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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
三条編

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14話 「その手を取って」

「そちらも終わったか、レイ」


 いつの間にやら男たちを片づけ終えていたらしく武田が合流してくる。

 レイの華麗な動作に夢中になっていたせいで、彼の戦いぶりをすっかり見逃してしまった。あまり大きな声では言えないが、本来なら一番じっくり観察するべきところだというのに。


 私の人生における失敗ランキングで十位にはランクインするような重大な過ちを犯してしまった。情けない自分を厳しく叱りたいくらいだが……レイの体術が素晴らしすぎたのも事実なので、何とも言えない。

 取り敢えず残念の一言に尽きる。


「とっくに終わってるよ。楽勝だね」

「そうか。さすがだ」


 武田の問いに対し、レイは自信ありげに答える。確かにレイは三条との戦いにおいて圧倒的な強さを見せつけた。だから彼女が「楽勝だ」と言っていても違和感はない。事実である。


 だが、武田と気楽に話せているレイが羨ましいと思う心は、なかなか払拭できない。

 もし戦える力があったなら、あるいは勇敢だったなら——私はもっと彼と親しくなれるのだろうか。時折だがそんな風に思うことがあるのだ。

 しかし、そんなことを考えていても仕方ないということは分かっている。だからあまり気にしないよう意識している。


 そんな時、ナギが唐突に口を挟む。


「いやー、久しぶりっす! 武田さんは今日もダサさが桁違いで尊敬ものっすねっ」


 ヘラヘラ笑いながらそんなことを言うが……明らかに悪口だ。

 ナギは子どものように純粋な笑顔で毒を吐く。見た目は可愛らしさすら感じさせる少年だが、中身はなかなか怖い。まるで性格が悪い女子みたいだ。


 いきなり嫌みを言われた武田は眉をひそめ、少ししてから落ち着いた声色で応じる。


「お前は相変わらずだな」

「いやいやー、そっちの方が相変わらずっすよ!」


 軽いノリで即座に返すナギ。


「そういや髪、なんでそんな中途半端な茶色にしたんっすか? 似合ってなくないですか? ちょっと違和感あるっすよ!」


 武田は、喋り続けるナギに疲れたらしく、溜め息を漏らす。ナギのことは放置し、改めてレイへ視線を移す。


「ではそろそろ引き上げるか」


 提案に対しレイは首を一度縦に動かす。彼女はその後、リラックスした様子で大きく背伸びをして「終わった終わった」と笑っていた。

 そんな彼女に三条や男たちをどうするのか尋ねてみると、「後片づけはあたしたちの仕事じゃないよ」と教えてくれた。なんでも、事後処理は新日本警察の提携部隊に任せているらしい。相変わらず状況がよく分からないが、エリミナーレの仕事はどうやらこれでおしまいのようだ。


 ナギはレイにもたれかかるように絡み、綺麗だとか素敵だとか、ひたすら褒め続けている。聞いているこちらまで恥ずかしくなるようなべた褒めだ。

 しかしレイは慣れているらしく適当に受け流していた。正直あまり相手にしていないといった感じだ。いつもこんな感じなのかもしれない。


 だが当のナギはというと、相手にされていないことに気づいていないらしい。肩を組むような体勢で、ひたすら話しかけ続けている。


 ナギからレイへ。完全に一方通行の関係である。



「沙羅、いつまでそこにいるつもりだ」


 歩いていくレイとナギの背を眺めてぼんやりしていると、その場に残っていた武田が静かに声をかけてきた。

 いきなりの不意打ちに、私は平静を装うので精一杯だった。


 笑顔を浮かべることはできない。そんなことをしたら、凄まじい顔を曝すことになってしまいそうだから。意識しているが故にあっさりとした表情になってしまうのは仕方のないことなのだ。

 ただ、幸い彼もあまり笑みを浮かべることはない。だから愛想悪い女と嫌悪感を抱かれることはないはずである。


 私はただ目が合うだけでも緊張してしまう。話しかけられて落ち着いていられるようになるには、もう少し慣れが必要だ。


「あ……すみません。なんだか色々、お手数おかけしました」


 軽く頭を下げて言う。ぎこちなくなってしまったが、彼のことだ、あまり気にしないはず。


「そんな顔をするな。このくらい気にすることではない」


 武田はそう言って手を差し出した。


 それを目にした時、私はふとあの日を思い出す。その光景が、私の人生を大きく変えたあの日に見た光景と重なって見えた。

 今さらながら、こうしてまた巡り合えたのだと、改めて実感する。


 動機は少しおかしいかもしれない。けれど、誰かに憧れてその職業を目指すことを決める人は少なくないわけで、私もそれの延長線上と考えれば、極めておかしな動機ではないはずである。ほんの少し特別なだけだ。

 それに、私はここへたどり着くために自分にできる努力はすべてしてきた。真剣に取り組んできたのだから、恥じることは何もないだろう。


 そう思えたから、私は彼の手を取ることができた。


 あの日は取ることを躊躇った、その手を。


「よし、では行こう」


 私は人質の神様に愛されているような気がする。そうでなければ、こう何度も捕まり人質になることはないはずだ。

 それはお世辞にも幸せなことだとは言い難い。それどころか「不幸体質」という言葉が似合うくらいだろう。だが、私にとってそれは、不幸なばかりではなかった気がする。


 特別な人に出会えたのも、未来が拓かれたのも——それがきっかけだったのだから。

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