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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
恋人編
134/161

133話 「同じ思いを抱く者たち」

 二週間ぶりにエリミナーレのみんなに会える。考えるだけで胸が弾み、足取りは軽くなっていく。空はやや曇り気味だが、私の心はいつになく快晴だ。

 この道の先にあるかもしれない困難など、今の私にとってはどうでもいいこと。今はただ、みんなに会えるという事実が、この心を照らしている。



「おっ! 沙羅ちゃんじゃないっすか!」


 六宮駅の改札口でばったりナギに出会った。

 タンクトップにパーカー、膝丈のズボン。ナギの格好は非常にラフなものだったが、髪だけはちゃんと三つ編みにしてある。


「おはよっす!」


 彼は相変わらず元気だ。挨拶もテンションが高い。

 私は普通に返す。


「おはようございます」


 武田だったら良かったのに、と少し思った。ただ、ナギでも、一人でいるよりかはいい気がする。一人より二人の方が、何か起きた時に安心だ。


「いやー、久々っすね」

「ナギさんも家に?」

「先週なんで、沙羅ちゃんよりは短い休みだったっすけどね。……あ。そーだ!」


 何か思い出したようなナギに首を傾げていると、彼は尋ねてきた。


「武田さんとは進んだんすか?」

「メールとかしてますよ」

「そうなんすか。なんというか、初々しいっすね」

「初々しい、ですか?」


 自覚がなかったので、内心驚いた。

 確かに私も武田も恋愛に詳しくはない。慣れてもいない。ただ、初々しいなどと言われる年代は、とうに過ぎている。

 だから余計に驚きだったのだ。


「初々しいっすよ! しかも健全。いいっすね!」

「ありがとうございます」


 よく分からないが褒めてくれているようなので、私は一応、礼を述べておく。


 それから私たちは、事務所までの道のりを、隣り合って歩いた。ナギの格好がラフなので、まるで遊びに来たかのような気分になってくる。


「ぽかぽかしますね」

「もう少ししたら夏っすからねー」


 思えば、もう春も終わりだ。日差しが強くなりつつあるのは、夏の兆しなのかもしれない。


「旅行、楽しみっすね!」

「え?」

「あ、そっか。沙羅ちゃんは初っすもんね」


 私はまだ一周目。

 だから、まだ知らないことがたくさんあるのだろう。


「毎年六月頃になると、旅行があるんっすよ」

「そうなんですか。どこへ?」

「例年は観光地とかだったっすけど……今年はどうなるんすかねー。そもそも旅行があるかもまだ分からない状況だし、どうなることやら、っすわ」


 ナギは、若干黒の混じった金の頭を、意味もなく掻いていた。掻き方を見た感じ痒いから掻いているのではなさそうなので、恐らく、癖か何かなのだろう。


「どうなることやら、なんですか?」


 私が何げなく質問すると、ナギは困り顔で答える。


「そうなんすよ。っていうのもね?エリナさんがエリミナーレをなくすとか言い出して」

「えっ!?」


 やはりそっちだったのか。

 違ってほしかった方が正解だったとは。私は頭を殴られたような衝撃を受けた。


「俺、頑張って説得してるんすけど、なかなか上手くいかないんすよね。エリナさん『エリミナーレの役目は終わった』の一点張りなんすよ」


 そう話す彼の表情を見ていると、わりと真剣に困っているということが、ひしひしと伝わってきた。


「どうすりゃいいんすかねー」

「エリミナーレがなくなるなんて……私は嫌です」

「そりゃ俺もっすよ! 可愛い女性陣に囲まれて働けるこんな良い職場、滅多にないっすから!」


 調子を強めるナギは、妙に真剣な顔つきをしていた。

 周囲の女性というのは、彼にとっては、そのくらい重要なものなのかもしれない。もっとも、私にはいまいち理解できないのだが。


 ただ、エリミナーレを大切に思う心は彼も同じなのだと知ることができたのは、有意義だったと思う。



 一時間後。

 私を含むエリミナーレのメンバー全員が、事務所のリビングに集まっていた。集合の時特有の引き締まった空気は、休業明けでも変わらず健在だった。

 エリナはいつもの席に腰掛け、足を組み、相変わらずの調子である。


「……さて。まずは、お久しぶり。休業中の期間は有意義に過ごせたかしら」


 レイはすっかり元気になっており、普段通りパンツスーツを着こなしている。長い脚、スレンダーな体形、ピンと伸びた背筋。抜けは一切なく、完璧だ。


「はい!」


 爽やかな声は、短い返事であっても良い印象を与える。


「それなら良かった。……じゃ、本題に入るわね」


 口紅の塗られた唇の端を僅かに持ち上げ、色気のある大人びた笑みを浮かべるエリナ。


「私としては、これを機に、エリミナーレを解散するつもりでいるの。宰次への復讐は終わったもの、これ以上危険なことを続ける気はないわ」


 エリナの口調に迷いはない。ここまで迷いのない真っ直ぐな声で述べられるのは、彼女の中でもう決まっているからだろう。

 これを説得するのは難しいな、と密かに思った。

 だが、説得が難しいから、と諦めるわけにはいかない。エリナ以外、誰も、エリミナーレを辞めたがってはいないのだから。


「待って下さい、エリナさん。そんなこと、勝手に決められては困ります……!」

「レイ。嫌ね、そんな顔しないで。安心していいわ。次の就職先はちゃんと」

「あたしたちはエリミナーレにいたいんです。みんなで一緒に働きたい。それはきっと、みんな同じ思いです!」


 レイが躊躇いなくハッキリと言い放つ。するとナギがそこへ乗っていく。


「ほら、エリナさん。やっぱ俺だけじゃないっしょ!? 他にもここにいたい人いるじゃないっすか!」

「……うん。みんなで……」


 日頃は無口なモルテリアまで乗っかってきた。口はもぐもぐしているが、表情はいたって真面目である。


「あぁ。皆と共にありたい」


 武田まで。

 ちなみに彼は、ソファに座っている。体が治りきっていないことを考慮してなのかもしれない。


「ほら! 武田さんもモルちゃんも言ってるじゃないっすか!」


 ナギはエリナの方へ歩み寄り、彼女の手をとる。


「だから解散はナシ! それが賢明っすよ」

「どさくさに紛れて触るんじゃないわよ!」


 エリナの手をいきなり掴んだナギは、鋭い言葉と共に、手をパシンと叩かれていた。

 さすがはエリナ。遠慮がない。


「とにかく!」


 彼女は手を合わせ、「静かに」と言わんばかりに、二回ほど音を鳴らした。

 それから、唇を動かす。


「決定事項ではないけれど、その方向で進めるわ。ということで、これがエリミナーレでの最後の活動になるかもしれないわね」


「……新しい仕事ですか?」


 レイが真剣さのある怪訝な顔で尋ねると、エリナはふっと、いたずらな笑みをこぼした。


「いいえ。社員旅行よ」


 その瞬間、ナギとモルテリアの視線がエリナへと集中する。二人はそれぞれ、いつになく瞳を輝かせていた。

 モルテリアの狙いは、恐らく、美味しい食事だろうが——ナギの狙いは不明だ。


「マジっすか! え、どこ? どこ行くんすか!?」


 旅行に興味津々のナギ。

 彼はエリミナーレ解散の件など忘れてしまったかのようだ。今や旅行のことに夢中である。


 そんなナギを目にし、エリナは呆れたように溜め息を漏らす。数秒してから、彼女は気を取り直して、告げた。


在藻(ありも)温泉よ」

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