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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
交通安全教室編
18/161

17話 「交通安全教室」

 翌日、エリナによって告げられた次の仕事は、近所の保育所で交通安全教室を開くことだった。


 エリナの説明によると交通安全教室とは、「渡る前には左右を確認しましょうとかいうアレ」だそうだ。随分大雑把な説明である。


 またしてものんびりとした仕事であることに多少の戸惑いはあるが、どこかホッとしている自分がいた。交通安全教室がエリミナーレの職務範囲に入っているのは謎だが、この程度なら一般人の私でもなんとかこなせそうだ。


 一緒に行くのはモルテリアとナギ。

 ……非常に不安が募る組み合わせだが、内容が内容だからなんとかなるだろう。それに、少し変でもエリミナーレのメンバーだ。普通の人々よりかはずっと頼りになる……はず。そうでなくてはおかしい。


「いやーっ、モルちゃんは今日も可愛いっすね! 緑の髪が個性的ですっごく魅力あるよ!」


 ナギはモルテリアに対してもいつも通りの調子だった。彼が褒めそやすのはレイだけではないらしい。女性なら誰でも好き、という感じなのだろう。私がエリミナーレに入った理由もかなり邪なものだと思っていたが、彼の女性への接し方を見ていると、私がまだましに思えてくる。


「緑系のブラウスって珍しい気がするけど、どこで買ったの?」

「……忘れた」


 やはり相手にされていない。


 比較的優しいレイですら慣れた様子で適当に流していたぐらいだから、モルテリアが相手にしないのは当然ともいえる。そもそもミステリアスで風変わりなモルテリアに、褒めただけで仲良くなれるとは思えない。


 それにしても、そういえば私は、まだ一度も褒められていない気がする。昨日会ったばかりだから当然といえば当然かもしれないが……話しかけられることすらあまりない。気さくなナギなら、女性であれば初対面の相手でも褒めそやしそうなものだが、なんだか不思議だ。



 そうこうしているうちに保育所へ着く。

 徒歩でも十分はかからないという事務所から比較的近いところにある保育所だったので、あまり疲労せずに済んだ。


 それほど広くない中庭には小さな子どもがワラワラいて楽しそうに騒いでいる。ジャングルジムを始めとした様々な遊具で元気に遊ぶ子、土遊びをしていたら地中の未知なる虫と遭遇し動揺を隠せない子——中には静かに座って風景を眺めている子なんかもいる。そんな子には少し親近感を抱く。

 そして、これは全員に共通することだが、この限られた空間で思い思いの遊びに取り組む姿勢には感心した。


 ちなみに私だったら風景を眺めている子だったに違いない。


「モルさん、この保育所へはよく来るんですか?」


 ナギが保育所の先生と話をしている間、時間が空いて暇なので、私は勇気を出してモルテリアに話しかけてみる。思い返せば、彼女と二人だけで話すのは初めて。正確に意思疎通ができるのかという不安もあるくらいだ。

 しかし、彼女は私が思っていたより、まともに話してくれた。


「……たまに。レイとも来たことある気がする……」

「そういえば今日はレイさんいませんね。用事か何かでしょうか。何か聞かれました?」


 モルテリアは首を左右に動かしながら「聞いてない……」と答えた。本人から話は特になかったようだ。もちろん私も聞いていない。


「でも……武田が来ない理由は知ってる」


 ぜひ知りたいことを振ってきた。無自覚だろうが、なかなか良い話題だと思う。


「そうなんですか?」

「武田は子どもが嫌い……。命がかかってる時以外は絶対会いたくないって前に言ってた……」


 子どもが嫌いというのは意外だ。

 しかし、命がかかっている時は放っておけないというのが、実に彼らしいと思う。



 ちょうどそこへ、明るい顔つきのナギが戻ってきた。

 保育所の先生との打ち合わせはどうやら終わったらしい。先ほどまでよりすっきりした表情だ。


「モルちゃん! 沙羅ちゃん! 話は終わったっすよ」


 これは個人的な趣味の問題だが、ナギは相変わらずノリが軽すぎてしっくりこない。彼に嫌なことをされたわけでもなければ、嫌いなわけでもない。 けれども、彼には私の心を掴むものがない。——少なくとも今は。


「お疲れ様です」

「ナギお疲れ……。今日のお昼、お寿司美味しかった……」


 モルテリアはこんな何でもない日の昼食に寿司を食べたのか。なぜそれを今言うのか分からないが、少し羨ましい。私は焼きそばが一番だが寿司も好きだ。おっと、そういう話をする時間ではなかった。

 ナギはいきなり昼食の話を始めるモルテリアに「俺も寿司好きっすよ」などと言っていた。こんな時でも女性の話には必ず乗っていくのがナギである。


 しかし絶対にぶれない軸があるというのはある意味強みだと思う。たとえそれが、女性が好き、というくだらないことだとしても。


「十五分後くらいから開始らしいから、もうちょい待たないとですね!」


 明るい声色で言いながら太陽のように眩しい笑顔になるナギ。雲一つない晴れた空のようなその笑みが、私はあまり得意でなかった。他人の心に土足で踏み込んでくるような雰囲気の男性は正直苦手なのだ。

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