんて、どんなものか想像できない。

 戸惑っている私に、エリナはニヤリといたずらな笑みを向けた。


「貴女のその、やたら事故や事件に巻き込まれる才能をフル活用してほしいの。全力で餌となってちょうだい」


 ……そういうことか。エリナの笑みの意味を私は速やかに理解した。

 だが私に餌役なんてできるのかどうか。確かに人質の神様には愛されすぎている気はするが……それ以外はよく分からない。


「は、はぁ。分かりました」


 正直嫌だけど、才能があるなら仕方ない。私にしかできないことがあるのなら、それがどんなことであっても、逃げようとは思わなかった。


「決まりね。では解散!」


 エリナの一声で、ピリッとしていた空気が緩んだ。やはり彼女の力は凄まじい。このメンバーを管理できているのは、エリナだからこそだと思う。

 終わった後、レイに声をかけられた。


「沙羅ちゃんはあたしがちゃんと護ってあげるから大丈夫! でも貧血にならないよう気をつけてね。あ、なりそうだったら早めに言ってね!」


 レイが放ったのはとても温かな言葉だった。

 彼女はいつだって私のことを気遣ってくれる。それは非常に嬉しいことだ。しかし、私には彼女に返せるものがない。それだけは少し申し訳ない気がしていた。


「いつもお気遣いありがとうございます。なるべく迷惑をかけないように頑張りますね」


 するとレイはその整った凛々しい顔に、明るく爽やかな笑みを浮かべる。


「一応あたしが護るつもりだけど、それでも危険になったら、武田の後ろにでも隠れておけばいいよ」

「レイさんは武田さんのこと、信頼してられるんですね」

「そうだね。体術の師匠だから、当然といえば当然。師弟ってそういうものじゃないかな」


 やはり少し羨ましい。レイみたいに気さくな人間だったなら私ももっと……いや、マイナスなことは考えないようにしよう。


「あ、でも沙羅ちゃんが考えてるような関係じゃないと思うよ。武田って普段はあんなだけど、指導する時は死ぬほど怖いから」


 レイの表情は柔らかいが、嘘をついている目ではなかった。嘘くらい顔を見れば分かる。彼女の発言は間違いなく真実だ。

 だが、死ぬほど怖いところなんて想像できない……。


「だから沙羅ちゃん、安心していいよ。色々あたしに任せて!」


 彼女は最後にウインクした。

 やはりレイは私の気持ちに気づいている——かもしれない。女の感、というやつだろうか?

 恐るべし。

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