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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
温泉旅行編
155/161

154話 「幸せな朝を」

 朝が来た。


 窓の外は晴れ、スズメの鳴き声が聞こえてくる。

 心地よい朝だ。


 あの後私は、エリミナーレ解散を悲しむレイを励まし、眠りについた。そして、気がつけば朝。深く眠れたらしく、不思議なくらいすっきりした寝起きである。


「おはよう、沙羅ちゃん!」


 私が布団から起き上がった時、レイが声をかけてきた。

 彼女の表情はいつも通り晴れやかだ。昨夜涙している姿を見ているだけに、晴れやかな顔をしているのを見ると嬉しい気持ちになる。


「おはようございます。元気そうで何よりです」

「ありがとう!」


 レイは着替えの途中のようだ。上は水色のブラウスを着ているが、下はパジャマのズボンのままである。


「あれ、武田さんはどちらに?」


 ふと思い尋ねてみる。

 するとレイは、私の横の布団を指差し、「まだ寝てるよ」と苦笑した。


 私は布団へ視線を向ける。

 布団は確かに、こんもりと盛り上がっていた。


「起こします?」

「あ、うん。そろそろ」

「分かりました」


 そうは言ったものの、いかにして武田を起こすか何も案がない。そもそも私は人を起こすという行為に慣れていないのだ、良い案が簡単にぽんぽんと出てくるわけがない。


 取り敢えず掛け布団を除けてみる。すると、ぐっすり眠っている武田の姿が見えた。幼子のような寝顔に、私は少し微笑んでしまう。


「武田さん、起きて下さい。朝ですよ」


 私は彼の背をトントンと叩き、声をかけてみる。

 しかし起きない。


 だが諦めるにはまだ早い。私は唇を彼の耳へ近づける。


「武田さん、起きられますか? 朝ですよ」


 少しは声を大きくしたつもりだったのだが、武田はまだ起きない。


 こうなったら最終手段だ。

 私は顔を彼の顔へと寄せ、再び声をかける。


「武田さん。朝ですよ、起きて下さい。起きないと、痛い目に遭いますよ」


 まるで悪者であるかのような発言だ、と内心苦笑する。

 だが仕方がないのだ。深い眠りに落ちた武田を起こすには、できることをすべて試してみなくてはならないのだから。


 続けて、彼の頬に触れてみる。引き締まった頬から首筋へと、撫でるように手を動かす。

 すると武田は「ん……」と寝惚けたように漏らした。初めての反応だ。


「武田さん。起きて下さい」


 はっきり声をかけると、ようやく彼の目が開いた。寝ぼけ眼がこちらを見つめてくる。


「……沙羅?」

「朝です。起きて下さい」

「……あぁ。起きよう」


 武田は体を斜めにしながら上半身を起こした。意識が戻ればすぐに起きれるようだ。


 ——その刹那。

 彼は私の体を強く抱き締める。


「……え? え、あの……」


 あまりにいきなりすぎて、私は狼狽えるほかなかった。

 武田の腕の力は予想外に強く、逃れようにも逃れられないため、私は、抱き締められたままじっとしているしかない。


「沙羅に起こしてもらえるとは。幸福者だな、私は」


 まだ少し寝惚けているのか、武田はおかしな発言をする。しかし妙に幸せそうだ。いつになく幸せな雰囲気が漂っている。

 だが、少し苦しい。

 強く抱き締められた状態が続くと、段々呼吸がしづらくなってきた。胸が圧迫されているせいに違いない。


「いずれ結婚すれば毎日お前に起こしてもらえる。そう思うだけで、私はもっと強くなれそうだ」


 次から次へと、甘い言葉を並べる武田。


 これは一体、何なのだろう……。


「今日も可愛い」

「……ありがとうございます。でも、離して下さい。苦しいので」

「あ、あぁ。すまない。強く抱き締めすぎたか」


 武田はそう言いながら、腕を離してくれた。肺が広がり、やっとまともに呼吸ができるようになる。


「取り敢えず、着替えましょうか。朝食が待っていますから」

「そうだな。速やかに着替えることとしよう」

「まぁ私も人のこと言えませんけどね……。私も着替えます」


 起きてしまえば武田は早い。なんせスーツに着替えるだけだからだ。髪はほぼそのままで問題ないし、僅かな化粧すらしない。

 こういう時だけは男性を羨ましく思ったりする。

 もっとも、女性であって得している部分もあるわけなのだが。



 着替えを済ませると、私たちは朝食会場へと向かう。昨日は出られなかったので、この旅館で食べる最初で最後の朝食だ。期待に胸が膨らむ。



「……おはよう」


 朝食の間に着くと、既に着いていたモルテリアが挨拶してくる。彼女が自ら挨拶するのは珍しい。

 先を行くレイが手を振りながらモルテリアへ寄っていく。私と武田はその後ろに続いた。


「おはよう、モル! ……あれっ? ナギとエリナさんは?」


 モルテリアが一人なことに違和感を抱いたらしく尋ねるレイ。


「……後から」

「遅れてくるって?」

「うん……。昨日、夜……ずっと話してた……」

「話し込んでたの? あ。もしかして解散のこと?」


 モルテリアがこくりと頷く。


 すると、レイが食いついた。


「それでどうなった!?」


 確かに、解散を望まないレイとしては、気になるところだろう。

 もちろん私にとっても重要なことなので、私も耳を澄ます。


「解散は……」


 モルテリアが口を小さく動かし、レイの問いに答えかけた、その時。


「沙羅ちゃーん! レイちゃーんっ!」


 背後から声が聞こえてきた。

 振り返ると、ナギが頭上で大きく手を振りながらこちらへ走ってくるのが視界に入る。その後ろからは小走りのエリナ。


「ナギ!」

「おはよーっす!」

「……遅い」

「ちょっ。モルちゃん怒んないで!?」


 レイとモルテリアが、それぞれ応じる。


「良い知らせがあるんすよ!」


 ナギはニカッと笑った。

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